THE IDOLM@STER 輝く星になりたくて 作:蒼百合
「そ、その。凛さんは……本当にもりくぼを連れ戻しに来たわけじゃないんですか……?」
森久保は階段の裏、人目に気が付きにくい奥まった場所でうずくまりながら言った。
そうやって確認するのは何度目かと、凛は苦笑いする。
「うん、私は偶然ここを通っただけだから、
正確には、このやり取りを4回も行っていた。
そもそも、凛が彼女を知ったのも少し前のことだったので、森久保乃々の失踪癖についても知る由もなかった。
二人が会うきっかけは、少し前のことになる———
最初に違和感に気がついたのは、凛であった。
幽霊と思っていた謎の少女と会話が成立していることに気づけたのが、不幸中の幸いであった。
「あれ、会話出来てる……?」
「私は……喋れますけど、それが問題でも?」
「生きているんだよね……?」
凛は冷静になってから気がついたが、仮に死人に聞いていたら、更に恐ろしいことになる可能性もあっただろう。
残粒子のような力の無い個体であれば、恐怖体験を味わうだけで済む。それが敵意を持った悪霊の類であれば、呪われていたかもしれない。
「ヒィ! も、もりくぼは幽霊じゃないんですけど!?」
勿論、森久保は人間だ。友人に
そんな森久保は、幽霊と聞いて逆に怯えてしまった。冷静になれた凛とは正反対だった。
「ね、ねぇ。とりあえず顔が見えるところで話さないかな?」
「……はい」
凛からの提案に、森久保は頷いた。
移動したのは凛だ。まさか階段裏にいるとは思わなかったので驚いた。
「ご、ごめん……ね。まさかここに誰かいるとは思わなくて。……驚かせた、よね?」
「そ、それは……当然のこと、です……から」
謝られたことを凛は疑問に思った。
「うん、確かにそうなんだけど、どうしてここにいたの?」
「そ、それは……
「スタッフさん?」と凛は不思議そうな顔で言った。
「ち、違う……のですか?」
森久保の顔はこわばった。
なんとなくではあったが、大きなすれ違いがあることを凛はようやく理解した。
彼女は実家である花屋の手伝いだ。その旨を伝えることひにした。
「うん、違う。私はスタッフじゃ……ない、かな?」
「え?」
凛の発言からは徐々に力が失せてた。
まさかの返答に森久保は戸惑った。
凛が断定出来なかったのは、口に出したら自分がスタッフではないと言い切れないと思ったからだ。
———フラワースタンドを搬入するのは、スタッフ扱いになるのかな?
けれど、凛が疑問に思うのは仕方がないことでもあった。彼女はアイドルについて詳しくないからだ。
知識、経験共に森久保の方があるのであった。舞台裏にいる人間が知識を持っていないとは思わないのも無理がない。
それは、森久保にとっては皮肉な事実であった。彼女たちがそれを知るには、互いのことを知らなさすぎた。
「あの……」
口を開いたのは森久保の方であった。
「なに?」
凛は口下手、とまではいかないが愛想が悪いことは自覚している。
舞台裏。それも人通りの少ない階段ということもあり、照明は薄暗い。つまり、互いの顔がはっきりとは見えていなかった。
そのような場所で、不愛想な顔をして愛嬌が全く無い返事をされたら、内気な森久保が怯えてしまうのは無理もないだろう。
「ひぅっ。あの……森久保を探しに来たんじゃないんですか」
「え、なんで?」
今度は少し可愛らしかった。
――――そうして、同じようなやりを繰り返している。
二人の誤解は既に解けていた。しかし、森久保はまだ凛が自身を探しに来たのではないかと疑っている。
凛は、彼女が何故ステージに出たくないのかと不思議に思っていた。
森久保はアイドルだ。立つステージがあって、待っているファンもいるのだろう。不自由はしてないはずだ。
はず、である。
「その、森久保さん」
「……わ、私のことは別に呼び捨てでも、ののでも構わないです」
「そう? じゃあ、ののちゃん」
そう凛が言ったのは、森久保にとって少し意外だったらしい。
森久保は、ようやくうつむいていた首を上げた。
「のの、ちゃんです……か」
けれど目線は合わせなかった。ちらちらと、凛の方へ向けている。
その仕草を凛は可愛らしく感じていた。口元がにやついている。
「うん。駄目、かな?」
「い、いえ。嫌……じゃない、です」
「そっか」
凛は微笑んだ。
「なら、ののちゃんで。ののちゃんは、どうして
「……嫌い、ですか」
森久保の声は囁くように小さかった。
身体を縮ませて、抱えてる両足を両手でぎゅっと掴んだ。
彼女はしばらく同じ姿勢を維持した。やがて、ゆっくりと力を緩めた。
「嫌い、じゃないです」
「あっ………うん。そうだよね」
嫌いなわけないか、と独り言を呟いた。
「それじゃあ
――――アイドルは、好き?」
森久保の顔が変わった。
顔が真っ青に変わったと思えば、真っ赤になった。目を瞑り、泣きそうになったかと思えば、ぐるぐる巻きのような目になっていた。
まるで百面相のように、ころころと表情を変えていた。
その姿を凛は、首を反らすことなく眺めていた。
「その……森久保は――――」
気持ちは漸く固まったらしい。
凛は真剣な眼差しで見詰めていた。
けれど、声を発したのは別人。
「あぁ! ののちゃんだ! みなさん、森久保乃々さん見つけましたよ!!」
それは、
「ひぃ!」
森久保は、凛と話していた為に気がつくのが遅れてしまった。彼女にとっては不覚だった。逃げ場もない。
通路からは幾つもの足音が忙しなく聞こえる。
一番早く到着したのは、スーツ姿の男性だった。背は凛よりも高く、体格のいい男だ。いかにも体育会系の熱血漢、と呼ぶに相応しい人物である。
笑顔を浮かべる少女とは対照的に、男のスーツは乱れ、顔からは汗を滴ながら、視線を凛に合わせた。
「……そうか。ここにいたのか! 君、見つけてくれてありがとう」
「えっと……私は何もしてない、というか……」
息を切らしながら男は言った。
突然の出来事に、凛は言葉を詰まらせる。
ふと、顔を向けたのは、顔面蒼白になっていた森久保だった。
「さぁ、森久保! 早く着替えなきゃな。ファンのみんなが待ってるぞ」
「プ、プロデューサー……わたしは………その」
男は手際よく、森久保を引っ張り上げて立たせた。
「なに言ってんだよ。早坂たちも待ってるぞ!!」
「そうですよ、乃々ちゃん。
最初に発見した少女も、森久保にプロデューサーと呼ばれた男に同意するように声を掛けた。
「美玲さん。それに……まゆさん。わたしはそんなきらきら――――って、まだ心の準備が!」
森久保は、そのまま通路へと連れて行かれた。
「むーりぃーーーーー」
森久保にとっての心の叫びは、断末魔のようであった。
「行っちゃった……」
その声を聞く人はいなかった。
辺りは急に静かになった。窓がなく薄暗い照明しかない上に、時計の針が進む音さえ存在しない空間。時間の感覚が狂い、真夜中ではないかと錯覚してしまいそうになる。
凛は少しだけ気味悪く感じていた。直ぐにその場所から離れることにした。
その拍子に、被っていた鍔つきの帽子がひらりと落ちてしまった。ギュッと、深く被り直す。
帽子を掴んだままの手で、半回転させる。その仕草は、アニメで出てくる携帯獣のトレーナーみたいで格好いいと思った。気持ちが高揚する。
「――それじゃあ、仕事しようか」
凛は声に出して、思考を切り変えることにした。
その帽子は、途中で恥ずかしくなったので元に戻した。
その頃には、得体のしれない恐怖感も忘れていた。
――――階段にいた姿の見えないあの子は去り、電球の灯りは強くなっていた。
*
外では、雪が降りだしていた。どれくらい積もるのか解らないが、早急に回収する必要があった。
運ぶ最中にも、思考の片隅では森久保のことを思考し続けていた。
―――答え、聞けなかったな。
僅かな心残り。
凛には彼女のことが不憫に思えてきたが、本当に嫌ならライブ会場にすら来ないだろう。真相は本人に聞くしかわからい。
話は変わるが、一般人(ファン)が贈るフラワースタンドの高さには、レギュレーションが存在する。高さは180cm。 当然、横幅や奥行きにも制限がある。
その規約の中でファンたちは、個性豊かなスタンドを企画し、ライブ会場を彩らせている。
花を飾るには、土ではなく専用のスポンジを使用する。他の構成要素の大半は支柱、それに加えてメインとなる花に、コメントやイラストを描くパネルとなる。重量としては、見た目の豪華さと比べれば然程重くはない。
但し、視界は非常に悪い。目線が集まりやすい上側に花やパネルが集中するからだ。
「あと、どれくらいですか?」
隣にいる卯月に尋ねた。
凛は後ろ向きに、ゆっくりと足を動かしていたので距離の把握が出来ない。近くにいて、先ほどもあった彼女に付き添ってもらっていた。
「そうですね……2メートルくらい、でしょうか。あ、ちょっと右に傾いてますっ!」
練れない作業ではあるものの、卯月はしっかりとサポートを行っている。
「おっと。ありがとう……」
凛は慎重に進んではいたが、ライブ開演までの時間が僅かである入場口付近では人通りが少ないと踏んでいた。
けれどそれは、油断だった。階段を駆け上がる音は聞こえていたが、気にも止めていなかった。
人と人のぶつかった音がした。
卯月がぶつかった相手は、ショートパンツを履いた活発そうなショートヘアの少女だった。
走ってきた少女は後ろによろめき、フードを着た少女はバランスを崩してしまい、箱の中からガラスの靴を模した小道具が飛び出していた。
そのまま宙を跳ねて、カーペットの敷かれた床に倒れた。
ギャップを被ったとフラワースタンドの方向性へと倒れそうになり―――
ドン、と重たい音がした。
「うわっ」
思わず声が出た。既に設置し終えた他のスタンドにぶつかって、三次被害を出さないように、足に力を入れる。
なんとか踏みとどまれた。
「ご、ごめんなさい!」
ショートヘアの少女が謝る。頭も直ぐに下げていた。
「気にしないで下さい。なんともなかったですから」
「うん、大丈夫。それよりも急いでたんじゃない? ライブ、行った方がいいと思う」
謝られた二人が気にないでと、謝罪を受け入れた。
結果論ではあるが、怪我も周囲への被害も無かった。二人にも、非がない訳ではないのだ。
「ぁ。そうだった! 二人とも、ほんとゴメンね! あたし、急がなきゃ!」
「待ってください!」
また走り出しそうなショートヘアの少女に、フードの少女は慌てて声をかけた。
「……ライブ、30分延期になりましたよ」
「あれ、そうだったの?」
「そうなんだ」
唾つき帽子を被った少女も驚いた。
「……はい」
か細い声でフードの少女は言った。
「そ、それじゃあ……行くね」
「今度は走らないでよ」
釘を指した。
彼女は軽快な足取りで客席へと向かって行った。
「……そうでした。靴、拾わないとですよね」
そう言ってから、
凛にとって
そのことを自覚して、彼女たち三人が再開し、
ステラァ!? 黒井社長ありがとう。おかげでまた設定の練り直し……いや、キャラだけ使うかな(白目)
今回は凛の話の続きでした。これでようやくニュージェネ全員が登場です。やっと1話の冒頭だ!
因みに、フラスタのレギュレーションについては、『シンデレラの舞踏会』の物を参考にしています。フラスタはいい文明。
765アイドルに有志のファンがフラスタを贈ってるあるなら、346のアイドルファンも確実に贈ってるに違いない! ってことでフラスタの話を入れてみました。
とはいえ961は厳しそうです。1054やDNA辺りはグレー扱い、なのかもしれませんね。
315は……どんとこいかな?