円卓の料理人【本編完結】   作:サイキライカ

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これまでのあらすじ

立香「活躍全部カットされた…」

ケイ「アルを頼む」

ガレス「nice boat失敗しました」

料理長「ケイ、お前のギフトにコメント欄が阿鼻叫喚なんだが」


そのよん

「一寸いいかい?」

 

 玉座の間へと入ってきた料理長の姿に獅子王は僅かに眉を動かすも無表情で言う。 

 

「ここに入らないよう言っておいた筈。

 話なら此方から出向くので退去してください」

「カルデアが来たんだろ?

 その前に聞いておきたいことがあるんだ」

 

 事情を知らぬものからしたら耳を疑うような人然とした獅子王の要求を流して要求を口にする料理長。

 

「……いいでしょう。

 ただし、手短に」

 

 力ずくで追い出せと暗に言う姿に獅子王が折れたところで料理長は切り出していく。

 

「どうしてカルデアと一戦交えているんだ?

 やり方は違えど方向は同じじゃないか?」

「私と彼らは違います」

 

 同じソロモンの企みに逆らう側にいるなら戦う理由はないだろうと問う言葉を否定する獅子王。

 

「彼等が守るのは人理、人の歴史。

 私が守るのは人という種。

 目的の根幹が違うのです」

「だが武器を向ける必要はないだろう?」

「放った兵程度に膝を屈するなら、彼の魔術王に挑むなど土台不可能というもの。

 私を納得させる実力を示せぬなら彼等の言葉を聞く価値もありません」

「……そうかい」

 

 傲慢とも聞こえる言葉に料理長は納得の言葉だけで黙し次を切り出す。

 

「なんでブリテンじゃなく此処(エルサレム)なんだ?」

 

 その問いに獅子王は僅かに言葉を選ぶ仕種を見せる。

 

「……同情、なのかもしれません」

「同情?」

「エルサレムはローマを始め多くの国からの派兵により幾度となく虐げられ血を流しています。

 私が此処(エルサレム)に聖都を築いたのはあの頃のブリテンと重なって見えていたからなのでしょう」

 

 まるで他人事のように心情を語る獅子王に眉間に皺を寄せ料理長は言う。

 

「だったらなんで、虐殺なんて真似をさせたんだ?」

「……」

「ガレスに教えてもらったんだよ。

 王は槍に選ばれなかった者を殺しているってな」

 

 同情からこの地での救済に乗り出したのなら殺すなんて手段はおかしいだろと問い質す言葉に、獅子王は冷徹な瞳で答える。

 

「人は理不尽です。

 選ばれなかったことを誰もが静かに受け入れてくれたなら、私とてそうしたくはなかった。

 ですが選ばれなかったことを妬み、幾人の子や兄弟の中から一人だけを選んだことを怨み、他にも其々の理由から彼等は選定に不満を抱き拳を握った。

 槍に選ばれた者はすべからく私が庇護すべき民。

 王として、民を守るため最小限の犠牲は払わざるを得ませんでした」

此処(エルサレム)アーサー王の国(ブリテン)じゃねえだろうが」

「ブリテンは滅びました。

 聖都こそが今の私が治める只一つの国なのです」

「そうまでして、王様として在りたいのかよ?」

「それは違います。

 私は最初から求められて王座に在り続けた。

 それは今も変わらない。

 誰かが王を求める限り、私は応えるだけです」

 

 それでは機械と変わらないじゃないか。

 そう叫びそうになった喉を押さえ付ける料理長。

 

「話はもう十分でしょう。

 早く退室して」

「まだだ。

 まだ、一番聞かなきゃならないことが残っている」

 

 言ってしまえばこれまでの質問はサーヴァント(英霊)としての疑問であり、黙秘されてもそれでいいと終われる質問だった。

 しかし、これだけは違う。

 

「なんで自分の料理長(オレ)じゃなく平行世界の料理長()を連れて来た?」

「…………」

 

 その問いに、獅子王は初めて黙り込んだ。

 そもそもがおかしいのだ。

 獅子王程の力があれば、マーリンが手を加えねば英霊になる可能性もない料理長の魂ぐらい引き寄せることはできた筈。

 だが獅子王は、わざわざ自らがカルデアに赴いてまで英霊となった料理長を引き込んだ。

 沈黙が支配する王の間に獅子王の問いが溢れる。

 

「言えば、納得して頂けますか?」

 

 何をとさえ言わず、まるですがるような、いっそ怯えているようにさえ聞こえる問いに料理長は静かに答える。

 

「なにも聞かずに応とは言えねえよ」

「……変わらないですね。貴方は」

 

 ガチャリと鎧を鳴らし獅子王がロンゴミニアドを手に立ち上がる。

 そして、槍を料理長に向ける。

 

「王としてではなく、貴方の隣に居た(アル)としてお願いします。

 何も聞かずに槍を受け入れ共に来てください」

「その理由を言えと言っているんだ」

 

 頑なに語らぬ獅子王に声を大にする料理長だが、帰ってきた答えは突き出されたロンゴミニアドの穂先だった。

 見るものが見れば素人が繰り出したものと評するだろうあまりに手緩い一打。

 しかし戦いなどブリテンの猪が精々という料理長からしたら必殺のそれと何等かわりない致命の一撃。

 

「ア"ア"ア"ア"ァァアア"ア"ア"ッ!!」

 

 突き出されたロンゴミニアドに喉が裂けたような雄叫びを上げ、無意識に魔力を回し強化した全力の鉈で払った事で料理長は辛うじてそれを回避するも、衝撃を逃しきれずバランスを崩したたらを踏む。

 

「アルトリア!!??」

 

 初めての魔力運用に悲鳴を上げる全身を叱咤し怒鳴る料理長だが、獅子王は無言で槍を横薙ぎに振るう。

 

「ガッ!?」

 

 かわすのは不可能とせめて直撃は喰らわぬよう鉈を盾とするも、一発目で既に限界を越えていた鉈はロンゴミニアドの薙ぎ払いを防ぐ役目を果たすことなく砕け料理長の身体はトラックに跳ねられたように王の間の壁まで吹き飛ばされた。

 

「ぐっ……カハッ……!?」

 

 何の技巧もない戯れ同然の薙ぎ払い一発で料理長は継戦不能に追い込まれる。

 感覚から鉈を握っていた左腕はぽっきり折れて完全に使い物にならなくなり、肋なんてダース単位に砕けているだろうなと他人事のように思いながら、なおも生まれたての小鹿のように四肢を震わせ立ち上がろうと足掻く。

 

「いい加減にしろよアルトリア。

 いっくら俺だって、ここまでされりゃあ尻叩きぐらいの罰は下すぞおい?」

 

 なけなしの魔力はとっくに使いきり唯一武器らしい鉈も壊れ戦う術を失いながらも料理長は立ち上がる。

 

「抵抗しないで槍を受け入れてください。

 それが、貴方を守る唯一の方法なのです」

「だからその理由を言えと言っているんだろうが!?」

 

 理解も納得も必要ないと言わんばかりに獅子王は槍を腰だめに構える。

 ただそれだけで料理長は自分の死を確信してしまう。

 そもそもにして、数多の戦場を駆け抜けた獅子王と猪相手が精々の料理長では土俵が違う。

 先の二撃とてそれで十分戦闘不能になった筈のものであり、こうしてまだ立てているだけで十分評価に値するのだ。

 

「苦しめるつもりはありません。

 これで決めます」

 

 直後、獅子王は腰だめに構えたままくんと踏み込んだ。

 

「っ!?」

 

 たった一歩。

 それだけで十メートル以上離れていた距離がほぼなくなり、ロンゴミニアドの穂先が料理長を貫いた。

 土手っ腹に風穴を開けられたのに痛みを感じないことを不思議に思っていると獅子王が口を開く。

 

「槍よ、彼を人理の及ばぬ果てへと連れていけ」

 

 すると、まるで乾いた砂が溢れ落ちるように身体の奥から何かが抜けていく未知の喪失感が全身に広がっていく。

 

「アル……」

 

 指一本動かすのも億劫に思いながらもその手を獅子王へと伸ばす。

 

 どうしてだ?

 

 言ってくれなければ解らない。

 

 自分を槍に閉じ込めようとする事も、カルデアと戦おうとすることも、

 

 どうして、そんな泣きそうな顔をしているのか教えてくれなければ何も解らないのだ。

 

 喪失感に意識を保てなくなり槍に身体を預ける形で料理長が気絶するとその重みを噛み締めるように槍を強く握り直す獅子王。

 

「……許してくれなんて言いません。

 だけど、貴方に真実を知って欲しくない」

 

 傲慢も独善も承知している。

 だが、それでもこれ(・・)だけがただ唯一、救う術なのだ。

 全てを終わらせるべく槍に意識を向けようとする獅子王。

 

約束された(エックスゥ)……」

 

 然し其れを阻む声が憎悪を纏い飛び込んできた。

 

勝利の双剣(ダブルカリバー)!!!!!!!!」

 

 心臓から吹き上がる膨大な魔力を黄金と漆黒の二振りの聖剣に剰さず叩き込み、いっそ両方とも折れても構わんとアルトリア(ヒロインX)は全力でロンゴミニアドに振り下ろした。

 

「ちぃっ!?」

 

 しかし獅子王は刹那に床を蹴りロンゴミニアドを僅かに削られながらも料理長共々その必殺を回避して見せた。

 代償として料理長の身体は槍から抜けてしまったが、獅子王はそれに構う余裕はない。

 

「コロス」

 

 注がれる魔力に聖剣が悲鳴を上げるという目を疑う光景を起こしながら、しかしヒロインXは瞳を黄金に輝かせただ殺戮を宣言する。

 

「ブッ血kill!!」

 

 狂戦士の如く殺意を撒き散らして滅茶苦茶に斬りかかるヒロインX。

 

「邪魔を、するな!!」

 

 対し獅子王もまた、翠の双眸に怒りを燃やしロンゴミニアドを振るって迎え撃つ。

 

「料理長!?」

 

 ヒロインXと獅子王が激しい剣戟を繰り広げる中、遅れて到着した立香達は倒れ伏す料理長へと駆け寄ると急いで治療を開始。

 

「貴様、自分が何をしたのか解っているのか!?」

 

 マグマの如く燃え盛る怒りを燃料に千年を越えて鍛え続けた武を振るいながらに吠えるヒロインXに、獅子王もまた怒りを舌に乗せて放つ。

 

「貴様こそ、彼の窮地に何を悠長にしているのだ!?」

 

 腰の入った薙ぎ払いに後方に下がり仕切り直しを強要されるヒロインX。

 再び踏み込むタイミングを測るヒロインXに対し、石突きを床に叩き付けながら獅子王の咆哮が轟く。

 

「このまま放置して、もし料理長が今度こそ人理に抹消され(・・・・・・・)てもいいというのか貴様は!!??」

「なっ、」

 

 思いがけない言葉に一瞬意を失うヒロインX。

 

「どういうことなの?」

 

 剣戟が再開される前に飛んだ立香の問いに獅子王は槍を構えたまま答える。

 

「言葉の通りだ。

 このまま人理を修復し終えれば、人理は料理長をいなかったことにする(・・・・・・・・・・)

「どうして?」

 

 耳を疑う言葉についマシュも問いを重ねる。

 

「どうして人理が彼を消すというのですか?」

 

 確かに彼は平行世界の出身だが、だからといってその存在を消すとは俄に信じがたい。

 マシュの問いに瞳に憎しみを宿し獅子王は語る。

 

「私の世界の彼は人理に殺された。

 それ自体でさえ許しがたい事だが、あろうことか人理は二度と同じことが起こらぬよう、彼が存在したことを最初から(・・・・)無かった(・・・・)事にしたのだ(・・・・・・)

「……馬鹿な」

 

 とても信じがたい言葉に息を飲むヒロインX。

 

「お前はどうやって其れを知ったのだ?」

 

 ある意味当然の疑問に獅子王は聖杯だと答えた。

 

「私は私の世界で願望器である聖杯を手に入れた。

 そして私が願ったのは『料理長が死ぬ前に故郷に帰ること』だった」

 

 その願いにシンと空気が凍る。

 

「だが、その願いは叶わなかった。

 その時には既に彼は人理に存在から消されていたのだからな」

 

 自分を嘲笑うように鼻で笑う獅子王だが、立香達はそれが絶望に疲れ果てたものに聞こえた。

 

「……ブリテンの救済を願わなかったのですか?」

 

 この世界のアルトリアがそうであったように救国の願いは無かったのかと問う声に是と言う獅子王。

 

「確かに最初はブリテンを救うことを願っていた。

 だが、聖杯を手にした私はどうすれば救国が叶うのか、どうしても思い付かなかった」

 

 遠い日を思い返しながら滔々と語る獅子王。

 

「国を豊かにすればいいのか?

 兵を全て円卓に比肩する猛者とすればいいのか?

 サクソン人が来ないようにすればいいのか?

 ピクト人がいなかったことにすればいいのか?

 ……どれも違う。

 分かるだろうヒロインX(アーサー王)

 私達が選定の剣を抜く前からブリテンは終わっていたんだ(・・・・・・・・)

 あの時点でブリテンは根が腐り倒れる寸前の巨木と同じ。

 如何に私が人を捨て国を保とうと、それはほんの僅かな延命にしかならなかった」

 

 ゆっくりと獅子王は立香に視線を向ける。

 

「答えてくれ人類最後のマスター。

 私は、私達は私達を救おうとしてくれた人を救うことさえ許されないのか?」

 

 答えに窮する立香に問いを重ねる獅子王。

 

「私はいいのだ。

 多くの民のために疫病の温床となっている懸念があるからと恩人の遺体を焼いた恩知らずだ。

 そんな愚か者は救われなくて当然だ。

 だが、料理長は違う。

 彼はただ私達に手を差し伸べてくれただけなのだ。

 食べると言うことが生きる喜びを教えてくれると、そう教えてくれた事がそんなにも罪深い所業だったのか?

 言葉を尽くせぬ無能な王の代わりに、その苦悩を少しだけ言葉にしたことがそんなに間違っていたことなのか?

 私達をほんの少し救ってくれた人は、最初からいなくならなければならない大罪人なのか?」

 

 そう問い掛ける獅子王の顔は悲哀に染まり止めどなく涙が溢れていた。

 悲嘆の問いに何も答えられない立香に代わりヒロインXが口を開く。

 

「貴方は、そうまでしてあの人を救いたかったのですね」

 

 漸く全てに合点がいったと言うヒロインX。

 

「那由多の平行世界を巡り、ようやく料理長が英霊になっている世界を見つけられて私はそれだけで満足できた。

 まさかその世界でアーサー王がまだ生きていたことを知った時は驚かされたが、それでも料理長を否定しない世界が一つだけでもあったことで私はそれで十分だったのだ」

「だけど、彼はこの世界に来てしまった。

 人理が焼かれ動けない今はまだいい。

 だが、修復されれば間違いなく人理は料理長に牙を剥く。

 そして同じことが起こらぬよう英霊の『座』にいる本体さえ殺すだろう」

「そんなことは」

「無いと言い切れるのか?」

 

 悲嘆に代わり憎悪に染まりながら獅子王は問う。

 

「自分に都合が悪ければ時代ごと切り捨て元の形に戻そうとする自分勝手な人理が、本当に料理長を消さないと言い切れるのか?」

 

 叫ぶように言う獅子王の言葉には怒りの中に恐怖が含まれていた。

 

「あの人が居なくなったら今度こそ私は耐えられない。

 人理を壊すため人という人を殺し尽くすだろう」

 

 どれだけ憎くても彼の人が居るから耐えられた。

 だから、ほんの僅かな可能性さえ恐ろしい。

 そんな可能性をなくす方法はたった一つ。

 

「その人を渡せ。

 ロンゴミニアドの中に納めてしまえば人理も抑止も絶対に介入はできない。

 そうすれば私は、彼と今日までに選び出した善き人と共にこの特異点から自去しよう」

 

 そう提案を持ちかける獅子王。

 実際のところ、今の立香達で戦力として数えられるのはヒロインXとマシュのみ。

 現地のサーヴァントを含む他のメンバーは皆ケイを始めとした獅子王の円卓の排除の際に全員脱落している。

 この特異点の修復を目的とするなら獅子王の案を受けることは最善でなくとも次善以上であるのは確か。

 迷う立香達だが、意外なところからその答えは出された。

 

「ったく、これはケイがぶん投げてもしゃあないな」




ひみつかりばーはどうかと悩みなんでかエックスダブルカリバーになっていた……

一番人の心が分からなかったのはマーリンというオチ。

次回で決着。

長かった幕後も今度こそ終わり……たいな。

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