と言うことでフライングお年玉です。
にしても小規模と言いつつ全海域ダブルゲージとか運営ぇ……
「さて、どうしたもんか……」
ルーマニアの聖杯大戦なる戦いにキャスターとして駆り出された俺だが、なんというかさ、
「俺、忘れ去られてないか?」
特に戦力的に役に立つこともないと監禁されている『赤』のマスター達の食事を作ることだけやっていたら、いつの間にかマスターが監督役に変わり拠点だった教会が空を飛ぶ宝具と化していて戦況も大分変わっていた。
まあ、戦力として数えられても困る程度のおっさんに今から何が出来るわけでもないから、事が終わるまで元マスター達の食事を作り続けているのが自分が出来る最善なのだろう。
が、だ。
「だからって何もしないのはなぁ……」
監督役のシロウ・コトミネ改め天草四郎には思う所が無い訳じゃない。
一応日本人であるため、天草がどんな生涯を送ったか触り程度には知っている。
そんな彼が残存する『赤』のサーヴァントを率いてまで叶えたい願い……ろくなもんじゃねえよな。
パッと思い付くだけでも徳川への復讐とか江戸時代に基督教の国教化とか後世が笑えなくなる事態しか思い浮かばないんだよ。
「まあ、やるだけやってみよう」
話し合う余地ぐらいは在る筈。
それさえ無いにしても天草の願いを聞くぐらいの権利は有るだろうさ。
そう思い天草を探しに向かうと、すぐにテラスで寛いでいるように見える姿を見つけた。
「おや、何かありましたか?」
「少し話がしたくてな」
「話ですか?」
慇懃と言うか、どこか胡散臭い雰囲気の天草におれは早速本題に入る。
「俺はお前さんが何をしようとしているのかなんも聞いちゃいないからな。
それを聞きに来たのさ」
「……ああ、そうでしたね」
すっかり忘れていたと言いたげな天草に若干思うものを抱きつつ言葉を待つ。
「私の目的は第三魔法を以てこの世界から死を排し、恒久的人類の救済を実現することです」
「……え?」
いや、なんつうか、
「徳川に復讐しないのか?」
思わぬ答えについ口にしてしまい、途端に天草の表情が険しくなる。
「貴方は私の事を知っているのですね?」
「書籍に残されている程度にだけどな」
下手に言い繕えば不味いと察して素直に言うと、天草は僅かだが険を緩める。
「……イギリスの英霊である貴方がどうして私に詳しいかは後にしておきましょう。
確かに復讐者として喚ばれたなら何をしてでもそう願っていたでしょう。
ですが今の私は裁定者として在ります。
なればこそ恨みを捨て人類の救済を願います。
それで、貴方は私に賛同して頂けるのですか?」
そう締め括る天草だが、拒否すれば自害させるだろうなってのがなんとなく察せられた。
なんでかと言うなら、雰囲気がまんま初対面の時のアグラヴェインを思い出すからだ。
それはそれとして、だ。
「死を排すると言ったが、それで本当にどうにかなると思ってるのか?」
だとしたら甘すぎるにも程がある。
そう問うも天草は勿論それだけでは無理でしょうと言う。
「ですが、死の恐怖から解き放ち、時間という制約さえ無ければ何れ全ての人は解り合えると私は考えています」
「……成程」
言ってることは分からんでもない。
不可能だと言われる原因を削除することで到達の為の敷居を下げようってのは間違いだとは言わない。
だがなぁ……
「二つ聞きたい。
一つはそれは星の
「ええ。
それが必要となるなら人以外の動植物もあまねく第三魔法の対象にしますよ」
「それは惑星もか?」
「え?」
そう問えば天草は耳を疑う様子で顔を強ばらせた。
「え? じゃねえだろ。
太陽の寿命は約百億って言われてんだ。
地球だって其ほど違いはないだろうし、太陽系全てが居住不可能になっても人類が滅びれないってなったらどうやって生きていくんだ?」
「それは……」
「俺に思いつく程度のその先の答えは余所の星への侵略ぐらいしかないが、それは今と何が違うのか教えてくれ」
「」
その事に考えさえ及ばなかったと言うふうに絶句する天草。
俺は忘れていない。
無いなら奪うしかない。
そうやって拗れに拗れたのがサクソン人のブリテン侵略だったんだ。
辛うじてブリテンの処遇にローマとの落とし所が見付かったからモードレッド王はブリテンの解体まで治世を纏められたが、そうなっていなかったらアーサー王より酷い結末になっていただろう。
「それに、俺としてはこっちの方が重要なんだが」
「……」
まだ何を言うつもりなんだと警戒する天草に俺はもやつく感情を真っ直ぐぶつける。
「死なないなら食う必要もないよな?
だったら『料理人』は何を生き甲斐にしたらいい?」
食べるとは即ち生きるための行いだ。
「俺は食わせた人に喜ばれる以上の功績なんかどうでもいいし、後世に忘れ去られて『座』が無くなったのならそうかと納得してやる。
だが、『料理人』としての矜持は譲れねえんだよ」
食材が足りず食わせてやれない奴が山程居た。
必死に食材をかき集めても間に合わず飢え死にさせた事だってあった。
だから食えずに餓えて死ぬ人間が居なくなるってなら諸手を挙げて賛同してやる。
「俺は生前、『生きるために食う』事に、食事を通して生を噛み締めさせる事に最高の喜びを感じていた。
だが、その世界ではそれはもう誰にも与えられねえんだろ?」
全ての料理人が同じような矜持を抱いているなんて思わねえ。
だが、
「食うことが酒や煙草と同列の嗜好品となっちまうような、そんな世界で俺のような料理人はどうすればいい?
いや、料理そのものが命を奪う行いである以上その世界では食うことは勿論、料理人は全員『悪』と断ざれるかもしれないな」
全てを救済したいと嘯きながら、悪でなかったものが悪と裁かれるかもしれない可能性を突き付けられ、天草の顔から生気が消える。
「わた、わたしは……」
必死な様子で口を開こうとする天草に俺は背を向ける。
「俺からは以上だ。
お前さんの願いが完全に間違いだなんて思えないから否定はしねえ。
だが、お前さんの作る未来に希望を奪われるものが確かに存在することだけは頭の片隅にでも留めておいてくれ」
そう言うと会話を打ち切り俺はテラスを後にした。
その後の事は記録にはない。
俺がサーヴァントの誰かに討たれたのか、聖杯が無くなり消滅したのか判別は着かないが、少なくとも世界から死が消える様子は今のところ無いようだった。
愉悦「料理って生きる喜びを与える事と奪った命に感謝する行為なんだから、天草のやろうとしてることは料理長の全否定だよな」
この一言で今話は完成しますた。
正直目から鱗だったよ。
珠には役に立つんだが、それが天草で愉悦したい一心だから質が悪い……
しかしこれ経由してからカルデアで会ったら、天草は料理長を本気で苦手に思ってるだろうな。
以下はお蔵入りより天草編の初期プロットを転載。
お互い今回のアポクリ時空の記録がなくカルデアで初対面だったらという設定です。
『料理長と聖人』
天草「人類救済の意見を是非貴方に」
料理長「揃いも揃って何故に俺に相談を持ちかける?」
天草「私の至った結論の是非を下さい」
料理長「頼むから話をだな…」
天草、全人類の不死化による解決策を提示
料理長「天草さん、そいつは止めておいた方がいい」
天草「何故ですか?」
料理長「死を無くしたら命の価値が下がるだろ?」
料理長、死による解決の破綻と死なないことによって生を軽んじるだろう辛い世界になることの懸念を語る
料理長「いつか、誰かが『死』こそが救済だと至った時に、天草さんはそれを否定できるのかい?」
天草「……」