黒神めだかと人吉善吉。
二人の人間関係とは。

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黒神めだかと人吉善吉の人間関係

「俺達の戦いはこれからだ――なんてな! んじゃあ行くぜえ! めだかちゃん!!

 

「ああ善吉! 共に行こう、もう二度と――さよならは言わない!!」

 

 その言葉と共に。

 黒神めだか二十六歳と人吉善吉二十六歳は。

 十年前十六歳の少女だった女と十年前十六歳の少年だった男は。

 女が勝てば男に結婚してもらうために、男が勝てば女と結婚してもらうために。

 

 ――決闘を開始した。

 

 十年である。

 十年とは長い。

 生まれたての赤ん坊ならば小学生四年生だし、還暦の老人ならば亡くなっていてもおかしくない年月。かつて化物女と呼ばれた黒神めだかと彼女と共にあった幼馴染人吉善吉の物語が黒神めだかの箱庭学園退学という区切りを得てから実に十年という月日が流れていた。その時に『さよなら』言葉を以て道を違えた二人だったが、実際には箱庭学園理事長としてめだかが就任したから、当時箱庭学園生徒会長だった善吉とは都合もう二年間箱庭学園のために尽力したわけだが、それはあくまで同じゴールを向かっていたというだけで同じ道を歩んだわけでも、隣にいたわけでもなく、寧ろ対立することさえ少なくなかった。

 そして善吉が卒業してからの空白の八年間。当然ながらただ漫然と時間が流れていたわけではない。

 たとえば善吉は黒神グループに就職するにあたって共に就職活動に励む女性とその叔父である小説家とその友人と共に探偵の真似事をしたり。黒神グループに就職したらしたで研修で立ち寄ったたまさか無人島で刀を使わない拳法ならぬ剣法を聞きかじったり。ある地方都市に訪れた際に吸血鬼もどきの少年と彼に繋がれた元怪異の王と共に怪異絡みの事件に巻き込まれたり。意志だけになってしまったけれど大切な人々の生き様を見届けたいと願った幽霊とかつての里の跡地を訪れたり。京都に観光へと言ったら人類最速の殺人鬼とその兄妹のニット帽の殺人鬼の追い掛けっこにまきこまれたり。映画館に行ったら十七人目の妹が死んでしまった兄と一緒に映画を見たり。

 たとえばめだかは九州は長崎県に突如として誕生した魔法使いの国とやらと交渉するために魔法使いの少女と魔法使い使いの少年と協力して自身も魔法を身に着けることになったり。ある事件で人類最強の赤き請負人とガチンコ対決になってとある刑事に迷惑を掛けたり。その請負人の後輩の請負人の人類最弱の戯言遣いの青年と彼女の妻であるかつて人類最優にして人類最劣だった少女と仲良くなったり。とある学園にて妹を病的に愛する弟と保健室に居座る人間恐怖症の高校生と共に殺人事件を解決したり。英雄と呼ばれる少年と共に人類を抹殺しようとする地球と戦ったり。

 あの高校一年生の冒険がそれこそ子供だましに思えるような冒険を二人はそれぞれ経験してきたのだ。

 それは『完成(ジ・エンド)』による乱神モード、改神モード、廃神モード、混神モード、終神モード、あるいは不知火半袖の『正喰者(リアルイーター)』に喰い改められた『欲視力(パラサイトシーイング)』ならぬ改神モード善吉モデルが消失しようとも。

 それらの冒険活劇で積み重なった経験は無くならない。

 寧ろより確かなものとして二人の中に積みあがっている。それらは箱庭学園のかつての仲間たちでもトップクラスに波乱万丈であり、大なり小なり波のある生き方をしている箱庭学園生徒の中でも大概の部類だった。

 彼も彼女も決して弱くなったわけではなく、寧ろ確実にその強度を増し、奇々怪々な能力を身に着け、人間として驚くべき技術を身に着けている。

 元々化物女と呼ばれていためだかと彼女の為ならば驚異的なポテンシャルを発揮する善吉だ。

 二十六歳となった今! 

 この二人が決闘などすれば、それはもう週刊少年ジャンプにて一年以上は続けられるのではないかという頂上決戦が繰り広げられるのではないかとこの二人を知る全員の脳裏に過り、

 

 それはないなと誰もが思った。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「はああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 誰もが思った通りに! 

 技術も能力も普通も特別も異常も過負荷も言葉もなにもかもがなく!

 ただただ、全力で振りかぶった拳を全力で振りぬき全力で拳を叩き込んだ!

 めだかの拳は善吉の右頬に。

 善吉の拳はめだかの右頬に。

 示し合わせたように二人の拳は同じ軌道を描いて同じ場所に叩き込まれた。

 技術もへったくれもないからこそ、尋常ではない衝撃が二人の脳髄をシェイクする。そうして二人は思い切りのけ反って、

 

「ははははははっははははははははははっははははーーーー!!」

 

 一歩も引くことなく笑いながら、更なる拳を叩き込んだ。二人とも一撃一撃には尋常ではない風切り音と着弾時の馬鹿げた衝撃を現す効果音が響く。それまでいた犬たちはとうの昔に部屋から退散していて、口の端から飛び散った血が床に跳ねる。

 

「なつかしいなぁ、こうやって戦うのは何時振りだ!?」

 

「カッ! そりゃあ十年前だろうが! あの一年で、大体三回!」

 

 一度目は黒神めだかが黒神めだか(改)になった時。

 二度目は人吉善吉が黒神めだかと戦うことを決意した時。

 三度目は百輪走でコサージュを掛けて戦った時。

 

「どれも俺の負けだったからな、今日こそ俺が勝つぜ!」

 

「勝つのは私だァー!」

 

 めだかも善吉もどちらも己が得意とする武術の類を使わない。めだかは言うに及ばずあらゆる武術のほとんどをマスターしているし、善吉はソバットを基本とした足技の部類に関しては達人級ともいえるだろう。

 それでも使わない。

 使いたくない。

 だって、

 

「プロポーズくらいは自分だけの力でやらないとなぁ!」

 

「全く同意だ!」

 

 好きな人に告白するための、言ってしまえば極めて本能的動物的な目的のための決闘なのだ。そこで人間の技術の極みである武術や武道を使う気には慣れない。

 

「おおッ!」

 

「フンッ!」

 

 めだかの拳が善吉の顎をかちあげる。善吉の拳がめだかの鳩尾に突き刺さる。めだかの拳が善吉の頬を薙ぎ払う。善吉の拳がめだかの肩を穿つ。めだかの拳が善吉の脇腹を砕く。善吉の拳がめだかの顔面に叩き込まれる。めだかの拳が善吉の頭に振り下ろされる。善吉の拳がめだかの心臓を抉る。めだかの拳が善吉の鳩尾を貫く。善吉の拳がめだかのこめかみを衝く――。

 どちらも――攻撃は避けない。

 能力(スキル)を失っても言葉(スタイル)は残っている。

 共鳴し、共振し、共感するスタイルに年齢は関係なく言葉は届く。

 だからこそ解り合いによるカウンターや見切りというものは効果を発揮する。めだかは当然ながらスタイルを使えるし、善吉もかつての経験と相手がめだかだからこそできる。

 それでも避けない。

 避けたくない。

 だって、

 

「はははっ! この一撃一撃が、この十年分の想いと思えよ!」

 

「わかってるさ!」

 

 言葉通りに。

 魂の震えはそのまま拳に乗せられる。十年前に別々の道を行ってからの想い全てが詰め込まれていた。一発では足りない。何十、何百発伝えないと気が済まない。

 だから――二人は避けない!

 

「カッ! 俺が勝って、お嫁さんと幸せにしてくださいって言わせてやるよッ!」

 

「抜かせ! 貴様が黒神家に婿入りするのだ!」

 

 結婚したいと思ったのは二十四年前。

 当時二歳だった幼女ならぬ童女ならぬ赤子のめだかは同じく赤子の善吉に、

 

『で……っ、では善吉! 私とっ……私と結婚してくれ!』

 

『えー、それは無理だよおー』

 

 などと極めて早熟なプロポーズをして振られていた。

 

「あの時はすごいショックだったんだぞ!」

 

「二歳にプロポーズするほうがどうかしてるぜ!」

 

 それでも黒神めだかにとって人吉善吉とはその日から特別な存在になった。

 いや、特別な存在になるとめだかは思い、しかしそれを勘違いだったと知るのだ。出会った相手は運命の相手ではなく、出会いは運命の出会いではなかった。この世に特別な人間がいないと彼女は知り、絶望し、孤独に陥りそうになり、

 

『大丈夫だよ。ついていけなくっても、見失っても離れても、僕はめだかちゃんに追いつくから』

 

「特別な人間なんてこの世にはいない、それでもそばにいてくれる人はいる! だからあの時から貴様は私にとっての当たり前となったのだ!」

 

「あんま覚えてねぇよそんな昔のこと!」

 

 そう、黒神めだかが異常なだけで、二歳の時の言葉だなんて誰も覚えていない。覚えていないけど、善吉は覚えていないはずのことを確かに実行していたのだ。

 小学校でも中学校でも高校でも。

 人吉善吉は黒神めだかを追い続けてきた。

 

『めだかちゃん、やりすぎだ』

 

『俺たちはもう二度と、お前を一人にはしないよ』

 

 めだかがやりすぎそうになった時は、彼がその身で止めてくれた。

 

『黒神めだか(改)だって? つまんねーヴァージョンアップしやがって。俺がしこたまぶっ蹴って! すぐに元通りデチューンしてやるよ!』

 

 めだかがなんのために生まれてきたかを忘れてしまったときに、身を呈してめだかの心を取り戻そうとしてくれた。

 

「全くお前はいつもいつも手間駆けさせるんだからよぉ!」

 

「返す言葉もないな!」

 

 めだかは善吉に世話をかけっぱなしだったのは言うまでもない。

 もう嫌だ。付き合いきれない。今回だけは。

 そう言って、一度も離れたことはなかった。黒神めだかという正しすぎる少女の隣で、ずっと諦め続けながら、はた迷惑なめだかの隣にい続けた。

 異常(アブノーマル)すぎる少女の隣に普通(ノーマル)極まりない少年は共にいつづけた。

 普通に弱くて、普通に怖がりで普通に頑張って、普通に悔しがり、普通に人を好きになったり、普通に誰かを護りたいと思っている、普通に恰好いいいつだって諦めながら! いつだって挫折しながら! それでも奮起し続け戦い続けて黒神めだかと共にあった! 

 だからこそ!

 

『だから私は善吉が好きだよ。私は人吉善吉が大好きだ』

 

「貴様とて、私に振り回されるのが楽しかっただろう!?」

 

 善吉は確かに子供時代のほぼ総てをある意味ではめだかに捧げた善吉だったけれど。いつも悪態をついていた彼だったけれど。確かにそれまで経験したことはどれもこれも一言では言い表せないくらいに大変な話だったけれど。

 一言で表すならばいい思い出だった。

 

『好きだぜ、めだかちゃん』

 

 これから死ぬという時にそう言って笑っていられるくらいには。人吉善吉は黒髪めだかのことが好きだった。

 でもそれは今にして思えばただ一緒にいることが当たり前になってしまったかこそ、互いに好き過ぎて恋愛感情を通り過ぎた想いだった。球磨川禊や人吉瞳にすれば恋を知らない、ということになるのだろう。

 その想いが初めて変わったのは安心院なみじによるフラスコ計画によるものだった。

 

『めだかちゃんのそばにいられるなら俺は、敵にでも悪にでも、完全な人間にでも、主人公にでもなってやる』

 

『あ、そうか。俺めだかちゃんと付き合いたいんだ』

 

 全知全能である今は無き『ただ平等なだけの人外』安心院なじみによって二人は対立した。新たな仲間を作り、仲間が離れて、新しい勢力が生まれて。生徒会選挙という形で幼馴染の二人は決闘して――人吉善吉は黒神めだかの勝利した。

 

「あの時は凄いショックだったな!」

 

「俺だって同じだよ!」

 

 清しその夜。箱庭学園史上でも類を見ない奇跡の日。誰も立つことの無い眠り姫が立ち上がり、全校生徒が選挙会場に集結し、その全校生徒が無記名投票により投票率百%だった。

 人吉善吉支持率六十二%。

 黒神めだか支持率二%。

 圧倒的大差をつけて、あさっりと、いともあっけなく、真剣勝負に於いて誰も勝つことがなかった黒神めだかに人吉善吉は勝利した。勝利して、彼は彼女に甘い言葉も優しい言葉も掛けることはなく、生きる理由を見失ってしまった少女は少年は言った。ただの事実を。彼女にはどうしても知ってほしかった真実を。

 

『ここにいる人間(おれたち)は誰一人、もうお前を他人だなんて思っていないんだから』

 

 その言葉があったからこそ、それから彼女は自分の為に生きて! 自分の為に戦うことができたのだ!

 

「あの時期から、初めて貴様と距離を置いたのだったな!」

 

「寂しい毎日だったぜ!」

 

「うむ!」

 

 けれどそれはもちろん自ら選んでのことだった。

 負けてめだかは『化物女』と呼ばれていた自分が曲りなりにも人間として生きてこれたのは善吉がいたからだと。正しすぎる彼女を彼は何時だって正してくれた。だから黒神めだかは人吉善吉がいなければ何もできないような人間では嫌だと思って一定期間距離を空けていた。それは十四年目にして始めてことで、それはあまり無意味なことだった。

 

「貴様はッ! どれだけ離れ、ても! すぐに追いついてくれたからな……!」

 

 海に、空に、氷の大地に、そして今にも宇宙へ旅立とうと前に。

 めだかは改めて思い知った。十四年目の空白はあまり意味がなかったけど一つだけ意味を見いだせた。

 

『私は一人でなんでもできる奴だけど、一人で何かをしたい奴ではないらしい』

 

 全知全能三兆年を生きた人外をして最終的に絶対勝つとまで言われていた主人公はそう気づいた。

 

「カッ! 別に不思議でもなんでもないねッ、俺はめだかちゃんのことが生まれ変わっても好きになるくらいに好きなんだからな!」

 

「それでも好きになったのは私の方が先だがな!」

 

 二十四年前のあの日から。

 二歳にして生まれてきた意味が解らず、生きていく理由を失い、何もかも無価値に無関係に無意味にあるのだと思っていた彼は教えてくれた。

 

『きっと君は皆を幸せにするために生まれてきたんだよ!』

 

 その言葉で黒神めだかは黒神めだかになることができた。それはある意味では二歳児の勝手な言い分で誰でも誰が相手でも言えるような台詞で黒神めだかという存在を縛り付けるような呪い言葉だったけれど、

 

「あぁ……あの時、私は確かに救われたさ」

 

「だーかーら、覚えてないって!」

 

 例え覚えていなくても。

 

『お前はみんなを幸せにするために生まれてきたとか、たぶんそういうこと言ったんじゃねーの?』

 

 覚えていなくても善吉はめだかがそういう存在であると信じつづけてきたのだ。

 みんなを幸せにするために。みんなと幸せになるために。それはもちろんめだかも入れて、どころか善吉からすればめだかがいなければ意味がなかった。

 それでも黒神めだかは正しすぎたから。正しすぎる人間というのは間違っていたいるから。敵対して、戦って、ぶつかり合って、距離を置いて――道を分かれた。

 もうそばにいられるだけでは満足できなかったから。

 十四年掛けて善吉はめだかに追いついて。けれどあっという間に引き離して。けれど最後の最後に善吉が追い抜いて。

 導き、導かれ。

 追い抜き、追い抜かれ。

 それが――黒神めだかと人吉善吉の人間関係。

 人間関係。

 係り関わる人の間。

 彼女は化物みたいに優しい、神様みたいに戦い、馬鹿みたいに考え、英雄みたいに迷い、人間みたいに話す、女の子みたいな、女の子だった。

 彼は普通に優しい、普通に戦い、普通に考え、普通に迷い、人間みたいに話す、男の子みたいな男の子だった。

 その女の子と男の子は今はこうして大人になって、満身創痍で、全身傷だらけで、で体中血塗れで、それでも人類最正だった彼女と人類平凡な彼は今同じ場所に立っていた。

 どれだけ時が流れたのだろう。

 どれだけ殴り合ったのだろう。

 どれだけ言葉を重ねただろう。

 どれだけ想いを伝えただろう。

 二人のうち一人が崩れた。膝から力が抜けて前のめりに倒れこんで、もう一人に抱きかかえられる。

 倒れ込んだのは黒神めだかで。

 抱き抱えたのは人吉善吉だった。

 

「俺の、勝ちだな」

 

「……あぁ、どうやらそうらしい。おかしいなぁ、私の予定では抱きしめるのは私の方だったはずだったんだけど」

 

「そういやぁ、俺たちって戦った後に抱き留め合ったってことはなかったなぁ」

 

「お兄様だったり不知火だったり、色々邪魔されたから今回くらいは私がやりたかった……」

 

「俺は本懐遂げたって感じ」

 

「微妙に腹立たしいがまぁいいだろう。時善吉よ、参考まで聞いておきたいのだが、果たして今回の私の敗因はなんだったのかな?」

 

「おいおいそんなこと決まってるだろう? 男の子の意地だよ。男の矜持だよ。好きな女の子の前では恰好いいところを見せたいっていう世界共通の男の子の最終奥義さ」

 

「最終奥義か。では私が負けたのも仕方ないか」

 

 私が惚れた男はこんなにも恰好いいのだから。

 

「それでは人吉善吉。これは断ってもらっては困るんだけど」

 

「おう」

 

「――私はお嫁さんと幸せにしてください、愛しています」

 

「喜んでっ!」

 




おまけ
その時の名瀬師匠
「即答ッ……! またもや……!」


今更だけどめだかボックス完結記念的な。

善吉君勝利は私の趣味です。やっぱこういうのは男の子が頑張んないとね!

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