終わり無き孤独な幻想   作:カモシカ

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第二十話 静の能力。そして、永い夜の始まり。

 私は現国の教師をしている。自分で言うのもなんだが、そこそこの外見とサバサバした性格──ズボラ、とは言うなよ?──で結構人気のある先生だと思っている。

 事実、女子生徒を中心に慕ってくれている子供たちも多いし、雪ノ下姉妹という色々な意味で問題児な生徒の面倒を見ていたのは主に私だ。

 

 まあそれは今はいい。結婚出来ないのは問題だが、最近は独身というのも悪くは無いと思いはじめた。……いや、やっぱり結婚したい。

 

 話が逸れたな。

 まあ何が言いたいかと言うと、だな……

 

 

 

「……何故私は戦っているのだろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 私こと平塚静は、塚守の血族として修行に励んでいる。確かにバトル系のマンガは好きだが、何も自分が不思議パワーを使えるようになりたい訳では無かった。

 そもそもとして、私がここに居るのはただ単に八雲様?に誘われたというか何と言うか……まあ成り行きで参加していると言っても過言では無い。

 

 まあここまで来てしまえばむしろ楽しいので結果オーライなのだが。そりゃあ誰だって自分がマンガの登場人物のような事が出来たら楽しいに決まってる。かめ○め波は打てなかったが。

 

 だが……

 

「これはさすがに想定外だ」

 

 私が今何をしているかと言うと、何とも単純な修行法。つまり実戦である。

 その相手はというと、(ちぇんまたはだいだい)という八雲様の式神の式神だ。猫の妖怪である猫又らしいが、戦闘向きの妖怪では無いらしく、ある程度霊力が使えれば戦える。手加減はしてもらっているが。

 

「塚守とか言うのはその程度なのかにゃ~?」

 

 そしてこれでもかという程煽られる。口調が幼いのはわざとなのか素なのか。

 ……まあ、どちらにしても。

 

「教え子の前で、無様を晒す訳には行かないな──『拳符:鉄鋼拳』」

 

 私が自覚した能力は、『自身の速度と硬度を操る程度の能力』だ。名前の通り、自分自身の速さや硬さを操れる。未熟な私には、拳の硬度を鉄と同程度に高め、速度を倍にする程度が限界ではあるのだが。

 

「にゃぶっ!?」

「……あ」

 

 油断していたせいか、橙さん(?)が拳をまともに喰らって吹き飛ぶ。体重が軽いからか、まさにマンガのごとく地面に何度も叩きつけられながら転がっていく。それでいいのか、妖怪よ。

 しかしさすが妖怪と言うべきか、橙……さんはすぐに起き上がり、

 

「う~、よくもやったな~……お返しだいっ!『猫符:百烈弍苦灸』!にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃーにゃ!!」

「それは色々大丈夫か!?」

 

 謎の義務感に突き動かされ、思わず橙のスペカにツッコミを入れてしまう。何故だ。

 というかスペカと言う割には物理攻撃なのだが。弾幕ごっこはどこへ消えた。

 しかしそんな肉球の連打も、妖怪の膂力と妖力で繰り出されれば、人間にとって致命的な傷を与えるのは容易だ。

 

「『鉄符:鉄身』!」

 

 回避は間に合わないと判断し、全身を鉄と同等の硬度に強化し、加えて鉄の概念を持つ弾幕もどきを纏う。私は何故か霊力を体の表面までにしか展開出来ないのでな。そして、橙の肉球の連打も、鉄の体の前には猫パンチがごとく。

 気にせず猫パンチを続ける橙。そしてこれはまたとない……かは分からないが、好機である事に間違いはない。騙し討ちの様で気が引けるが、こうまで隙を晒しているのだから仕方ないだろう。むしろこれで行かなければ、八雲師匠に折檻されてしまう。

 

「霊力集中!【霊装:ナックルダスター】──『瞬鉄:瞬速鉄鋼拳』!!」

 

 霊力でナックルダスターを創り出し、現段階での最高のスペル『瞬鉄:瞬速鉄鋼拳』を繰り出す。スペルの効果により、鉄の硬度を得た拳が通常の四倍速で突き出される。

 そしてそれは呆気なく橙を吹き飛ばし───気絶。

 それは、私の修行が第二段階に入ったことを意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「アハハー、ごめんねお兄さん」

 

俺は笑いながらかるーく謝罪するフランと、フランが破壊した我が家を前にして呆然としていた。

 

「……いや、どうすんだよ……これ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我が家が大破した訳。

それは、咲夜さんがフランに作ったプリンを、レミリアがきれーーいに食べ尽くしたせいで大喧嘩が勃発したから。で、転送魔法の実験をしていたパチュリーさんの魔法によって、レーバテインとグングニル(+フラン)が我が家のど真ん中に出現した。

 

その結果。昼飯を食っていた俺にスペルが直撃。最近完成した自動発動型防御スペルのお陰で大した怪我は無かったが、代わりに家が大破した。

 

「………………」

「ごめんねー、お兄さん。でも悪いのはお姉様なのー!」

「……そっかぁー」

「うん!」

「俺、今夜どこで寝ればいいんだろうなー」

 

いやほんとどうしよう。魔理沙・霊夢被害者の会会長にして数少ない、というか唯一の男性の知り合い、森近霖之助さん通称こーりんの店に泊めてもらうか。何だこの説明口調。

 

「うーん……あ!なら私の部屋に泊まりなよ!元々私達が壊しちゃったんだし」

「え、いやそれはまずいんじゃ……」

 

主に俺の外聞が。盗撮カラスに情報が流れたら死ぬぞ。社会的にも物理的にも。シスコンモードのレミリアに勝てる気しないし。

 

「そうと決まればしゅっぱーつ!」

「話を聞けぇー!」

 

結局、俺には選択肢も決定権もある筈が無く。

俺は吸血鬼の膂力と飛行能力を、嫌というほど体感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 その夜、幻想郷に住む妖怪達は大いに焦っていた。

 

 異変だ。

 

 もちろん、幻想郷中の妖怪が焦るなど並の異変ではない。例え紅い霧が空を覆おうとも、妖怪達に影響は無いのだから。

 妖怪達が焦るには、もちろんそれに足る理由がある。妖怪達は基本的に夜に生きる者達であり……よって、月の光という物は彼らにとって途轍もなく大事なものなのだ。

 

 今夜の月は、何かがおかしい。

 

 妖怪達はすぐにその事に気づいたが、そもそもとして月に余り大きな関心を抱いていない人間達は、異変が起きたことにすら気付いていなかった。

 しびれを切らした妖怪達は、それぞれ人間を連れて独自に調査を開始した。

 

 この夜が終わるまでに、本物の月を取り戻さなければならない。

 例え夜を停めてでも。


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