GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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冒頭に新章のプロローグが同梱されています。
新章のタイトルは、次話更新と同時に開示します。

分かりにくいですが、「整備班」は部署名、「整備局」は設備(部屋)名として使い分けています。



第三章 ビジョンクエスト編
#026 生きた神機


 気が付けば犬だか狼だか分からない、赤茶けた毛並みの獣が荒野に行儀よく座っていた。

 

 

――この地は黒いのだな。

 

 

 獣が喋った。

 

 それが人語であるのかどうか。いや、そもそもそれが音であるのか、あるいは思念波(テレパシー)のような別の手段であるのかも、よく分からない。ただ人修羅であるシンには、その意志が理解できるというだけのことだ。

 

 倒壊したビル群を見上げ、獣は淡々と語り続ける。

 

 

――石造りの高い建物(ビルヂング)。まるで異国の祭祀場(ストーンヘンジ)のようだ。

 

 

 赤茶けた獣は膨らませた頬から、ぷう、とビル群に息を吹きかける。

 

 ビル群はサラサラと崩れて砂と化した。

 

 

――大地に黒い石で線を引いていたのか。

 

 

 今度は地面を這うように敷かれた、朽ちかけたアスファルトの路面に視線を落とす。

 

 

――これでは息苦しかろう。だがそれもいずれは朽ち果て、大地へ還るのだ。

 

 

 獣が前足でアスファルトを軽く叩けば、それは見る間もなく崩れ去っていった。

 

 

――万物は大地(ほし)より生まれ大地(ほし)に還る。

 

――喰らい喰らわれ、いずれは大地で一つになるもの。

 

――なのに何故(なにゆえ)、小さき生命に気を留めるのか。

 

――なのに何故、今さら人の世に帰ったのか神霊(ヒトシュラ)

 

――なのに何故、今さら人に目を向けるのか魔帝(ヒトシュラ)

 

――何故……

 

――何故……

 

 

 一言ごとに獣が増えてゆく。

 いつの間にか、見渡す荒野を行儀よく座る獣が埋め尽くしていた。

 

 

――なにゆえに いまさら ひとのむれにかえった ひとしゅら

 

 

*   *   *

 

 

 ひとまず神機のメンテナンス――というか新造――が終わるまで、整備班への()()扱いとなった間薙シン。神機大破は不慮の事故というカバーストーリーや、本来ならば訓練生としてみっちりツバキにしごかれている時期であること、彼が奇人(サカキ)博士に()()()()()()()()()ことから、それほど悪感情(ヘイト)が生じることもなく、彼はただ整備局の片隅に座っていた。

 

 整備班の面々には床に()()に腰を下ろし、行儀悪く胡座をかいていると思われていたが、実のところそれは半跏趺坐(はんかふざ)――あるいは菩薩座とも――という禅の作法であった。

 シンは特に意識しているわけではない。ただ座るとそうなってしまうだけのことだ。

 

 眠るでなく、起きるでなく。

 何者にも気を奪われず、されど何者を拒むこともなく。

 あるがまま、融通無碍(ゆうずうむげ)の境地にある時、シンは自然とそうした(さま)を見せる。

 

 だが、外から見れば、ただ眠そうにしているようにしか見えない。

 それでも彼は放置されていた。

 神機をオーバーホールに出したゴッドイーターが、そうして手持ち無沙汰にしている光景は、アナグラでよく見られるものだったから。

 

 決して近寄りがたいとか、たまに体を揺らしてなんか不気味とか、そういう理由ではないはずだ。

 ないはずだ。

 

 

*   *   *

 

 

 神機を振り抜き、超音速で分解した瞬間の光景は、なかなかの見ものだったと思い出す。

 

 

 音速の壁を突破し、あの悪趣味な処刑道具めいたコクーンメイデンに当たるまでの間、神機のコアは、神機の崩壊を防ぐべくその形態を自ら変えて刀身を包み込もうとしていた。

 

 だがコクーンメイデンの頭部(?)に当たった瞬間、コアはアラガミによる侵蝕を防ぐために刀身の接触面に集中し、それまで刀身の分解を抑え込んでいた力が消失、刀身はバラバラに飛散してしまう――ちなみに一番大きかった刃の部分は、コクーンメイデンを一刀両断にしてもなお止まらず、超音速の衝撃が巻き上げた砂埃の中、大地を切り裂きながらその亀裂へと消えていった。

 

 多大なマガツヒを消耗した神機のコアは、次の瞬間、これまた自ら勝手に切断したばかりのアラガミのコアを捕食し、一瞬でその周囲に飛び散ろうとしていたアラガミの肉片まで、蜘蛛の糸のように細い食指を、全方位に投網のように伸ばして食らいつき、瞬時にコアへと戻ってゆく。

 

 

 全てをやってのけるまでにかかった時間はほんの数秒のこと。だが刹那――即ち七十五分の一秒の動きすら認識しうる混沌王(ヒトシュラ)の目は、その全てを克明に見取っていた。

 

 シンの訓練はビデオ録画すると言われていたので、今頃はきっと黒い狂的(マッド)眼鏡は大喜びに違いない……と、事情を知らないシンは盛大に勘違いしていた。

 爆心地に居た彼には克明に見て取れたその光景は、外からは砂塵の壁に遮られて録画できていなかったというのに。

 

 

 これまでシンは、神機と腕輪は合わせてマガタマのようなものだと思っていた。

 

 だがしかし、どうやら思い違いをしていたらしい。

 

 考えてみれば、マガタマが自身の姿を変生させる捕食(プレデター)形態など、単なる力の結晶たるマガタマの()()からは逸脱している。それもこのボルテクス界の特性かと思ったのだが、マガタマ自身が生きるために行動するとなれば、それはマガタマではなく一個の悪魔(アクマ)と考えるべきではなかろうか。

 

 

 ふと興味が湧いて、シンは虚空から宝重(ほうちょう)・万里の遠眼鏡を取り出した。

 【アナライズ(来歴解析)】の権能は、かなり早い段階で手放してしまっているため、これに頼るしか無い。他者の情報は生き残る上で重要なファクターではあるが、力を蓄えた悪魔はその力を維持するため、より強固な()()――即ち有名な悪魔――へと姿を変える。

 有名であるということは情報が多く仕入れやすいということだ。

 転輪鼓(ターミナル)に記された旧文明の記録、アマラ宇宙の情報を手繰れば、弱点や戦術などの大まかな情報は手に入る。故に最初期に手に入れた【アナライズ】の権能は、旅の途中で他の権能に塗り替えてしまっていった。

 

 

 自身の考えが正しければ、この宝重が来歴を教えてくれるはず。

 シンは右目に望遠鏡を当てると、近くの台座に固定されたひとつのピストル型(第一世代)神機を覗いてみた。

 

 

*   *   *

 

 

「何してるんですかねえ?」

「さぁ、なぁ?」

「あれは?」

「ありゃあ確かレイチェル・アダムスの……」

「ああ、あのヴァジュラとの初の交戦記録を残したっていう」

「酷いもんだったらしいがな」

 




感想、評価、お気に入り、いつもありがとうございます。
個別にお返事できていませんが、いただいた感想は楽しく拝見しています。

神機大破への感想が概ね「知ってた」で、「デスヨネー」という(笑)

折角のゴッドイーターとのクロスですので、神機にはこだわりたかったりも。
物欲センサーとの戦いをくぐり抜け、やっと新調した神機を担いでアラガミを試し切りに行く。それもまたゴッドイーター。

……まあ「#000」にあるとおり、グーパンで片付けちゃったりもするんですが。


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(20180524)誤字訂正
 伊科礼悟様、ご指摘ありがとうございました。

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