最強系お姉ちゃん   作:わたげ

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第1章 賢者の石
第1話 日常


「起きなさい! 早く!」

 

 ドンドンドン! と物置のドアが叩かれる。私は慌てて服を着替え、キッチンへ向かった。

 手早く朝食の支度を整え、ダイニングテーブルに並べる。出来るだけ見た目を綺麗に、そして素早く。それをクリアしないと、後が面倒なことになる。

 伯母であるペチュニア・ダーズリーがテーブルの上をチェックし、私をギロリと眺めて不審な点がないか確認した後、もう行っていいと合図した。私は自分の分の朝食を皿に乗せ、素早く自分の部屋としてあてがわれた物置に引っ込んだ。

 ドタドタと乱暴に階段を降りる音と衝撃がモロに物置に来て、木屑が落ちてくるが、慣れてくると気にならなくなる。従兄弟のダドリーが階段を降りるまでは朝食の上に覆いをかぶせることにしているので、木屑が入ってしまうことはない。

 ダドリーが捨てたものを密かに回収して修理し、再利用している時計を見ると、既に『それ』が起こる時間になっていた。私は少ない量の朝食を飲み込み、毛布に包まった。

 静かに階段を降りる音がする。その足音の主は、ルビー・ポッター。私の双子の姉だ。ルビーの足音がダイニングの方へ消えると、私は息を潜めた。たぶん伯父のバーノンもダイニングへ着いた頃だろう。

 

 バーノン、ペチュニア、ダドリー、そしてルビー。彼らが同じ時間に同じ部屋に集まると、不可抗力で起こる現象がある。それは、喧嘩だ。

 

 喧嘩と言っても、そんじょそこらの喧嘩とは訳が違う。当たり前のように物が飛び交い、痣をこしらえ、聞くに耐えない罵声が響き、何かが割れる音がする。運が悪い時は窓が割れたりするので、このダーズリー家の窓は全て防弾ガラスだ。

 そんな、普通の家庭では数年に一度起きるかどうかもわからない大喧嘩が、ダーズリー家ではほぼ毎朝のように繰り広げられる。

 

 ドーン! ガタン! ガッシャーン!

 

 バーノン伯父さんの怒鳴り声、ペチュニア伯母さんの甲高い声。ダドリーが癇癪を起こして床を踏み鳴らし、何かが倒れる音がする。

 

 数分後、バーノン伯父さんが出社し、ダドリーが遊びに言った頃、私はそっと物置を出た。

 ダイニングに入ると、ペチュニア伯母さんはソファーに座ってお気に入りの番組を見ており、ルビーはダイニングテーブルについて雑誌を見ている。

 

「おはよう、ルビー」

「おはよう、エミー。今日の朝食も美味しかったわ」

 

 挨拶してみると、二文の返事が返ってきた。今日は機嫌が良いらしい。それは何よりだ。

 このダーズリー家で居候という身分でありながら、常に女王のような態度で過ごすルビーという双子の姉は、基本的にダーズリー一族とはそりが合わない。ルビーが右と言えばダーズリーは左というし、ダーズリーが西と言えばルビーは鼻で笑う。そして物が飛び、机がひっくり返り、後片付けは私の役割となる。

 今日はリビングのテーブルがひっくり返されたようだが、誰かが元に戻したようだった。元の位置から三センチ以上ズレていることから、戻したのはペチュニアではない。ルビーが戻す訳ないので、たぶんバーノン伯父さんが怒りながら戻したんだろう。

 

 食器を洗って枚数を確認し、フォークやスプーンが掛けていないかチェックする。キッチンで埃が舞うのは衛生的ではないため掃除をし、頃合いを見計らってルビーとペチュニア伯母さんに紅茶を出した。

 

「エミー、今日は庭の手入れをなさい」

 

 伯母さんが断固とした口調で私に告げる。ペチュニア伯母さんは、この屋根の下にいるものが女性だけになると必ず私にどこかの掃除を命じるのだが、機嫌によって場所が異なる。ちなみに、機嫌が良い順に並べると、リビングとダイニング→廊下→二階→シャワールーム→トイレ→玄関→庭→家の前となる。今日はかなり機嫌が悪いらしい。今日の喧嘩はルビーの一人勝ちと見ていいだろう。

 

「あら、私の妹に命令とはいいご身分ね」

 

 ルビーはそう言ったものの、私を止める気はないようだった。よかった。ここでルビーが機嫌が悪かったら、第二次ダーズリー家大戦が起きるところだった。

 ペチュニア伯母さんはギロリとルビーを睨みながら、手で「早く」と合図した。

 

 普通とはかけ離れているかもしれないが、これがダーズリー家での日常だ。

 私はこの日常がもうすぐで崩れ去るとは思ってもいなかった。

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