ムシウタ - error code - 夢交差する特異点   作:道楽 遊戯

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前回まででシリアス終了。日常パート。
キャラ崩壊な予感がします。キャラが勝手に動く言いますよね。自重しなかったのは私ではないと免罪符を掲げたいと思います。


夢歩み出す歩幅

月見里キノはイチと呼んでいる少年と右曲左折して再会を果たした。

代償として自身も虫憑きになってしまったが得られたものは大きい。

お蔭で欠落者になった少年の心を取り戻すことができたのだから。

 

 

 

 

ファーストキスは何味ですか?最高の至福の味です。

 

比喩なしにそう言えるキノ。

かつてのアリア・ヴァレィとして貪ったイチの接吻と夢の味は、甘くて濃厚で美化する必要がないほどキノに深く刻まれている。

そんなキノは今だらしなく口を弛めていた。

 

駄目だ。口許がにやけて仕方ない。えへへ。また、キスしちゃた。あれだね。リア充バクハツしろとかそんな僻みが全く気にならない位幸せだね。

幸せに満たされたトリップに冷静なツッコミをいれてくれるかつての同居人はいない。

蕩けそうな表情のキノはなかなか現実へと復帰しなかった。

 

 

約束の再会を果たした少年イチは長く伸びた自分の髪を鬱陶しく思いながら、終始口許を弛ます幼なじみキノを様子見る。

体感でもキノと会うのは久し振りの気がする。

前より背が伸びてより大人びた変貌をキノに感じるのは成長期ならでは変化である。短すぎないショートヘアーが快活な少女によく似合っている。

よく整った中性的な顔つきのスクリーンに色鮮やかに変わる表情を映し出すキノをイチは好意を寄せているが、だらしなく弛みきった顔をいつまでも見ているのも何とはなしに居たたまれない。

大胆な行為の後に、この反応。人生経験の少ないイチには気恥ずかしい。

軽はずみではないが冷静になると随分色々とやり過ぎた感が否めないのは若気の至りってやつなのか。

まだ事情や勝手がわからないイチには幸せそうなキノが元に戻るまでの間キノを見続けることしかできなかった。

 

 

 

ただいま。幸せで宇宙に旅立っていたキノは帰ってきました。ずっと見ていたらしいイチの目が少し痛かったよ。

さて取り敢えずの問題解決の方針から決めていこうか。

イチはずっと病院施設内で治療に専念してたらしいから、虫憑きの欠落者なのか怪我の後遺症なのか判断ができなかったみたい。

そこら辺の判断基準が曖昧で医師としての判断材料に困ったのかも知れないね。

ただ大喰いとの戦闘で随分暴れたから虫憑きの可能性を特別環境保全事務局が嗅ぎ付けたわけだ。

イチはあと少しで特別環境保全事務局の管理施設に容れられるところだった。

ギリギリで間に合った今回のタイミング。

ちょーーっとディオレストイさんが暴れてくれたお蔭で特環の目撃者の前後の記憶が曖昧になってくれてるのを期待します。

破壊痕から虫憑きの関与が疑われるかも知れないがしらを切り通す。そして今回の件で、復活を果たしたイチの扱いは欠落者の蘇生ではなく、怪我の後遺症の回復にしてしまいたい。

シナリオは簡単。幼なじみの怪我のショックから記憶を消した少女がアルバムを覗いて思い出した少年と再会し、怪我の後遺症で全く無反応になった少年の心を癒した。

ちょっとクサイが大衆受けのいい感動ストーリーではないだろうか。

都合のいい設定を美談にしてお茶を濁す。

実際大筋は間違っていないし、そういうこともなくはないと納得できる要素もあるだろう。

 

虫憑きかどうか判る感知能力の虫憑きも存在する。

バレてしまったら仕方ない。

問題はイチがどのタイミングで虫憑きになったのかを知られることにある。

欠落者の蘇生例は存在しない。この通説を覆す真似だけはしたくない。

怪我の完治後に虫憑きになった。そう誤解させる必要性がある。

万が一に蘇生者だとバレてしまえばイチの危険度がかなり上がる。欠落者になることを怖れるすべての虫憑きに狙われる羽目になる。それは避けたい。

あくまでも怪我の後遺症。

それを完治できた原因に疑問を感じれば私の虫の力だと嘘を重ねれば問題ない。

今のキノは虫憑きだ。周囲を勘違いさせる要素は一杯ある。バレなければ問題ない。バレてしまっても誤魔化せばいい。

そうしてイチの欠落者蘇生の事実を隠してしまう。

 

そんな訳で、現在お涙頂戴な感動の茶番劇が展開中。

 

いやあ、大人ってチョロイなー。

 

 

 

特に問題なくイチは退院を迎えた。

女の演技力の恐ろしさを知ったイチ。知りたくなかった。イチは確実に大人の階段を駆け足で登っている。

幼なじみの少女キノから聞かされた方針に沿って退院まで演技をし続けたイチ。

院内の看護師さんはその幼い子供の美談にすこぶる食い付きをみせ二人を見守った。イチは内心引き気味だった。

不器用に思える少年が少女を見詰める時、目元が優しくなるとか二人の距離がかなり近いこととかイチも無意識の内にキノの演技に貢献していたのは見守る看護師談の総意である。

ついでに騙し騙されの茶番劇も健気な少女を演じるキノの献身ぶりに砂糖を吐く想いが入院患者談の総意である。

簡単な検査と今後の経過報告の通院を最後に無事退院。

とにかく、どこもかしこも好奇の視線に囲まれる嫌な想いとおさらばである。

特別環境保全事務局に気になる動きはない。常識になった欠落者蘇生不可能の通説がイチが欠落者であることを誤診とみなしたのであろう。

局員の戦闘員も記憶が曖昧なのを気にすることなくことを進めてくれたようでディオレストイ様々だとはキノ談。

 

このまま退院しても完全な日常回帰は望めない。仮初めの日常にどれ程身をおこうともイチとキノは虫憑きだ。

日常と非日常の拮抗が破られた時、逃げることは許されていない。

一段落の節目にイチは戦いの覚悟に身を引き締める。今度はキノも戦いに巻き込まれた。二度と敗北は赦されない。

 

漸く停滞していたイチの夢が動き出す脈動にイチのズボンに絡み付くダイオウムカデが姿を見せた。

 

 

 

 

 

フリーの虫憑きが二人どう身をおくか。

猶予はあるけど見えない時限爆弾はこわいね。私の虫の制御も考えて少しでも時間が欲しいところであるが。

 

メリットデメリットを考えるとむしばねだけは着く気が湧かない。特に旧むしばねは立花利菜のカリスマありきのワンマンスタイル。直情的な彼女はブレインとしての 冷静さの資質に欠けており特環との抗争に熱が強過ぎる。彼女についても虫憑きの本質に迫ることはできないだろう。

メリットは少なく、デメリットの多い選択肢は当然却下だ。

 

特別環境保全事務局。一筋縄でいかないこの組織は地方ごとの特色も考慮しなければならない。

中央本部はあの女、魅車八重子の支配下だから論議すら値しない。

さて、魅車八重子のプロフィールでも聞かせようかな。

虫憑きの黒幕。

大体全部コイツのせい。

ふぅ、説明はこんなものか。

そんな素敵な女性の下で働いている中央本部にはディオレストイを使った人体実験なんかがされており殲滅班なんて物騒な部隊が存在するぞ。

悪よ。滅びろ

 

東中央支部はそんな中央本部に反感を懐く支部長 土師圭吾なんて名前の素敵なお兄さんがいる。超危険人物2号さん。暗躍王である。シリーズ本編初期に意識昏倒していたが最近暗躍していたことが分かりました。コイツは善人悪人呼ばわりするのも面倒なくらい腹の内が読めん。関わりたくないと本能がシャウト。

そんな素敵なお兄さんの下で働く東中央支部のご紹介。

かっこう一号指定の化物。

終了。

兜さんにみんみんさん貴方たちは説明不要ですね。モブですもの。だから泣かないで五郎丸さん。

ふざけたものの一号指定のかっこうと同じ職場はいただけない。彼こそ主人公にして虫憑きの戦いの中心にいる虫憑きの中の虫憑き。彼と同じ戦場を立つということは虫憑きの激戦地区地獄の手前までの出張を余儀なくされる。

原作知識のアドバンテージにわざわざかっこうの隣に居る必要性は少ない。

 

北中央支部は性根が気にくわない連中の巣窟だ。それなりに強力な局員も多い。だけどリスクと安全性を常としたぬるい考え方は虫憑きとして人として受け入れられない。

コイツらといても結局足手まといになるに違いない。

ただの偏見だけど。

メリットはあるがそのメリットが気に入らん。却下。

 

閉鎖的な南中央支部。積極性のないことなかれ主義もある意味面倒な連中だ。

ここは一番可能性があるところかな。

私とイチの住んでいる鴇沢町に近いし。

ただやはり最初のメリットデメリットを考えると微妙。

 

残った西中央支部は物をつくれればそれで幸せの変人の巣窟である。

イチと私が配属されるとは考え難い。

 

特別環境保全事務局。査定結果が出ました。

メリットは組織力とバックアップ。

デメリットは組織のしがらみ。危険人物多数。

地方別の査定結果

中央本部、東中央支部 危険度S却下。

その他 却下。

 

以上を持って結論。特別環境保全事務局はない。

 

まだ残っている勢力?

かっこうと同じ一号指定 世果埜春祈代を中心としたハルキヨ勢力がなくもない。

こやつもかなりのワンマンスタイルのカリスマ勢力でしかも基本自由行動。

メリットもデメリットもない微妙な選択肢だ。

旨みが少ないからやっぱり却下。

しかも本編開始以降、殲滅班別動隊として魅車八重子と利害関係にあらせられる。

 

茶深一味。並べてみたけど意味のない組織だ。

まだ特環に雌伏の時だろう。

まだ何を為すのかキノにもわからない組織。

そんな組織に強力な戦力提供するのは色々と問題だろう。

一番メリットがないし。

 

あれも駄目、これも駄目な選択肢。

 

ならどうするか。ようは後ろ楯があればいいのですよ。

権力に負けない強力なヤツをね。

 

まあ制限時間は虫憑きが身バレする時までなので、それまでは楽しくやろう。

折角の二度目の人生。交際して間もないイチとのイチャラブに物騒な虫憑き事情は持ち込ませない。

バカップルって知っているかい。私とイチとの愛を前に公共の場なんて関係ないぜ。さあ捲るめく愛のラブロマンスに出駆けようイチ。あっ。イチちょっと待っ。逃げるの、はやっ。

 

 

 

 

イチからキノの忠告を無視した大喰いとの戦闘経緯を説明されたキノの反応は意外にも力の入ったビンタだった。

 

予想通りの大喰いとの戦闘経緯はキノにどれだけ負担を与えたかを考えるとそれでも温いだろう。

なにより無謀な行動はイチ自身を欠落者にした。

そのことでキノは約束を果たして貰うどころか一生無自覚の罪を背負うことになるところだった。

奇跡的な記憶の復活がなければ今もイチは欠落者として過ごしていただろう。

少女の機転はイチを救った。だからといってイチの独断を赦すのとは別だ。

怒っているのに泣きそうな顔をするキノをイチは抱き締めながら何度も謝った。

 

 

キノからイチが蘇生するまでの経緯をあっけらかんに説明した時のイチの反応は滅多に見せない素敵な笑顔でのヘッドロックだった。

 

 

 

 

 

先生との約束で一度赤牧市の病院に行かなければならない。実はアリアと先生とはあの後少し話してみたことがあった。

一つが眠りについたアリアと忘却した先生の代わりに花城摩理の様子見することである。

どの時期に花城摩理の夢を喰らうか不明。

あの青年が万が一アリアの食欲に屈してしまった場合に備えてキノに約束を取り付けた。

同じアリア・ヴァレィとしての頼み事を断る訳もいかなかった。

正直言って気が進まない。だけど約束した以上破る訳もいかないのが実情だ。

あの時頼みを断るのは不自然だったから仕方ないと割り切る。

 

イチの蘇生に必要なアリア・ヴァレィを召喚したがその器となってる人間が先生だったとはキノも驚いたことだった。

 

おかげでかなり焦った。

アリアは花城摩理を虫憑きにした後、全盛期の力の大半を失ってしまう。

私が本来存在することがあり得ないerrorとするなら花城摩理はbugである。

身体を作り替えるアリア・ヴァレィの虫憑きの誕生システムからうまれたbugは花城摩理の身体が病に侵されていることが原因とされる。

完全なるイレギュラー。誕生した同化型の虫も破格的な強さを秘めている。

そのことを起因としたアリア・ヴァレィの故障。眠りのルールの異変、マーカー使いなんて不安定な虫を生み出すことになる。

 

原作では大助復活の為に茶深一味がアリア・ヴァレィと同化した鮎川千晴と尽力するが、もしも茶深の謎の増幅能力が必要なら目も当てられない。

 

花城摩理を虫憑きにする前の先生だったのでアリアは全盛期の力で欠落者の蘇生に当たった。

お陰さまでイチは少ない不安要素で無事欠落者からの蘇生が完了した。

もしもアリアでもイチの蘇生が不可能だったらと考えるとゾッとする。

 

 

花城摩理あのハンターと関わるのは予想外な問題だ。

 

彼女に関わることで私の知る物語が書き換えられたらと思うと今まで感じたことのない重さを感じる。

別に原作通りの展開を神聖視している訳ではない。関わることで物語が書き換わってもより優れた結末を迎えられたらそれでいい。

怖いのは間違った結末への誘導。良くも悪くも物語通りに進めば物語は正しく結末を迎えるだろう。

しかしキノはその結末を知らない。すべてのストーリーを知る前に早死にしてしまったからだ。

だから恐ろしい、変えてしまうことが。間違うことが。

救いを得られないことが。

虫憑きの戦いの多くを知りながら誰よりも希望的観測が出来るのは物語の世界を信じるキノの歪み。

自覚しているが故に答えを出している。

そう。それは転生を果たしてずっと悩み続けたことに対する答え。

その時キノは漸く夢を抱くことができた。

 

転生者キノのスタンスは行き当たりばったりだろうが熟慮の行動だろうが関係ない。

 

今は虫憑きのキノだ。

 

抱いた夢に忠実に生きる。それだけだ。

 

もしも、私が変えてしまったら。

 

すべてを私の正しさで埋めつくそう。

 

私の夢。

 

二度目の人生を謳歌することだ。

 

イチと一緒にな。

 

 

 

病室の一室で銀色のモルフォチョウと出会う。

 

 

 

 

 

イチはキノとは別に行動していた。というよりはキノに置いていかれたのが実情だ。

運動不足の入院生活は、イチの手足を華奢に衰えさせ本調子とは程遠い。そんな理由で別行動の訳だがどうもイチを関わらせない建前くさい。

本来ならキノに号指定級の強さを認められているイチを連れていかないのは違和感がある。

キノの虫の強さは不明瞭だ。まだ実戦経験がないし虫の制御訓練も十分とは言い難い。

それでもキノが一人で行動するのを許したのはキノを信頼しているからだ。

キノの行動力には目を見張るものがあるが考えなしの行動はしないので悪い結果にはならないと信じている。

 

一人で行動すると言ったキノに着いていくことが出来なかったのはキノが固さの篭った顔で頼みこんだから。

一体何を思ってキノが行動しているのかわからない。

だけど彼女が望まない選択を選べなくなったのはそんな顔を浮かべた彼女の表情だった。

 

 

 

 

 

 

先生はまだアリア・ヴァレィで花城摩理をしっかり記憶していた。

 

すでに花城摩理は虫憑きだった。

 

矛盾したアリア・ヴァレィのルール。キノの例を含めてもこの事態は本来あり得ない異例の現象である。

虫憑きを生んだのにアリア・ヴァレィは眠りにつかない。先生の中に留まり続けている。

起こり得ない矛盾、bug。

bugから生まれた虫憑き。花城摩理の虫はbugを引き継いだ銀色のモルフォチョウである。

 

 

病室に向かう途中、先生とアリアに捕まった。

そんでbugについてのお知らせが聞けた。

白々しい私の驚きはイチと私の病院ラブストーリーで演技力に磨きがかっていた。

知っていました。貴方たちがそうなることは。

だから関わりたくなかったんです。

貴方と花城摩理。二人は私の知識を持ってして救われないから。

 

 

日をそれなりに開けた再会。

勿論花城摩理が虫憑きになってから出会う意味合いを持たせた期間。

先生は記憶を失っていない。自分が生み出した虫憑きの末路を見守る。罪や罰の話になるならば、虫憑きを生んだことは罪である。罰は何か。それを知るにはまだ早いけど。

 

アリアの忘却のルールは本来なら救いだったのかもしれない。

 

 

 

いやータイミングよかったね。昨日花城摩理さんが心不全の発作を起こしてそれを救うために先生はアリアの力で花城摩理さんを助けたそうです。

私の会いに来た花城摩理さんは同化型の虫憑きになりましたとさ。全く喜べないね。

だけど当初の目的を果たせそうだ。先生とした約束。

っていうか、帰っていいかな?会う必要なくね?

私は知っていたよ。先生が記憶なくさないってね。

だけど忘れてしまう自分の代わりに花城摩理さんを一人にしてしまうことが嫌だったんでしょうね。私に頼んだわけだ。知っている私が知らない先生の頼みを断るわけにはいかなかったので出向いたけど晴れてお役目御免でいいですか。駄目ですか。

 

 

 

強力な渦を花城摩理さんの病室から感じている私です。

コイツ強いぞ。

ってな具合で分かる私の虫の能力。感知能力が備わっておりかなり広範囲に渡る索敵が出来る。

特殊型の群青のアリジゴクの虫。媒体は空間といった所か。

かなりピーキーというか弱点がある虫だ。

レアな感知能力から純粋な力だけの火種ではなく異種にカテゴライズされるべきだろう。もっとレア度の高い、秘匿性のある虫だと秘種に分類される。

イチのダイオウムカデは雷使えるらしいけど特殊能力はないから火種。私がちょっとレアな異種。

元アリア・ヴァレィとしての嗅覚が私の虫の感知能力と合わさって凄い感知力あるんだけどここの病室。

すんげぇ力の脈動感じる訳ね。イチの虫も凄いけどそれ以上。

同じ同化型でも虫の強さが違うのはかっこう、ハルキヨ、リナ三人の一号指定を相手取ることが可能な最強の虫憑きならではかもしれない。

でもおかしいな。イチ以上なのは予想通りなのだがイチの虫はそれでも強い。

比較対象がなかったから今までイチの強さが分からなかった。

一号指定最強の強さを直に感じても計測の目安にするのは難しい。

大喰いとの戦闘の話から推測するに火種三号級はあると思う。

だけどまだ実際のイチの戦いを見てない予測だし私の虫がイチのダイオウムカデの強さを感じ取っている。

かなり強力な虫だった。さすがはアリア・ヴァレィの同化型の虫憑き。

私独自の感覚、渦がこのダイオウムカデの強さを物語っていた。

虫の強さが必ずしも虫憑きの強さにならないが果たして火種に分類されるイチの虫がどんな強さを秘めているか。

私は無意識の内にイチの強さを下へ下へ追いやろうとしていた。必死にそれに気付かないように。

 

 

 

 

病室の扉を開く、病室の個室のベッドに横たわる少女は先生と一緒に入ってきた私を見た。

交わさせる視線。多くの虫憑きを葬るハンターとしての才覚か。私の中の何かを見破り何かを悟り、そして興味を失った。

そう確信するほど彼女は私の深くを覗きこむことを感じたし、彼女は既に私を見ていなかった。

そうだ。認めよう。私はどこか彼女のことが疎ましかった。知るが故に印象を堅めて腫れ物のように感じていた。

だから彼女が察したのはそんな私の失礼な見方。興味を失ったのは当然のことだ。私の失礼な色眼鏡が彼女の気を悪くさせたのだから。

大病を患い死の未来がちらつく孤独な彼女。

そんな少女に私は失望させてしまった。

 

だけどね。

 

私は甘かったがそこまで甘くない。

 

第一印象は最悪だろう。

 

私も貴女と出会うまでは嫌々だったのだから

 

だけど残念。私は貴女が気に入った。

 

だってその反応、初めて会ったイチと同じじゃないか。

 

窓の景色を見詰めて、そっぽ向く花城摩理という少女に近づきキノはーーー

 

少女の頬っぺにチューをした。

 

 

 

 

 

花城摩理は今はまだ名を呼んでいない研修医の青年に、月見里キノのことを教えて貰っていた。

かつてのアリア・ヴァレィの器でありながら記憶を取り戻した少女。そして虫憑きとして生きることを選んだ少女である。話を聞けば呆れることすら難しい。そんな少女が私を訪ねて現れるらしい。

青年がアリア・ヴァレィの眠りに巻き込まれて記憶を失う代わりに少女に私の様子を確認するように頼んだからだそうだ。

お節介だ。本当に。

だけどこの代わり映えのない病室の風景に訪ねてくる少女に興味を覚えなかったと言えば嘘になる。

だから失望した。

訪ねてきた少女は私のことを見る目にはどこか哀れみがあったから。

すぐに目を逸らして窓の外に目を移す。

これ以上、興味はない。

無関心な態度でそれを示す少女はしかし無防備だった。

 

不意に自分の頬にリップ音。

 

悪戯気に笑顔を浮かべる少女の顔が近くにあった。

やがて何をされたか思考が追い付き。

 

「ーーーッ。~~~~~~~!!!」

 

顔を赤く染めて声にならない悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

第一印象で諦めたらそこで終了ですよ。

ならばと挑んだ第二印象。結果はすごいぜ。

花城摩理ちゃんはベッドのシーツにくるまり、こちらを睨んでいる。

大成功だ。

シーツの隙間から真っ赤な顔で睨んでくる摩理ちゃんが可愛くて正義だ。

警戒されてるが問題ない。

にっこり笑顔を向ければより深くシーツに身を丸くする。可愛いいね。

先生はそんな私たちを見守っている。チラリと振り返れば呆然としていた気がするが気にしない。アリアはどう思っているかな。自重しろかな。

そういえば自己紹介がまだだね。ちゃんと挨拶せねば。

 

「はじめまして、花城摩理ちゃん。月見里キノだよ。よろしくねー」

そんな挨拶はキノの好感を上げることはなかった。

 

 

......。

「いやー。ぶっちゃけ?面倒な気はしたんだよねー。病気患っている女の子に会うの」

............。

「同じアリアの器のよしみで請け負ったけどなかなか気が進まなかった訳よ」

..................。

「でも一目惚れよ。まさか同じ同化型とはいえイチとおんなじリアクションされるとはねー」

........................。

「そろそろ会話してくれないと頬っぺにチューしちゃうかも」

ガバッ。

 

丸まったシーツから漸く姿を出した花城摩理。

まだ顔の赤い彼女はキノの脅しに本気で怯えていた。

「あ、貴女一体どういうつもりでキスをしたの!」

「挨拶?」

「ここは日本よ。そんな挨拶あるはずないわ」

「えー。日本でもキスくらいするよ」

病院生活の長い摩理に平気で嘘を重ねるキノ。

あとでこっそり先生に確認する摩理の未来は流石に知らない。

「それに貴女じゃなくて月見里キノだよ。名前で呼んで」

「貴女は」

「キノ」

「......月見里」

「キノ」

「月」

「キノ」

「......。」

押せ押せ作戦は花城摩理の軍配を劣勢に追いやっている。

「キノッ。キノッ。キノッ。キノッ」

「自分の名前を連呼しないで頂戴。ここは病院よ」

押してだめなら引いてみる作戦。期待した眼差しで見つめる。

「わくわく」

「........................キノ」

声にした段階で駄目駄目だったが押し負けたのは摩理の方だった。疲れた。

 

結局摩理はキノに完全に心を許すことはなかった。だけど第一印象に比べて随分と打ち解けたのは摩理も思いもよらないことだった。

 

ずっと病室に籠って過ごしてきた摩理ちゃんはコミュ障だったね。自重しなくてメンゴ。

摩理ちゃんはイチと雰囲気似ているね。主にツンデレが。

あんまり来れないけどまた来るって伝えたらスゲー嫌そうだったけどツンデレなら仕方ない。

面会時間が過ぎるまでたむろしていた。怒られた。解せぬ。

先生はそんな摩理ちゃん見て喜んでいたよ。年相応に見えたんだろうね。あの子のこと。

アリアは文句言っていたらしいが私はもう聞こえません。全然気にならないね。先生は苦笑いだが。

実は赤牧市に来た目的が残っている。それをするのも一人で来たかった理由だ。

 

 

 

 

 

「はじめまして。今日はこの挨拶が多いな。私は虫憑きです」

ある屋敷に忍び込みキノはその人物と会っていた。

 

「アリア・ヴァレィと所縁を持った私は貴方に頼みごとがあって来ました」

男はキノに背を向けたまま振り返らない。

 

「私の目的と要求。その二つをお話しましょう」

キノは男に淡々と語る。

 

「まず私の目的。虫憑きが生まれるシステムの破壊」

キノはただ語る。

 

「これを為すのは現段階では不可能でしょう。だけど夢物語ではない。必ずやり遂げる。それが出来るのは虫憑きである私たちだけ」

事実を語り諦めない。キノは虫憑きだから。

 

「魅車八重子のいる特別環境保全事務局ではそれが不可能。あの女は虫憑きの戦いを終わらせる気など毛頭ないのだから」

それを知っているのは男も同じ。

 

「それに対抗するレジスタンスむしばね。これも実現不可能。何故ならリーダー足る彼女が虫憑き同士の抗争に囚われているから」

これは虫憑きとしての事情。虫憑きは一致団結など出来ていない。

 

「だからこそ私は貴方にお願いしたい。新しい勢力。私たちの後ろ楯になることを」

新しい勢力。現存の勢力で不可能ならば創ればいい。

 

「円卓会ならば特別環境保全事務局に影響されない独自の勢力を創れる力がある」

円卓会。資産家たちの秘密倶楽部であり、虫憑きの誕生に関わりをもつ。

 

「私に力を貸してほしい。虫憑きを見届けるなら私に協力して」

男は何も答えない。

そしてーーー

 

「一之黒涙守」

 

向けた背を振り返らせた。

 

 

 

 

 




うん。頑張った。だからウサギさんは甲羅を背負う奴に追い抜かれてもゆるして下さい。
こんなペースで描くとは思わなかった。
いやね。ランキング載ったり嬉しかったんで調子よく続き執筆してヨイショされてる馬鹿な奴が居たわけですよ。
でも限界っす。更新ペース落とします。
更新は来月を予定しております。
まさか一ヶ月経たぬ更新で三万字越えするとは思わなかった。

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