円卓の料理人【本編完結】   作:サイキライカ

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 話がうまく進まずさんざん難儀していたある日、愉悦な知人がこう言った。

「逆に考えるんだ。
 イリヤを出さなくてもいいんだって」

 珍しく知人がまともな発言をしたと感心した直後、

「爆死したらエミヤが愉悦出来るからな」

 やはりこいつは最低だと思った。

 後、少し前に活動報告に料理長の逸話を一つ載せています。


料理長とクロエとアルちゃん

 恥多き人生を歩んで参りました。

 理想のためと多くを犠牲にし、幾度と家族を泣かせ、もはやその顔も思い出せぬほど擦りきれた私ですので、この末路は当然の報いと思います。

 ですから、

 

「爆死してイリヤが来なかったから座に帰ります」

「そんな理由で私を置いて逝かないで下さいシロウ!!??」

 

 いっそあったほうが精神安定剤になるんじゃないかと挙がった頭のおかしい意見により作られた絞首台に登ろうとするエミヤを足にすがりついて引き留めるアルトリア。

 普段は逆だが、もはや見慣れた光景となりつつあるのがこのカルデアであった。

 余談だが絞首台を一番使っているのはアルトリアではなく(デオン並びにアストルフォ含む)女性サーヴァントに過度のセクハラを行ったとしてルーラーにより有罪判決を食らった黒髭だったりする。

 

 閑話休題

 

 そんな茶番を尻目に新たなカルデアの仲間が歓迎を受けていた。

 

「久し振りモードレッド!!」

 

 そう水着の谷間へとダイブしたのは水着のように露出度の高い衣服に赤い外套を纏った褐色の少女。

 

「イリヤか?

 随分雰囲気変わっちまったな」

 

 抱き止めたモードレッドは嬉しそうに胸に頬擦りするイリヤのピンク掛かった白く長い髪を鋤いてその再会を喜ぶ。

 

「色々あってイリヤと分離したの。

 あ、ちなみに私の事はクロエって呼んでね」

「分かった。

 宜しくなクロエ」

 

 深い事情はいずれ聞けばいいとそう改めて名を呼べばクロエはまるで母に甘えるようにモードレッドに頬擦りする。

 

「ん~。

 ママも良いけどモードレッドのこの柔らかさも堪んないわ」

「こらこら。

 そいつはリチャードのだ」

 

 胸を揉もうと企んだクロエをそう嗜め引き剥がすとポンポンと頭を叩く。

 

「むぅ。じゃあギャラハッドもダメ?」

「駄目だ。 ……たまにだけど」

 

 そっぽ向いて照れるモードレッド。

 遠目にやり取りを聞いていたらしく血を吐いて倒れるモードレッド(剣)は見なかったことにしておく。

 

「完成したぞ」

 

 と、そんなやり取りの中にブッシュド・ノエルを手にした料理長が現れる。

 

「少し季節外れだがこんなもんでどうだ?」

 

 クロエからの注文は大人っぽいスイーツとの事だったのでガトーショコラとどっちにするかと迷い材料との兼ね合いからこちらにした。

 

「ええ。

 文句はないわ」

 

 精巧なブッシュド・ノエルに乗ったデフォルメされたイリヤとクロエと美遊の三人が仲良く手を繋いだ人形をチラチラ見つつそう頷くクロエ。

 

「人形は砂糖菓子だから、とっておきたかったらメディアかその辺りの本職のキャスターに頼んでくれ」

「そ、そんなことないし」

 

 図星を衝かれたと顔を赤くして不満を口にするクロエ。

 

「俺、もうちょっと頑張るよ」

 

 少女らしい態度を見せたクロエに立ち直ったらしいエミヤが黒髭から押収したカメラでその姿を撮影しているとルーラー判定に引っ掛かったらしく裁判に引っ立てられていった。

 外野はさておきクロエはそこで料理長に尋ねる。

 

「貴方がモードレッドが言ってた料理長なの?」

「そうかもしれないが、なんせマーリンのお陰で本名も無くなっててな」

 

『顔のない英雄にしたほうが英霊にする時色々追加しやすくてついね』

『下手に名前残すと後世でランスロットの代役にされるかもしれないから名前は消しておいたよ』

『終身独身にしておいたから末裔を誰も名乗れないから安心して旅立ってくれ』

 

 かのような外道きわまりない台詞を善意で吐いてくれたマーリンのお陰で本名を無くした挙げ句、身に覚えのない逸話が色々ある料理長。

 ことマーリン自身が執筆したと言う料理長が主役となる『厨房の賢人』なる逸話に至っては懊悩するアーサーを的確な助言で導き円卓に燻る不和の種を払うという内容だったため、それを読んだアルちゃんが半泣きで一日中追い回したという実に微笑ましいやり取りもあった。

 

「ともあれ貴方には改めてお礼を言いたかったの」

 

 そう言うとクロエは料理長の両頬に手を当てそして触れるような軽いキスをした。

 

「辛いことも沢山あったけど、貴方が居たからママもキリツグも一緒に居てくれる。

 だからありがとう」

 

 そう、花が咲いたような笑顔で感謝を伝えるクロエ。

 一方料理長自身にそんな覚えもなく困惑していた。

 

「そうは言うが俺は君にもご両親にもなにもしちゃいないぞ?」

「そうね。

 でも、貴方がモードレッドを変えてくれた。

 それが巡り巡って私たちを変えてくれた。

 それは貴方が居たからこその奇跡なのよ。

 だから、貴方に感謝しているの」

 

 そう語るクロエにそういうものなのかと納得し素直に感謝を受けとることにした。

 

「だが、そんな簡単にキスなんてするもんじゃないぞ?」

「あら? 嬉しくなかった?」

「……ノーコメントだ」

 

 嫌ではないが肯定すればロリコン扱いされるとそうはぐらかす。

 と、いつのまにかモードレッドの姿が無いことに気付く。

 

「そういやモードレッドはどうした?」

 

 そのモードレッドだが、現在進行形で大ピンチと戦っていた。

 

「離しなさいモードレッド!!??」

「落ち着け父上」

 

 クロエが料理長にキスした瞬間、その首を叩き切ろうとしたヒロインX(自称)に気付き、モードレッドはクロエを庇うとそのままヒロインX(自称)を引き連れ誰もいない場所へと隔離した。

 

「あのロリビッチの首を!!

 料理長の唇を奪ったあのロリビッチをアルトリアの名に懸けてぶっ殺してやるんだ!!」

「一体どうしたってんだよ!?」

 

 じたばたと暴れるアルトリアを羽交い締めにして抑え込みながら困惑するモードレッド。

 アルトリアが料理長を慕って居たのは円卓の公然の秘密ではあったが、しかしそれが男と女の情ではないのも明らかだった。

 

「もしかしてアレか?

 今更になって男として料理長に惚れたのかよ?」

 

 あんまりそうあってほしくないなと思いつつ指摘するとアルトリアはぴたりと暴走を止め、顔を赤くして俯いてしまった。

 

「……マジで?」

 

 嫌でこそないが正直どうなんだと思ってしまうモードレッドにアルトリアはぶつぶつといい訳じみた発言をする。

 

「いいじゃないですか別に。

 もう王の責務も無いんですし恋に生きたって。

 それに長い年月でちゃんと自分の気持ちと向き合ってその上で料理長を男性と想うようになったんだから」

「だったら素直に言えよ」

「……今更恥ずかしいじゃないですか」

「……うわぁ」

 

 完全に拗らせてしまったアルトリアにドン引きするモードレッド。

 

「それに私がアーサー王だと知ったら幻滅されそうで怖いんですよ」

「そんなんで料理長が幻滅するわけないだろうが」

「分かんないじゃないですか!?」

 

 突然幼児退行染みた癇癪を起こすアルトリア。

 

「どうせモードレッドだって千五百才にもなって処女とかドン引きするとか思ってるんでしょ!?」

「被害妄想も大概にしろよ!?」

 

 どうやらアルトリアはアヴァロンでの半ば監禁生活により喪女を拗らせていたらしいことにようやく気付くモードレッド。

 

「せめて、ホテルのロイヤルスイートとは言いませんが夜景の綺麗な場所でしっとりとした雰囲気の中で告白されたいんですよ!!」

「まさかのスイーツ脳かよ!?」

 

 正体を隠し通したいからアヴァロンに行くと言い出したときに拗らせることは諦めていたが、まさか喪女を拗らせて更にはスイーツ脳になっていたのには流石に予想もしていなかった。

 

「いいから正体あかしちまえよ」

「ヤダ!? 恥ずかしくて死ぬ!?」

「死ぬか!?」

「どうせこの後ギャラハッドの霊基を託された娘と魔力交換するんでしょ?

 爆発してしまえリア充め!!」

「平行世界のアイツとなんかヤるわけねえだろうが!?」

 

 これはもう歓迎会の飯は食いっぱぐれるなと諦めたモードレッドは、この後アルトリアを宥めることに多大な時間を労するのだった。

 

 


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