「私の料理長から離れなさいガレス」
「貴女のではありません。私のです」
「戯れ事はそこまでにしておけ二人共。
その人は私の料理長だ」
……なんだこれ?
俺を中心にヒロインXを自称していたアルちゃんとボーマンと第6特異点で獅子王と名乗っていたアルちゃんが殺気だって俺の所有権を巡ってるってどう言うことなの?
助けを乞おうにも、
「どうしましょうシロウ。
自分の同一存在がこんなに沢山」
「気をしっかり持てアルトリア。
まだ弓兵と狂戦士と魔術師と裁定者と復讐者が残ってる。
流れからしてきっと来る。だからまだ倒れるには早い」
「絶望しかないんですねわかります」
あの二人ほど酷くはないがおおよそ助けようという動きはない。
しかしさ、
「彼は私の料理長です。
座に居るガレスなら百歩譲ることも一考しますが平行世界の貴女は認めません」
「身バレ恐くて生きたままアヴァロンに引きこもったならそのまま大人しくしてて下さい。
復讐者舐めないでくださいアルトリア。
モードレッド以上の反逆見せますよ?」
さっきから爆弾発言が続きすぎておじさん理解が追い付かないんだよ。
もしかしてモテ期?
死んで千五百年経ってから来てもどうしろと?
なにより、こんな血生臭いモテ期はあんまり嬉しくないんだがな……。
料理に逃げたいけど、第6特異点でロンの槍に刺された傷が霊基にまで届いたせいで完治まで厨房に立たせてもらえないし逃げようがないのがもうね。
なお、流石にあんなことがあればアルちゃんがアーサー王だと理解したけど、ダブルで本人が真顔でアルちゃん呼びを要求してきたから呼び方は変わらなかったりする。
そろそろぶっ殺すと言い出しそうな雰囲気の二人にアルちゃん(獅子)が更なる燃料を投下した。
「ふん。
その貧相な胸で料理長を満足させられるとでも?」
空気が凍る音がした。
瞳孔が開いた二人を勝ち誇るように俾睨しながらアルちゃん(獅子)は豊かに育った双丘を俺に押し付ける。
「貴様……」
「料理長は胸が豊かな女性が好みなのだ」
知らなかったのか? と煽るアルちゃん(獅子)にアルちゃんとガレスが涙目で俺にすがりつく。
「嘘ですよね料理長!?
あんな脂肪の塊が好きだなんてそんな!?」
「考え直してください料理長。
巨乳なんて年をとったら萎んで垂れるだけなんですよ!?
そんなものは女の価値じゃないんです」
そんな絶望顔で詰め寄られたら恐いんだけど。
背中に感じる柔らかい感触を考えないようにしつつ俺は訂正する。
「いや、別に胸の有り無しで女性を好き嫌いとは……」
「評価価値に加算しないと?」
「……」
耳を擽るアルちゃん(獅子)の声に俺は沈黙しか返せません。
俺も健康な男だからね、どこぞの変態と違って口には出さないけど否定は出来ない。
「そこに直れ私ぃ!!
その駄肉を削り取ってやる!!??」
本音を隠しきれなかったためにアルちゃんがガチ泣きしながらついに抜剣してしまった。
「やっぱり初めからこうしとけばよかったんですよ!
王だろうと料理長に近付く輩は悉く切り捨ててやる!」
こうなれば最早自重はしないとばかりに生き生きとした顔でボーマンも剣を抜く。
「ふっ、浅ましい連中だ。
夫を守るのも妻の役目。
料理長に集る蝿は早贄にしてくれるわ!!」
どこから取り出したのかつっこみたくなる勢いでロンの槍を振り構えるアルちゃん(獅子)。
……ちょっと待て君達?
気に食わないから喧嘩するのは仕方ないとしても、主武器をしかも
「これ以上やるならもう飯は作らん」
「「「ごめんなさい!!」」」
最終忠告に対し三人は一瞬で武器を消して俺に頭を下げた。
「まったく、こんな女性と付き合ったこともない男のどこがいいんだか?」
慕われているのは嬉しいとは思うが好意の元が思い付かない。
「「「…………」」」
気が付くと何故か三人は固まっていた。
「……どうしたんだ?」
急な変化に戸惑っていると三人は徐に俺から離れ円陣を組み出した。
そしてなにやら小声で話し合っていたかと思うと、突如さっきまでとは比較にならない殺意の塊と化して三人は飛び出していった。
「いったい何が……?」
誰か訳が分かるものと見回すも最初の抜剣が起きた時点で全員逃げ出したため食堂には俺一人しかいない。
「大丈夫か料理長?」
エミヤかクー・フーリン辺りなら分かるかもしれないと探しに行こうとしたところでタイミングよくモードレッドが食堂に現れる。
「大丈夫というか、なんでか三人共殺気立って出ていったんだが理由がわからなくてな」
「何か言ったのか?」
「ここでやるなら飯はもう作らないってのと、後は俺に女性との交際経験がないってのぐらいなんだが」
「あ~……」
思い当たる何かがあったらしくモードレッドはしょうがないなと言いたそうに頭を掻く。
「あれだ料理長。
強く生きてくれ」
「意味がわからん」
「すぐに分かるよ」
そう言うとモードレッドは頑張ってくれよと言い残してその場を後にした。
その後すぐ俺は、肉食獣と化した三人に食堂以外で襲われるようになりその意味を嫌というほど理解する羽目になるのだった。
唐突に思われるかもしれませんが、これにて終いとさせていただきます。
オルタ対料理長とか第6特異点で何かあったのかとか書き残しはありますが、対決はコメディ100%なのでまだしも特異点は重いシリアスに傾倒するため別に切り離すべきと判断した結果になります。
拙いながら日刊のランキング1位にさせていただいたりと多くの評価を頂きもっと続けるべきかとも思いましたが、終るときはすっぱり終わらせるべきと思い直し筆を置かせていただきます。
ありがとうございました。