GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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今回のバトルの難易度は「GE無印の操作性&アタリハンテイ力学でヴァジュラ相手に初見プレイ(ただし被ダメージは60%減)」相当です。



#029 死闘

 先手を取ったのは巨獣(ヴァジュラ)だった。

 

 シンはその動きに気付いてはいたものの、看過することしか出来なかった。

 なにしろ彼は今、あくまで彼女(レイチェル)というゴッドイーターの肉体を介して世界を覗き見ているに過ぎないのだから。

 インカムを潰して放り捨てたり、ヴァジュラへの先制攻撃を阻害され続けたことから、シンは現状についてそう判断した。おそらく肉体の主導権は今なお彼女にあり、シンには彼女と同調(シンクロ)するか、彼女の自我が働いていない隙に割り込ませることでしか()()出来ないのだろう。

 

 

 諦めたかのごとく瓦礫の山の向こうに姿を消したヴァジュラは、密かに大きく迂回して彼女の死角へと回り込んでいた。そして彼女がアナグラに情報を送信しようとわずかに切らした警戒の隙、そこに巨獣はその図体に似合わぬ速度で切り込んできたのだ。

 

 だが()()()()()()()()()()()()レイチェルの幸運だった。

 彼女の意識が空白で埋まった瞬間、シンは繰り出されたヴァジュラの右前足の一撃を横殴りに打ち払うとともに、攻撃のずれたそのわずかな隙間に彼女(じぶん)の身体を滑り込ませた。

 そのまま横っ飛びに一回転し、辛くも危機から逃れたレイチェルはすぐに意識を取り戻す。

 偵察班と言えども歴戦のゴッドイーターである。(まご)うことなく戦士の精神は、理不尽に生き延びた過去に何故と問うより前に、まず眼前の危機に向けて牽制した。

 

 対するヴァジュラは勢いよく振り下ろした爪を横殴りにされ、体勢を崩して無様に大地に転がっていた。

 何が起こったのか? そんな無駄なことを考える脳はこのアラガミには無い。ただ奇襲に失敗したということ、(エサ)がまだ生きているということ、そしてその餌がこれまでとは違う(チカラ)を持っているという()()を認識するのみだ。

 

 身を捻るようにしてすぐさま起き上がると瞬時に後ろに跳躍し、(レイチェル)の銃撃を躱してみせる。

 ……と同時に大きな咆哮をあげ、鋭い牙をむき出して威嚇した。これまでの経験で、弱い餌がこれだけで動けなくなることをヴァジュラは知っていた。それでもなお反撃してきた餌は強く、そして美味かった。そのことを(ヴァジュラ)はよく覚えていた。

 

 

 強い圧力を感じる咆哮に、神機と腕輪がカタカタと音をたてる。それが彼女の怯懦によるものか、あるいはアラガミとしての神機が武者震いをしているのか、シンに知る由はない。ただ肉体の主導権をもぎ取ることが出来なかったことから、彼女の意識が途切れること無く、またこの戦いから逃れるつもりもないことだけは分かった。

 シンは彼女が諦めるまでこの戦いを傍観することに決めた。

 彼女がダメージで一瞬意識の飛んだ隙に、【メディアラハン(集団完全治癒)】が使えることは確認済みだ。おそらく魔法は体を動かす必要が無いため、極小の隙でも割り込めるのだろう。それでヴァジュラの前足を横殴りにした右拳を密かに治してやったのだ。だから即死の一撃でも受けない限り、いつでも救助は可能なはずだ。あるいは【サマリカーム(完全復活)】が使えるかも知れないが、こればかりは試す気にならない。

 そして自分がどうやって()()()()()といった問題についてだが、そのあたりはまあ、どうにでもなるだろうと高を括っている。

 人修羅(シン)にとってはもはや、彼女が寿命で死ぬまで付き合ったところで大した時間ではないのだ。

 

 

*   *   *

 

 

 とはいえ実際はワンサイドゲームもいいところだった。

 

 ヴァジュラの攻撃を、彼女はひたすら躱しながら罠を張り、逃げ惑うしかない。

 かれこれ一時間近くもそれを繰り返してきた生存能力の高さは「さすが偵察班」と賞賛に値するものかも知れないが、それだけだ。シンが憑依したせいで身体能力が急に向上していたことも裏目に出た。結果として何度も攻撃を受けてしまい、手持ちの回復錠も使い切ってしまった。頑強さの増した肉体ではそれほどのダメージになっていなかったのだが、予防的に早めの回復を行ったのもマズかった。とはいえいまさら後悔しても始まらない。

 スタングレネードやホールドトラップで動きを止めたところで、レイチェルの武器は拳銃型神機ただ一つ。冷静に各部位を狙い撃ってはダメージの通りを検証する冷静さこそ有れ、致命傷を与えるだけの攻撃力は持ち合わせていなかった。

 

 それに、拳銃型神機には致命的な弱点が有る。

 弾数制限だ。

 射撃型の神機はゴッドイーター自身のオラクル細胞から抽出されるエネルギーを弾丸とするのだが、技術的問題からそのエネルギーの長期保存はまだ出来ない。そのため自身のオラクル細胞を強制的に活性化させ、エネルギーを絞り出す専用アンプルを飲むしか無い。今回、レイチェルはコクーンメイデンの間引きを目的としたため、通常ミッションの三倍に相当する六本のアンプルを支給されていたが、それも残り僅かだ。

 何よりこのアンプルは、過剰摂取することで副作用が生じる劇薬だ。生きるか死ぬかの現状においては飲むしか無いのだが、万が一にも副作用が出た時が恐ろしい。彼女はその恐怖とも戦い続けていた。

 

 他のアラガミから隠れることも早々に諦め、救難信号はずっと出し続けている。おかげでザイゴードが群がってきたが、彼らはヴァジュラの見境ない攻撃に晒され、いつの間にか姿を消していた。

 だがそれで救援が駆けつけるかと言えば、それも期待薄だ。近くに派遣されているゴッドイーターが偶然居て、彼らが偶然手すきで、更には彼らのオペレーターが善意の人でもなければ、即時の救援を期待することはできない。まして相手は新型アラガミである。討伐班でもなければ二重遭難になりかねない。

 

 要するに、レイチェルの死はほぼ確定的と言える状況になっていた。

 

 鋭い鉤爪。

 巨体からは想像できない宙返りの一撃。

 身軽に跳躍しての強烈な踏みつけ。

 超重量級の突進。

 そして咆哮と共に放たれる大雷球。

 

 かろうじて致命傷となる一撃こそ回避しているものの、全身は打撲痕の痣、流れた血と砂にまみれ、もはや白かった素肌を見つけるほうが困難だ。

 それでも彼女は立ち上がり、また瓦礫に身を隠しながら、生きる道を模索していた。

 

 

 その戦いぶりに感心したシンが助け舟を出そうと、

 

――助けてやる。だからもう抗うな。

 

 と囁きかけても、

 

「黙っていろ()()()()!」

 

 と怒鳴り返されてしまった。

 

 どうしようもなく言葉選びを間違ったことに、シンは気付いていない。

 

 

 狂気に身を委ねず、諦めに身を投げ出さず。

 何本も欠け折れた歯をむき出して食いしばり、頭部に受けた鉤爪の痕から流れる血が片目を塞いでも、懸命に己の戦いを続けている。

 

 あるいはそれこそが狂気という者もいるかも知れない。

 だが彼女は正気だった。

 「正気のまま狂っている」というのが、きっと一番近い。

 もっとも、言葉による定義など今の彼女にはどうでも良いことだろうが。

 

 

 そうして拮抗状態に陥り、数分のにらみ合いの時間が続いていた。

 だが慎重に距離を測り、慎重に様子を窺っていたヴァジュラが、ついに動き出す。背のマントを大きく広げ、溜め込んだエネルギーを無数の雷球に変えて眼前に並べた。これまで見たことのなかった光景に、その絶望に、レイチェルは一瞬、身を竦めてしまう。

 それでも彼女は冷静に雷球を観察した。これまで打ち込まれた大雷球よりも一つ一つは小さく見える。上手くすれば回避できるかも知れない。それが射出されると同時に、直撃を避けるべく大地を蹴った。

 

 いや、蹴ろうとした。

 だが既に、その足先は彼女の言うことを聞いてはくれなかった。

 ダメージの蓄積した肉体に、脳は麻薬を生成して末端の痛みを忘れさせていた。ゴッドイーターの頑健な肉体にも効果のある、強力な脳内麻薬。そして偵察班の彼女は、これまでこれほどのダメージを負ったことはなかった。

 

 だから気が付けなかった。

 

 この遮蔽に飛び込んだとき、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そうして飛来した雷球にその身を焦がされた彼女は、初めて諦めの境地に到った。

 




次回、選手交代。

超人バトルむずかしー


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(20180720)加筆修正
 一部のルビ、傍点を修正しました。

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