死に物狂いでE7を攻略してエンディングを迎えたテンションで艦これの続きを書いていたらこれが完成した。
何を言っているかわからねえだろうが俺が一番わからねぇ。
催眠術とかトリックとかそんなちゃっちなもんじゃねえ。
愉悦の野郎の恐ろしさを味わったんだ…
いやほんと、なんで艦これじゃなくてこっち書いてるんだ?
王城キャメロット。
常勝無敗の王と謳われるアーサー王の居城たる白亜の城の廊下を、眉間に厳めしい皺を浮かべた男が早足に歩いていた。
男はそのままの足取りでサー・ケイの執務室の前へと辿り着くと在中かを確かめるためドアを叩く。
『誰だ?』
「例の噂について新しい情報が入った」
尋ねる声に応えず男、アグラヴェインは入ると同時に要件を口にした。
この二人、斯様に無礼を流しあえるほど仲がいいのかというと、真実真逆。
片や有能だが腹の底は知れたものではないと警戒を絶やすことはなく、片や他の阿呆共よりは幾分融通が利くとしか思っていない。
しかし、どちらもがこと国政に関しては信用に足るという程度に信はあり、仕事に関わるならば円卓の中では比較的まともに話す間柄でもあった。
「どうだった?」
ケイが促すとアグラヴェインは表情を変えず得た情報を告げる。
「噂の者の痕跡を確認した」
「面倒だな」
その噂とは、一年ほど前から密やかに囁かれ始めたもの。
冷酷なりしアーサー王に切り捨てられたブリテンの民を主が憐れみ、使者を送りたもうたという。
曰く、その者は絵画より抜け出たような平たい顔の男であり、枯れ果てた村に何処からともなく現れ食事を与え餓えて朽ちかけた者を救い上げたそうだ。
それだけならばただの噂でおわっただろうが、噂の内容はそれだけではない。
曰く、聞いたこともない神の国の言葉で死者の魂を天へと運んだ。
曰く、痩せ細った大地に祝福を施し肥沃な大地に生まれ変わらせた。
曰く、食べてはならないと遠ざけていた毒のある草木を禊ぎ食べられるものに作り替えた。
そういった幾つかの噂が少なからず広まっており、延いてはアーサー王の政権にさえ揺らぎを与えかねないと懸念した二人は真偽の調査に乗り出したのだ。
そうして調査をした結果、噂は多くが真実であり、実際彼の者が立ち寄ったと思われる村が幾ばくかの復興をしていたのだ。
「それで、噂の当人は見付かったのか?」
「いや、目下捜索中だ」
アグラヴェインはこれが何処かの貴族の策謀であると踏みキナ臭い諸侯に間者を飛ばしているがどれも空振り。
ならばローマの陰謀かと目を向けてもしかしこれも外れ。
最も確実な方法をと当人を捕まえるため村の生き残りに行方を尋ねても、切り捨てたアーサー王への不信から見当違いの場所を教えて無駄足を踏まされてばかりであった。
「ならば、俺が行こう」
待っていても埒が明かないと判断しケイは席を立つ。
「足跡から判断するに奴はこのキャメロットを目指しているようだ。
態々出向くまでもない」
貴重な後方担当が抜ける穴を考慮しそう言うアグラヴェインだが、ケイはそれを否定する。
「この手の手合いは待ったら待っただけ面倒が大きくなる。
それに阿呆共のばか騒ぎを耳にするのにも苛ついて来たところだ。
溜まっている休暇がてら、遠乗りのついでに見付けてくる」
アーサー王こと義妹の心意も理解しようとしない者達への憤慨を隠すことなくそう口にするケイ。
貴様もその一人だと冷えた視線をくれるケイを無視しアグラヴェインは指示を下す。
「ならば北に行け。
いまのところ可能性が一番高い」
「……ああ」
視線を切ってそれだけ言うと、ケイは件の男を探すべく執務室を後にした。
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「これで最後だ」
ざくりと音を発て子供の背丈ほどの木が地面に突き立てられた。
木は縄によって十字に組まれており、それがすぐそばに掘り返された墓穴の墓標であることは一目で解った。
墓標を刺した男はそのまま布にくるんだ非常に軽いナニカをなるべく丁寧に墓穴の底に安置し這い上がると、用意していたスコップでソレに土を被せ埋めていく。
「本当は火葬にしちまいたいが……しかたねえ」
そうごちりながら全ての土を元に戻すと男は両手を合わせた。
「仏説摩可般若波羅密多心経~」
と、墓の前で般若心経を唱え始めた。
一応言っておくと、宗教の拘りや悪意といった意識は男にはない。
ただ、男が基督教の死者の弔いに明るくなく、当然基督教に則った鎮魂の作法なども全く知らないため、せめてもの慰めになればと自分が唯一知っている般若心経を唱えているのだ。
両者を知るものが見れば常識知らずないし間抜けにも見えるが、しかしながら男は真剣に彼等の冥福を祈り経を詠む。
そうして暫くして、彼以外生者は誰もいない村の跡地に響いていた般若心経が終わる。
「…………」
合わせていた手を離し男は廃墟となった村に視線を向ける。
男がこの村に着いたのは太陽が中天を越えるかどうかといった時分。
既に夕刻は目の前であり、もう少しすれば夜の帳が落ちてしまうだろう。
「……今日中に終わらせられただけまだマシか」
どうしようもないやるせなさをそう誤魔化すと、男は汚れを落とし来た時に目星をつけていた比較的マシな空き家を今夜の宿とするため歩き出す。
「瓜助、チビ助、終わったぞ」
空き家で待っているように言っておいた旅の同輩に呼び掛ければ、其々が待っていたとばかりに鳴き声を上げる。
「プギー!」
「フォーウ」
片や黒い毛並みに小さいながらも鋭い牙が口から伸びる猪と、真っ白いふわふわとした毛並みの栗鼠のような四つ足の獣。
男が戻ったことを喜ぶように鳴き声を上げた二匹に男は口を緩め告げる。
「遅くなって済まなかった。
日が暮れる前に飯の支度をしちまおう」
まるで彼の言葉を理解しているように再び鳴き声を上げる二匹。
二匹はどちらも男がある目的のためにキャメロットに向かっていた途中で出逢った動物達である。
猪こと瓜助は森の中で道を見失い、なんとか脱出しようとさ迷っていたところを傷だらけの姿で見付け、まだ小さくて食えるほど大きくなかった事からつい傷の手当てをしたところ、まるで恩義に酬いるとばかりに森の出口へと案内しそのまま旅の連れ合いとして付いてくるようになった。
一方、チビ助と呼んだ栗鼠のような獣は、数ヵ月前にふらりと自分の前に現れ、その日からなついてきたため好きにさせていた。
どちらもとても賢く、危険が迫ればそれを教えてくれるため男は今日までに多くの難を逃れ続けた。
男はそんな二匹に感謝の念を改めて抱き、墓掘りを始める前に水で戻しておいた干肉と野菜を水ごと鍋に入れ、起こした火に掛けて煮込む。
そうして煮立ち、暫くして浮いてきた灰汁を取り除いてからそこに麦味噌を投入して味を整える。
そうして出来上がった味噌鍋を男は碗によそうと二匹の前に置いた。
「熱いから気を付けろよ」
そう注意するも熱さなんて気にもしないのか、二匹はそれぞれの碗に顔を突っ込み貪る勢いで食べていく。
「相変わらず頑丈だな」
肌に当たれば火傷は必至な筈の熱さをものともしない二匹に苦笑しつつ男も自分の碗に鍋をよそい口をつける。
そうして細やかな夕食を口にしながら男は手持ちの食材について思いを巡らす。
(味噌の残量は後数回分、干し魚は三尾、干し肉は食い果たした。
住人にはすまんが暫く逗留させてもらって二週間ぐらい貯えに走ろう)
運よく近くの森に牛蒡とサヤエンドウの群生地があったのを瓜助が見付けてくれたので、それらを加工して今後の食材に使おうと考える。
(しかし問題は塩だな。
サヤエンドウで味噌を作るにも塩が足りねえと腐っちまうし、前回みたいに山塩を見付けるなんて偶然はそうあるはずもねえわな)
立ち寄った村で食用可能な植物の栽培法や肥溜め農法等の農業技術と引き換えに塩など保存に必要な材料を確保してきたが、最近はこの村のように枯れきって滅んでしまった村の方が多く、当初のキャメロットへの道程の予定より大幅に遅れていた。
「花の魔術師か……」
元の時代に帰る手段を求め、彼はマーリンに知恵を借りるためキャメロットを目指している。
しかし、
「……いや、よそう」
ろくにアーサー王物語を知らない自分でも知っているような高名な魔術師にも打つ手が無かったらという考えを打ちきり、男は味噌漬けにしておいた川魚を串焼きにする。
「今日は疲れたからな。
少しだけ贅沢をするか」
味噌が焼ける芳ばしさに瓜助とチビ助が行儀よくしながらもそわそわと魚を今か今かと伺う。
「もうちょっと我慢しろ。
そうしたらもっと旨くなるからな」
「プギャ!!」
「フォウフォウフォーウ!!」
そう言うと待ちきれないと言いたげに鳴きながらも、それでも男の言葉を信じてか二匹は座った体勢のまま我慢する。
そんな二匹にやるせない気持ちを和らげてもらった男は口許を緩め魚の焼け具合に集中するのだった。
因みに瓜助はトゥルッフ・トゥルウィスではありませんが無関係でもなかったり。
チビ助はみんな大好きあの子です。
なんでいるかは後日改めて。