THE IDOLM@STER 輝く星になりたくて 作:蒼百合
和訳 : 再会、そして悪夢
空き缶や菓子のパッケージが詰まったゴミ袋を捨てる為に、雪乃は廊下を歩いていた。
すれ違うバイトの人からは、彼女の持つゴミ袋を見るなり、何事か? と、目を見開いて驚かれた。
反対に、346の社員と思われる人からは、『
――――はぁ、なんでこんなことしてんだろ?
雪乃の肩身が狭くなる。嫌な目線が集まっていた。気持ち悪い。
いっそのこと、この場に棄てて自分は逃げ出したいと思った。
雪乃の足取りは、自然と早くなり競歩のようになっていた。今度は、周囲の人のぶつかりそうになって「危ないぞ!」と怒られてしまった。
「ただいまぁ……」
扉を開けるのさえ面倒と思えるほどに、雪乃は疲弊していた。
珍妙な物を眺めるように見られ続けたのだ。疲労しない方が無理である。
出演者たち(酔いつぶれた高垣楓は寝ているが)は、昼御飯を食べていた。
大規模ステージでは、大抵二、三種類の軽食が手配されている。一区画に積み上げて、各自が取って行くスタイルもあれば、既に控え室に置かれていることもある。
大抵の場合は、弁当になるが、中には料理人がその場で調理した出来立てを食べれることもある。
全てのライブでは無いけれど、丸一日拘束されることとなるスタッフにも昼食が配られることが多い。
「あはは……お疲れ様です。お茶でも飲みますか?」
「美嘉、か。ありがとね。一杯貰うよ」
お茶を注がれたコップを受け取りながら、雪乃はお礼を言った。
「……えっと、ゆきのさん、だったよね。どこかで会ってたっけ?」
「え、そりゃあ勿論――――あっ」
何言ってるのさ。と一瞬思ったが、直ぐに気がついた。美嘉が、不思議に思い尋ねるまで雪乃は、普段彼女と会う姿とは違うことを忘れていたからだ。
美嘉から貰ったお茶を飲み、雪乃はゆっくりと口を開く。聴く者に突き刺さるような声を、力強く。
「当然じゃない。いつから貴女のことを見てると思ってるの?」
刹那、美嘉は目を見開いた。
「――もがなさん……ですか」
信じられない。と震えるようにして、彼女は小さく呟いた。
「そうよ。久しぶりね、美嘉」
7ヶ月くらいだっけ と確認するように、雪乃は言った。
「あら、もがなちゃんだったのね。言われてみれば目付きが……似ていますかね?」
「わかるわ。普通じゃ雪乃ちゃんの変装は気づけないよね。私も初めて見た時は驚いたわ」
いつの間にか復活していた楓に、川島瑞樹が補足する。
対照的なのは、その隣にいた片桐早苗と
「あー。765の
と、酒を取られてしまい手持ちぶさたな早苗が。
隠しきれないオーラがあったとか? と心が続けて言った。
「そんなの有るわけ無いですって」
「そうですね。私なんてオフの時は『子供みたい』って言われたりしますから」
「それは、楓ちゃんが駄々こねるからじゃないかしら……」
雪乃が否定した。
楓はそれに同意したが、瑞樹が突っ込んだ。
その言葉に周囲は苦笑いする。
「でも川島さんは、初見でも私の見破ってませんでしたっけ」
「そうだったかしら?」
「……ほんと、誰だか判らないですよ。
「美嘉ちゃんって、
「それ、私も気になってました」
雪乃は目を伏せた。
「先輩、か。懐かしいね。初めて合ったのは表紙の撮影だったっけ?」
「はい。仕事としてはそうです……」
美嘉は、何か言いたそうに口をもごもごと動かしているが、言葉にはならなかった。
「ごめんって。埼玉であった
「なんだ。覚えてたんですね」
美嘉は嬉しそうに言った。
「あれだけ嬉しそうに話してきたのも久しぶりだったからねぇ」
美嘉を見ながら、雪乃が言った。
「わかるわ。喜んでくれた人って直ぐに覚えちゃうのよね。それに、覚えやすいファンっているわね」
「あたしは、同僚が来ると嬉しいやら恥ずかしいやらで複雑かな。珍しいところだと、ボーダー服来てくる人がたまにいるわね……」
「それ、既に逮捕されてるじゃねーか」
「そうですね……私の場合は、そこまで特徴的なのはいませんけど、泣いてくれる方の顔はよく覚えています」
主となっているファン層の違いもあり、ソロライブやイベントの雰囲気も違う。他の現場に入ることは珍しいため、興味深そうに耳を傾けていた。
「楓さんの場合は、元々楓さんの目が特徴的ですからね」
「そういえば、もがなちゃんの髪色って……」
雪乃の言葉に、楓は思い出したそうに言った。
彼女の言葉に、視線は雪乃に集まった。
美嘉は、恥ずかしそうに顔をうつ向けていたが、気がつかれてはいない。
「……色、似ているな」
言ったのは、心だ。今度は美嘉に目線が移る。
その言葉に反応して、美嘉は恥ずかしそうに頬を赤めていた。
「へー。なるほど、なるほど……」
ニヤニヤとしながら早苗は口にした。いい話題が出来たと思っているのかもしれない。
「そ、そんなこと無いですって!」
「ふ~ん……」
「うん。そんなに似てなかった筈だよ……」
美嘉は慌てて否定する。けれど、疑惑は晴れるどころか真実味が増してしまう。
心も早苗と同じように、口元に笑みを浮かべていた。
それとは対照的に、雪乃が補足した。
「お疲れ様でーーす!!」
ドアをバーンと壊れそうなくらいの勢いで開かれた。
と、同時に元気が有り余った声が周囲に響き渡る。反射的に耳を押さえたくなるくらいには大きかった。
「
声の主は、
声を掛けた美嘉の声量は少し小さかった。
「いやー、いい汗かけました!!」
首に掛けたタオルで額を拭いながら言った。
周囲から不思議そうに見つめられたので、茜は疑問に思う。
「あれ。皆さん、どうしたんですか?」
「ううん、何でもないよ」
茜の登場により火照りが引いて、落ち着きを取り戻した美嘉は、話題を変えようと茜の疑問を否定した。
「それならよかったです! お腹空いてませんか!? 先ほど貰ったお握りが有るんですが、皆さんも食べますか!!?」
茜は手に持ったビニール袋を掲げていた。
それを見た美嘉は、申し訳なさそうに口にする。
「あたしたち、ちょうどお昼食べちゃったんだ……」
「差し入れ、ですか。因みに誰からですか?」
「
「なるほど。おふくろの味ってことですか」
「沙織ちゃんは子供だって……」
懐かしさと愛に溢れていて美味しい母の味。それは、どんな高級料理とも違う家庭の味だ。
「いいですか? そもそも、炊きたてのほかほかのご飯は勿論のこと、何もしなくても十分に美味しいです! なので塩むすびは大変美味しいのですが、鮭や鱈子に昆布。具材が入るとさらに―――」
茜は、熱く雄弁に語り続ける。
「そ、外で食べるおにぎりって美味しいよね。最近"莉嘉"とピクニック行けてないなぁー」
「わかるわ。景色を眺めながらのんびり食べるのも、楽しいからね」
「ピクニックですか! いいですね!! それなら、明日にでも行ってみたいです!!!」
「まだ、冬なんだけど……」
寒い今はない、と城ヶ崎が否定する。
「それなら、ここでやりませんか?」
そこに楓さんが話に加わって来た。
何故室内なのかと不思議に思い、美嘉たちは不思議に顔を見合わせた。
「レジャーシートを広げた床に座って、お酒を持ち合えば、花見気分になります!」
「「あぁ……」」
特別な理由があると思って少し真剣に聞いたこっちが馬鹿だったと、美嘉と雪乃は反省した。
彼女たちの楓への評価はあっという間に右肩下がりだ。それでいて、自身よりも実力が上という現実がやるせないでいた。
「わかるわ。一人で飲むより誰かと一緒に飲む方が美味しく感じるのと同じで、ご飯もねぇー」
「ふふっ、そうですね。特にお酒と一緒に合うのは―――」
大人組は酒の話題で盛り上がってしまった。
茜も熱く燃えているので、残された二人は呆れていた。
「結局のところお酒になっちゃうんだね」
「ある意味あの人たちらしい、かもね」
「そうかもね」
そのとき、閉められていたドアが、ゆっくりと開く。
「――――楓さん……まだ、お酒……飲んでいるのですね」
「……ふふっ。おつかれさま?」
靴が隠れる程のロングスカートを身につけ首にはストールを巻いた落ち着いた女性、
その後ろには、右手を掲げるが、袖の先端ががだらりと落ちたジャージを身につけた小柄な少女、
「み、美優ちゃん? どうしてここに……」
いるはずの無い彼女が居て、楓は困惑する。今回美優には、ライブ出演はなかったからだ。
「今西さんから電話があったから、ですよ。もうっ、駄目じゃないですか……ライブ前なのに、お酒を飲んでは……」
「だってぇ~そこにお酒があるんだもの」
「なんですか……それ。昨晩も飲んでいましたよね……?」
美優は楓に対して怒っていた。けれど、物腰は穏やかである。元々感情を顕にする方では無いが、今日はそれが顕著に現れている。
というのも、彼女は遅くまで楓たちとバーで飲んでいて、先程まで寝ていたのだ。今西からの着信で飛び起きて、眠気も完全に覚めない中でここまで来ていた。
「……これは後で怒鳴られるだろうな」
「禁酒、何てことにはならないよね!?」
「そんなことって、あるので
天井を見上げ、既に諦めている心。
酒をこよなく愛する早苗と楓は狼狽していた。
「楓ちゃん、流石にだじゃれを言っても誤魔化せないわよ……」
「川島さんも同じですけど……。少しは反省ってものをしなさい」
「もしかして、まだお酒を飲んでいたのでしょうか?」
「あー、違うの。確か、ピクニックに行きたいな。って話だったと思う」
「ピクニック、ですか。皆さんとお花見とか行きたいですね」
「桜なら……夜の方がワタシは好き、かな?」
「夜桜もいいわね。夜空を見ながら食べると、ちょっとキャンプっぽくて楽しいかも」
「……ううん。きっと、桜の木の下からは……ゾンビが這い出てくるから。あの子と眺めながら食べるの、きっと……楽しいよ?」
その瞬間、暖房で暖まっていた筈の空間に冷気を感じた。
「あのー……楓ちゃんとしては、お酒があるともぉーっと嬉しいなぁ~」
性懲りも無く、酒の話題を口にした。腕は缶ビールを飲む仕草を真似ていた。
そんなお酒を求める仕草でも、大人の女性として魅力的に雪乃の目には写っていた。その仕草に雪乃は、ドキリとしてしまっていた。
雪乃でなくても、他の同性が見れば彼女の色気に魅力されるのは間違い無いだろう。それは、実力があるのも確かな証拠でもあった。346プロ内で唯一Sランクに手が届きそうな実力を持つ女、それが高垣楓だ。
ずるいと思えてくるような、羨ましいような気持ちが心の中で渦巻いている。
「雪乃ちゃん?」
美嘉は心配そうに見つめていた。
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「さて、私はそろそろお暇するね。ライブ、頑張ってね」
「うん……」
ここに居られるのはステージに立つ人とそれを支える人たちだけ。そんな隔たりを感じたので、関係の無い私はそろそろ退散することにしようと思い椅子をしまってドアに――
バタンッ
「っーーーー‼」
「あらぁ? 大丈夫ですかぁ?」
内開きになっているドアが開いて雪乃はドアとぶつかってしまった。
ドアを開けたのは
「あっ、はい。大丈夫……です」
「それならよかったです。それにしても、リハーサルで運動してきたから熱いですね~。脱いでもいいですかっ」
右手で襟元をぱたぱたと仰いだまま、左手では今にも脱ぎたそうに袖に手を掛けていた。
「ち、ちょっと待って!」
せめて、ドアを閉めようよ。と慌てて雪乃は止めに入る。
愛梨は極度に熱がりで、色気しか感じない露出魔だ。彼女の裸を見られたら嬉しいと雪乃は思ったが、彼女の尊厳を守る方が大切であった。
346プロ黎明期を支えた現在『Bランクアイドル』でもある愛梨には、コアなファンの非常に大変強い支持がある。
彼らは、聖地奪還を目的に幾度となく派兵されて、ヨーロッパと行軍道中の諸国に強い影響を与えた歴史上の軍隊に準え、彼女の姓と合わせた『
他アイドルファンへのインパクトだけで考えれば、765プロに所属する『Sランクアイドル』萩原雪歩のファン集団『
結局、愛梨は服を脱いでいた。
年数だけで見れば新人の彼女たちだが、数多くの公演をこなして実力もあった。
それもその筈。346を代表するアイドルである彼女たちは、全員が『Bランク』以上の有名アイドルだ。場数を踏んでいるからこそ、緊張とも縁が無いのだろう。
そんな彼女たちは、楽しそうに談笑を続けていた。
アイドルは、大衆から憧れの的であり、大勢のファンも存在するが、一癖も二癖もあるような個性のある人間の集まりであるのは当然だった。
けれど、雪乃は思う。――もう少しまともであってくれ、と。
◇◆◇◆◇
時は少し進む。
来場者が会場限定のグッズを物販で購入を済ませ、徐々に会場内に入場し始める頃。舞台裏では荒れていた。
「
「またなのか乃々ちゃん!?」
「なに、セットの靴が無い?」
話を聞くところによれば、森久保は脱走するのはよくあることらしい。
それってアイドルとして失格ではないか、と凛は思う。
それ以外にもトラブルはあるようで、落ち着きは全くない。
出演者がいないのは少し気掛かりではあるが、彼女には探す暇は残念ながら無いだろう。凛の方にも問題が起きているからだ。
「なんか、騒がしいね」
「撤収作業も同時進行で行っているから人手も足りないからね……。……えっと、うちが担当しているのは、あと4つ、だね」
「うん、そうだね」
納品書と目の前にあるフラワースタンドを確認しながら、雪乃は言った。
実家であるフラワーズ渋谷では、有志からのフラワースタンドの注文を受けていた。
普段の作業工程では、ライブ終了後もフラワースタンドは飾って置くが、天気予報では雪になる可能性がある為、屋内への撤収作業を渋谷家総出で手伝っていた。
「それで、
「了解」
「それで、終わったら凛はどうするの?」
「どう、って?」
「ライブに決まってるじゃない。せっかく半券もあるのに見ていかないの?」
雪乃は胸ポケットからチケット取り出て、ひらひらと紙を動かしながら言った。
「いらない」
拒否した。凛の言葉は即答だった。
「……そっか」
そう言った雪乃は、少し寂しそうであった。
それを見た凛は、腹立たしくなっていた。
――そんな顔をするなら、どうして! どうして……
胸の内であったが、その先は言葉にならなかった。
凛と雪乃は違うのだ。凛はアイドルの世界を知らないし、知ろうともしていなかった。だから――
「ごめん」
不意に、凛が口にしたのは謝罪であった。
いきなり何を言っているのだと凛は焦るが、雪乃はそれを遮る。
「もう。そんな顔しないでよ。それに、見たくなったら何時でも見せてあげるんだから!」
「なにそれ」
雪乃は少し茶目っ気を交えて言ったつもりであったのが、凛は呆れられて笑っていた。
そんな些細な仕草でも、雪乃の胸が少し揺れるのを凛の目でも確認できた。自身の胸が小さいことに悩みを抱いてはいないが、不意に見せつけられると意識してしまう。
――大丈夫、まだ3年もある。高校生になったら、大きくなる。
誰が言ったか解らない言葉であるが、凛は自身に言い聞かせる。
「それじゃあ。また、後でね。凛」
「うん、また家で。雪乃義姉さん」
雪乃と別れた凛は、人通りの少ない階段を下りていた。一段一段足を進める毎に、ゴンと重たい鉄の音が響く。
階段が終わりにささしかかった頃。凛の耳には「ひうっ」と脅えるような声が届いたように感じた。
「まさか、幽霊?」
それはないと、凛は否定したかった。けれど雪乃からは、霊感が著しく強いアイドルが在籍していると聞いたことがある。
記憶を辿り、小梅というアイドルだった筈だと思い出した。彼女はホラー物やゾンビ物のドラマでも有名な役者でもあったことを同時に思い出す。
真相は定かではないが、口コミでは、「彼女には幽霊が憑いているからこそ、迫真の演技ができるんた!」と書かれていることを凛は、知らない。
そもそも、実際に幽霊とトモダチであることなど知るよしもない。
「ま、まさか……本当に、幽霊じゃないよね」
凛は、怯えていた。歩みは少しずつ遅くなる。
反響する階段の音が、耳にこびりつく。
そのとき、声が聞こえた。
「……こ、来ないで下さい………」
それは少女の声だった。
か細く小さな声であったが、確信した。
間違い無い。確かに
「 」
凛は言葉も出なかった。
顔が真っ青になる。
「………い、嫌だ。そっちこそ、来ないでよ……」
凛は、涙目だった。
「なら……どっか行って下さい……」
「どっかって、どこに!?」
発狂した。思わず叫んだ。悲鳴だった。
「ひぅっ!」
相手も同じように怯えていた。
「そんなの、
森久保と名乗った少女が続けて言った。
名前を聞いた凛は少し冷静になった。
けれど、減ったSAN値は戻らない。
通常の精神であれば、彼女が幽霊ではなく、アイドルの"森久保乃々"だと把握出来ただろう。しかし、少し前に名前を聞いた程度の彼女では気づけない。
さらに不幸なのは、森久保乃々が凛をステージに連れ戻しに来たスタッフの誰かと間違えてしまったことだ。
何処かに去って欲しいと願う彼女は、体育座りで縮こまりながら小さな抵抗を続ける。
階段の上と裏にいる渋谷凛と森久保乃々。二人の出会いは最悪に近いものであった。
これで、やっとウィンターライブの完結まであと一息に ! 早く卯月を書きたいです……。
ってな訳で、お久しぶりです。少し遅くなりましたが、肇ちゃんのボイス決定おめでとうございます!
さて、問題の年齢改変についてになりますが、最大で原作+四歳増えることになります。765プロがトップアイドルですし、そのままだと時空の歪みが……
原作と年齢が違うのは、765AS組、876組、ジュピター、麗華に今回当時した愛梨となります。
愛梨の場合、二年前(高校二年)にとときんがアイドルになっていると、コンパに行った設定が亡くなりますので……
追記:友人から、コンパの設定を使うことなんて無いだろ、言われたので年齢は元に戻しました デレマスアイドルは全員原作と同じ年齢になります。
※次話投稿時に削除します。
次回はなるべく早めに更新出来るように頑張りますね!