ムシウタ - error code - 夢交差する特異点   作:道楽 遊戯

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今回短め。オリキャラの性別と名前に一番手間取りました。
ネーミングセンスが来い。モブに愛が少ない私です。


夢醸す芳香

キノは病院の一室で朝日を迎えた。

 

パイプ椅子のベッドの寝心地はあんまり良くなかった。

起きたら身体の硬さを感じて関節がよく鳴る伸びをした。

昨日寝不足に陥ったであろう花城摩理ちゃんはスヤスヤお休み中。昨夜のベッドを巡る攻防は熾烈を極めた。にぎにぎと両手を動かし迫るキノに同化すら躊躇しなかった摩理。いつでも追い出せるようにナースコールを握りしめられたことがキノの敗因である。

 

おとなしくパイプ椅子を並べ始めた時、さすがに悪いと思った摩理はベッドの隅で寝つき、横に一人分の空きスペースがあったがキノは気付かなかった。

 

摩理の穏やかな寝顔を拝見した後、バレると色々問題なキノは病室をこっそり抜け出した。

 

 

宙に舞う銀色のモルフォチョウだけがそんなキノを見送った。

 

 

 

赤牧市から始発に乗り鴇沢町まで帰宅ナウ。

 

朝帰りになってイチが心配していないか私気になります。

他の女と一夜共にしたことを知ったらイチは嫉妬してくれるのかな。いやー、楽しみですなー。妬いたイチ。是非見たい。興味無さげだったら嫌がらせしよう。そうしよう。

 

朝早から通常運転なキノに誰も突っ込みを入れる人は居なかった。

 

本当に心配をかけないように昨日一泊することを連絡されていたイチは律儀にキノの迎えに早くから駅前で待っていた。

 

「イチー」

鴇沢駅南口から出てきたキノはそんなイチを見つけてときめいた。

 

と同時に横で見知らぬ男がイチに付き纏っているのを見て怒りのボルテージが瞬間で最高値に達した。

 

「ウルトラソウルーっ!」

魂の籠った跳び膝蹴りで不埒な男を蹴り飛ばす。顔面を蹴り上げ一回転し胡蝶のように身軽な着地をきめるキノの一連の動作を見守ったイチ。幼馴染みかつ恋人の奇行は終わらない。

 

「一晩目を離した隙に男連れているとはどういうことなんだようイチ。あれほど男は餓えた狼だと教えた筈なのに。イチ、男同士なんて非生産的だよ。正気に戻るんだよ。可愛い恋人ならここにいるよイチィ」

正気じゃないキノがまくし立てる。

言ってる内容も突っ込みどころが有りすぎて、逆に突っ込めない。

頭痛を感じたイチは取り敢えずキノの故障気味な頭を叩いて壊れたラジオのような剣幕をどうにかした。

 

仲間にすることに消極的なイチに積極的にアプローチしていた清太はそんな不幸の朝を迎えた。

 

 

 

嫉妬される所か嫉妬させるとは流石はイチだな。

 

最高に可憐でジゴロでイケメンでクールビューティーな私の彼氏を付纏う青年、川波清太に攻撃した私ですが、勘違いしないでくれたまえ。

この私、虫の感知能力があるので、すぐに虫憑きだとわかりました。

ガチで不審者だったこの男に裁きの蹴りを入れた私は正義である。

だから暴走した私は悪くない。悪いのはコイツですー。

ワタシ、ナンニモ悪クナイ。

 

「反省しろ」

「あふん」

反省のないキノを叩くイチ。

叩いてまともになるなら幾らでも叩く。

最近キノに女の子扱いされがちなイチは根にもっていた。

髪を切ろうとすると大喰いのことを持ち出してまで妨害するので諦めている。

 

「あー、イチ君。このじゃじゃ馬女が君の彼女?」

年下相手なので敬語は使えないが敬意の対象のイチに対して疑問をぶつける清太。蹴られた鼻が痛かった。

仲間になりたいが反応がよくないイチにセールストークしたり色々試しているが成果は芳しくなかった。

昨日別れて今日再び仲間入りを頼みこんでいた清太。

正直鬱陶しいし朝から付き纏う清太に思うところなくはないイチである。

真面目な気質の人間の空回りな努力はストーカーの如く粘着質だった。

自分の彼女をじゃじゃ馬女扱いされて端正な眉根を微妙にひそめるイチは清太の質問に素直に頷く。

 

「そうだ。キノこの人なんとかしてくれ」

「いいじゃない仲間にすれば」

「は?」

あっさり答えるキノに疑問の言葉を返すイチ。

 

「仲間にするついでに特別環境保全事務局でもない。反抗勢力でもない。新しい虫憑き勢力を作っちゃおうってことだよ」

「......そこまで話を大きくした覚えはないけど」

「言ってなかったけどね。特別環境保全事務局にもむしばねにも着くつもりはないから、新しい勢力で対抗しようということなのだよ。渡り船だねー。いきなり仲間GETで幸先が良いじゃない」

「ちょっと待って。イチ君、彼女は何を言っているのかわかっているのかい」

「まあ。キノにはキノの考えがある。俺はそれを信頼している」

「イチの信頼とは嬉しいね。私たちの目的には特環でも反抗勢力でも成し遂げられないデカイ目標があるのさ」

「それは何なんだ?」

「虫憑きの誕生システムの破壊。この世界から虫憑きが生まれることを無くそうとしているんだよ」

「......はい?」

規模がデカ過ぎて脳内を処理できない清太。呆然と口が開いている。

 

「その為には特環は縛りが多くて駄目。反抗勢力も虫憑き同士の戦いに縛られて駄目。と言うことで自分らで新しく作っちゃおう。大体こんな感じ、わかった?」

「......まあ、キノだからな。俺はわかった」

突拍子のない内容を、悟りを覚えたような諦め顔で理解を示すイチと

 

「えー?ええーー!?」

未だ話の大きさに理解が追い付かない清太だった。

 

 

 

驚いている。驚いている。

でも反応は対称的だなー。

イチの理解力が半端ないだけか?理解ある彼氏を持てて私は幸せです。

呆れ顔じゃなくて諦め顔なのが気になるけど。

 

新勢力とは言っても話付けただけで基盤も人員もまだまだだ。

今月中には円卓会にも話回るだろうから、そこから政府と交渉し不干渉させて貰う。

そんで利用価値のある虫憑き人材の確保。これが大事。

金を流して貰うには便利な能力持ちの虫憑きを見せて利用価値を認めさせることから始めないといけない。

 

分離型よりも特殊型の虫憑きが人材に適しているかな。

実体がない方が表でも動かし易いからね。

イチと清太もそうだが、私の能力も戦闘向きです。

利用価値が荒事限定なのは向こう的には美味しくないだろうから便利な虫憑き探さないと。

 

川波清太。分離型の虫憑きで珍しい装備型。

完全な物理特化。憑いてる虫はボクサーカマキリっぽい大鎌。腕力強化の能力はあるらしい。大鎌の形状変形可能。

扱い難い戦闘要員だと思う。

私の適当な格付けだと火種八号。

条件次第では格上にも勝てるだろうけど、遠距離攻撃特化、実体を持たない特殊型の敵が号指定級の強さを持ってる場合は一方的に負け兼ねない。

純粋な腕力強化だけでは移動性も低く、近距離特化で出来ることも限られる。よって火種八号。

それでも不完全な成虫化の虫を撃退したことから戦闘面に絞ればかなり強い。

 

それだけの強さをもつ清太をキノは知らなかった。

多分イチが助けなければ清太が死んでいた可能性はかなり高い。

キノの原作知識で知らない清太は、あの場で成虫化した虫と相討ちし死亡。故にムシウタ本編で登場できなかったと予想する。

キノが関わったイチが関わることで書き換わる物語。その果ては知らない。

 

しかしキノはこれを好機と判断した。

本来登場しない号指定の虫憑きを特環サイドむしばねサイドに渡せない。

だが強い虫憑きは原作で登場するような名の知られた虫憑きばかりだ。

原作で登場する人物の引き抜きによる戦況の変化を望まないキノにとって、書き換えられた運命の虫憑きは望ましい人材だ。

獅子堂戌子がスカウトと育成に専念するまで、強力で虫の制御が出来ず暴走気味な虫憑きは、捕獲よりも殲滅対象されることが多かったはずだ。

まさにキノが欲する人材に他ならない。

欠落者、死者どちらの運命にあるかわからない虫憑きを引き入れ勢力を築く。

キノの感知能力を使えば不可能ではない。

特環とむしばねの絶妙な戦力の拮抗に変化を与えず虫憑きを確保する。

 

仲間集めにも気を使うキノは結構ハードだ。

同時にわくわくする高揚もある。

イチと一緒ならなんだって出来る気がする。

足並み揃える前に丁度いい仲間を引っ張ってくるイチ。

何だかキノの思い通りに動いてくれているようで少し驚いたし不安があったキノを励ましてくれた。

イチがいればキノは無敵だ。

 

夢である人生謳歌を実現しつつノルマをしっかりこなそうかねー。

 

さて、一丁やってみますか。

 

 

 

 

 

花城摩理の運命。

それはキノの知る通りに進んでいく。

彼女は虫憑きだ。ただの虫憑きではない。

bugから生まれた虫憑き。

アリア・ヴァレィに最強の虫憑きと称された虫憑き。

そんな虫憑きを見守るアリア・ヴァレィの依り代である青年は口を滑らした。

 

君なら不死の虫憑きを倒せるかもしれない

 

大病を患い死を身近にする少女。

生を渇望する少女に向かい、そんな言葉を、失言を口から滑らしてしまった。

 

進む。進む。

知る事実が史実に変わるその先に向かい。

 

進んでいく。

 

キノが知る運命。

 

止める術のない定め。

 

errorは花城麻理に何を起こすのだろうか。

 

 

 

 

 

「元気出して。頑張ってね」

「うん。相談に乗ってくれてありがとう。八千代さん」

友達の相談に乗って励ます長瀬八千代。

ピアノのオーディションの期日が迫りナーバスになっていたクラスメイトにおまじないをして元気付けた。

これであのクラスメイトは緊張で失敗することはないはずた。

相談前の憂鬱が見違えるほど前向きになった女の子の背中を見て笑みをみせる八千代。

 

おまじないの時、一瞬現れた緑色の煙がミントの香りを醸し出し少女に取り込まれ消えていった。

 

 

 

ぴくりとキノは路上で立ち止まり近くの気配を探り始めた。

 

「強いなー。匂い的にはディオレストイの虫かな」

感知能力が虫憑きの存在を知らせている。更にアリア・ヴァレィの嗅覚が種類をかぎ分けた。

 

「欠落者にすることなく撃退。手加減しているのかな。もしも戦闘能力持ちでないとしたら凄いな」

少し前から特環が何度か接触しているのを退けているのをキノは察していた。

おそらく制御の長けた特殊型の虫憑き。

日に何度も渦が活性化することから普段から虫の能力を使っているらしい。

 

「特環が本腰入れそうだな」

何度も任務失敗している特別環境保全事務局が戦力を整え始めているのを鴇沢町に増えつつある虫憑きが発する渦からキノは読み取っている。

 

「潰される前に引き込むか」

気軽に決意するキノの感知範囲は鴇沢町全域に及んでいた。

 

 

 

兄が一人、姉が一人、弟が一人。

結構数の多い兄弟に囲まれ次女として生まれた長瀬八千代は楽なスタンスで生きてきた。

兄は大学卒業して職に就いたし、姉は大学で彼氏と上手くやっているし、弟は皆に可愛がれている。

私は普通に愛され仲良くやっているが次女で裁量が良かったからか放任でも大丈夫と信頼されていた。

不満はないしきちんと愛情も受け取っている。

だけど重荷のない楽な生き方に空虚に思うことがあった。

 

ある日友達に相談事を持ち掛けられた。

楽な生き方しか知らない八千代にとって友達の抱える悩み事にアドバイスするのは重圧があった。

打ち明けられた悩み事に必死に頭を回し助言した長瀬。

翌日、晴れやかな顔で感謝してきた友達に困惑した八千代である。

簡単に悩みを聞いて、自分の視点で助言と励ましの言葉を送っただけの事をしたつもりだった。

その子は八千代に言った。

不安になっていた時に真剣に話を聞いてアドバイスをくれた八千代に感謝していると。

 

その時、感謝され慣れていない長瀬は真っ赤になって手を振って誤魔化した。

始めて芽生えた感情に動揺を隠せなかった。

適当に過ごした八千代は真剣に感謝されて今までなかった想いが駆け巡る。

 

そうして長瀬八千代は虫憑きになった。

 

自分でも単純だと思う。

相談に乗って感謝されて嬉しかった。

だから、こんな夢を抱いた。

 

夢は、皆を元気付けること。

 

そんな単純な夢だ。

 

 

 

「また、特別環境保全事務局ね」

「件の虫憑きだな。大人しくして貰おう」

黒いコートとゴーグルを身につけた虫憑き局員を睨む長瀬八千代。

取り囲む局員は何度も任務失敗させている目標の虫憑きに警戒し様子見している。

 

「大人しく出来るかはそっちの問題よ」

突如緑色の煙が辺り一帯を覆った。

 

「ぐっ、ゲッホ。ガッホ」

強烈なミントの香りに局員が噎せる。

そして虫が暴走し始めた。

 

「な、なんだ!虫が制御できない!」

「うわあああああっ」

「おい!どうした!?急に暴れやがって」

仲間同士で傷付け合い、パニックに陥る局員たち。

虫だけでなく局員も雄叫びを上げ正気を失い混乱を招いている。

長瀬八千代の虫の能力によるものである。

 

八千代を相手にする所ではなくなった特環たちは逃げ出す八千代に気付かなかった。

 

 

遠くから見ていたキノが感心しながら見守っていた。

 

 

 

「ふぅ。上手く撒けたよね」

特環から逃げし、一息吐いて落ち着ける八千代。

 

「お見事だったよ」

賛辞の言葉が八千代の耳に届いた。咄嗟に身構え声の主に警戒する八千代。

 

「はじめまして。ディオレストイの虫憑きさん」

キノはそんな八千代に構わず挨拶した。

 

「誰?」

得体の知れない少女に身を硬くする八千代。

 

「虫憑き」

笑顔で自分を指差すキノ。八千代の対応なんてお構い無しに進める。

 

「そう。ではまたね、虫憑き」

「せっかちだなー」

緑色の煙がキノを襲った。苦笑いのキノが抵抗もなく攻撃を受ける。

キノは強烈なミントの香りを吸い込んだ。

 

「ゲッホ。おっほ。オェー」

噎せるキノが女の子としてに不味い反応をした様子を八千代は見ていたが突っ込まない。

 

「あー噎せたー。キツいなー」

噎せ終えたキノが一言呟いて頭を掻いた。

 

「な、なんで?」

自分の能力の効果が全く効いていないキノに驚愕した八千代。キノは香りに噎せていたがそれ以外は何の変化もなかった。

 

「興奮作用のある匂いを発する虫の力かー。強度を増すと極度の興奮状態から錯乱と暴走を促す訳だ」

あまつさえ八千代の力の正体を見破ったキノに恐怖すら感じた。少女は自分の力が通じない所か見抜いてしまった。

特環相手に何度も出し抜いてきた八千代にとって始めて出会う危険度の高い人物だ。

 

「何故効かないの!?」

「この程度の精神攻撃なら効かないよ」

かつてアリア・ヴァレィだった彼女はひたすら餓えを耐え抜く苦行を物ともしない精神力の持ち主だ。

精神を強制的に高揚させられても自前の精神力で捩じ伏せ自制している。

イチがここに居れば普通に暴走しかねないが。

 

「も、もう一度」

緑色の煙が再びキノに向かい攻め寄った。

今度のキノは無抵抗とはいかなかった。

 

群青の輝きが辺りを支配し始める。

 

緑色の煙がキノに届く前に群青に掻き消された。

 

「抵抗は無駄さ。領域を支配した。この場で君の力は行使できない」

群青のアリジゴクが姿を現し空間に揺らいだ。

同じ特殊型同士の戦い。アリジゴクの支配力が八千代の虫の支配力を上回った。

 

八千代の虫に戦闘能力はない。気分を昂らせて抗鬱作用をもたらしたり、活力を与えたり、興奮状態にした錯乱させたりすること位しかできない。

明かに自分を上回る虫の力を見て八千代は脱力し膝を屈した。

キノの言葉通り抵抗は無駄になると感じてしまった。

 

「あらら。諦めちゃったよ」

罰が悪そうに頭を掻くキノ。いつの間にか悪者になって八千代を絶望させたのは計算違いだった。

八千代は力なくキノに聞いた。

 

「貴女は何者なの?」

「貴女の夢は何?」

質問に質問が返ってきた。それも予想外の質問。

 

「質問に答えるのはそっちー」

先を促されたら答えるしかない八千代。

 

「私の夢は、皆を元気付けること」

「おー。いい夢だね」

なんと無く茶化していない本心で語っていると感じた八千代。

実際キノは感心していた。ディオレストイの嗜好に合った歪んだ夢を持つ虫憑きかと思えば真っ当な夢を持つ少女に。

 

「で、何で諦めたの?」

ピリッとした空気が先程までの緩い雰囲気が消し飛ばした。

キノは真剣である。

何処か愛嬌のあった少女がなりを潜め一切の余計な感情を入れず八千代に問いただした。

思わぬ圧迫感に八千代は息を呑み込み、しかし答えを返した。

 

「私は貴女に勝てないわ。諦めるしかないじゃない」

諦めたと言われて悔しく思う八千代だ。諦める理由になった少女に諦めることを咎められるなんて嫌な感情しか浮かばない。

噛み付くかのように睨み付けキノに返答した。

 

「簡単に諦める様な人に誰が元気付けられるの?」

辛辣に返すキノだった。

 

「夢を途中で投げ出して諦めたら、夢は叶わないし誰も応援できないよ」

言葉なく震える八千代。キノに言われ思い返した。

諦めた八千代には誰を応援する資格があるのか。

誰かを元気付けたいと想いを抱く八千代にとってその資格がないと言われるのは屈辱を上回る謗言だった。

 

「もう一度聞くよ。何で諦めたの?」

問い返すキノに八千代は

 

「私は諦めてなんかいないっ!」

 

大きく啖呵を切った。

 

 

「なら、採用ー」

 

 

満足気に頷くキノ。

 

「は?」

 

呆然とする長瀬八千代だった。

 

 

 

スカウト開始早々大変です。

誤解とは言え敵に回ったせいで色々回り道しまくりですよ。

まさか勧誘相手の心へし折ったなんて誰が予想出来るか。いや出来まい。

少しばかりヒール演じて焚き付けてみましたが、元気な返事が聞けて何よりだ。

やっぱり後ろ向きだったり、鬱屈しているより強かに諦めて堪るかと剥き出しに生きてる方が好感が持てる。

同じ虫憑きとして諦めて欲しくないね。

何よりも自分の夢に負けることをキノは赦したくない。

諦めた先なんてない。

夢を諦めた虫憑きは自身の虫にも負けて力を磨耗し自滅する。

負けん気の虫憑きはここ一番の強さを秘めている。

 

キノも最後まで力強く夢を諦めたりしない。

だって夢は諦めるものではなく叶えるものだからね。

 

 

 

Youウチに来ちゃいなYO!

キノです。勧誘です。不真面目です。

シリアスって長続きするものですか?しませんよね、何故か。

長瀬八千代さんは特殊型の虫憑きでフリーです。

見事に欲しい条件にヒットしました。

興奮作用の虫憑きの能力の用法はキノが思い付く限りで結構あります。

記憶を曖昧にするほど興奮状態にすることも可能なようですし、気分を高揚させるだけでも円卓会が運営するオークションに使えば、それなりに有用性が認められるんじゃないかと画策。

普通に詐欺です。

大人って汚ないよね。

発案者は誰か?知らないなー。

 

長瀬八千代さんは快く、不審気に警戒心バリバリで申し出を受け入れくれたよ。

まだ心に壁がある。が信頼してもいいかなって気持ちもあるらしい。

ちょっとイチの癒しが欲しくなった。信頼って大事だね。

さてと憂鬱なのはこれからだぜ!一人で虫憑き勧誘したのがバレたらイチがお怒りになられる感じがします。

 

紹介がてらに擁護をお願いします八千代さん。

 

こうして、キノの新勢力にまた一人仲間が増えた。

 

 

そしてキノはイチからヘッドロックされた。

 

 

 

 

人生は小説より奇なり。

 

この言葉を残した偉人に座布団を投げ渡したい。

顔面におもいっきり。

八つ当たり願望のキノでーす。

現在、特別環境保全事務局中央本部に居ます。

 

どうしてこうなった。

 

「円卓会独自の虫憑きの雇用制度ですか」

はい。対面の人物は一体誰でしょうか。

一人はお飾りな本部長殿。きーくんの前任。

青播磨島での責任を負わされ不幸に会うただのモブ。

謎かけの人物は、細い目の下のホクロがとってもチャーミングで、える、おー、ぶい、いーなハートマスクが昔は似合っていて、ヤッコなあだ名の過去を持っていそうで、鎖の笑みを浮かべた長身の美女だったりする訳で。

 

「はい。こちらは虫憑きを有用に運営する雇用制度を認めて欲しい訳です」

こちらもお飾りの円卓会メンバー。

金の匂いに騙され、釣られ、否、虫憑きに理解を示してくれたカモです。ふう、誤魔化せたー。

そんで隣が何故か私。お助け下さい神様。

 

「な!さ、さすがに危険な虫憑きを独自で雇用管理されては問題が......」

お飾り本部長が常識的な意見を述べる。

しかし、声の力は弱い。何故ならこっちの方が立場上だから。

円卓会の資金力、人脈、発言力。どれをとってもお役所仕事の連中に勝てる見込みがない。

額に汗を浮かべるいい年したオッサン眺めてキノが発言する。

 

「はははは。これは異なことをおっしゃいます。虫憑きを使う組織が何を危惧しているのでしょう?」

パワーハラスメント最強説を掲げたい。隣にいる人間なのに人外さんが居なければ。

 

「善良な民間人に危険が及ばないよう、私たちは政府公認の下虫憑きを管理し危険を排除しているのです。ご理解戴けたでしょうか」

こっち見んな。その素敵な笑みを向けるな。微笑むな。

強力な精神耐性のあるキノが一瞬心理的束縛に怯む相手。

 

「左様ですか。大変興味深く理解できるお話です。危険な虫憑きは管理されるべきですね。ですから円卓会が危険性のないと保証する虫憑きを雇用し、人権保証することに何の問題ないとご理解されるでしょう」

パワープレイでごり押すぜ。さっきからSAN値直送過ぎて胃が痛い。スマートさなんて捨てて露骨に話を持っていく算段。

 

「虫憑きとは言え、元は一般の少年少女たちです。危険性のないと判断された彼らにも平和に生きる権利が認められると私たちは考えています」

大義名分はこっちにあるんですよ。残念ですね。

批判しようにも虫憑きを扱う組織がどう批判するんですかね。是非聞こう。さあカモン。

 

「わかりました。虫憑きの雇用制度を認めましょう」

「魅車君。勝手にそのようなこと」

「大丈夫ですよ。本部長」

わー、オッサン鎖の笑み向けられてる。御愁傷様です。

ってか名前出たね。

魅車八重子。

特別環境保全事務局中央本部副部長。

虫憑きの黒幕様とのご対面。

 

「彼らは大丈夫です。私がこんなにも愛しているのですから」

ビシリ、キノの琴線に触れた。感動表現じゃなくて誤用表現だけど敢えてね。

ようするにイラっと来た。

 

「納得して戴けて何よりです。こちらが政府機関である特別環境保全事務局に望むことはありません。不干渉の約束をして戴けたら何の問題もありません。約束が果たせなければ......」

語らず。不穏だけプレゼント。

ちなみに続きの言葉は、全力で嫌がらせさせて頂きます。

本部長殿はわかりやすく顔色を青くしているのに変わらない微笑を浮かべるヤッコちゃんに不満を覚えます。

その余裕いつか無くせ。

 

「こちらも問題ありません。不干渉をお約束しましょう」

ニッコリ笑みを向ける魅車八重子に笑顔返すキノ。

本部長はキノが虫憑きであることに畏れを抱いているご様子。こっちに向ける視線が恐々としている。

空気新参円卓会メンバーは案山子役ご苦労様です。

話も纏まったし解散。その前に。

 

「魅車副部長」

 

去り際の魅車八重子に宣誓布告代わりに挨拶しないとね。

 

 

 

 

「私を愛し愛せるのは貴女ではありません。覚えておいて下さい」

 

 

 

 

笑みを浮かべる魅車八重子にキノは遠回しなバカップルのノロケ話をしてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回甘くする予定だったんですよ。何故こうなったかは不明です。キノの変態度が増してるのは気のせいですよね?

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