近頃話題となっている海賊“麦わら”のルフィ。
彼が会場内に現れて間もなく、その仲間と思わしき魚人を撃ったチャルロス聖が殴り飛ばされたのだ。
それからすぐにロズワード聖が“海軍大将”と“軍艦”を要請するも、“麦わら一味”の手によって即座に倒されてしまう。
ロズワード聖達の護衛や会場の兵士達が彼らに向けて殺到するが、“海賊狩り”や“黒足”が簡単に蹴散らし、それを見た参加者達が我先にとへ逃げ出していく。
先程まで賑わいを見せていた“
「ヘリオドール聖。今すぐここから出ましょう」
「どうやら外では、既に海軍による包囲網が展開されてますね。厄介事に巻き込まれる前に、さっさと逃げ出しませんか?」
「いやいや、暫くこのままでいようじゃないか。多分、もっと面白い事になるぞ?」
「そんな事を言っている場合では……」
「……ハハッ! ほーら、早速お出ましになったぞ?」
「……っ!? まさか!?」
ヘリオドール聖が指で示す方向。そこには、巨人族の男性と共に舞台裏から現れた、白髪の老人の姿があった。
そのすぐ側には、彼が10億ベリーもの値をつけた人魚の娘と、銃を片手に気を失っているシャルリア宮の姿もある。どうやら騒ぎの一因となった人魚を始末しようとしたらしい。
だが、今問題なのは老人の存在である。彼らの記憶が確かならば、彼はもはや伝説と言ってもいい程の大物なのだ。
「……“冥王”、シルバーズ・レイリー!?」
「嘘だろ? 何で伝説の海賊がこんな所にいるんだよ!」
「おい、驚くのは後だ。とりあえず気を張っておけ」
ヘリオドール聖が3人に注意を促した次の瞬間、レイリーを中心に空気が震え、会場内にいた兵士達が次々に倒れ伏していった。
今この場で意識があるのは、“麦わらの一味”と彼らの仲間らしき人魚や魚人達、それからまだ残っていたキッドやローといった海賊達、そしてヘリオドール聖とその部下達だけどなっている。
「流石は“冥王”。とんでもなく研ぎ澄まされた“覇気”だな」
「はい。私達3人が束になっても、勝てるかどうか分かりません」
「ああ。“ゴールド・ロジャーの片腕”という肩書きも伊達ではないな」
そんな話をしている内に、いつの間にかレイリー、キッド、ロー、“麦わらの一味”が彼らへと視線を向けていた。この騒ぎの元凶である“麦わら”のルフィも、いぶかしむような様子で見つめている。
……約2名程、女性であるカネリアに対して怪しい視線を向けているようだが、気にしてはいけないだろう。
「……君は、確か“天竜の異端児”という呼び名で有名なヘリオドール聖だったかな?」
「ああ、そうだ。それが何か?」
「ヘリオドール聖!? まさか、あの“九頭竜”の?」
彼の名前を聞いて、いち早く反応を見せたのは“麦わらの一味”の1人、“悪魔の子”ニコ・ロビンであった。
そんな彼女の反応に、彼を知らないらしいゾロやウソップといった者達が声を掛ける。
「何だ? ロビンはアイツの事知ってんのか?」
「そんなに有名な奴なのか?」
「彼も、さっきの人達と同じ天竜人よ。しかも、かなりの強者だわ」
「そ、それってどのくらいの強さなの?」
そんなロビンの言葉に、“泥棒猫”のナミが恐る恐るといった様子で尋ねる。他の者達も、彼女に耳を傾けて反応を待っているようだ。
「……おそらく彼1人なら、“海軍大将”に並ぶ程の実力ね」
「……ええええ~~~~!!!」
「あ、あ、あの、青雉と並ぶ強さ!?」
「しかも、彼が束ねる“九頭竜”という集団においては、“王下七武海”や“四皇”にすらも匹敵すると言われている程よ」
「はあああ~~!?」
「あ、あの美しいお姉さん方も強いんですか、ロビンちゃん?」
「ええ。“紅顔”のチハット、“崩撃”のアメージュ、“鶴嘴”のカネリア。3人共かなりの実力を持つ“九頭竜”の一員よ」
言葉が重ねられるにつれて、段々と顔色を変えていく“麦わらの一味”。知らなかったとはいえ、目の前の人物達が如何に危険なのかを把握したのだろう。
「さて、モンキー・D・ルフィ。先程は見事な殴りっぷりだったな?」
「なんだ? 文句でもあんのか?」
「いいや。俺もロズワード一家のような性格の天竜人達は日頃から気にくわなかった。正直見ていて逆にスカッとしたよ」
「そっか。お前天竜人なのにいいやつみたいだな」
「ハハッ、海賊に誉められても嬉しくはねぇさ――」
『――犯人は速やかに、ロズワード一家を解放しなさい!! どうなっても知らんぞ!!! ルーキー共!!』
今話題となっている海賊と親しげに話すヘリオドール聖。
しかしそんな会話は、外から聞こえてくる海軍の投降勧告によって中断されてしまう。
“麦わらの一味”とレイリーは素早く人魚も含めた奴隷達を解放し、その後それぞれの海賊の船長であるルフィ、ロー、キッドの3人は会場の外へと向かっていった。
「さて、俺は一応天竜人だからな。そこで倒れてるロズワード一家を遺憾ながら放置できないんだ。故に、この場においては見逃してやってもいいぞ?」
「えっ、ほ、本当に!?」
「う、嘘じゃねぇよな? 俺達が背中を見せた瞬間、背後から襲いかかってくるんじゃ……」
ヘリオドール聖の言葉を聞いて、半信半疑ながらも期待を見せるナミとウソップ。
そんな彼らの様子を見た彼は、苦笑しながらも肩をすくめながら両手を上げた。
「そんなつまらん事しねぇよ。ほら、さっさと行け。直に裏口から海軍が雪崩れ込んでくるぞ?」
漸く彼の言葉を信じたのか、残りの者達は会場から速やかに出ていった。
まだ残っているのは、ヘリオドール聖一行と気絶しているロズワード一家と護衛の兵士数名。
それと、ついさっき首輪から解放された元奴隷の者達である。
「……さて、と。元奴隷の諸君。君達はもう自由だ。何処へなりとも行くがいい」
「お、おおっ!」
「本当に、本当に自由になれたぁ!!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!!」
天竜人であるヘリオドール聖から告げられた言葉により、いまだに怯えていた奴隷達は喜びの声をあげながら会場から出ようと動き出した。
そんな彼らに笑顔を見せながら、彼はその場に立ち上がり――。
「――ただし元海賊共、てめぇらは駄目だ」
――目にも止まらぬ速度で腰のサーベルを振るい、海賊であった者達のみを刹那に斬り伏せてしまう。
一瞬にして行われた惨状に、他の元奴隷達は喜びの表情から一転、驚愕と恐怖により顔を青ざめさせていた。
「な、なんでだ!? 麦わらの仲間達は見逃してくれただろう!!」
元奴隷の中で唯1人巨人族である男があげた戸惑いの声に、ヘリオドール聖は恐ろしい程の笑顔を浮かべながら口を開く。
「億越えとその仲間達が相手だとロズワード一家が邪魔になる。それに比べ、ここに残った奴らなら万が一にも障害になる事はないからな」
「そ、そんな……」
「ああそれから、女達は俺が面倒を見よう。男達は巨人の君に任せるよ」
「それは、どうしてだ?」
「男ならこの混乱に乗じて逃げ切れるだろうが、女の身ではそうもいかないからな。……安心しろ。俺の家で働くなら厚待遇で迎え入れる事を約束しよう」
「……分かった。女達はあんたに任せる」
巨人の男は不安そうにしながらも、残った男達を引き連れて会場から出ていった。女達はまだ怯えたままではあるが、とりあえずは身の安全を約束したヘリオドール聖を信じてみるらしい。
「……随分と予想外な事が起こりましたが、これからどうしますか?」
「結果的にタダで働き手が増えたからな。もうここには用は無いから、マリージョアへと帰るとしよう。カネリアはこの海賊共を海軍に引き渡してくれ」
「了解でーす」
「それじゃあチハット、アメージュ、それから元奴隷の新人諸君。我が家に帰るぞ!」
――その後、ヘリオドール聖一行は無事にマリージョアへと帰還した。
だが、彼らの帰りを待っていたのは執事や侍女達ではなく、海賊である“火拳”のエースの公開処刑に伴い、“九頭竜”全員への協力要請を知らせに来た海軍本部の者達であった。