終わり無き孤独な幻想   作:カモシカ

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第五話 彼の親友は、忘れていた彼を思い出す。

 俺は夢を見ている。何の根拠が在るわけでもなく、俺はそう確信した。

 

 親に裏切られた記憶、何故かも分からず迫害され続けた日々、知らず知らずの内に他人の悪意を集め、その黒い欲望の捌け口として生きてきた日々。それらが次々と思い出される。

 

 そんな中で、初めて触れた人の優しさ、暖かさ。そんなものは幻想だ、そいつらも裏切るのだ、と、常に予感はしていた。それでも、求めてしまったのだ。

 

 それは恐らく、普通に生きてきた人間にとっては大したものでもない。

 

 けれど俺は、その普通で大したことの無い物ですら、外の世界(むこう)では得ることができなかったのだ。

 

 だからだろうか、八雲が俺を幻想郷に招き入れたのは。

 

 ここなら、俺は、きっと見つけられる。

 

 ……………………何言ってんだろうな。もう、終わるつもりだったのに。

 

 

 

 そう言えば、向こうの奴等はどうしているのだろう。

 

 俺が消えたことを嘆いてくれているのか。

 

 戸塚辺りなら心配してくれそうだ。

 

 小町は元気かな。

 

 川崎や平塚先生は探してくれたりするのだろうか。

 

 葉山達は……うん、まあいいや。

 

 材木座は……これで完全なぼっちに逆戻り。ざまぁ。

 

 奉仕部の二人は……まあ、俺が勝手に期待して、勝手に失望しただけだからな。俺が居なくなってせいせいしてるだろう。俺はそこに居られなかったが、あの二人ならお互いの『本物』になれるだろう。陰ながら応援してるぞ。

 

 

 だから、これで良い。俺はこの幻想の地で、静かに、孤独に、生きて、それで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んでやる。

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 今日も、思い出せなかった。何か、大切なものが無くなってしまった。忘れてはいけないものを、忘れてしまった。そんな風に感じて、学校の友達に聞いてみたり、アルバムを引っ張り出してきたり。それでも見つからない。思い出せない。

 ……あはは。僕、何してるんだろ。完全に変な人の行動だよ。そもそも、何で何かを忘れてるって思うんだろう。うーん。あはは、分かんないや。こんなときは彼に聞けば、

 ……あれ?僕、誰に聞こうとしてるんだろう。僕が頼りにしてた人。うーん。誰だったっけ。忘れちゃいけないのに。僕が忘れちゃったら、きっと、凄く傷つくのに。

 

 そう言えば、彼と撮ったプリクラがあったような。たしか、机の引き出しに……あったあった。えーと、僕がピースしてて……何で材木座君は僕の隣じゃなくて後ろに写ってるんだろう。こんな変な配置で撮ったっけ。もう一人、僕のとなりに誰か居た筈なのに。

 

 あーもう!あとちょっとで思い出せそうなのにー!何で思い出せないんだよー!うー、もやもやする。

 はぁ、テニスでもしてすっきりしてこよう。

 

 …………ん?テニス、か。彼とも何回かしてた筈なんだけど……奉仕部の二人に聞いてみよっかな。

 

 奉仕部?彼も確か奉仕部に居て、それで、僕が()()()依頼して。あれ?けど奉仕部は二人だけで、でも、彼は確かに奉仕部に、

 

 

『おっす』

 

 

 ……あ、

 

 

『よう、戸塚』

 

 

 思い、出した。

 彼は、僕の大事な親友は、

 

「八、幡」

 

 八幡がどこに消えたのかは分からない。一度は忘れてしまったぼくに、親友を名乗る資格なんてないのかもしれない。けれど、

 

「……探さなきゃ」

『ごーかく』

 

「!?」

 

 いきなり、女の人の声が聞こえた。ここは僕の部屋で、家族が入ってきたわけでもないのに。

 

『思い出したんでしょ。比企谷八幡のこと』

「八幡を、知ってるんですか!?」

 

 そう聞いた途端、目の前に女の人が現れる。長い金髪を垂らして、扇子で口元を隠している。

 

「ええ。彼は、私と一緒に幻想郷に行ったの」

「八幡に、会わせてください!」

「……なぜ?」

「何でかは分からないけど、僕は八幡のこと忘れてて、だから、謝らないと」

「忘れていたのに、大切なの?」

「っ……はい」

 

 女の人は僕を値踏みするように見ている。その視線は凄く鋭くて、でも逃げるわけにはいかない。八幡に謝って、許してもらわないと、僕は友達なんて名乗れない。

 

「……そう」

 

 そしてその女の人はふっと、見惚れるほど優しい笑顔を浮かべる。

 

「なら、少し待ってなさい。その内、会わせてあげる」

「え、あ、あの!八幡は、無事なんですよね!?」

「ええ。少し気絶していたけど、もう回復したわ」

「そうですか……良かった」

 

 八幡が無事だと分かると安心して、一気に体の力が抜ける。

 

「あ、そう言えば、何で僕は八幡のことを忘れてたんだろう……?」

「私が、こちらの世界に彼が居た痕跡を消したのよ」

「……え、どうしてそんなことを……?」

「何故って、いきなり人が一人消えたら色々と面倒なことになるでしょう」

「だからって……!」

「それに、彼を一度忘れさせれば、誰が本当に彼を大切に思っているかわかるでしょう。現にあなたは彼を思い出した。普通は私の術を破ることなんて不可能なのに」

 

 女の人の言葉はよく理解できなかったけど、どうやら僕が八幡を思い出せたのは、僕が八幡を本当に大切に思っているかららしい。

 

「今はまだ、彼も色々と整理できていないことがあるの。何せ、一度自殺しようとしていたのだから」

 

 八幡が、自殺しようとしていた……?そう聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。

 彼がそんなことをしようとしていた心当たりは……ある。詳しいことは話してくれなかったが、奉仕部の中で何かあったことは確実だ。

 

「彼が気持ちを整理できたら、あなたを彼に会わせてあげる」

「……分かりました」

 

 確かに、彼は強いようでいてとても繊細だ。自殺しようとするほどのことがあったのなら、きっと整理する時間が必要だろう。

 そう思い、僕は頷いた。

 

「それじゃあ、また会いましょう」

 

 それを満足げに見届けると、女の人は僕の部屋に現れたときと同じように、黒い隙間に消えていった。

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