Phantom of Fate   作:不知火新夜

10 / 14
1日目-9

「何を考えているんですかシロウ。サーヴァント、それも私と互角以上の力を持ったバーサーカー相手に、マスターである貴方が突撃するなんて。ライダーが介入したから良かったものの…」

「まさかマスターである貴方が前線に躍り出るとは思いもよりませんでした。桜から念話でバーサーカーのマスターを人質に取る様に指示が来た時は、何かバーサーカーに打つ手があるのか、とは思っていましたが…」

「悪い、セイバー、ライダー。始まって早々にセイバー達の宝具を使わせる訳には行かないし、レヴァンテインならバーサーカーをも倒せる、なんて思ってさ。まさか死んでも蘇生するとは考えていなかった、軽率だったな…」

「流石に今回は俺も擁護出来ねぇぞ、士郎。レヴァンテインがどれだけすげぇ宝具かは重々理解しているが、それも絶対じゃねぇ。今回みたいに凌がれる事もあるんだ。もしお前が殺されたりしたら…」

「士郎だけの命じゃないんだから、士郎が殺されたら、私…!」

「本当にごめん、天音、零、皆。今度から気を付けるよ」

 

イリヤと、彼女のサーヴァントであるバーサーカーの襲撃を何とか退けた士郎達、屋敷に戻って早々に始まったのは、バーサーカーに突撃するという無茶を仕出かした士郎への追及であった。

それも当然であろう、聖杯戦争においてマスターの存在は重大、魔力供給等からサーヴァントを現界させるのにはマスターの存在が欠かせないのだ、よってマスターが倒されれば契約しているサーヴァントがどうなるかは言うまでもない、それはマスターとしての役割を図らずも分割出来た士郎と天音も例外ではないかも知れない。

それを抜きにしても天音達にとって士郎はかけがえのない大切な存在、その士郎が殺されたかも知れないのだ、それが実際に成されてしまった時の事が頭を過ぎる、その恐怖は計り知れない物であろう。

士郎も自分がどれだけ軽率な行動をしていたか、もし一歩間違えればどんな事態になっていたか、そしてそれによって自分の大事な存在がどうなってしまうか、それを理解していた為、素直に謝罪していた。

 

「それにしても士郎。そのレヴァンテインという宝具と思しき刀ですが、それもまた『作った』のですか?バーサーカーを7回も殺したらしきあの灼熱、私の宝具と同等クラスの力を感じましたが…」

「確かに、あの灼熱は凄まじい物でした。あのバーサーカーをも呑み込んだあの宝具の力、人ひとりの力でそう作れる代物ではない筈、いやそもそも宝具を『作れる』事自体が想像を絶する事ですが…」

 

謝罪する士郎の心から反省する様子を感じられた事でその追及は終わり、次はバーサーカーをも殺して見せた士郎愛用の刀レヴァンテインについて、引いては士郎の魔術師としての在り様についてだった。

宝具とは人々が抱く幻想が武装と化した物、主にサーヴァント達自身や、生前持っていた武器に関する伝説が具現化した物、セイバーの言う通り、一介の魔術師が簡単に作れるものではないのだ。

が、士郎はそれを作れ、実際に自ら作った『悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)』を実戦で何度も使って来た、更にレヴァンテインでバーサーカーをも(蘇生こそされたが)殺して見せた。

士郎がどれだけ特殊な魔術師であるか、それは言うまでも無いだろうし、気になるのは必定という物だ。

 

「まあ気になるよな、そりゃあ。1つ補足したいんだけどさ、実を言うと俺が『作って』いる宝具は厳密に言えば宝具『その物』じゃないんだ」

「宝具『その物』じゃ、無い…?」

「ああ。宝具の外観、基本構造、骨子、纏わる伝承、内包されし力…

それらを脳内で思い描いて再現した物、言うなれば『贋作(レプリカ)』だな。俺はそんな宝具の贋作を作る事に特化した『贋作者(フェイカー)』なんだ。使える魔術も『解析』に『強化』に『変化』、そして実際に宝具を作り出す『投影』くらいしかない。尤も、どれも普通のそれじゃないけど」

 

士郎が挙げた魔術、それは投影を除けば初歩と言って良い物、投影も折角成功しても普通は直ぐに消失して、結局は無駄に終わってしまう事から、普通の魔術師なら使わない物だ。

尤も、士郎曰く『贋作』とは言えど宝具を投影できる時点で普通じゃ無いが。

 

「そんな俺がただ1つ手にした宝具の『その物(オリジナル)』…

贋作者としての俺の在り方に気付き、歩み続けた事で手にした、1つの答え…

それがこのレヴァンテインなんだ」

「成る程、名前からして北欧にて神々の黄昏が起こりし時に振るわれるあの剣を思い起こさせましたが、名前が似ていただけの、別物の様ですね」

「それにしても、その年であれ程の力を有するレヴァンテインを手にする域にまで至るとは、やはり凄いですね、シロウは…」

 

そんな普通ではない自らの在り方に気付き、それを極める事…

それは決して楽な道のりではない筈だ、けれどもそんな道を歩み続けた事で得た『宝具(答え)』であるレヴァンテイン、それを掲げる士郎の顔には、何処か誇らしげだった。

 

「凄いですね、お義兄さん。人とは違った自らの可能性に早くから気付いて、どんなに苦しくても前を向いて歩く、その末に掴んだレヴァンテインを手に、あのバーサーカー相手にも立ち向かっていった…

本当に、凄いです。それに先輩もお義姉さんも、お義兄さんを守るためにサーヴァント相手に奮闘していたって聞きました。あの時、何も出来なかった私とは大違いです…」

「そんな事無いぞ、桜。あの時桜は、危険を賭して俺達を助けに来てくれた。その来てくれた桜が、ライダーの真名を態々明かすなんて事をしてまで、聖杯戦争に関して色々教えてくれたから、俺は本当の意味で、聖杯戦争に臨む事が出来た、聖杯戦争に加わる決意が出来たんだ。もし桜から話を聞いていなかったら、多分考え無しに行動していて、本当に殺されていたかも知れない」

 

そんな士郎の、更には零や天音の奮闘ぶりを見聞きしていた桜は、一方で何も出来なかった自分を恥じる様な言葉を呟いていたが、士郎はそう思っていなかった。

 

「そういえば、サクラ。士郎が言った様に、先程から聖杯戦争に関して大まかながら分かりやすい説明をしていたり、ライダーの真名を態々明かしたり、何故其処までの事を?幾らシロウ達にとって家族の様な存在と言えど別々のサーヴァントを持ったマスター同士、もしもの事もあるでしょうに」

 

桜という存在がいたが故、桜の行動があったが故に、ある意味で士郎の命があると言っても良い現状、一方でセイバーはライダーのマスターでもある桜の今までの行動に、当初から気になっていた疑問を呈していた。

そんなセイバーの、桜を疑うというあんまりな言動に士郎達は渋い顔を浮かべていたが、サーヴァントである彼女が疑問を呈すのも仕方ない事なので苦言を挟む事は無かった。

 

「そうですよね、セイバーさん。普通ならそう考えるでしょう。でも私には先輩達を疑う事は、裏切る事は出来ませんから。先輩達には返し切れない恩があるのに、そんな事したら、罰があたっちゃいます」

 

そんなセイバーの様子も当然だと、気分を悪くする事無くその疑問に応じる桜、彼女から語られた事実は、士郎達を驚愕させた…

 

------------

 

「衛宮士郎、か…

よもやあのセイバーを従えて参戦するとは、これもまた必然、か。それにしても、雑種の身でありながら終末の業火を掴み取り、我が物として見せるとは、面白い奴だ。この世もまだ捨てた物ではない、という事か?1度会うてみたい物だな、セイバーからの答えも聞かず仕舞いだったからな、丁度良い」

 

同じ頃、とある場所で、1人の男が何処か興味深げに、そう呟いていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。