そんかデスマに見舞われ遅くなりましたが投下します。
「王の話を」
「死ね」
生前から数えても上から数えられるぐらい本気で殺意を込めた鉈を屑に叩き込んだ。
しかし相手はあのアーサー王に剣技を仕込んだ屑オブ屑。
素人の攻撃が当たるはずもなくあっさり避けやがった。
「話を遮るなんて酷いじゃないか」
「喧しい」
トラブルメーカーなんて生温い、いっそクライシスメーカーとでも呼んでやろうかとさえ思わせる諸悪の根元に俺は吐き捨てる。
「つうかなんで
縁の深い英霊同士なら行き来するぐらいは出来るが、しかしこいつは縁はともかくまだ死んでいないので来れる筈がない。
「いやだなぁ。
君の『座』を拵えたのは僕なんだよ?
幻霊以上英霊未満ななんちゃって英霊な君の『座』に入るぐらいは難しくないさ」
撲りたい。この笑顔。
しかし無駄なので怒りを放置して俺は問おうとしたが、
「それに君の『座』とアヴァロンは裏口で繋げてあるから簡単に出入りできるし」
「待てコラ」
今、とんでもないこといったぞこいつ。
「大丈夫なのかそれ?」
「うん。
最悪アヴァロンに抑止が乗り込んでくるけど、その時は君の『座』が崩壊して人理が崩れるから問題ないよ」
「最悪だなテメエ」
人の死後まで引っ掻き回すとか本当に屑。
「で、態々嫌味言われに来たんじゃないんだろ?」
「勿論。
君は本当に話し易くて怖いね」
文脈がおかしいのはどうせからかっているだけだろうから無視だ。
「ちょっと聖杯戦争に参加してきてくれないかな?」
「……」
何を言っているのだろうこいつは?
「色々引っくるめて言わせてもらうが、お前、長生きし過ぎて痴呆を患ったのか?」
「酷いじゃないか。
僕は正気だよ」
「……ああ、終に梅毒が頭にまで回っちまったか」
こうなると流石に憐れだな。
「いやいやいや。
どうして君はいつも僕の話をちゃんと聞いてくれないんだい?」
「阿呆」
こいつ本当にキングメーカーと称される賢者なのか?
「何だって
「……」
久しぶりにみた胡散臭さの無い真顔に俺は首をコキリと鳴らす。
そもにしてだ、人理は自分がこうだと決めたことをなにがあっても変えることを許さない。
自分が最後は他の星から来た
そんな片意地張りが
例え叶えたとしても、すぐにもっと酷いことが起きて覆されるのがオチだ。
例外があるとすれば、その聖杯戦争に参加する事を願いとする頭のおかしい戦闘キチだけだろう。
俺の時のような
「……君は本当に怖いね」
「あにがだよ?」
「いや。
なんでもないさ」
一体何だと言うんだ?
「兎に角今回ばかりは少し事情が違ってね。
君の力がどうしても必要なんだ」
「……分かったよ」
どっちにしろこいつが動いた時点で事が動くのは確定なのだ。
どんな大惨事になるかも分かったものではないが、やるだけはやろう。
そう覚悟を決め、マーリンに言われるまま英霊になって初めての
「これでよし。
後は流れるままにハッピーエンドになるだけだ」
そんな、不穏に満ちた楽しそうな声にやはりこいつは信用ならねえとそう思った。
~~~~
「料理長、何時から……?」
生前悪いタイミングが重なりまくって四徹やる羽目になった時のように、全身が鉛にでもなったかのような怠さを押し退け起き上がる俺を見る獅子王は、まるで隠していた悪さが見付かった子供のように怖がっていた。
ったく、
「アルちゃんに散々言ってたときからだよ」
正直に答えると獅子王は顔を青ざめカタカタと震えだした。
とはいえはっきりしてたのは意識だけで、
今も大して変わっちゃいないが、ここで黙りしてられるようなタマでもない。
「アルちゃんよぅ」
笑いっぱなしの膝に無理を言わせ立ち上がった俺が回りを押し退けゆっくりと近付きながら呼び掛ければ、獅子王はビクリと肩を震わせた。
まったく、そんなに怯えなくてもいいんだよ。
お前さんが必死になっていた理由は分かったんだ。
だからな、
「(アルちゃん、)よく頑張ったな」
「だけどもういいんだ。
アルちゃんが頑張らなくてもいいんだよ」
「りょう……」
何か言いかけた
「アルちゃんはもうブリテンの王様じゃないんだ。
だからさ、もう
「っ」
だから、何かをしようとしても
だからエルサレムの民を救いたいと思っても、
それに異を唱える者を王様として排してしまった。
誰よりも正しい王様になれと、それしか教えてもらえなかったからアルちゃんは獅子王になるしかなかった。
諸悪の根元たるマーリンへの少し前に抱いた感謝を全部ぶん投げ必ず殴ると誓いながら俺は
「アルちゃんはもう王様をつづけなくていいんだ。
誰かを救う義務も、守る義務もないんだ。
アルちゃんに王様になれと言う奴は、誰もいないんだよ」
「……違う」
掠れたような声で
「私は王なのだ。
王でなければ私は」
「誰も救えないとそう言うつもりか?」
たぶんそうなのだろうと当たりをつけて口にしてみると、正解だったらしく
……ったくよぅ、なんで誰も言わなかったんだよ?
「なあ、アルちゃん。
さっきアルちゃんは言ったよな?
俺がアルちゃんを救ったってさ。
俺は王様にならなくてもアルちゃんを救えたんだぞ?
だったらアルちゃんに同じことが出来ないわけ無いだろ?」
「無理です。
私と貴方は違う。
私は貴方のようになんでも許せるような者ではなかった」
……俺になんつう夢を見てんだこの娘は?
「そんな訳ねえだろうが。
俺だって折り合えねえ奴もいれば気に喰わねえ奴だっているよ」
主に飯にケチを付けるジャンクフードマニアとか善意に見せ掛けてとんでもねえ真似しやがる屑とか。
「そもそもだ。
俺とアルちゃんが違うのは当然だろ?
俺なんかに比べてアルちゃんは若くて美人で頭も良くて、それでいて人を引き寄せる魅力も威厳も度胸もある優良物件だ。
正直俺が話しかけていいような相手じゃねえよ」
「違う違う違う。
私は国のために幾つも村を干上がらせ沢山の民を見殺しにした度しがたい悪鬼だ。
兵站を優先し国を豊かにすることを放棄した暗愚だ。
一日でも国を存続させるためだけに合理性をただ突き詰め人の心を棄てた人形だ。
それに私は貴方が生きていた頃から歳上だった。
そんな能無しの年増を好こうなんて思う人は居る筈がない」
そう自分を扱き下ろす
頭を押し付けた胸の辺りが湿っているのは気のせいじゃない。
……はは、
「なんだ。
やっぱりアルちゃんは良い女じゃないか」
「……え?」
「アルちゃんはさ、本当はそんなことしたくなかったんだろ?
民を見捨てることも、戦争の準備ばかり繰り返すことも、自分の気持ちを押し殺すことも、全部やりたくなかったんだろ?
だったらさ、なおのこと逃げちまいなよ。
自分に正直になって、やりたいことをやって良いんだよ」
上げようとする頭を押さえそう言うもアルちゃんはそれを必死に否定する。
「違う。
私は王にならなければいけなかったんです。
じゃないとブリテンはもっと早く滅亡していたから、そうしなければならなかったんです」
……やっと本音が見えてきたか。
それに本人が勘違いしていることもはっきりしてきた。
「アルちゃん。
『やりたいこと』と『やらなきゃならないこと』は一緒じゃねえぞ」
「…………」
「アルちゃんはブリテンの民を救いたくて王様になったんだろ?
じゃあさ、王様にならなくても同じだけの沢山のブリテンの民を救えるなら、それでも王様になったのか?」
「それは…」
「ちゃんと思い出せ。
そして言葉にしてくれ。
アルちゃんは、本当は何がしたかったんだ?」
そう念を押して問うと
そして、
「私は、ブリテンの人達に笑って欲しかった。
それが一時の夢でしかなくても、それでもその笑顔を与える方法が欲しかったんです」
それは子供が抱くようなささやかな夢。
それこそがアルトリアという少女が歩き出した始まり。
だからこそ、俺は伝える。
「その夢はちゃんと叶ったんだ。
だから、もう
「……ぅ」
「ごめんなさい」
俺が解いたせいで張り詰めていた感情がその口から溢れていく。
「みすててごめんなさいたすけられなくてごめんなさいすくえなくてごめんなさいきずつけてごめんなさい」
今日までずっと堪え続けてきた悲しい気持ちを何度もごめんなさいと繰り返す
視界の端でマスター達が
~~~~
そうして我慢し続けてきた想いを吐き出し終え、全てが終わった……筈なんだが、
「どうしてこうなった?」
床の上に正座した俺の太股の上に、尻を突き出す形で腹を軸として俯せに身を乗せる
分かりやすく言うと、お尻ペンペンの体勢である。
「あ、あの、流石にこの姿は恥ずかしいので早めに終わらせてください」
「お、おう」
太股に覆い被さる形を強要され顔を真っ赤にしてぷるぷる震える
経緯として語れることはあまり多くはない。
それだけならまだ霊基を登録してあるカルデアで復活すれば済む筈だったんだが、抑止の奴が阿頼耶に働きかけて俺の消滅に合わせて登録してある俺の霊基が消えるように動いていたのだ。
そんな訳で再び人理殺すべしと発狂しそうになってしまった
筈だったんだが、
で、そうなった原因である
言うまでもなく反対したかったんだが、その代案が
「くっ、あんなの罰ではなくただの御褒美じゃないですか」
「君、少し黙れ」
俺達の状態に下唇を噛んで本気で悔しがる
ついでにロマニ、もしもこの様子を録画なんてしていたら飢餓殺し口に捩じ込むからな?
しかしぐだぐだやっていても
「じゃあ、始めるぞ?」
「………はい」
消え入りそうな声で応じる
これにて本当におしまいです。
以下はFGOに対する個人的展開と本編にまつわるあれやこれですので興味がないかたはスルーかバックをお願いします。
正直、FGOの公開で聖杯戦争に参加の意思のある英霊の殆どは闇堕ちしても仕方ないと思うんや。
典型的な例が第一章のジルさん。
ジルの場合完全な蘇生は聖杯でも不可能と公式が述べているから最初からそうなんだけど、本編で彼、世界が甦らせることを拒絶したって言ってたのが引っ掛かったんです。
で、考えてみたら英霊の願いが叶うってことは=人理崩壊じゃね? って結論。
ジルの場合、仮に叶ったら青髭回避で人理崩壊。
他にも例を挙げると、マタ・ハリの場合スパイとしての技量が無くなる又はそもそもスパイにならない可能性だってあるんだからこれも人理崩壊の可能性大。
天草なんて言わずもがな。
というか過程が違うだけで●●●●●とやろうとしていること殆ど変わらんし。
つまり、聖杯戦争で英霊が願いを叶えたら今度はカルデアがそれを破壊しに向かわなきゃならない可能性が……
これ以上は危険なので閑話休題
料理長について今更だから言える話ですが、彼は某フランスの詩人の名前みたいな彼を参考に限りなく普通になるよう作りました。
とはいえブリテンの環境でそのままいられる筈もなく結構おかしな方向に転がって行ったりしてますけどね。
なのでマーリンからしてみれば、無害だけど正体の分からない恐い存在に見えてます。
そして最後に、英霊になった料理長には本人さえ知らない隠し宝具がありました。
効果はアーサー王を『人』にするだけのささやかな宝具。