仮題 天下御免の天竜人   作:グラサン髭坊主

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1話 酒場と人間屋にて

 

 

 

 シャボンディ諸島。

 偉大なる航路(グランドライン)にて幾多の冒険を乗り越えてきた海賊達が、新世界へと足を踏み入れる為に必ず訪れる場所である。

 新世界へは赤い土の大陸(レッドライン)を越える必要があり、その方法は2つしかない。

 1つは、赤い土の大陸(レッドライン)の上、聖地マリージョアを通過する方法。

 もう1つは、赤い土の大陸(レッドライン)の下、海底1万mに存在する魚人島を経由する方法。

 しかし、マリージョアへはその都度通行許可を求める必要があり、加えて船は赤い土の大陸(レッドライン)を乗り越えられない為に、向こう側にて別の船を用意しなければならない。

 よって、探検家や海軍、世界政府関係者以外の者、特に海軍等はもう1つの方法を取らざるを得ない。

 その為には船に特殊なコーティングを施さないといけないので、それに必要な職人がいるシャボンディ諸島には海賊達が集まるという訳である。

 

 そんなシャボンディ諸島の1番GR(グローブ)と呼ばれる場所のとある酒場に、ヘリオドール聖とその部下達は訪れていた。

 

「――さて、今日この場にいる皆に告げよう! 知っている者もいるだろうが、俺は天竜人のオイリオス・ヘリオドールだ!」

 

 果実酒がなみなみと注がれたジョッキを掲げ、ヘリオドール聖が酒場の者達に向け声を張り上げる。

 その傍らにはチハットとアメージュ、それから偶然酒場に居合わせた短髪長身の女性、“九頭竜”の一員である“鶴嘴(つるはし)”のカネリアが並んでいた。

 

「……だが、俺は堅苦しい雰囲気が嫌いな人間だ。故に、口調は崩しているし、皆が頭を上げたままでいる事にも文句は言わない!」

 

 そんな彼の言葉によって酒場の客達から苦笑が漏れる。

 そう話している彼自身が、入店早々に頭を下げる事を不必要だと述べていたからである。

 

「そして、俺は日頃からなるべく気前の良い人間である事を心掛けている。よって、俺がこの酒場にいる限りではあるが、皆の食事代や酒代はこの俺の奢りにしてやろう! ……ただし、他の天竜人に知れたら大変なので、この事は内密にするように」

 

『……おうっ!』

 

「では、今日ここに居合わせる事が出来た幸運を祝して、乾杯っ!」

 

『かんぱ~いっ!!』

 

 ヘリオドール聖の音頭により、そこかしこでグラスやジョッキがぶつかり合う軽快な音が鳴り響く。笑顔で酒や食事を口にする客達の姿を見て、彼自身も満足気に果実酒を飲み干した。そんな彼の部下達3人も、それぞれ米酒やウォッカ、ビールといった好みの酒を飲み進めていく。

 

「……ぷっはぁ! いや~、ヘリオドール聖から奢ってもらう酒は格別だねぇ!」

 

「カネリア、貴女は少々飲み過ぎですよ? それからヘリオドール聖。またこれほどの一般人に食事代を奢って、お金は大丈夫なんですか?」

 

「ああ。この酒場はそれなりに有名だが、比較的安価な品揃えだからな。それに、つい先日捕らえた海賊の懸賞金もまだ残っているし、問題無いさ」

 

「ほう。私はその場にいなかったのですが、強者でしたか?」

 

「いや、億越えもしてない雑魚だったな。あれならウチで1番弱いラリマでも余裕な相手だよ」

 

「なるほど。最近の海賊は、億越えでない輩では金額と強さが釣り合っていない事が多いですからね」

 

 世間話をしながら、楽しげに騒ぐ酒場の客達を眺めつつ酒を(あお)る4人。

 すると、ビールのジョッキを空にしたカネリアが、ふと思い出したかのように口を開いた。

 

「……そういえば、さっき面白い光景を見たよ。なんと、天竜人のチャルロス聖に斬りかかろうとした奴がいたんだ」

 

「チャルロス聖? ……ああ、確かロズワード聖の息子でしたか? あんな典型的な天竜人に斬りかかるなんて、何処の命知らずですか?」

 

「それがなんと! あの“麦わらの一味”の1人、“海賊狩り”のゾロだったんだ! 堂々と道の真ん中を歩きながら、呆気にとられてたチャルロス聖に何て言ったと思う? 『道でも聞きてェのか?』だってさ!」

 

「おお。随分と豪気な奴だな」

 

「それで怒ったチャルロス聖が発砲したんだけど、素人の弾が億越えの奴に当たる筈も無く、あっという間に距離を詰めた“海賊狩り”は刀を抜こうとした! ……だけどそこで他の海賊からの横槍が入って、チャルロス聖の命は助かったって訳だ」

 

「へぇ。その横槍を入れた海賊は?」

 

「手配書より見た目は若かったけど、多分“大食らい”の女だね。てか、今日は確か億越えが10人はいたと思うよ?」

 

「……億越えがそんなに集まってるのか。今日はシャボンディ諸島がかなり荒れるかもな」

 

 そんな会話をしながら、4人は一通り酒と食事を楽しんだ後、残りの客達に惜しまれながらも酒場を出ていった。

 勿論、代金は酒場にいた全員の分をその場で支払った。しかも、計算が面倒だからと札束を数本取り出して、それを酒場の店主に直接渡していくという、ある意味貴族らしい豪快な支払い方法である。

 

 

 

 それから暫くして、ヘリオドール聖達は“人間屋(ヒューマンショップ)”へとやって来ていた。

 海軍では立場上この場所を“職業安定所”と呼んでいるらしいが、その実体は奴隷を売り買いするオークション会場である。

 

「――これはこれはヘリオドール聖。ようこそお越し下さいました!」

 

「おう。言うまでも無く、この場は無礼講で良いからな。……因みに、今日は他に天竜人が来る予定はあるか?」

 

「は、はい。ロズワード聖とチャルロス聖、それからシャルリア宮の御一行様がお越しになる予定です」

 

「……あー、そうか。とりあえず、席は貴賓席じゃなくて左隅の席に行く。それから、今日はシャボンのマスクを持ってきてないから、もしあれば用意してくれないか?」

 

「はい! 直ちにご用意致します!」

 

 案内人が素早くマスクを用意しに行くと、その間にヘリオドール聖達は会場の左端最後列へと移動する。

 途中、稀有な視線を多数向けられる事があったが、当の本人は微塵も気にせずに席に着いた。

 

「……ヘリオドール聖。会場内を見渡してみたところ、億越えの海賊が3名もおりました」

 

「ああ、俺も気がついてたよ。“キャプテン”キッド、“殺戮武人”キラー、“死の外科医”ロー。この3人の懸賞金だけで、一般人なら一生不自由無く暮らしていけるな」

 

「まあ、賞金総額(トータルバウンティ)は昔のアタシより下だけどな!」

 

 そう誇らしげに言うカネリアは、以前は大監獄インペルダウンのLEVEL-6に収容されており、元懸賞金11億2千万ベリーという恐るべき大海賊であった。

 因みに、チハットは元海軍本部少将、アメージュは元CPー9という経歴である。

 

「だが、今は関係の無い事だ。何も問題が起きなければ、だけどな」

 

 その後、予定通りロズワード聖とシャルリア宮が到着し、先程の案内人によって貴賓席へと誘導された。どうやら息子のチャルロス聖は遅れてくるらしい。一瞬だけヘリオドール聖の方へと視線を向けてきたが、特に何かを言う事も無く、今は静かに席に着いている。

 

 それから間もなく、司会進行役のディスコという男の派手な演出により、本日のオークションが開催された。

 音楽家の海賊や人間の男の10人パック等、様々な奴隷達が競りの品として舞台に現れ、そして次々と買われていく。

 貴族達が(こぞ)って競り落としていく中、ヘリオドール聖はNo.10の料理人の男性と、No.15の踊り子の女性を高額で落札していた。

 

 そして、チャルロス聖が遅れて到着し、No.16の海賊船の船長が倒れるといった出来事があった後、予想外の奴隷の登場に会場中が沸き上がった。

 

『――多くは語りません。その目で見て頂きましょう!! 魚人島からやってきた!!! “人魚”のォ、ケイミー~~~~!!!』

 

「おや、人魚とは珍しいですね」

 

「ああ。大方、人拐い共に運悪く捕まったんだろう」

 

「では、購入されますか?」

 

「そうだな。それじゃ――」

 

「――5億ベリーィ~~~~~!!! 5億で買うえ~~!!!」

 

 ヘリオドール聖の言葉を遮るように響く声。

 彼がそちらへ視線を向けると、そこにはロズワード聖と話し合うチャルロス聖の姿があった。

 相手が5億という大金を提示しており、尚且つ天竜人の1人であるという事で、オークション会場は先程とは反対に静まりかえってしまっている。

 

「……ヘリオドール聖、どうしますか?」

 

「ふん、そりゃあ勿論決まっているだろ」

 

 おずおずと質問するチハットに対し、軽い言葉で返すヘリオドール聖。その返事によってこれからの展開を察した3人は、揃って諦めのため息を漏らした。

 

『えー、一応!! 5億以上!! ありますでしょうか!? なければ早くも打ち止めという事に――』

 

 

 

「――10億だ。俺は10億ベリー出す」

 

 

 

 ざわり、と会場がどよめいた。

 その提示された金額に加え、まさか天竜人を相手に競り合う者が出るなど、誰もが思ってもいなかったからだ。

 

「だ、誰だえ!? わちしの奴隷を奪おうとする輩は!!!」

 

「おう、俺だよ。というか、まだお前のじゃないだろう?」

 

「……っ!? へ、ヘリオドール聖!?」

 

 ヘリオドール聖がその場で立ち上がりながら名乗り出た事で、怒りを顕にしていたチャルロス聖が驚きの表情を浮かべる。どうやら入場したばかりで彼がいる事に気がついていなかったらしい。

 俺の登場に側にいたシャルリア宮は顔を青く染め、ロズワード聖は苛立たし気な様子でこちらを睨み付けている。

 

「な、何でおばえがここにいるえ? いや、そんな事よりもわちしの邪魔をするなえ!! その人魚の奴隷はわちしが買うんだえ!!!」

 

「いやいや、今は俺の入札額の方が上だから、その人魚は俺が引き取る事になるな」

 

「……ヘリオドール聖。何故今更人魚の奴隷なんぞを欲しがるんだえ?」

 

「そ、そうあます。貴方にあのような“魚”はいらない筈あます!」

 

「そんなのは貴方達には関係無い話だろう? 今大切な事は、その人魚を誰が競り落とすのかという事だけだ」

 

 そんな風に言い争う天竜人達に、会場内を不穏な空気が包み込む。

 だが、そんな空気は突如として破られた。

 

 何故なら――。

 

 

 

「――ぎゃああああ~~!!!」

 

 

 

 ――“麦わら”のルフィ以下複数の者達が、いきなり天井を突き破って姿を現したからである。

 

 

 

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