GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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#017 適合試験

 能力試験の翌日。

 案内された部屋に入ったシンに、強化ガラスを挟んだ観察室からシックザールが問う。

 

「最後にもう一度だけ確認する。覚悟は良いかね?」

「慎重なことだ。構わない。やってくれ」

 

 その問いに含まれたわずかな緊張に気付かないふりをして、シンはそっけなく応じた。

 能力試験後の話で一度、この部屋に入る前に一度、そして今もまた、同じ質問をされている。正直クドいと思ったが、そうしてしまう事情が彼の側になにかあるのだろう。適合試験には苦痛を伴うという話だったが、もしかするとそれだけではないのかもしれない。

 ……そう訝しんでもみたが、次の瞬間にはどうでもいいかと切り捨てていた。大したことは起こりはすまい。そう()()を括っていたのだ。

 

「そうか。では只今より被験者・間薙(かんなぎ)シンのゴッドイーター適合試験を開始する」

「開始します」

 

 シックザールの宣言に、同じ部屋にいた白衣の男が目の前のパネルを操作する。シンのいる部屋、被験室の全扉がロックされ、全ての出入り口がシャッターで閉鎖される。このシャッターは対アラガミ防壁と同じ素材で出来ている。それは適合試験と言う名のゴッドイーター化手術に失敗し、被験者がアラガミ化してしまった場合に備えたものだ。

 

 ぽつんと唯一人取り残されたシンの前に、駆動音と共に台座がせり上がってきた。そのまま眺めていると、台座はシンの腰より上、胸元ほどの高さまでせり上がり、その上部が更に三十センチほどベッドの天蓋のように開く。

 中にはシンの身長ほどもある武器らしきもの――神機(じんき)――が置かれていた。

 

 にわかに緊張が高まる中、シックザールが次の指示を出す。

 

「では間薙シン君。台座の赤い凹みに利き腕の手首を乗せて、その神機の柄を軽く握ってくれ。ああそうだ、軽くでいい。それから握ったらそのまま、しばらく動かないでいてくれ。君の力では台座が壊れてしまうかもしれないから」

 

 言われたとおり、台座の縁にあるくぼみに右手首を乗せ、神機の柄を握った。

 

 

 ガシャン!!

 

 

 次の瞬間、せり上がっていた天蓋が勢い良く落ちてきて、シンの右手首がガッチリと金属の輪のようなもので挟み込まれる。

 これがリンドウの付けていた腕輪か。

 シンが冷静に観察し、納得していると、その固定された右手首に、針のような何かが打ち込まれた。

 無意識に抵抗しそうになる体を押さえ込み、その針のようなものを受け入れる。

 すぐさま何かが注入され、そしてシンは、適合試験と称されるこの物々しい実験の正体にようやく気がついた。

 

(なるほど。そういうことか)

 

 それは彼に人間であることをやめさせた金髪の子供――あるいは神に唾する大悪魔――の所業、そのものだったのだ。

 

 

*   *   *

 

 

 話は前日、能力試験から約一時間後。

 リンドウに誘われ、シンが時間遅れの昼食を取っていた際に遡る。

 

 

 シンの前にはリンドウに代わって、初対面の男が立っていた。

 

 その男について、印象に残ったことは三つ。

 

 ひとつは糸のように細い狐目。笑みを浮かべているようでいて、どこを見ているのか分からない。なんとも胡散臭い雰囲気を醸し出している。眼鏡を掛けているのはともかく、なぜ首から他に二つの眼鏡をぶら下げているのかも、さっぱり分からない。

 

 それから黒のインバネスの下の、カラフルを通り越してサイケデリックな暖色系の羽織袴。深紅やらショッキングピンクやら金糸やらで飾られた、不揃いのボーダー柄。なんとも目に優しくない配色である。そのわりに意外と似合っているように思えるあたりは、少し面白い。

 

 そして最後にその頭部。およそ整えるということを忘れられているような、あるいは身だしなみという人類文明の知恵に唾することが、この男の(マガツヒ)の色、定められた宿業なのかもしれない。

 

 

「で、貴方は?」

「僕はペイラー・榊。ここの研究局の、まあ、責任者みたいなことをしている」

 

 研究局という言葉を聞いて、シンは僅かに眉をしかめる。アナグラに来る前、リンドウが話してくれたことの中には研究局の狂的(マッド)なエピソードがいくつも混じっていたためだ。

 とはいえ眼の前に居る男からはこれっぽちも()()を感じることは無かったため、警戒はしても逃げるまでには及ばない。

 

 シンのそんな様子に全く気付いた様子もなく、世界有数の頭脳は何の前置きもなく質問を投げかけてきた。

 

「ああ、君。新製品のレーションは食べてみてくれたかい? 自信作でね」

 

 新製品のレーションとはもしやあの、カ○リーメイトめいた形状のアレだろうか。

 ただ純粋に「不味(マズ)かった」としか言い表しようのない代物だったのだが、あれで自信作なのか……技術的な問題か、あるいは味は目的ではないのか。あるいは彼の味覚に問題がある(メシマズの)可能性もあるか。

 

「リンドウから貰ったものなら、食べたが」

「どうだった?」

「不味かった」

「そうかい。他には?」

「いや、特には」

「ふむ。その時、怪我をしていたとか?」

「いや、無い」

「ほう! で、君は味覚に自信はあるかな?」

「あまり」

「なるほどなるほど」

 

 矢継ぎ早に繰り出される質問に、シンは端的に答えていく。人修羅になってからというもの、人間らしい食事から離れて随分経つ。自分がまだマトモな味覚を持っているかは怪しいものだが、リンドウも不味いと言っていたし、不味かったという感想が()()()ことにはならない……はず。

 だがそんな不安はすぐに気にならなくなった。なにしろ繰り返されるのはひどく些細な、何の意味があるのかも分からないような下らない質問だ。それなのに、そんなどうでも良いようなことに一つひとつ答える度、目の前の変人(マッド)はやたらと楽しげにテンションを上げていくのだ。シンははっきりと戸惑いを覚えていた。

 

 そんなシンの様子などまったく気にすることもなく、ペイラー・榊は質問攻めの最後に爆弾を投げ込んできた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()?」

 




(20171214)誤字訂正
 お稲荷寿司様、誤字報告ありがとうございました。

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