THE IDOLM@STER 輝く星になりたくて   作:蒼百合

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はじめまして、またはお久しぶりです。

この度デレアニをメインに765メンバーも登場する小説を執筆していくしがないPの蒼百合です。
よろしくお願いします

【0617/9/12】本文の内容を修正しました


CH@NGE OUR LIFE
1話 そんな終わりも、またアイドル


 都内にある古びた雑居ビルの二階に『765プロダクション』の事務所がある。765プロは、数あるアイドルプロダクションの中でも指折りの実力を持つトップアイドルが在籍していた。

 彼女たちをテレビで見ない日はなかった。

 けれどその規模は、一フロアであり全員が集えば窮屈になるほどに空間は狭かった。レッスンスタジオは当然外部にある。

 一等地にビルを建てることだって可能かもしれないが、事務所が移転することはないだろう。この空間を彼女たちは愛しているからだ。

 

 

 

 

 *                  

 

 

 

 

 雨が降る日曜日の夜のことだった。

 事務所では二人の女が椅子に座りテレビを観ていた。彼女たちの観ている番組は、765プロアイドルが主役の『生っすかレボリューション』という人気番組だった。

 長い髪を纏めてきる癖っ毛が特徴のスーツを着た女性は、秋月律子(あきづきりつこ)だ。彼女は、深く腰をかけて、目は横へちらちらと隣に座る女へ動かしていた。顔は疲弊しているらしく、少しやつれていた。

 彼女はプロデューサーだ。『竜宮小町』だけではなく現在は、事務所に所属するほぼ全てのアイドルのプロデュースを行っていた。

 

 律子の目線の先に座っているのは、浴衣を身に纏い羽織を着て、長く伸ばしている髪を後ろでポニーテイルに纏めている渋谷雪乃(しぶやゆきの)、この765プロに所属するアイドルだ。

 アイドルになってからの年月だけであれば、765プロ内では最年長になる。彼女は、律子の目線を特に気にせずに、浅く腰をかけ、背筋をしっかり伸ばしてテレビを眺めていた。

 アイドルであることもあり容姿は整っているので、その姿は正に大衆の想像する大和美人であった。あくまでも、見た目は、である。

 本人の自覚は薄いが、律子も美人である。そうでなければ、彼女はアイドルをやってないし、ファンが増える訳が無かった。

 

 律子は着物姿をみて少し懐かしく思っていた。けれど、雪乃を眺めていたのは別にあった。

 日常着としては珍しくアイドルである彼女が、外を出歩いたら一瞬で身バレしそうな服装であるから、でもなかった。

 因みに、身バレに関しては本人曰く、和服で外に出ても普段のテレビに映る姿とはかけ離れているからか、身バレしたことは無い。とのことだ。不思議であった。

 律子が苛立つ原因は、雪乃から話があると言って事務所を訪れたのに、一向に話出さないからであった。

 けれど、内容はおおよそ把握している。話辛い理由もだ。だからこそ余計に苛立っていた。

 

 次のCMに入ったら雪乃に話し掛けよう。そう思いながらも、結局は言葉が行き交うことも無く次のコーナーが始まってしまってしまう。

 

 ――そもそも、話があると言ってきたのは雪乃の方からなのにどうして私から話し掛ける必要があるのよ。

 

 テレビでは、不在となっている千早の代わりの週替わり司会者枠として、今週は萩原雪歩(はぎわらゆきほ)が出演していた。

 以前と比べると彼女には自信がついてきた。それでも不安は消えない。

 

 ――春香から話を振られた時に答えられるかしら? 無茶振りしてこないといいけど……

 

 そんな風に思っていたが、今では忘れそうになる程に、律子はいらついていた。

 

 

『生っすか!』

 

 ついに番組は、終わった。

 律子は、放送が無事に終わったことに安堵して息を吐く。しかし、これから待っている本題のことを考えると頭が痛くなる。さてと、決意を小さく声に出す。

 

「ねえ雪乃、コーヒー飲まない?」

 

 律子は立ち上がってから話し掛けた。自分自身は飲む。意思表示でもある。その上での質問だった。

 

「……そうですね。それなら私が入れてきますよ」

「お願いね」

 

 雪乃は手伝いや雑務をよく行っていた。スタッフの少ない現状では、助かっている。

 雪歩はお茶を入れるのが得意なので、コーヒーは専ら雪乃が担当だ。

 今回もそうすると考えての発言だったので、予想通りだ。

 そんな律子の思惑を知ってか知らずか、雪乃は給湯室へと向かった。

 着物の着付けが乱れないように、ゆっくりと歩く姿は、見る者を惹き付ける何かがあった。それは、娼婦のような淫乱さはなく、凛とした美しさである。

 律子は、慌てて目で追いかけるのを止める。一人になれてやっと落ち着けたのに、わざわざ眺める必要はない。律子は長く、大きく、息を吐いた。

 生放送という、日曜の一大イベントも無事終わり、明日から始まる新たな一週間に期待と憂鬱さを感じていた。俗にいうサザエさん症候群であろう。

 仕事は楽しい。けれど、休みが仕事で終わってしまうのは少し寂しいく感じていた。テレビ業界のみならずアイドル業界でも、休みは不定期ではあるのだが。

 律子の休みは、人気アイドルとなった765プロのアイドルたちと比べてもかなり少ない。

 彼女たちからの激しいアプローチと、周りの熱意に負けてアイドルに復帰しアイドルになった。さらに兼任してプロデューサー業も行えば当然過酷なスケジュールになるからだ。

 担当するのは自分を含めて合計14人。本来は担当ユニットである竜宮小町の三人だけであるが、他のメンバーの担当プロデューサーである『赤羽根プロデューサー』がアメリカに長期研修中の為不在だからだ。

 我ながらどうかしていると思う。

 どうかしているのだ。

 

「入りましたよ」

 

 思考が止まった。

 何時もと変わらない雪乃の声と共に、コーヒーの香りが漂う。マグカップが机にストンと置かれた。

 

「何時もありがとね」

「いえ、私が好きでやっていることですから」

 

 雪乃も、律子と同様に多忙であった。

 最近は事務員である小鳥が、常に真面目に仕事をするようになったとはいえ、デスクワークの量も山のようにある。それに加えて、プロデュース活動や、自身のレッスン、他にも取引先への挨拶周りに会議。多忙な日々をなんとかこなしているのが現状だ。

 仕事が減るのは感謝してもしきれなかった。

 

 ――とはいえ、うち(765プロ)に忙しく無い人など誰もいないのよね……

 

 マグカップに口をつける。この瞬間だけは、ぼんやりと目の前のマグカップを見詰めたまま黄昏れていた。

 

「どうしました?」

 

 雪乃と目があった。

 なんでもないの。と否定はするが、そんなことは無かった。

 雪乃は、「趣味はアイドルです!」と公言するほどにアイドルというものを愛していた。

 雪乃は、セルフプロデュースを現在行っている。誰かプロデューサーをつけずに、新曲の構想。作詞家作曲家との会議。プロモーションの方向性。そして、ライブとライブバトルでの方針――

 アイドル活動に関わる事は文字通り何でもやっていた。時には作詞作曲も行っている。

 だからあの言葉は、彼女を体現する口癖のような物であった。

 人が遊び倒す人生の猶予期間(モラトリアム)とも言える学生生活を一切満喫することなく、アイドルにプロデューサー。事務作業といった大変な仕事を行ったりはしないだろう。

 他の高校生以下のアイドルは学校に通っている。律子も通っていたが、彼女は違う。既に高校を退学していた。

 その行動と、満面の笑みを浮かべて言ったあの口癖には、一切の嘘も後悔も感じとれなかった。ただひたすらに自分の表現したい世界を創作し続けた。

 最近の雪乃は違っていた。明らかに疲れていた。今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「ねぇ、雪乃。話があるんじゃないの?」

「―――私、アイドルやめようと思います」

 

 部屋まで冷たく凍えそうになり、まるで時の流れが止まってしまったように時間を感じることが出来ないでいた。

  余りの寒さに息が出来なくなったような錯覚に陥る。

 

「今、なんて……」

 

 どれくらい経っていたかは解らない。

 律子は、聞き間違えでは無いかと考えて、もう一度問うた。理解したく無かったのかもしれないが、寝耳に水では無かったことも確かだ。

 

「私、765プロを辞めます」

 

 雪乃の断固たる意識に、律子は真っ青になり、身を震わせた。

 コーヒーを飲もうとしたがコップは既に空だった。

 掛けるべき言葉が見当たらない。それほど衝撃であった。

 

「……そう、辞めちゃうのね」

「え、ええ。辞めます」

 

 不思議と律子の口から出たのは、即座に噛みつくことも、激怒もせずに、冷めた言葉であった。

 その反応には、雪乃も意外だったらしく驚いていた。事務所には妙な空気が漂って居心地が余計に悪くなる。

 

「理由は?」

 

 そう言った雪乃を見る律子の目は、細められていた。

 メガネのガラスが光に反射していることもあり意地悪そうであった。

 

「理由、なんて……律子が一番理解してるんじゃない?」

 

 律子に帰ってきたのは、吐き捨てるような冷たい返事。

 

「……やっぱり、()()のせい?」

「それ以外に何かあると思ったのよ」

 

 苦笑。

 自虐でも有ったが、その表情は、最近の疲弊した顔ではい。むしろ、憑き物が取れたように晴々とした穏やかな顔があった。

 

「そうよね、御免。」

 

 ()()、とは先日あったライブのことだった。

 単純に成績だけで評価するならば、上はいた。けれど、観客の心を掴んだのは彼女だ。間違いなく最高のライブであった。

 それは同時に、最凶ライブでもあった。

 

「でも、あれだけのライブが出来たってことはまだまだ伸びしろがあるってことじゃない? ここで諦めること無いじゃないかしら」

「……」

 

 雪乃は、黙ったままだった。

 彼女の武器は、あらゆることに貪欲であることだ。いつだってレッスンは熱心にこなし、新しいことを知っては、習得することに精進した。

 自分の培ってきた技術を簡単に捨て去る度胸もあった。

 それは、一種の賭けだ。従来のイメージを変えるということは、ファンからの反応がどうなるかは解らないからだ。

 そして当然、遠回りにもなる。その代償として長いスランプに悩んでいた。

「悩むくらいなら、体を動かしていたいんです」と雪乃が言ったのには、律子は驚いた。

 彼女が頭で考えるタイプだからこそ、まさか響みたいなことを言うと思わなかったからだ。

 けれど、その努力は遂に、身を結んだ。

 

「ねぇ、これからが、本番じゃないかしら。やっと余計な心配をせずに、自分の力を向上できるじゃない?

 これまでの経験を生かして、高みに昇るの。きっと春香や美希たちだって望んでいるわよ」

 

 

 雪乃は自身の立場を築く為に、業界を文字通り駆け回っていた。

 それは、天海春香を初め現在の765プロメンバーが売り出し中の時に起きた961プロとの執着時も、であっだ。

 それは、アイドルというものがささいな傷で簡単に崩壊してしまうような危うい場所であることを、理解していたからだ。

 その事実は、同業者である律子も身に染みて理解している。だから律子や()()()()()()()も動き回っていた。

 雪乃は子供でありながら、プロデューサー業もデビュー当初から行っていた。

 プロデューサーであっても、実力がなかった。

 プロデューサーとしての箔がついても、少女であった。

 コネはあっても、自分で得たものではなかった。

 彼女を取り巻く利権目当てといっても良いような悪どい輩も多かった、らしい。

 けれど又聞きだった。

 

 だからこそ、生き抜く為に武器が必要だと彼女考えた。だからこそ雪乃は、安定した地盤のある地位に収まろうとしている。

 それは、多くの人に雪乃のことが認めたからだ。

 そして、律子たち765プロが、この数年で目を見張る程に成長してきたからだ。業界最大手も夢ではない。

 

 

 これからが、私たち765プロの本番だ。

 

 

 ――だからこそ、辞める理由がわからない。

 

 

 幸運なことに律子は、担当アイドルが引退するという経験をしたことが無い。

 唯一の例外が、自分自身になる。けれど、それは自身の目標の為でもあった。

 プロデューサーになるという次へのステップに進む大きな通過点であって、終わりでなかった。

 しかも、現在はアイドル活動にも復帰していた。本当の意味での引退という瞬間に立ち会った経験がなかった。

 

「そんなこと、ないですよ……

 私はそんなに出来た人間じゃないです」

 

 今にも消えそうな声だった。けれど確かに聞こえた。

 初めて聞いた胸の内でもあった。だから、驚いた。

 

 それ故に、律子には何を伝えるのが正解なのか解らなかった。

 律子は、こういう時にこそ高木社長がいて欲しいと心の底から願うが、無い物ねだりに過ぎない。社長は居ない。

 どうしたら雪乃の心を少しでも癒すことが出来るのか。

 彼女とって元の居心地の良い第二の家に戻すことが出来るだろうか。

 どうすれば“パーフェクトコミュニケーション”をとれるのかと、思考の渦に囚われていく。

 

 もしかすると、春香たちと共に先へと進んでしまった先輩である秋月律子には解らないかもしれない――――

 

 それでも、家族のような関係であることには変わらない。だから考える。

 

 

 

 

 

 ――ねぇ、雪乃……

  あんたは、今までやって来たこと全てが無駄だったって思ってるの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 例え、叫ぶことしか叶わなくても、このまま終わるのは耐え難かった―――

 

 

 

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