Phantom of Fate   作:不知火新夜

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1日目-5

「まずは聖杯戦争について、ですね。聖杯戦争は読んで字の如く、あらゆる願いを叶えると言われている願望機『聖杯』の所有権を巡って起きる戦争の事です」

「戦争だって?戦争って、一般的な意味での、あの戦争の事か?それが、この街で…!?」

「はい、正しくその戦争です、お義兄さん」

 

開口一番で桜の口から出た『この街で戦争が行われている』という言葉…

それを聞いた士郎の脳裏に、此処最近勃発している怪事件や、先程の青ずくめの男の襲撃等が過って思わず渋い顔になるも、桜に話の続きを促す。

 

「と言っても、存在を知ってさえいれば誰でも加われる、という訳ではありません。基本的にこの戦争に加われるのは、選ばれた魔術師7人のみ。その選ばれた魔術師の証と言えるものが、令呪と呼ばれる物です。お義兄さんは最近、何処からともなく傷跡がついた、なんて事ありませんでした?」

「ああ、そういえば今朝、左手の甲に何時付いたかわからない傷跡があったけど…

あれ、何か赤くなっている様な…?」

 

その桜からの質問に、士郎が己の左手の甲に目を向ける、すると其処に刻まれた傷跡が赤みを帯び、何やら模様らしきその姿の全体像が浮き彫りになっていた。

その形は何処か剣の様に見える。

 

「それが令呪です。それがこの戦争に加われる資格であり、この戦争を戦う上で重要な、様々な役割を持った物です。その1つが、セイバーさんやライダーといったサーヴァントとの契約書と言える物。サーヴァントは一言で、この聖杯戦争を戦う上で重大なパートナーです。先輩達も目の当たりにしたでしょうが、サーヴァントは人間では太刀打ちできない程の戦闘能力と、一般的な兵器では傷1つつかないと言って良い防御力、そしてさっきのライダーみたいに霊体となって、普通の人から殆ど感知できなくするステルス性を有しています。基本的にサーヴァントと戦えるのはサーヴァントだけです」

「ああ。あの凄まじい速さの立ち回りに、目玉にしか銃弾が効かない程の頑丈さ…

正直、殺されてもおかしくは無かったと思う」

「うん…」

 

桜からの説明が続く中で、士郎達は先程の青ずくめの男――サーヴァントと呼ばれる存在との戦闘を思い出し、その化け物としか言いようのない強さに危機感を覚えていた。

無理もない、その圧倒的な強さは、士郎は無論の事、零達も死を覚悟した程なのだから。

 

「と言っても、サーヴァントにも千差万別あります。その1つがセイバーさんやライダー、と言った『クラス』です。この聖杯戦争に加わるサーヴァントは其々『剣士(セイバー)』『弓兵(アーチャー)』『槍兵(ランサー)』『騎兵(ライダー)』『魔術師(キャスター)』『暗殺者(アサシン)』『狂戦士(バーサーカー)』という7つのクラスに分けられます」

「セイバーは読んで字の如く剣術に長け、ライダーは乗り物に乗って戦う事を得意とする、って感じか」

「となるとあの青ずくめのサーヴァントはランサー、その可能性が高いって訳だな」

「はい、そういう戦い方とかで分けられる事が多いですね」

 

此処で士郎の脳裏に1つの疑問が浮かぶ。

あの赤い外套の男、青ずくめのサーヴァント――ランサーと互角に渡り合った事からサーヴァントだと考えられる。

その得物は白黒の短剣、となればクラスはセイバー、と普通は考えるだろうが、当のセイバーは自分が召喚した、側で控えている少女だし、他のクラスを考慮しても、ライダーは桜のサーヴァント、アーチャーやキャスターはあの立ち回りからして考えにくい、となるとどんなクラスなのか…

 

「あと、サーヴァントの個性と言って良い2つ目の要素が『真名』です。実を言うとサーヴァントは、この世界の歴史にその名を刻んだ存在、らしいんです。例えば私のサーヴァント、ライダーの真名は、ギリシャ神話に登場するゴルゴーン3姉妹の末っ子『メドゥーサ』です」

「ら、ライダーのマスター!?態々自らのサーヴァントの真名を…!?」

「メドゥーサ!?メドゥーサって、あの髪の毛が蛇みたいになっている、あの!?」

「確か、見た物を石に変える力があるって伝承があったな」

「最後は、ペルセウスに首切られて死んだ…」

 

それは兎も角、真名の説明の際に桜がライダーの真名を暴露した事に関して、セイバーが戸惑いを見せる一方、士郎達はライダー――メドゥーサがどんな存在かを話し合っていた。

 

「御免ねライダー。でも先輩達はともかく、セイバーさんの信頼を得る為には必要な事なの…

あ、すいません、話を続けますね。今先輩達がライダーの事について色々話し合っていた様に、真名を知られる事は正体を知られる事。どんな存在なのかが公にされてしまうという事であり、対策を立てられる事に繋がりかねない、という事です。ライダーの真名を知られると、今先輩が言った『魔眼』の効果が及ばない視界の外から襲撃されかねない、という様に。だから基本的に真名がバレない様、サーヴァントもその主人である魔術師――マスターも気を付けないといけないんです」

 

そのバレてはいけない真名を態々バラしたのは貴方でしょうに、と言いたげな表情を隠そうともしないセイバーだったが、その真意を図ろうとしたのか口をはさむ事は無く、桜の説明は続いた。

 

「そしてサーヴァントの個性と言って良いもう1つの要素、そしてサーヴァント達にとっての切り札が『宝具』です」

「宝具って、その名を宣言する事で秘めたる力を解放する、伝説の武具の事だろ?」

「え?知っているですか、宝具?」

「ああ。知っているっていうか、作れるしな、俺」

「「「え」」」

 

だが宝具の説明に入った所で、士郎から超ド級の爆弾が投下された。

厳密に言えば宝具はサーヴァント『だけ』が持つ物ではない、現実に存在する宝具もあるにはあるのだが、まさかの士郎からの『作れる』発言に、桜やセイバーは勿論、霊体と化していた筈のライダーすら実体化してまで驚きを見せた。

 

「これが、俺が作った宝具。『悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)』って言うんだ」

「ほ、本当の様です、桜。この弾薬から、内に秘めたる力を感じます。宝具と言っても過言じゃない…」

「そ、そうなの、ライダー…」

「シロウ、貴方は何者ですか…?」

 

そんな3人に対して士郎は論より証拠だと言わんばかりに懐に入れていた7.62×51mmNato弾、もといその姿となっている宝具、悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)を差し出す。

その弾薬から感じ取れる膨大な力を感じ取ったのか、3人も士郎の言葉が本当だと実感し、これを『作れる』と言い放った士郎が一体どんな存在なのか、戦慄が走った。

 

悪戯好きの魔弾(フライクーゲル)

世界に銃器が広まっていた18世紀頃のドイツで語られた民話伝承に登場する、悪魔の力が宿った魔弾。

7発セットになっているその魔弾は、7発中6発は銃撃手の思い通りの所へと飛んでいくが、残りの1発はこの魔弾を作った悪魔の思い通りの所へと飛んでいくとの事。

今現在士郎が持っているそれにも同様の効果があるかどうかは『作った』士郎のみぞ知る、であるが、一般的な兵器では傷1つつかない筈のサーヴァント相手に眼球だけとはいえ大ダメージを負わせた事、射線から明らかに外れていたランサーに向かって弾丸が飛んでいった事の原因は、この魔弾で間違いない。

 

「こ、こほん。お義兄さんがどんな魔術師なのかを聞くのは後にするとして、そんなサーヴァントとそのマスターによる聖杯の所有権を巡る争い…

マスター同士、サーヴァント同士の欲望がぶつかり合う戦争、それが聖杯戦争なんです」

 

そんなハプニングこそありはしたが、一先ず桜は説明を終え、士郎達の様子を伺う。

 

「ありがとう、桜。正直、色々と超展開過ぎて分からない事ばかりだけど、一先ずその聖杯戦争が起こっている事、それが現実なのはわかった。今この冬木市で起こっている怪事件、あれらも恐らくは聖杯戦争に加わっているサーヴァント、或いはマスターが関わっているという事も…!」

 

全てを聞き終えた士郎、それを受けて自らの想いを語るその口調は何処か落ち着き払った様にも聞こえるが、その手は怒りの表れか、握った拳の震えが露わになっていた。

 

「正直な事を言うと、俺は今すぐにでも聖杯戦争を止めたい。出来る事なら、聖杯戦争に加わっているであろうマスターやサーヴァントに、こんな戦いは今すぐに止めるんだと説得したい。そしてこれを最初に考えた奴に「人の欲望を弄んで、関係ない人たちまで巻き込みやがって!ふざけるな!」と殴り飛ばしてやりたい!」

 

その怒りは余程の物か、口調にも怒りが込められているかの様な強さが感じられる。

 

「だけど、それは上手くいかないだろうって事も分かる。俺達は兎も角、他のマスターやサーヴァントはそれを承知で、それでもなお聖杯を求めて参加しているだろう。皆が皆、桜の様な良い子ばっかりじゃない。もしかしたら話し合いで解決できる、分かり合えるかも知れないし、そうは行かない、分かり合えないかも知れない。仮に解決できる可能性があったとしても、その間に誰かが巻き込まれるかも知れない、そうならない為に話し合いを諦めなきゃならない時が来るかも知れない」

 

その怒りのままにぶちまけた理想、だがそれはほぼ不可能に近い、それを自覚してか口調はトーンダウンした、その顔には苦渋の色が浮かんでいたが、やがてそれも吹っ切れ、

 

「ならば俺は、聖杯戦争に加わる!加わって、なるべく早く聖杯戦争を終結させる為に戦う!」

 

そう、参戦を宣言した…!

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