二年近く間のあいた作品が日間ランキング二桁に居たとか俺の見間違いだよね?
それと今更ですが、各話のタイトルで料理人と料理長が混在してるのは時系列の違いです。
料理人はキャメロット時代初期から中期
料理長はキャメロット中期以降及びカルデアになります。
アーサー王の1日は長い。
早朝日の出の前に寝所から起きて執務室で書類作業を開始する。
最近義兄が雇った厨房役の手による美味なる朝食をしっかり噛み締め活力とし再び書類作業へ戻る。
「陛下。今季の収穫予想が纏まりました」
その最中書類を手にした宰相アグラヴェインが入室した。
「どうだ?」
「冷害等の不測の事態が無ければあの者の助言通りに試している場所の収穫量は、少なくとも前期の4割強は増えるのは間違いないかと」
「そうか」
人糞を再利用する肥溜め農法以外にも文字通りゴミでしか無い屑野菜の皮や刈り取った雑草等を堆肥に変える方法や農地を休ませずに活用する四圃輪栽の導入は、成功すれば家畜や馬の飼料も安定化しこれを普及させられるようになれば村を枯らして軍備をという回数も減らせるだろう。
「サー・ケイの判断は正しかったな」
「……そうですね」
危険分子として排除する予定の存在を客分としてキャメロットに招くばかりか円卓の食事を任せると宣言した時には離反さえ疑ったアグラヴェインだが、今日に至るまでに彼の知識によって得た利益は計りしれず同時に飢えを退けるだけの作業であった食事に彼自身も愉しみを抱かずにはいられず臍を噛む思いをさせられていた。
「アグラヴェイン」
「なんでしょうか?」
「卿は料理人の事を疑っているのか?」
そう聞かれアグラヴェインは「はい」と正直に告げた。
「あの男の持つ知識と技術は有益で、花の魔術師が問題無いと太鼓判を押していようとやはり陛下の手元に置いておくべきでは無いと思っています」
本人が二心なく善意から助けられる者を出来る限り助けただけであろうと、その結果としてアーサー王の権威に僅かにでも翳りを生み出したのは事実なのだ。
アーサー王に知恵を授け天に帰ったと民には触れを出して闇に葬るべきとアグラヴェインは考えていた。
「卿の考えは理解した。卿の懸念も理解している。
だが、それでも彼を排するのはならない」
「…畏まりました」
害を成してくれれば強引にでも処分出来るが、現状彼は益のみを齎しており王がそう申された以上アグラヴェインに彼を排除する事は叶わない。
忸怩たる感情の根源が信を預けられている『彼』への『妬み』である事に気付いてさえいないアグラヴェインが静かに退席していくのを眺め、アーサー王は徐にマントと冠を外し簡素な服装に着替えて執務室を出ていく。
「失礼します」
そうして厨房へと向かってみると、先の話に出てきた『彼』は真剣な顔で竈を睨んでいた。
アーサー王の声にも気付かないほど集中している様で竈からは麦が焼ける良い香りが鼻腔を擽り、無視された事への不快感なんて物は邪魔をした自分のほうが無礼だと叱咤する程に食欲がアーサー王を支配していた。
「良し、行ける」
『彼』は不意にそう口にすると先端が平たくなった大きな箆を窯に差し込み手早く引き出すと、箆には野菜と肉の上に刻んだチーズを載せた平たく広げられた麦の焼き物が乗せられていた。
それをまな板の上に移すと『彼』は真剣な顔で出来栄えを矯めつ眇めつ確認する。
「焼き時間はこれで大丈夫だな。
後は切ってみないとっ…うおっ!? アルちゃん!?」
そこで漸くアーサー王の存在に気づいたようで、見ている方が笑える程にびっくりしながら『彼』は声を掛けた。
「いやすまないな。
来ていたのに気付かなかったなんて」
「問題ありませんよ。
貴殿が真剣に料理に向き合われていた証なのですから」
非礼は赦すとそう流し自分への振る舞いなんてものより目の前で「私は美味しいぞ?」と香りで誘惑してくる魅惑の食べ物が何であるのかと視線が向きっぱなしになったままアーサー王は訊ねた。
「それよりもその平たいパンは何という料理なのですか?」
「こいつは『ピザ』だな。
といっても、まだまだ完成品とは言い切れないがな」
そう謙遜を口にするが、アーサー王からしてみればこれでも贅沢過ぎる逸品に見えた。
「これで未完成と?」
「出来自体は問題無いはずなんだが、陛下に出すとなったら不安が残っててな」
そう言うと『彼』はアーサー王から見ても素晴らしい業物と分かる包丁を使いピザを8等分に切り分ける。
「折角だから食べてみるかい?
俺としても感想を貰ったほうが改善点が分かりやすくて助かるんだ」
「是非お願いします!」
美味しいを逃すなんて許されるはずが無い。
食い気味にそう言うとアーサー王は切り分けられたピザの一切れを掴んで持ち上げる。
すると…
「ああっ!?」
切られたはずのチーズがしつこく絡み合い、ズルリと上の具材をアーサー王から奪ってしまった。
「なんと無礼な…!?」
自分から具材を奪い取ったチーズに聖剣を抜きかねない程怒るアーサー王。
そんなアーサー王の様子に『彼』は「あるある」と苦笑しながら残ってしまった具材を隣の一切れに移しその一切れをアーサー渡した。
「ほらこっちを食べな。
それは俺が食うからさ」
「いえ。これはこれで食べます」
そう言ってアーサー王は薄くソースだけになったピザを食べてみる。
ふわりとしながらもしっかりと麦の美味しさを感じられる生地は噛み応えも硬すぎることはなく、保存のための石パンに慣れたアーサー王は天の恵みと言う言葉を想起させた。
「…これだけでも馳走ですよ」
「ただのピザ生地なんだけどなぁ…」
侘びしくなったピザ生地に絶賛するアーサー王に物悲しささえ感じる『彼』に構う余裕もなく、丁寧にかつ迅速にそれでいて一噛み一噛みをしっかりと甘受しながらピザ生地を完食する。
そしていよいよ具材付きのピザへと挑む。
「っ!!??」
肉の旨味。野菜の甘味。ピザ生地の香味。それらをチーズが纏め上げ包み込みアーサー王の味覚にエクスカリバー級の衝撃を叩き込んだ。
「……」
口の中で繰り広げられる味覚の戦争の激しさはカムランの丘にも匹敵する激戦であり、感想さえ口にする余裕もなくアーサー王はもっきゅもっきゅと無言で咀嚼する。
そうしてアーサー王史上最強の敵との戦いを制し、その余韻を噛み締めながら万感の想いを込め感想を口にした。
「天上の楽園を垣間見ました」
「言い過ぎ言い過ぎ」
重すぎる称賛に苦笑するしか無い『彼』にアーサー王はしかしと口にした。
「これほど素晴らしい料理が未完成とは信じられません」
「味の方は大丈夫みたいで安心したんだが、ほら、さっきみたいな事が起きたらと思うとな」
「ああ…」
取ろうとして具材が残ってしまうトラブルを思い出しアーサー王は納得する。
「最初は大皿に焼いて円卓の騎士の等分に切り分けてなんて考えてたんだが、今みたいなのが起きたら喧嘩になりそうだからさ」
「なりますね。確実になる」
状況次第ではアーサー王が円卓を叩き割るだろう。
「此処にいたのか」
と、そこに義兄であり『彼』の上司でもあるサー・ケイが厨房に現れた。
「姿が無いから探していたが、何をやっていたんだ?」
美味そうにピザを食むアーサー王に兄としての喜びを隠し呆れた様子でそう尋ねる。
「シェフに少しばかり話があったのですが」
「目の前の美味いもんにどうでもよくなったんだな」
お前らしいとくつくつ笑うケイにムッと頬を膨らますアーサー王。
「まあまあ。
それはそうとケイもどうだ?
泡の出が良いエールで決めると最高だぞ?」
「ほう? そいつは大きく出たな」
酒と合う料理と聞きウキウキしながらピザを手にするケイ。
そしてアーサー王が引っ掛かったチーズの妨害も捻ることであっさり回避しピザを口に放り込む。
「確かにエールが欲しくなるな。
腹持ちも良さそうで悪くない」
「……」
自分と同じ失敗を回避したケイにますますむくれるアーサー王。
そんな様子に「どうした?」と『彼』に問うも『彼』は彼女の名誉のために暈して答えた。
「ケイの感想が気に入らなかったんじゃないか?」
「そうなのか?」
「そうです」
敢えて恥を晒す必要は無いと『彼』の配慮に乗ってそう口にすると、何となくを察したケイはアーサー王が
アッくんが不穏だけどアッくんは基本アーサー王以外皆嫌いだから仕方ないね。
それにちゃんと認めるから大丈夫だよ。
さり気にノーフォーク農法広めてる?
ほら、イギリス発祥だし後世がやらかして18世紀まで失伝すれば帳尻合うから(目逸し