円卓の料理人【本編完結】   作:サイキライカ

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週の睡眠時間が30時間を割るのは辛い…

そんかデスマに見舞われ遅くなりましたが投下します。


そのご

「王の話を」

「死ね」

 

 生前から数えても上から数えられるぐらい本気で殺意を込めた鉈を屑に叩き込んだ。

 しかし相手はあのアーサー王に剣技を仕込んだ屑オブ屑。

 素人の攻撃が当たるはずもなくあっさり避けやがった。

 

「話を遮るなんて酷いじゃないか」

「喧しい」

 

 トラブルメーカーなんて生温い、いっそクライシスメーカーとでも呼んでやろうかとさえ思わせる諸悪の根元に俺は吐き捨てる。

 

「つうかなんで此処(『座』)に居るんだお前は?」

 

 縁の深い英霊同士なら行き来するぐらいは出来るが、しかしこいつは縁はともかくまだ死んでいないので来れる筈がない。

 

「いやだなぁ。

 君の『座』を拵えたのは僕なんだよ?

 幻霊以上英霊未満ななんちゃって英霊な君の『座』に入るぐらいは難しくないさ」

 

 撲りたい。この笑顔。

 しかし無駄なので怒りを放置して俺は問おうとしたが、

 

「それに君の『座』とアヴァロンは裏口で繋げてあるから簡単に出入りできるし」

「待てコラ」

 

 今、とんでもないこといったぞこいつ。

 

「大丈夫なのかそれ?」

「うん。

 最悪アヴァロンに抑止が乗り込んでくるけど、その時は君の『座』が崩壊して人理が崩れるから問題ないよ」

「最悪だなテメエ」

 

 人の死後まで引っ掻き回すとか本当に屑。

 

「で、態々嫌味言われに来たんじゃないんだろ?」

「勿論。

 君は本当に話し易くて怖いね」

 

 文脈がおかしいのはどうせからかっているだけだろうから無視だ。

 

「ちょっと聖杯戦争に参加してきてくれないかな?」

「……」

 

 何を言っているのだろうこいつは?

 

「色々引っくるめて言わせてもらうが、お前、長生きし過ぎて痴呆を患ったのか?」

「酷いじゃないか。

 僕は正気だよ」

「……ああ、終に梅毒が頭にまで回っちまったか」

 

 こうなると流石に憐れだな。

 

「いやいやいや。

 どうして君はいつも僕の話をちゃんと聞いてくれないんだい?」

「阿呆」

 

 こいつ本当にキングメーカーと称される賢者なのか?

 

「何だって詐欺(・・)だって解ってる面倒ごとに付き合わなきゃならないんだよ」

「……」

 

 久しぶりにみた胡散臭さの無い真顔に俺は首をコキリと鳴らす。

 そもにしてだ、人理は自分がこうだと決めたことをなにがあっても変えることを許さない。

 自分が最後は他の星から来た絶対の一(アルテミット・ワン)とかいう異星人?により鋼となった大地で死に絶えると決まったのに、それを変えようとしないほど頭が硬いんだ。

 そんな片意地張りが人理を変える(英霊が願いを叶える)なんて真似を許すはずがない。

 例え叶えたとしても、すぐにもっと酷いことが起きて覆されるのがオチだ。

 例外があるとすれば、その聖杯戦争に参加する事を願いとする頭のおかしい戦闘キチだけだろう。

 俺の時のようなマーリンの暗躍(有り得ない裏技)があれば兎も角、人理が変わってしまうことがほぼ確定している英霊達の願いが叶うなんて大嘘に、分かっていて付き合う馬鹿はそうはいないはず。

 

「……君は本当に怖いね」

「あにがだよ?」

「いや。

 なんでもないさ」

 

 一体何だと言うんだ?

 

「兎に角今回ばかりは少し事情が違ってね。

 君の力がどうしても必要なんだ」

「……分かったよ」

 

 どっちにしろこいつが動いた時点で事が動くのは確定なのだ。

 どんな大惨事になるかも分かったものではないが、やるだけはやろう。

 そう覚悟を決め、マーリンに言われるまま英霊になって初めての分霊(サーヴァント)作成を始める。

 

「これでよし。

 後は流れるままにハッピーエンドになるだけだ」

 

 そんな、不穏に満ちた楽しそうな声にやはりこいつは信用ならねえとそう思った。

 

 

~~~~

 

 

「料理長、何時から……?」

 

 生前悪いタイミングが重なりまくって四徹やる羽目になった時のように、全身が鉛にでもなったかのような怠さを押し退け起き上がる俺を見る獅子王は、まるで隠していた悪さが見付かった子供のように怖がっていた。

 ったく、

 

「アルちゃんに散々言ってたときからだよ」

 

 正直に答えると獅子王は顔を青ざめカタカタと震えだした。

 とはいえはっきりしてたのは意識だけで、獅子王(アルちゃん)がロンの槍に俺を納めようとした際に霊基に致命的な傷が入ったらしく実際何が出来る状態でもなかったんだがな。

 今も大して変わっちゃいないが、ここで黙りしてられるようなタマでもない。

 

「アルちゃんよぅ」

 

 笑いっぱなしの膝に無理を言わせ立ち上がった俺が回りを押し退けゆっくりと近付きながら呼び掛ければ、獅子王はビクリと肩を震わせた。

 まったく、そんなに怯えなくてもいいんだよ。

 お前さんが必死になっていた理由は分かったんだ。

 だからな、

 

「(アルちゃん、)よく頑張ったな」

 

 獅子王(アルちゃん)の頭を俺の胸に当てさせて優しくそう言った。

 

「だけどもういいんだ。

 アルちゃんが頑張らなくてもいいんだよ」

「りょう……」

 

 何か言いかけた獅子王(アルちゃん)に構わず俺は言う。

 

「アルちゃんはもうブリテンの王様じゃないんだ。

 だからさ、もう王様を止めていいんだよ(逃げていいんだよ)

「っ」

 

 獅子王(アルちゃん)は王様になるために生まれたからそれしか(・・・・)知らなかったんだ(・・・・・・・・)

 だから、何かをしようとしても王様として(・・・・・)しか接せられなかったんだ。

 だからエルサレムの民を救いたいと思っても、獅子王(アルちゃん)は王様になる以外の方法を知らないから聖都を建てて自分の民にしてしまった。

 それに異を唱える者を王様として排してしまった。

 誰よりも正しい王様になれと、それしか教えてもらえなかったからアルちゃんは獅子王になるしかなかった。

 諸悪の根元たるマーリンへの少し前に抱いた感謝を全部ぶん投げ必ず殴ると誓いながら俺は獅子王(アルちゃん)に教える。

 

「アルちゃんはもう王様をつづけなくていいんだ。

 誰かを救う義務も、守る義務もないんだ。

 アルちゃんに王様になれと言う奴は、誰もいないんだよ」

「……違う」

 

 掠れたような声で獅子王(アルちゃん)は否定する。

 

「私は王なのだ。

 王でなければ私は」

「誰も救えないとそう言うつもりか?」

 

 たぶんそうなのだろうと当たりをつけて口にしてみると、正解だったらしく獅子王(アルちゃん)は黙りこくってしまった。

 ……ったくよぅ、なんで誰も言わなかったんだよ?

 

「なあ、アルちゃん。

 さっきアルちゃんは言ったよな?

 俺がアルちゃんを救ったってさ。

 俺は王様にならなくてもアルちゃんを救えたんだぞ?

 だったらアルちゃんに同じことが出来ないわけ無いだろ?」

「無理です。

 私と貴方は違う。

 私は貴方のようになんでも許せるような者ではなかった」

 

 ……俺になんつう夢を見てんだこの娘は?

 

「そんな訳ねえだろうが。

 俺だって折り合えねえ奴もいれば気に喰わねえ奴だっているよ」

 

 主に飯にケチを付けるジャンクフードマニアとか善意に見せ掛けてとんでもねえ真似しやがる屑とか。

 

「そもそもだ。

 俺とアルちゃんが違うのは当然だろ?

 俺なんかに比べてアルちゃんは若くて美人で頭も良くて、それでいて人を引き寄せる魅力も威厳も度胸もある優良物件だ。

 正直俺が話しかけていいような相手じゃねえよ」

「違う違う違う。

 私は国のために幾つも村を干上がらせ沢山の民を見殺しにした度しがたい悪鬼だ。

 兵站を優先し国を豊かにすることを放棄した暗愚だ。

 一日でも国を存続させるためだけに合理性をただ突き詰め人の心を棄てた人形だ。

 それに私は貴方が生きていた頃から歳上だった。

 そんな能無しの年増を好こうなんて思う人は居る筈がない」

 

 そう自分を扱き下ろす獅子王(アルちゃん)

 頭を押し付けた胸の辺りが湿っているのは気のせいじゃない。

 ……はは、

 

「なんだ。

 やっぱりアルちゃんは良い女じゃないか」

「……え?」

「アルちゃんはさ、本当はそんなことしたくなかったんだろ?

 民を見捨てることも、戦争の準備ばかり繰り返すことも、自分の気持ちを押し殺すことも、全部やりたくなかったんだろ?

 だったらさ、なおのこと逃げちまいなよ。

 自分に正直になって、やりたいことをやって良いんだよ」

 

 上げようとする頭を押さえそう言うもアルちゃんはそれを必死に否定する。

 

「違う。

 私は王にならなければいけなかったんです。

 じゃないとブリテンはもっと早く滅亡していたから、そうしなければならなかったんです」

 

 ……やっと本音が見えてきたか。

 それに本人が勘違いしていることもはっきりしてきた。

 

「アルちゃん。

 『やりたいこと』と『やらなきゃならないこと』は一緒じゃねえぞ」

「…………」

「アルちゃんはブリテンの民を救いたくて王様になったんだろ?

 じゃあさ、王様にならなくても同じだけの沢山のブリテンの民を救えるなら、それでも王様になったのか?」

「それは…」

「ちゃんと思い出せ。

 そして言葉にしてくれ。

 アルちゃんは、本当は何がしたかったんだ?」

 

 そう念を押して問うと獅子王(アルちゃん)は黙り込んだ。

 そして、

 

「私は、ブリテンの人達に笑って欲しかった。

 それが一時の夢でしかなくても、それでもその笑顔を与える方法が欲しかったんです」

 

 それは子供が抱くようなささやかな夢。

 それこそがアルトリアという少女が歩き出した始まり。

 だからこそ、俺は伝える。

 

「その夢はちゃんと叶ったんだ。

 だから、もう逃げて(王様を止めて)いいんだ」

「……ぅ」

 

 獅子王(アルちゃん)の手が俺の服を掴みそのまま獅子王(アルちゃん)から啜り泣きが溢れ、やがてそれは嗚咽へと変わっていった。

 

「ごめんなさい」

 

 俺が解いたせいで張り詰めていた感情がその口から溢れていく。

 

「みすててごめんなさいたすけられなくてごめんなさいすくえなくてごめんなさいきずつけてごめんなさい」

 

 今日までずっと堪え続けてきた悲しい気持ちを何度もごめんなさいと繰り返す獅子王(アルちゃん)

 視界の端でマスター達が獅子王(アルちゃん)に気を遣い出ていったのを見た俺は、内心で皆に感謝して彼女が全部吐き出せるようただ寄り添い続けた。

 

 

~~~~

 

 

 そうして我慢し続けてきた想いを吐き出し終え、全てが終わった……筈なんだが、

 

「どうしてこうなった?」

 

 床の上に正座した俺の太股の上に、尻を突き出す形で腹を軸として俯せに身を乗せる獅子王(アルちゃん)という構図がここにあった。

 分かりやすく言うと、お尻ペンペンの体勢である。

 

「あ、あの、流石にこの姿は恥ずかしいので早めに終わらせてください」

「お、おう」

 

 太股に覆い被さる形を強要され顔を真っ赤にしてぷるぷる震える獅子王(アルちゃん)の嘆願にそうどもってしまう。

 経緯として語れることはあまり多くはない。

 獅子王(アルちゃん)が落ち着きマスター達と問答を重ねている最中に俺は肉体を維持するだけの魔力が尽き消滅しかけた。

 それだけならまだ霊基を登録してあるカルデアで復活すれば済む筈だったんだが、抑止の奴が阿頼耶に働きかけて俺の消滅に合わせて登録してある俺の霊基が消えるように動いていたのだ。

 そんな訳で再び人理殺すべしと発狂しそうになってしまった獅子王(アルちゃん)とぶちギレて一緒になって人理を滅ぼそうとしたヒロインX(アルちゃん)をマーリンから言わないよう口止めされていたアヴァロンの裏口の存在とそれ故に自分が消滅しても『座』の本体に危険が及ばないことを教えて宥め、ギリギリで思い止まらせた所で俺は消滅した。

 筈だったんだが、獅子王(アルちゃん)がカルデアに来た際にロムルスが俺に復活スキルを施していたことが判明し俺は消滅した直後に復活し消えるのは免れた。

 で、そうなった原因である獅子王(アルちゃん)にケジメとして罰をと本人からも含め俺に処するよう強要され、どうしてか俺が獅子王(アルちゃん)の尻を叩くという流れになったのだ。

 言うまでもなく反対したかったんだが、その代案がヒロインX(アルちゃん)によるエクスカリバー尻叩きだったため断るに断れなかった。

 

「くっ、あんなの罰ではなくただの御褒美じゃないですか」

「君、少し黙れ」

 

 俺達の状態に下唇を噛んで本気で悔しがるヒロインX(アルちゃん)につい配慮とかかなぐり捨ててしまったが、頼むから過日の思い出が残念一色に染まるような発言は本当に止めてくれ。

 ついでにロマニ、もしもこの様子を録画なんてしていたら飢餓殺し口に捩じ込むからな?

 しかしぐだぐだやっていても獅子王(アルちゃん)に恥を重ねるだけなので意を決し俺は告げる。

 

「じゃあ、始めるぞ?」

「………はい」

 

 消え入りそうな声で応じる獅子王(アルちゃん)に変な事を考えないよう、なるべく痛くないよう料理の仕上げ作業の時以上に神経を張りながら俺は手を振り上げた。

 




これにて本当におしまいです。

以下はFGOに対する個人的展開と本編にまつわるあれやこれですので興味がないかたはスルーかバックをお願いします。





















 正直、FGOの公開で聖杯戦争に参加の意思のある英霊の殆どは闇堕ちしても仕方ないと思うんや。

 典型的な例が第一章のジルさん。

 ジルの場合完全な蘇生は聖杯でも不可能と公式が述べているから最初からそうなんだけど、本編で彼、世界が甦らせることを拒絶したって言ってたのが引っ掛かったんです。
 で、考えてみたら英霊の願いが叶うってことは=人理崩壊じゃね? って結論。

 ジルの場合、仮に叶ったら青髭回避で人理崩壊。

 他にも例を挙げると、マタ・ハリの場合スパイとしての技量が無くなる又はそもそもスパイにならない可能性だってあるんだからこれも人理崩壊の可能性大。

 天草なんて言わずもがな。
 というか過程が違うだけで●●●●●とやろうとしていること殆ど変わらんし。

 つまり、聖杯戦争で英霊が願いを叶えたら今度はカルデアがそれを破壊しに向かわなきゃならない可能性が……


 これ以上は危険なので閑話休題


 料理長について今更だから言える話ですが、彼は某フランスの詩人の名前みたいな彼を参考に限りなく普通になるよう作りました。
 とはいえブリテンの環境でそのままいられる筈もなく結構おかしな方向に転がって行ったりしてますけどね。
 なのでマーリンからしてみれば、無害だけど正体の分からない恐い存在に見えてます。

 そして最後に、英霊になった料理長には本人さえ知らない隠し宝具がありました。
 効果はアーサー王を『人』にするだけのささやかな宝具。
 
 
 

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