仮題 天下御免の天竜人   作:グラサン髭坊主

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3話 海軍本部要請にて

 

 

 

「――断る」

 

 ヘリオドール聖の帰宅を待っていた海軍からの要請に対し、本人の告げた返事はそんな短い一言だった。

 

「な、何故ですか!? “海軍本部”の総力と“王下七武海”、そこにヘリオドール聖が率いる“九頭竜”の力が加われば、かの“白ひげ海賊団”を圧倒する事も……」

 

「“火拳”のエースを処刑にすれば、白ひげのおっさんが動く事は明白だったろ。面倒事には極力首を突っ込みたくないんでな」

 

「そ、そんな……」

 

 あまりにも無情な言葉に要請を伝達しにきた海軍本部の将校が説得を試みるも、彼の態度に変化は見られずうなだれてしまう。

 

「――見返りは、当然あるのでしょう?」

 

「……えっ?」

 

 そんな将校の姿を見て、ヘリオドール聖の後ろに控えていたチハットが口を開いた。

 元海軍本部中将であった彼としては、目の前の海兵に対して不憫に思う所があるのだろう。

 

「ヘリオドール聖が無償で動く事はまずありません。そもそも、何かしら依頼を提示するのであれば、それ相応の対価を用意するのは当たり前の事では?」

 

「わ、私の一存では決められませんが、そちらの要望には可能な限り応えるよう上に掛け合います!」

 

「そうですか。……ヘリオドール聖、ここは海軍に恩を作っておいても良いかと思われますが?」

 

「……くくっ。チハットの気持ちも分からない訳ではないからな。よし、少し待ってろ」

 

 そう言ってヘリオドール聖は懐から電伝虫を取り出し、受話器を片手に何処かへと連絡をとり始めた。

 

「あー、もしもし。久しく会ってないが、そっちはどうだ?」

 

『……唐突にどうした? こっちは今かなり忙しいんだが』

 

「それなら勿論知ってる。その件、こっちの要望を聞いてくれるんなら協力してもいいぞ?」

 

『……要望を言ってみろ。話はそれからだ』

 

「俺の願いを5つ、それも事後承諾有りで叶えてくれ。それで手を打とう」

 

『ふざけるな。そんな勝手な要望を叶えられるとでも?』

 

「それなら3つでいいさ。因みに、これ以外の条件は一切認めないからな」

 

『……待て、流石に儂1人では決められん』

 

「いやいや、アンタならそのくらいの権力がある筈だろ。今この場で決めてくれ」

 

『…………………………分かった。その条件で呑もう』

 

「了解。それじゃあ仕事頑張れよ」

 

『ふん、悪ガキめ。精々励む事だな』

 

 僅か数十秒の会話が終わり、ヘリオドール聖は将校の方に顔を向ける。その表情は当初の不満気なものではなく、まるで悪戯が成功した子供のような笑顔であった。

 

「という訳で、今回の話は受ける事になった。良かったな」

 

「……あの、今会話をしていた相手は一体誰ですか?」

 

「ん? コング総帥だが?」

 

「「「…………はぁ~~~っ!?」」」

 

 彼の予想外の返答に、将校だけでなくチハットとアメージュも驚愕の声を上げる。

 それもその筈。コング総帥とは世界政府全軍の総帥。つまりは海軍本部だけでなくエニエスロビー等を総括する立場であり、この世界ではかの“五老星”に次ぐ権力をもつ人間なのだ。

 そんな人物を相手に交渉していたとあれば、彼女達が驚く事も無理はないだろう。

 

「それじゃあ早速だが、チハットは他の“九頭竜”を呼び集めてくれ。集合場所はここマリージョア。大至急だ」

 

「は、はい。分かりました」

 

「アメージュは俺達の船の出航準備だ。皆が集まり次第マリージョアを出発するからな」

 

「り、了解です」

 

 まだ驚愕から覚めやらぬ2人に対して、ヘリオドール聖が矢継ぎ早に指示を出す。そんな彼の言葉に2人はやや動揺しながらも、その指示に従いすぐに行動を開始した。

 

「あ、あの、ヘリオドール聖。もしや今すぐマリンフォードへと向かわれるのですか?」

 

「いや、そうじゃない。とりあえずは1つ目の願いを実行するから、すまないが君にはある場所へと連絡を頼みたい」

 

「は、はい、分かりました! ……それで、一体どちらへ?」

 

 突然の事に戸惑いつつも、彼の要望に応えるべく連絡先を確認する海軍将校。

 そんな彼の質問に、ヘリオドール聖は先程のような笑顔で口を開いた。

 

「“火拳”のエースが捕らえられている海底の大監獄、インペルダウンに訪問したい。今すぐ所長のマゼランに話を通してくれ」

 

 

 

 

 

 それから3日後。

 ヘリオドール聖は凪の帯(カームベルト)の洋上にいた。

 インペルダウンへと向かう為、彼自らが設計し、造船技術で名高いウォーターセブンで建造させた、“九頭竜”専用の蒸気機関搭載の外輪付き巨大ガレオン船、『ハイドラ号』にて航行している真っ最中である。

 

「いやー、相変わらず速いなこの船は。インペルダウンまであとどのくらいだ?」

 

「この速度だと、何も問題が無ければあと少しで到着しますかね。風が無い海でこんな速力を出せるなんて、世界のどの海を探してもこの『ハイドラ号』くらいですよ」

 

「そうか。……だが、どうやらその問題が起きたようだぞ?」

 

「え、……あーりゃりゃ。本当だ」

 

 そんな会話をヘリオドール聖とカネリアがしていると、彼らの進路の先に巨大な生物達が突如として現れた。どうやらこの凪の帯(カームベルト)を巣窟にしている大型海王類の群れでのようある。

 この船には100名以上の乗組員がいるが、そのほとんどが料理人や給侍、航海技師に作業員といった非戦闘員であり、十分な戦闘能力を有しているのは彼らを含めて9人しか乗船していない。

 

「カネリア、他の奴らはどうしてる?」

 

「それぞれの船の何処かにはいると思うけど、多分勝手に来ると思うよ? あんなでっかい気配なら、皆見聞色の覇気で気がつくだろうし」

 

「なら、先陣はお前に任せる。叩きのめせ」

 

「りょーかーい!!」

 

 そう快活に返事をするやいなや、カネリアは背負っていた巨大な|鶴嘴を片手に握り、素早く船首へと駆け寄っていく。

 そうして彼女は手にしたそれを大きく腰だめに構えると、そのまま豪快に船の前方へと振り上げた。

 

「――“海割り”ぃっ!!」

 

 瞬間、眼前の海が勢いよく割れ、その延長線上にいた数匹の海王類が吹き飛ばされてしまう。

 カネリアは『サクサクの実』という悪魔の実の能力者で、あらゆる物を掘り、削り、穴を穿つ事が出来るのだ。

 そんな彼女の攻撃によりいきなり仲間が倒された海王類達は、逆上して次々に船へと襲いかかってくる。しかも中央にいた海王類がいなくなった事で、群れはそのまま左右に別れてそれぞれの方向から迫ってきている。

 

「あら、逆効果だったかなぁ? ヘリオドール聖、反対側をお任せしてもいいですか?」

 

「――その必要はありません」

 

「――そうだな。問題ない」

 

 先頭にいた海王類2匹が船に襲いかかる寸前、チハットとアメージュが船内から現れた。

 そのまま2人は刀と拳をそれぞれ構え、迫り来る海王類へと対峙する。

 

「“紅飛燕(べにひえん)”!」

 

「“六王銃(ろくおうがん)”!」

 

 2人の剣技と体術が炸裂し、片方の海王類は太い首を一撃で斬り飛ばされ、もう片方もかなりの衝撃を受けて頸椎を砕かれ2匹共絶命する。

 だが海王類達の猛攻は止まらず、2匹の死体を押し退けて船へと群がり始めた。

 それに加え、何匹かは海中へと潜り込んだので、船の下から攻撃してくる事が窺える。

 

「これまた面倒ですね。どうします? 適当に海に穴でも開けますか?」

 

「いや、問題無いだろ。なんせ海中に関してなら――」

 

 カネリアが海中に向けて鶴嘴を向けるも、ヘリオドール聖がそれを言葉で制する。

 すると次の瞬間には海中から水柱が幾つも上がり、先程潜ったばかりの海王類達が瀕死の状態で海面に打ち上げられたのだった。

 

「――コラル以上の守りはいないからな」

 

「あー、確かにそうですね」

 

 そんな2人の視線の先には、打ち上げられた海王類の上に立つ1人の女性がいた。

 腰の位置まで伸びる灰色の長髪を三つ編みしたその女性は、コキコキと首を鳴らしながら周囲の海王類達を煩わしそうに見つめている。

 

「なんじゃ、つまらん。寝起きの運動にはちと足らんかもしれんのう」

 

「おーい、ロイル。そのまま海中は任せても構わないか?」

 

「心配無用じゃ。この程度の海王類なんぞ、あと倍の数はいても余裕じゃよ」

 

 コラルと呼ばれた女性はそう言って再び海中に潜ると、更に水柱を上げながら海王類達を無力化していく。

 彼女は“堅流”のコラルとも称されるヨロイザメの人魚であり、年齢によって足を得た事で人魚柔術と魚人空手の両方を扱えるようになった、魚人島でもトップクラスの武術家である。

 

「いやー、相変わらず凄まじいですねぇ」

 

「かの王下七武海の1人、“海侠”のジンベイに並ぶとも言われたんだ。あれぐらいどうって事ないだろ」

 

 そんな風に会話をしている間にも、チハットとアメージュ、コラルの3人は競い合うかのように海王類達を倒しており、数十匹はいた群れはたった数分で片手で数える程にまで数を減らしていた。

 

「あーあ、こりゃあ他の“九頭竜”の出番は無いですね。私達も高見の見物としましょうか?」

 

「……そうでもなさそうだ。見ろ。大物が来たぞ」

 

 最後の1匹が倒されたと思ったその時、海中から突如として大型の海王類が姿を現した。どうやら今まで相手にしていた群れの長であるらしく、その瞳は燃え盛るような憤怒の色を宿している。

 

「海王類もいい面構えを見せるな」

 

「ですね。私が相手をしてきましょうか?」

 

「いいや、俺が行こう。あれは倒し応えがありそうだ」

 

 ヘリオドール聖はそう言って船首から駆け出していき、そのまま()()()()()()()()大型の海王類へと接近する。

 それに気がついた海王類が巨大な顎を開いて彼を噛み砕こうとするが、それよりも速くヘリオドール聖が先手を繰り出した。

 

 

 

「――“覇者の足跡(ロード・ロード)”」

 

 

 

 ヘリオドール聖が海王類の鼻の先端を踏みしめた瞬間、見えない巨大な何かが海王類を押し潰してしまった。

 たった一歩。それだけで海王類との戦いは終了したのである。

 

「さっすが、ヘリオドール聖。反則じみた能力(ちから)ですねぇ」

 

「ええ。覚醒した“悪魔の実”の力とは、本当に恐ろしいものです」

 

「それに加え、剣術、六式、覇気についても一流なのだ。あの方に匹敵する存在など、そうはいないだろう」

 

「ふむ。ワシもあれ程に強い人間なんぞ、見た事が無いわ」

 

 無事に全ての海王類を倒したところで、それぞれ戦っていた3人がカネリアのいる場所へと戻ってきた。

 全員が殆ど息切れしていない状態であり、その全身には海王類の返り血が所々に付着している。

 

「おー、お帰り。皆どのくらい倒したんだ?」

 

「私は8匹ですね」

 

「7匹だな」

 

「ワシは10匹くらいかの」

 

「ありゃ、ウチは3匹ぐらいだったから、この中じゃ一番少ないじゃん」

 

「いや、俺が最下位だな。なんせ最後の1匹だけなんだから」

 

 戦果報告をし合うカネリア達の下へ、苦笑いを浮かべたヘリオドール聖が悠々と歩きながらやってきた。

 

「んじゃ、最下位だった俺は働いた皆に酒でも奢ろうかな?」

 

「マジっすか!? 流石はヘリオドール聖、男前ー!!」

 

「……いいえ、ヘリオドール聖。最下位なのは0匹だった他の“九頭竜”達です」

 

「そうじゃの。酒を奢るべきは働かなかった奴らじゃ」

 

「ああ、賛成だな」

 

「そうか? それじゃ今回は――」

 

 

 

「――ええーっ!? 折角出てきたのにそれは無いっての!!」

 

「て、撤回を要求する、です」

 

 

 

 そんな彼らに慌ただしく駆け寄るのは、長身で黒い弁髪姿の男性と小柄で丸眼鏡をかけた男性だった。

 たった今船室から全力で走ってきたのか、2人共息が切れており汗もかいている。

 

「遅いぞ、ベリルにラリマ。何やってたんだ?」

 

「オレはどちらかと言えば頭脳担当なんだぞ? お前らみたいに素早く移動なんて無理だっての!」」

 

 弁髪の男性は“指弾”のベリル。

 ヘリオドール聖達に捕らえられ、その後仲間となったカネリアと同じ元海賊。

 

「自分も同じ、です。医療担当者にはこの広い船内の移動はかなりきつい、です」

 

 丸眼鏡の男性は“微軍”のコラル。

 キュウチと共に勧誘された、元海軍所属の医師にして海軍本部中佐。

 

 2人の実力はキュウチ達に比べれば低いものの、それぞれ強力な戦闘力を有した“九頭竜”の一員である。

 

「そういえば、コハクとギベオンはどうした?」

 

「ギベオンの奴は寝てたよ。アイツは1度寝たらそう簡単には起きないから、今回はしょうがないさ」

 

「コハクの姿は見てません。調理場か何処かにいるのでは――」

 

「――(いな)。ずっとここにいた。海王類も4匹討伐済み(なり)

 

「っと、ビックリした。相変わらずだなコハク」

 

 会話をしていたヘリオドール聖の背後に突如現れたのは、給侍服を身に着けた深い藍色の髪と瞳の女性、コハクだった。

 彼女も“九頭竜”の1人であり、“静刃”と呼ばれ恐れられた元賞金稼ぎである。

 

「なんじゃ、時折勝手に海王類が倒れていたのはお主の仕業じゃったのか」

 

「『コソコソの実』の能力、何故解除しなかったのですか?」

 

「影から支援。(それがし)のモットー(なり)

 

 コハクは己の気配を完全に隠匿する事が可能な、『コソコソの実』の隠密人間である。

 そんな彼女の性格は内向的なもので、戦闘には参加しても姿を現さない事がとても多いのだ。

 

 因みに、今この場にいないギベオンは巨人族の男性で、このガレオン船の最下層、船倉の全てを1つの部屋としている程の巨体を有している。

 性格は真面目で実力も高いのだが、眠ってしまうと最低でも半日は起きない為、突発的な戦闘には殆ど参戦する事が無い。

 

「……まあ、とりあえず酒の件は後にしようか。どうやら目的地に到着したようだ」

 

 そんな彼らの進む船の前方に、遠くから目視出来る程に巨大な建造物が見え始めた。

 

 世界中の凶悪犯が捕らえられ、周りを大海原と海王類に囲まれた名だたる大監獄。

 今回の騒動の中心人物、“火拳”のエースが収監されている目的の場所、インペルダウンである。

 

 

 

 

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