愉悦『なあ』
自分『どうした?』
愉悦『ガレスのギフトの【不浄】ってもしかしてお腐れ様の自重無くす』
自分『そうとしか思えなくなるから言うな!!』
後、申し訳ないですが短いです。
二人のアルトリアが召喚されて数日が経過した。
アルトリアの至った平行世界の結末に同じ円卓とは思えない落差から絶望したセイバーだが、しかしそれは平行世界の話であり自身のブリテンの救済は別と聖杯を求めることにした。
それに対し士郎は参加に難色を示すも、冬木市の最近の事件が他マスターの被害者である可能性が高いことを凜から聞き、己の願望である正義の味方として見過ごせはしないとセイバーに協力することを誓う。
そうした中、アルトリアは自分が監督役の下に向かう一同とは別行動をすることを提案した。
理由は当然に戦略的観点からだ。
同一人物の多重召喚という異常事態を活かし、間諜として敵勢力の察知に走ろうと考えていた。
これに対しセイバーから異議が挙がったが、アルトリアは霊体化に加え生前山狩りで鍛えた気配遮断が有るから問題ないと突っぱねる。
その答えにセイバーは眉をひそめた。
「は? 狩りならば聖剣で森ごと薙ぎ払えばいいでしょう?
薪の調達も兼ねられて一石二鳥ではないですか」
その答えに唖然とする士郎と凜。
そしてアルトリアはその答えに己の恥を突き付けられうんざりした。
「短期的になら正解でしたが、長期的に見れば悪手ですらない愚の骨頂でしたよ」
「何?」
「いいですか
樹と呼ぶに適した植物が育つまでには最低でも五年は掛かるんですよ?
それを後先考えずに伐採していたら森が枯れて只でさえ痩せたブリテンが更に痩せ細るのですよ?」
「し、しかしだ」
「その上、樹を薙ぎ払い森が痩せれば草や木の実を食む獣が減り、草を食む獣が減れば肉を食う獣が餓える。
その餓えた獣が人を喰らいに山を下り、それを討伐するために兵を動かさねばならなくなる。
そして兵を動かせば兵站が更に減る。
これが愚の所業でなくてなんと言うべきですか?」
「……」
身に詰まされていた獣害の原因を今更知らされ崩れ落ちるセイバー。
「やはりわたしはおうになるべきじゃなかったんです……」
自慢のアホ毛を萎びさせながら涙の川を作るセイバー。
「士郎。
彼女を頼みますね」
「いや、完全に丸投げですよね?」
士郎の突っ込みに対ししかしアルトリアはさっさと霊体化してしまう。
逃げたのではない。
これはお互いに冷静さを取り戻すための戦略的撤退である。
そう言い訳しつつアルトリアは偵察のためその場を後にした。
そうした事が有ってから数日後、アルトリアは有益な情報を得たため久しく離れていた士郎の屋敷に舞い戻ってきた。
「戻りました士郎」
「セイバー!?」
茶の間で休んでいた士郎は霊体化を解いて現れたアルトリアに驚く。
「一体今まで何処に居たんだよ?」
「音沙汰もなかったことは謝ります。
ですが先ず聞いてもらいたいことがあります」
「聞いてもらいたいこと?」
「はい。
キャスターとの同盟の算段が立ちました」
「キャスターと?」
現在士郎達が把握していないキャスターの名に士郎は耳を疑う。
「はい。
詳しい話は
おそらく家の中に居るのだろうと問えば士郎はすぐに呼んでくるとその場を離れる。
そうして士郎とセイバーに加え凛とアーチャーが揃い、最初に凛が口火を切る。
「ふうん。
キャスターとの同盟ね?」
凛はアルトリアがキャスターから洗脳ないし何らかの操作を受けているのではないかと懸念していた。
そんな疑念の篭る視線を受け、しかし今はその疑いを晴らす術はないと問題を切り出す。
「ええ。
ですが事態は少々複雑ゆえ、少し前から話させてもらいます」
そう前置くとアルトリアはこれ迄の行動を語る。
「私がキャスターと接触したのは偶然でした。
活動資金の捻出のため、針子のアルバイトの面接を受けに行った先で」
「待ちなさい!!」
アルトリアの話に早速突っ込みを入れるセイバー。
「偵察しに行ったのでは無かったのですか?」
「ええ。
ですが先立つものが無ければ得られるものも無いでしょう?
如何程必要かもわからない金銭をマスターに出させるわけにもいきませんし」
「それは……」
自分達の時代ならともかく、現代において士郎の年の年代はまだ親の扶養を必要としている頃。
そんな相手に金の無心をねだる恥をセイバーも理解して二の句を澱む。
「というより私としては、かのアーサー王が針子のアルバイトをってのが引っ掛かるんだけど?」
凛の何気無い言葉にアルトリアはそうですか?と首を捻る。
「縫い物は騎士の嗜みですよ。
私とて見習いの頃はよく練習させられましたし、叙勲した後もコートの解れ等は基本的に自分で縫っていました。
それに、針子を雇うお金があったら他の経費に回せますから……」
暗に貧乏だから自分でやってたんだと告白したアルトリアにセイバーも覚えがあるため表情を沈痛に染めて落ち込む。
「と、とにかく、そこでセイバーはキャスターを見付けたんだよな?」
また冷蔵庫を空にさせられるのではと内心肝を冷やしながら士郎は無理にでも本筋へと引き戻す。
「はい。
というより、その雇い主がキャスターだったんです」
「なんでさ」
サーヴァントがアルバイトの募集を掛けてたという話に思わず突っ込む士郎。
しかしそこは些末とアルトリアは話を続ける。
「本人の思惑はともかく、私はそこでキャスターから聞き捨てならない話を聞かされました。
曰く、この地の聖杯は呪詛により汚染されており、このまま聖杯を完成させようものなら冬木の街どころか世界規模の大災害になるだろうと教えられました」
その言葉に空気が凍り付いた。
おまけ
【アルトリアが反省する話】
アルちゃん「見てください料理長。王が本日の狩りで仕留めた獲物です」
料理長「こいつは凄いな」
アルちゃん「でしょう?」
アルちゃん「料理長にも一度王が聖剣で森を薙ぎ払い、獲物を追い詰める姿を御覧いただきたいものです」(自慢気)
料理長「森ごと薙ぎ払って……」(苦虫を噛み潰したような顔)
アルちゃん「どうしたんですか?」
料理長「……いやさ。このままアーサー王が毎度毎回そんなふうに森を考えなしに破壊し続けていたら、数十年後のブリテンが砂の大地になるんじゃないかと心配になってな」
アルちゃん「どういうことですか!?」
料理長「折角だからアルちゃんも覚えておいてくれ」
料理長、生態系と自然のサイクルについて解説する。
アルちゃん「な、成る程…。料理長の懸念も理解できました」(震え声)
料理長「王様が生態系のいろはなんて知る必要も無いから知らなくて当然とはいえ、作物の取れ高が落ち着いている今のうちに未来を見据えた環境作りを考えてもらいたいもんだな」
アルちゃん「ご安心を料理長。その懸念はサー・ケイを通して必ず王の耳に入れていただきますので安心してください」
料理長「そうか?
だけど、二人とも無理すんなよ?」
アルちゃん「大丈夫です!!」
後日
アグラヴェイン「料理長。貴方に心からの感謝を」
料理長「……俺、なんかしたか?」
アグラヴェイン「貴方によって私の胃痛の種が一つ消えた。それだけです」
料理長「そ、そうか……?」
この後、アルトリアは狩りの方法を改め、気配遮断からの一撃必殺に重きを置く。
これが後のヒロインXへの第一歩であった。