GOD EATER Reincarnation 作:人ちゅら
(ソウルハッカーズのビジョンクエストの設定そのままではありませんが)
今回ちょっと分かりにくいかなーとも思うので、次話と合わせて後日再編集するかもしれません。
神機保管庫の片隅で、一人ボケっと座り込んだ新人ゴッドイーター・間薙シン。
ふとした思いつきから、シンは宝重・万里の遠眼鏡を取り出すと、台座に収められた拳銃型神機を覗き込む。
それが
だが、万里の遠眼鏡が見せた光景は、シンの見慣れたものとは大きく異なっていた……
* * *
+++【西暦二〇五八年 極東地区】+++
フェンリル極東支部で、主に偵察任務を行うゴッドイーターだ。
かつて横浜市と呼ばれ栄えた街は、今や贖罪の街と呼ばれる人類の悔恨の地であった。多数のアラガミを殲滅するため、カミを信じた人間たちを犠牲にしたこのエリアには、彼らの棺桶を思わせるアラガミ・コクーンメイデンがよく現れる。
コクーンメイデンはアラガミの中でもユニークな存在だ。それは
ドクター榊は「自己進化を行うアラガミとしては移動能力を持たないなど完成度の低さが顕著なため、もしかすると進化途中のサナギのようなものなのかも知れないが……」と前置きをした上で、「現状確認されているコクーンメイデンは、食虫植物の特性を発現したアラガミではないか」と分析していた。
その分析が正しいかは知らないが、コクーンメイデンは放っておくと雑草のようにねずみ算的に増殖するため、ときおり間引かなければならない。完全に駆除しないのは、彼らが場のオラクル細胞を
そんなわけで、コクーンメイデンの調査と間引きは、専ら戦闘力の低い
ちなみに
偵察班にとってコクーンメイデン相手のミッションは単なるルーチンワークであり、手軽なくせにアラガミ相手のため危険手当も出るという、ちょっとしたボーナスミッションだった。
……そう。
今回のミッションも、予定通りであれば鼻歌交じりに片付けられるものだったはずだ。
しかし今、
『パターン識別……アラガミ・
ナビの喜色に満ちた叫び声が、インカム越しに
高層ビルだった瓦礫の山の上に、見たこともない巨大な四足獣型のアラガミが、王者のごとく屹立し、悠然とあたりを睥睨している。
ナビゲータによれば、まだ基礎情報すら明らかではない新型のアラガミ。
ユーラシア大陸南東エリアで発見されたが、同エリア支部に遭遇の一報を入れたゴッドイーター部隊は壊滅。後日辛うじて回収された
調査のため半月前に出撃した同僚は、未だにアナグラに帰投していない。
できればさっさと帰投したいのだが、
ああ、
だが、その予想は斜め下に裏切られた。
『レイチェル君。そいつは新型だ。しかもほとんど未調査の。この意味、分かるね?』
――この
大型アラガミの情報は、いつだって十名以上の
フェンリル職員に情報不足の恐ろしさを知らない者はない。
アラガミ出現初期には
決死の命令をするのは誰だって嫌だろう。だが、それでも命令しなければならないのが指揮官の仕事である。とはいえ指揮官の最優先ミッションを除き、ほとんどのミッションはナビが指揮官代理とされている。
ゴッドイーターは現場で力を尽くすが、重要な判断についてはナビが決断し、責任を持つ。それが通例である。なのに命令される側に提案させ、あくまで自分は現場の判断を尊重した
『レイチェル君、聞いているのか? ……おぃ』
瓦礫の上に雄々しく
* * *
それからヴァジュラと
ネコ科の猛獣をベースに、頭部には硬質化した流木のように太く節くれだった角らしきものを、また顔の側面から顎にかけてはタテガミともヒゲともとれない毛を生やしている。
口元から伸びる二本の長く鋭い牙によって口角が押し上げられ、まるで不敵に笑っているようにも見える面差しは恐ろしい。
いかにも力の有りそうな太い四本の脚先には、大地をしっかりと踏みしめる大ぶりの足があり、それぞれがこれまた硬く鋭そうな四本の爪を備えている。あんなものが振るわれれば、人間は愚かゴッドイーターとてただでは済まないだろう。
肩のあたりからは薄く柔らかい布のような部位が、腰のあたりまでを覆っている。あれはもしや翼か。だとするとあの巨体が飛行するのか。
瓦礫の山の上で悠然と構えていたヴァジュラは、そんな
続いて光学情報。写真を撮ることを考える。
ただしこれにはファインダーを向ける必要があり、当然、太陽光が反射すればアラガミに察知される危険が伴う。これは慎重に行わなければならない。
ヴァジュラのみならず他のアラガミにも気付かれないよう、物音を立てず、息を殺し……
観察情報を可能な限り文字に起こして情報パッケージを幾つも作成しながら、じっと太陽の角度が変わるかヴァジュラが移動するまで待つ。
それから約一時間。ヴァジュラは
アナグラに居れば、食事でも取りながら仲間とちょっと
その一時間を、
照りつける太陽の熱にも、にじみ出る汗の不快感にも、強い緊張状態のせいでもよおした生理現象にも、もしかしたら今動いても気付かれないんじゃないかという慢心にも……そして今日に限って「
そうしてようやくヴァジュラは動き出した。
幸運にも
――あとしばらくの辛抱だ。
あの巨体が山陰に隠れたら、
そのプランは何度も何度も脳内でシミュレーションしていた。
そしてそれを実行に移そうとした。
だが、
自己進化を繰り返すアラガミという存在の本当の恐ろしさを。
人間との戦いの中、彼らも学習するということを……
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(20180627)加筆修正
一部ルビを加筆修正しました。