ラフムに転生したと思ったら、いつの間にかカルデアのサーヴァントとして人理定礎を復元することになった件   作:クロム・ウェルハーツ

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6.狙撃手は赤で待つ

 -ON-

 

「3.b―4、3.b―4、0qdf:@yg―♪」

「黙りなさい!」

 

 ラフムの鼻歌に怒るオルガマリーを見て藤丸は笑う。音階がずれているようなラフムの鼻歌。今の状況が特異点の修復ではなく、ピクニックならば、きっと心の底から楽しめただろう。そして、現在の緊迫した状況でもラフムの余裕を見せる態度で心は少し軽くなった。

 ラフムはそれが狙いで鼻歌を歌ったのだろう。緊張が続いていれば体力は減ってしまう。それを防ぐために、ラフムは態と下手な鼻歌を歌ったのだろうと藤丸は当たりをつけた。

『しかし』と藤丸は気を引き締め、辺りを確認する。

 

 それは終焉の始まりが顕現した光景。

 

 赤い火は煌々と夜空を照らす。人の営みの象徴と言うべき高層ビルは死骸のように横たわっている。目の前の光景は地獄だと藤丸は唇を噛み締めた。

 

 ──誰が、何のために?

 

 疑問が頭の中を回り続ける。

 

「67?」

 

 思考に沈む藤丸を現実に戻したのはラフムの声だ。恐らくは言葉。しかし、それを解読できない藤丸はただ斜め上の方向に顔を向け続けるラフムへと声をかける。

 

「ラフ……ムッ!?」

 

『どうしたの?』という言葉は後には続かなかった。一瞬にして体にかかる莫大なG。そして、後ろで光る何かよく分からないもの。それが爆発して赤い色の魔力を発したことだけは薄れ行く意識の中で理解できた。

 その光景を目にした藤丸は子どもの頃、親に連れられて初めて乗ったジェットコースターを思い出す。あの時は小さくて恐怖しか感じなかった。体にかかるのは、この世のものとは思えないほどの圧力、耳に横切るのは轟々と轟く風、女性たちと時々男性の悲鳴、そして、煌びやかな遊園地の風景、それに、何とも奇妙な造形をした猫のようなマスコットが四体。そこで、藤丸は目を閉じ、早く終われと心から願ったのだった。果たして、藤丸の願いが聖杯に届いたのか、恐怖の時間は終わった。

 

 ジェットコースターから降りた後、父さんに抱かれて母さんにアイスを食べさせて貰ってて……あれ? これって、もしかして走馬燈って奴?

 

 体から魂が抜け出ているような感覚を最後に藤丸の意識は消失した。それとほぼ同時にオルガマリーの意識もまた消失してしまった。

 二人が意識を失った原因はラフムにある。藤丸とオルガマリーの後ろにいたラフムが腕に彼らを抱え、猛烈な勢いで前へと走ったのだ。藤丸の端末に記録されているラフムのマテリアル、そこに記されているラフムの敏捷のステータスは“A”となっている。観測できる範囲内では最高のステータス。人間でしかない藤丸とオルガマリーにとって、ラフムが走る速さは無視できないものだった。ついでに言うと、後ろからは人の命を奪って余りある威力の爆発も起きている。ハリウッドも真っ青なアクションシーンだ。

 

 ラフムの速さは不意打ちでは意識を消失させる。

 だが、それはあくまでも“人間”という範疇でのこと。彼らと共にラフムの腕に抱えられたデミ・サーヴァントであるマシュにとって、体にかかるGは無視できる。

 そして、そのことをラフムは理解していたのだろう。

 

「MASH、tj5w」

 

 ラフムは余っている腕でマシュの盾を数回叩く。

 

「ラフムさん……わかりました」

 

 マシュの返事にニヤリと歯を剥き出した後、ラフムの体勢は更に低くなる。前傾姿勢のままトップスピードに入ったラフムには、どこからか飛来してきた爆発物は追いつくことができない。射手の予測を超えたスピードで走るラフム。しかしながら、射手もまた規格外の腕を持つ者だ。

 爆発物が放たれる位置からは何度も赤い光が瞬き、その度に空気を切り裂く音が響く。大体、200mほど先にある一際高いビルの屋上から、こちらの動きを鷹の目で観察するのは、なるほど、人知を超えた力を持つものだろう。

 爆発物──マシュの目はそれを矢だと捉えた──は調整を繰り返し、ラフムの進行方向へと位置を合わせてきている。

 

 ──このままでは……。

 

 マシュが焦りを感じた次の瞬間、何の前触れもなく、ラフムは地面に右腕を突き刺した。と、体が浮き上がり、回転を始める。ぐるりと回る視界の中、ラフムは地面から腕を引っこ抜いた。気分は砲丸投げで使われる鉄球。砲丸投げとの違いは投げた者が共に飛ぶか否かの違いである。それに加えて、投げられる位置がビルとビルの隙間という狭い空間だという話だ。

 

 しかし、ラフムの技量は秀でていた。

 ラフムの狙い通りかギリギリの隙間に体が入った後、ラフムは前方、つまり、狙撃手がいる方向にあるビルの壁に爪を突き立てる。

 ガクンと落ちたスピード。壁を大きく削りながら、ラフムたちの動きは一度、止まった。だが、その停止時間は一秒にも満たない。

 ラフムは腰を捻り、前の壁に爪を突き立てる。ビルの壁に罅を入れた後、自分へと迫りくるビルの壁を大きな瞳で見つめながら、マシュは先ほどのラフムの言葉を思い返していた。

 

『MASH、tj5w』

 ──『マシュ、構えて』

 

 ラフムの言葉を何故理解できたのか? 理由は分からない。それに、理解できた理論も分からない。だが、確信はある。信ずるに足る思いがある。

 マシュは盾を持つ手に力を籠めた。

 

「くっ!」

 

 手に奔る衝撃で思わず苦悶の声を漏らしてしまう。

 

「t@yf@zw!」

「はい!」

 

『t@yf@zw!』

 ──『がんばって!』

 

 マシュはラフムの言葉に答えるかの如く魔力を籠める。

『保有する魔力量が多いほど性能は向上し、膨大な魔力を保有するならばその守りは国一つをも守護する聖なる壁と化す』と言われるマシュの魔力防御は正しく主人らを守る盾となった。

 

 ラフムとマシュはビルの壁を二枚、三枚と崩していく。壁を壊し、ビルの一室に入った所で、ラフムは横に飛び退く。それと同時に後ろから迫っていた粉塵がビルの中に一斉に流れ込む。爆風で吹き飛んできた大きな破片から身を守るための行動だったのだろう。

 濛々と砂煙が立ち上る中、ラフムは迷いのない動きで足を動かす。

 

「es@4d94」

「わかりました」

 

 どうやらラフムは移動するよう提案しているらしいとマシュはラフムの様子から感じ取った。ラフムの腕から降りたマシュは近くにあるドアを開け、ラフムを先に進ませる。ラフムの腕ではドアノブを回すことができないと判断しての行動だ。

 

 電気の消えた廊下を進むと、ソファが見えてきた。その傍には自動販売機もあり、意識を失った藤丸とオルガマリーを休ませるにはお誂え向きだ。

 

「ラフムさん」

 

 マシュは自動販売機の前面に手を当て、それを力任せに外したラフムへと声をかける。自分が呼ばれた理由が分からなかったのだろう。マシュの呼び声にラフムは首を傾げた。

 

「マスターと所長は大丈夫なのでしょうか?」

 

 不安が滲んだ声色でマシュは呟く。不安からか一度、視線を床に向けたマシュはそっとラフムを見上げる。

『大丈夫』というようにラフムはマシュに力強く頷く。そして、それを証明するためか爪に引っ掛けて持ち上げた缶をそっとオルガマリーの頬に当てた。

 

「ひゃっ! ……キャーッ、痛い!」

「所長、お静かに! いつ、敵が来るか分かりません!」

 

 缶を頬に当てられた後、ぼんやりと周りを見る、目を大きく見開く、ラフムを確認した後、叫んでソファから転がり落ちる、ソファから落ちた後、マシュに怒られて少し項垂れる。

 数秒で様々な表情を見せるオルガマリーへと優しい目付きを向ける保護者のような雰囲気を出すラフムに彼女は感情の赴くままに怒鳴る。

 

「な、なんなのよ! 何でいきなり走り出したの!? 答えなさい!」

「c;f」

「ああ、結構です。あなたの言葉は分かりません」

 

 落ち込んだように肩を落とすラフムに背を向けたオルガマリーはマシュへと向き直った。

 

「マシュ、何が起こったか説明して頂戴」

「はい。私たちを狙った狙撃がありました」

「狙撃?」

「ええ。狙撃から身を隠すためにラフムさんは私たちを抱えて走り出し、ビルの隙間に逃げ込みました。それだけでは不十分だと思ったのでしょう。壁を壊して、ビルを通り抜けて6つ目のビルの内部に逃げ込みました」

「それが今居る場所ということね。それにしても、狙撃されたということは……敵はアーチャー?」

「アーチャー。つまり、私と同じようなサーヴァントということですか? しかし、サーヴァントはカルデアのシステムを使わずに存在できるものなのでしょうか?」

「ええ、可能よ。ここは特異点F、A.D.2004年の冬木。ラプラスによる観測で、私たちがいる同じ場所で、同じ時期で聖杯戦争という儀式が行われていたのよ。この儀式は七騎のサーヴァントを召喚し、競い合い、その勝者は万能の窯である聖杯を獲得できる」

 

『ともかく』とオルガマリーは肩を竦める。

 

「この冬木で行われた聖杯戦争のデータを基にお父さ……前所長は召喚式を作り上げたの。それがカルデアの英霊召喚システム・フェイト。こいつを召喚したシステムよ」

 

 ラフムから目を離し、オルガマリーは爪を噛む。考えを纏める時に彼女がよく見せる仕草だ。

 

「街は破壊される事なく、サーヴァントの活動は人々に知られる事なく終わったはずなの。……なのに、今はこんな事になっている。特異点が生じた事で結果が変わったと考えるべきね。2004年のこの異変が人類史に影響を及ぼして、その結果として百年先の未来が見えなくなった。だから、わたしたちの使命はこの異変の修復よ。この領域のどこかに歴史を狂わせた原因がある。それを解析、ないし排除すればミッション終了。わたしもアナタたちも現代に戻れるわ」

「なら、早く先に進まないといけませんね。すみません、所長。オレはもう大丈夫です」

 

 少し前から起きていたのだろう。全てを理解したような顔つきの藤丸が身を起こしていた。

 

「当然。さっさと行くわよ」

「はい」

「了解しました」

 

 意気軒高。異変の修復へと足を踏み出した一行を止めるモノがいた。ラフムだ。

 ラフムは腕でバツ印を作りながら首を横に振る。

 

「何? どういうこと?」

「jzww」

「どうやら、ラフムさんは『待っていて欲しい』と言っているみたいです」

「マシュ、ラフムの言っていることが分かるの?」

「ええ、なんとなく……ですが」

 

 突然、飛来した不安感。

 藤丸は自分の直感に従い、ラフムへと向き直る。

 

「ラフム……大丈夫なんだよな」

「ma」

 

 自信有り気に頷くラフムの姿に言い様のない不安感を覚えた藤丸だったが、ラフムを止めるための言葉は持ち合わせていなかった。マシュに開けさせたドアの向こうに姿を消していくラフムの後ろ姿を見つめ、藤丸はラフムの無事を祈る事しかできない自分に歯噛みするのであった。

 

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