円卓の料理人【本編完結】   作:サイキライカ

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寝る間も惜しんで全速力で仕上げますた。


true END

 彼の聖人は宣う。

 人はパンのみに生きるに非ず。

 だが俺は言おう。

 なにより人が先ず満たさねばならないのは腹なのだと。

 

「ランスロット貴様!?」

「待てアグラヴェイン。私の分をやるから落ち着け」

「野菜と肉では等価にならないと思いますよガウェイン?」

「ああ、なんと浅ましい。

 私は悲しい」

「と言いつつその手の肉は手放さないのだなトリスタン」

「肉肉肉肉肉肉!!」

「野菜も食べなさいモードレッド」

 

 ここはアーサー王のお膝元キャメロット城の中庭。

 何が起きているかというと、バーベキューなうである。

 というのも食糧庫に寝かせていた幾つかの肉が限界を迎えそうになったところでギャラハッドが短命を克服したモードレッドと共に聖杯探索より無事帰還。

 その祝いの席にと在庫整理も兼ねアルちゃんに提案するとアーサー王から快諾を頂きこう相成ったのである。

 全員揃ってとはいかないものの、世界円卓の騎士の半数が思い思いにバーベキューに興じる姿は中々壮観である。

 因みに了承したアーサー王当人は執務につき外出してしまっている。

 もうすぐ死ぬらしいからこの機会に素顔を見てみたかったのだがまあ仕方ない。

 

「料理長、この鹿肉のベーコン巻きというのはもう食べ頃ではないかと」

 

 鉄板にかじりつくように肉が焼けるのを眺めていたアルちゃんの言葉に俺は具合を確かめる。

 タイム、セージなど複数のハーブと赤ワインで漬け込んだ鹿肉は濃厚な肉の香りを発てていた。

 

「ふむ。確かにもう良いだろうな」

 

 もう少し焦げ目が付くまで待った方が個人的には好きなのだが、食べるにはもう十二分に焼けているので待ちきれなさそうなアルちゃんのために皿に移してやる。

 

「熱いから気を付けて…って」

 

 忠告の間もなくアルちゃんは鹿肉を食べきっていた。

 

「作法もない野外でというのも粗雑ながらこれはこれで良いものですね」

 

 そう笑うアルちゃんだけどさ、所作こそ丁寧ながら皿に乗せた鹿肉は300グラムはあったはずなんだよ?

 それをどうやったら数秒で食べきれるのかおじさんには解らないんだ。

 内心この娘の将来の婿に黙祷を捧げつつおかわりを乗せていると他の連中の雑談が耳に届く。

 

「いくら陛下がお許しになったとはいえ勝手に聖杯を使ったことは申し開きも叶わんぞモードレッド」

「うっせえなぁ。

 そうでもしないとギャラハッドが死んでたんだからしょうがねえじゃねえか」

「しかしだな」

「どうせ使わなくてもギャラハッドが自分を使って聖杯消そうとしてたんだしいいじゃねえか」

「別に私はそれでも」

「へぇ、今際の際で『約束は叶いそうにありません料理長』とか言って泣いてたのは何処のどいつだったかな?」

「それは言わない約束だったはずですモードレッド!?」

「何!? お父さんは同性なんて認めないぞ!?」

「脳味噌腐ってんのかクソオヤジ」

「これがアーサー王の後継者候補夫妻だと思うと胃が…」

「後で料理長直伝の薬草入りオートミール用意しますねベディヴィエール」

「頼むガレ…ボーマン」

 

 本当にこいつら全員騎士の中の騎士なのか疑うような光景を繰り広げる連中に何をやっているんだかと思いふとアルちゃんを見ると、アルちゃんはそんなばか騒ぎをまるで尊いものを見るように眺めていた。

 

「どうした?」

「いえ。

 きっと、アーサー王はこんな光景が見たくて円卓を作ったのだろうと思いました」

「……そうだな」

 

 上下の区分なく対等な関係を望み作られた円卓。

 確かにここにそれはあった。

 さてと。

 

「次、もうすぐ焼けるぞ」

 

 そう宣うと同時に全員が俺の前の鉄板に集中する。

 

「一番槍は貰った!!」

「やらせん!!」

 

 中でも真っ先にフォークを伸ばすモードレッドにランスロットがフォークを繰り出し弾く。

 

「テメエッ!?」

 

 歯軋りするモードレッドに勝ち誇るランスロット。

 その手に焼けたばかりの肉と冷えたエールがなければ絵になったろうに。

 野暮な事を考えつつ俺は拐いきられ何もなくなった鉄板に次の肉を敷くのであった。

 

 そんな賑やかな光景をマーリンは楽しそうに窓から眺めていた。

 

「フォウ」

「一冊丸々書くなんて久しぶりだったからね。

 行くにしてももう少し後かな」

 

 キャスパリーグの鳴き声にそう答え目元に薄く隈を浮かべたマーリンは少し前に書き上げた書物を眺めた後欠伸を掻きながらごちる。

 

「しかし参ったね。

 料理長の死後を座に登録させる事でその死を引き伸ばすのには成功したけど、まさか僕まで座に乗せようとするとは。

 お陰で簡単に死ねなくなっちゃったじゃないか」

「キュゥ」

 

 ザマァと言うように鳴くキャスパリーグ。

 

「君、本当にいい性格してるよね」

「フォウ」

「そっちは封じてるはずなんだけどなぁ?」

「フォウ、フォウフォーウ」

「ん?

 アルトリアと料理長?

 無い無い」

 

 マーリンは苦笑する。

 

「アルトリアの慕情はモードレッドと同じ父親を慕う感情からで、料理長もアルトリアを娘としか見ていない以上その先に進むことはないよ」

 

 下ではどうやら誰かが迂闊な台詞を吐いたらしく料理長の見えないところでアルトリアによる制裁が行われていた。

 

「ん、やっぱり良いな」

 

 マーリンの好きな綺麗なものとは言いがたいが、しかしマーリンから見てもとても好ましいものがそこにはあった。

 あの光景はマーリンにとって抑止を欺き人理を50年遅らせただけの価値は確かにあった。

 

「ついでにおいしいものも食べられるしね」

 

 半分が夢魔とはいえマーリンもやはり人間。

 餌よりも料理が食べたいと思うのだ。

 

「さてと、そろそろ行かないと食べ損ねそうだ」

「フォーウ!」

 

 そう言って一人と一匹はあの賑かな輪の中へと少しだけ歩み寄るため部屋を出た。

 そして、主が去りただ一つ部屋に残された一冊の本にはこう書かれていた。

 

『円卓の料理人』




これにて料理長の物語は終わります。

マーリンが何をやったかと説明すると、世界そのものを外史として切り離し編纂することで料理長が存在する平行世界を作り出したという、一歩間違えれば人理崩壊も起こり得る綱渡りをやらかしました。

しかも善意で。

お陰で料理長は知らない内に死後を売り飛ばされたとか後で大騒ぎになるだろうけど、アルちゃんのためだから是非もないよね!


この後は後日談というか、皆様が期待されているようなのてFGOに鯖として呼ばれたらなんて小咄を幾つか投下させていただきます。

ブリテンのその後についてもそちらでちらほら語ろうかと思います。

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