終わり無き孤独な幻想   作:カモシカ

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第十九話 八雲様の霊力教室+α

 彩加が八雲紫と話をしていたその頃、平塚静もまた、八雲紫(の霊体)と接触を果たしていた。

 

『……こんばんは。平塚静さん。久しぶりね』

「この声……あの時の」

『あら、覚えていてくれたのね。それなら話は早い』

 

 そう言うと、八雲紫は静かに微笑む。それは人でない者の、魔性の笑み。見る者を魅了し、惑わす悪魔の微笑み。或いは、見る者に癒しを与える天使の笑み。

 

「……どういう事でしょう?」

『ふふ、簡単よ。あなたにも協力してもらうわ』

 

 そう言って、八雲紫は一層笑みを深くする。但し、その表情は扇に隠され平塚に見られることは無かったが。それでも、平塚静は、その不吉な程に美しい笑みを何となく感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 戸塚彩加と平塚静が、八雲紫に協力する事が決まったその次の日。土曜日という事で学校が休みだった二人は、塚守の血族の、忘れ去られた集会所に集められていた。彩加は未成年だからという理由で、母である彩乃が着いてきたのはご愛敬という奴だろう。

 

「さて、あなた達を呼んだ理由は説明したわよね」

「はい」

「えっと……一応は」

 

 紫は二人の返事を聞き、鷹揚に頷く。その程度の仕草でさえも堂に入っているのだから美人というのは得である。とはいえこの場には美人に美少年が揃っているわけだから、紫だけが特別目立つということもないのだが。

 

「そう。なら早速で悪いけれど、霊力を感じる事から始めましょうか」

「あの、私達には能力とやらがあるという事でしたが……?」

 

 少年心を擽られたのか、能力を楽しみにしていたらしい静。

 

「ふふ。楽しみなのは分かるけれど、私だって見ただけで能力が分かるわけでは無いの。発動の兆候も無いのだから特定のしようが無いわ。それに、能力だけ分かっていても、基礎が出来ていなければ実戦では役に立たないもの」

 

 八雲はそう答え、特訓を開始する。

 それは彩加と静にとって、地獄の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

「はいそこ!霊力が揺らいでるわ!」

「はい!」

 

 小さな弾幕を手のひらに浮かべる彩加。そこに飛んで来る八雲の叱責。ちなみに幻想郷の仕事は式神に頼んで来たようだ。サボっているとも言える。

 

「静!何なのその拳は!?強化が足りないわよ!」

「はい!」

 

 霊力で強化した拳で、八雲の用意した的を殴る静。鬼気迫る表情である。静は何故か霊力を体外に放出する事が出来ず、その代わりに自身の体を強化するのが得意である。

 

「ふむ……思ったより筋がいいわね。流石に八幡くん程ではないけれど」

 

 呟く八雲。どうやら弟子(?)には想定以上に才能があったようである。

 

「まさか一週間で霊力が使えるようになるなんてね」

 

 そう。彩加と静は、たったの一週間で霊力を『使える』ようになったのだ。ただ使えるとは言っても、八幡のようにいきなり弾幕を出したり空を飛んだりスペカを作ったり武器を生み出したりは出来ない。八幡が規格外なだけである。

 

「静の方は能力の片鱗が見え始めたし、これは良い戦力になるわね」

 

 そも、八雲を持ってして、人間程度が持つ能力が分からないなどありえないのだ。ただ、神秘の消えた世界で生きていた人間に、いきなり能力を使いこなすのは困難であったから教えなかっただけで。

 

(けれど、彩加の能力は……人間程度が持てるものじゃない)

 

 そう。それは本来人間が持つ事など叶わない、超常の能力(ちから)

 

(でもこれなら……保険としては優秀過ぎる。彼なら、例え八幡くんが暴走しても止められる)

 

 その力は、例え境界を操る彼女でさえも、その気になれば容易く無力化出来る程の力。そしてそれは、『負』を操る八幡にさえ有効だ。文字通り、彩加は八雲の、引いては幻想郷の希望となる。

 

(なら……しっかりと、鍛えなきゃね)

 

 現世に生き残る、最後の塚守達。彼らの持つ可能性に、大いなる飛翔の予感に、幻想郷の大賢者は、妖艶な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「グガァァァァ!!!」

『……あー、まだ足りねえなぁ』

 

 幻想郷の森深く。はぐれの妖怪程度しか来ないようなその場所で、『ソレ』は『負』を喰らっていた。『負』とは則ち絶望。或いは恐怖。或いは憤怒。或いは破壊衝動。それらの昏い感情を宿した妖怪を、無感情にただ喰らう。無感情なだけであって、目的が無い訳では無いからタチが悪いのだが。

 

『ソレ』には目的があった。宿主から離れた後も、その目的のために動いている。()()()()()()()()()()()()()()()、宿主だった男の能力範囲から外れるために、効率の悪い方法を取らざるを得ない。その矛盾しているようで、けれど当たり前の事実を前に、『ソレ』は憂鬱になる。

 

『あー、どうすっかなぁ……安全を捨てるか、効率を捨てるか』

 

 そう。『ソレ』には、その気になれば幻想郷の名だたる面々を制圧できるだけの力がある。宿主だった男が、敵対しない限り。寧ろ、『ソレ』が恐れるのは宿主だったその男だけである。その男の持つ能力は、未だ成長を続けているために、『ソレ』はその男を恐れるのだ。

 けれど、『ソレ』は言うなれば宿主と血を分けた兄弟。自分の意思で行動できるようになったのが最近だったというだけであって、寧ろその能力を真に使いこなせるのは『ソレ』だろう。

 

『ま、いーわ。ゆっくりゆっくり、負を広めていくとしよう。その方が質もいいしな』

 

 人知れず計画を進める『ソレ』の目的が明るみに出るのはまだ先だ。

 

『ああ……どんな声で叫ぶんだろうか。どんな味の負をくれるのだろうか』

 

 目的のために、『ソレ』は残虐性など欠片も感じさせない笑顔で、『ソレ』残酷な楽しみを見出す。

 

『待っててくれ。いつかきっと、迎えに行くから』

 

 ただ純粋な、願いのために。『ソレ』は願う。

 

『叶うならば、平穏を。安穏を』

 

 そして『ソレ』は、今日も『負』を集める。明日も、明後日も、明明後日も、一週間後も、一ヶ月後も、半年後も、来年も、その次も。いつか、悲願を成就させるために。

 

 ───今日も、たった独りで。

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