GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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エリックの入隊時期、アーカイブだと2069年だったはずなんですが『ゴッドイーター 5th ANNIVERSARY 公式設定資料集』付属の年表だと2068年になってて「あれ?」という。享年17という若さを鑑み、本作では「本来は2069年に入隊するはずだったけど諸事情()で2068年に入隊してしまいました」ということで。



第四章 喰人転生編
#040 エリック・デア=フォーゲルヴァイデ


 ゴッドイーターになったばかりの新人、エリック・デア=フォーゲルヴァイデは今年で14歳。簡易検査で適性七割(イエロー)を叩き出した有望株だ。だが彼はこれまで適合試験を受けずに過ごしてきた。

 それというのも彼がまだこの時代(2068年)においても未成年とされる年齢であり、フェンリルの関連企業の御曹司として何不自由なく暮らしていて、そして何より周囲がそれを認めなかった(時には露骨な妨害工作まで行われた)からなのだが、正義感に溢れる彼自身はそれを良しとはしていなかった。

 

 特に生まれながらにして難病を抱えてしまった最愛の妹の存在は、彼の精神を厳しく練磨した。

 父の財力、権力に守られ、かつ――妹と違い――健康な肉体として生まれた彼は、やがて自分を厳しく律することを自身に課すようになったのだ。

 妹の治療法についてアラガミ研究に活路を求めた彼は、激戦区であり新型アラガミとの遭遇報告も多く、そしてアラガミ研究の第一人者が揃った極東支部に「視察」に現れると、ずっと機を窺っていたのだった。

 

 

 そして大地が閉ざされ天頂に忌々しいカグツチが輝くようになったあの日も、彼はアナグラに居た。

 

 すわ好機と思ったものの、今度は激変した状況に周囲が対応できず、名目上でしかなかったはずの「視察グループの最高責任者」の肩書きが、実態を伴って彼に襲いかかってきた。管区のほぼ全てが荒野と化した極東支部と異なり、フェンリル本部のある北欧管区や大陸各地の造山帯は、アラガミの被害も少なく生産力を残していたのだ。少年はその生産力の一翼を担う企業の御曹司である。資産も権限も、緊急時だからこそ無視できるものではない。

 アナグラに保管されている一部物資の扱い、期間満了となる一部契約の更新手続き、人手の足りないアナグラ各部署への部下の臨時出向、更には引き抜き(ヘッドハンティング)への対応など、それから二月ばかりの間、彼が自由に行動できる時間などこれっぽっちも無かった。

 

 母の影響を強く受け、派手な装いと奇矯な振る舞い――彼はそれが周囲を笑顔にすると信じて疑わない――を好むようになったエリックだが、内面は極めて真面目な少年だった。貴種の果たすべき義務(ノブレス・オブリージュ)を自身に課すその生き方は、時に不器用で周囲の迷惑となることもあったが、不思議と人々に嫌われることはなかった。

 故に彼は、彼個人へと向けられる作為に対して、どこか不用心なところがあった。

 

 

 そうして彼は、暴走した研究員の甘言に乗ってP53+偏食因子適合試験(じんたいじっけん)に協力し、ゴッドイーターへと成り果てたのであった。

 

 

*   *   *

 

 

 P53(プラス)偏食因子の対一般人投与実験は、よりにもよって関連企業の御曹司に対して行われてしまった。シックザールがそのことを知ったのは、被験室の使用中ランプが点灯していることに気が付き、急いで駆けつけた先で神機を掴んで気絶していたエリックを見つけた時だった。

 日々の雑務に追われながら、悩みに悩んで救護室の世話になったシックザールの心労は、一人の研究員の暴走によって無に帰した。フェンリルが即効性の胃痛薬を開発済みであったことは、彼にとって僥倖だったのか、それともその逆か。

 

 一罰百戒。いや、この場合はより直接的に殺一警百(シャーイージンパイ)と言うべきか。

 実行した研究員は、彼自身が自己を弁護するために唱えた「科学の必然」に従い、適合率一桁(ブルー)に対する投与実験の“被験体”として、世界初の貴重な記録映像となりはてた。

 そうして今、新たな悩みが人の姿となってシックザールの前に座っている。

 

 

 極東支部長はこれまで取引相手として何度と無く折衝を行ってきた少年(エリック)に、上司として命令することになった現状に頭を抱えたかった。

 

 

「まずは偵察班で、基本的な立ち回りを学んでもらう」

 

 

 とはいえエリックには生き残ってもらわなければ困る。

 あるいは帰還を強行したことにして存在を抹消することも検討したが、人の口に戸は立てられぬもの。特に多くの職員と交流を持っていたエリックのような存在に何事かあれば、箝口令を敷いたところで秘密はどこからか漏れてしまうものだ。

 シックザールは彼が少しでも生き残れるよう、危険の比較的少ない偵察班への配属を決定した。

 

 その後、二、三の連絡事項を通達すると、シックザールは大きく息を吐いて柔らかな声で付け加える。

 上官という立場、それも状況によっては彼に死に等しい命令を出さなければならない立場になってしまったとはいえ、必要のない波風を立てたいとは思わない。この場で和解など出来ようはずもないが、その端緒は掴んでおきたかった。

 

 

「……お互い意に沿わぬことになってしまったものだが、ゴッドイーターとしての義務さえ果たしてくれれば、とやかく言うことはない。健闘を祈る」

「これも力持てる者の義務というものでしょう。僕はこれからこの力を持って、守るべき人たちを守ります。あなたがたもそうであることを願うばかりです」

 

 

 背筋の伸びた赤髪の少年は、普段のおちゃらけた態度からは想像もできない真摯な面持ちで、これから上司となる白衣の指揮官に、ちくりと皮肉を一刺しした。

 

 

*   *   *

 

 

「よろしくお願いします!」

「偵察班の任務は地味なものが多いが、だからといって気を抜くなよ?」

「はい!」

 

 

 かくしてまずは偵察班のメンバーとして立ち回りを学ぶエリックだったが、向上心のある後輩としてすぐに先輩ゴッドイーターから可愛がられるようになっていた。

 

 そもそも近年、激化の一途をたどる極東支部では、ゴッドイーター部隊に欠員が出ないようにするだけで一苦労だ。周縁集落(サテライト)で実施する簡易検査での適合率の基準を下げながら、どうにか戦死者を下回らないように調整してきたため、新人たちの素性はあまりよろしくない。

 サテライト出身のゴッドイーターたちは、故郷への食料供給をストップされないよう差し出された人身御供(ひとじち)か、特権者になりたかっただけのお調子者(ノータリン)日雇い労働(アルバイト)感覚の者などロクな人材がいない。だから命令不服従の新人(死にたがり)に現実を思い知らせることが、指導係が最初にやらなければならないことだった。

 

 それに比べればアラガミへの復讐心で、前線へ出たがるくらいは可愛いものだ。

 ただ、実験を実施することしか頭になかった研究員の暴挙で、彼に接続された神機がブラスト型である点だけは、どうにかならなかったのかと悔やまれている。

 

 

 第二世代の射撃型神機の中でもブラスト型は攻撃力、特に大型アラガミの硬い外殻の破砕を目的とした重砲で、現在知られている大型アラガミのヴァジュラや、中型のボルグ・カムランなどに無類の強さを発揮する。だが大ぶりで射程距離が短く連射性能も悪い、接近しなければ使えないのに機動力を奪ってしまう。一人ひとりが貴重なゴッドイーターが扱うには、欠陥だらけの設計だった。

 そんな中でもどうにか使えるようにしようと、開発局では日々試行錯誤が繰り返されている。だが試験機として作られても、使うゴッドイーターがいなければ無意味だ。そんなわけで、開発局には使用者未定(ブランク)のブラスト型神機がいつも残っていた。阿呆な研究員はそれに目をつけ、勝手に持ち出してエリックに与えてしまったのだ。

 

 命知らずの年若いゴッドイーターや、アラガミに強い復讐心を持ったゴッドイーターたちが、我が身を省みずに振り回すのがブラスト型だ。その砲撃は硬い外殻を持たない小型のアラガミにはあまり意味がなく、本来なら安全第一の立ち回りを覚えるべき彼という存在と、余りにミスマッチな神機だと言える。

 

 彼の教育を任された偵察班では頭を抱えたことだろう。だが放置すればそう遠くない未来に、アラガミに突撃して命を落とすことは目に見えている。彼がそういう男であることは、一度任務に同行すれば誰にでも分かることだ。

 

 

 たとえばアラガミを交戦ポイントまで釣り出すための囮役が危機に瀕した時、我を失って飛び出してしまうことが何度か繰り返された。

 世界の大半が荒野と化してしまったとは言え、極東支部周辺もまた旧首都圏に属するエリアであり、かつての住宅、工場、商業施設など、建物が密集している場所も多い。アラガミの大きさや数、参加するゴッドイーターの数と戦術、任務目標が討伐か捕獲かなどによって戦場を選ぶことは日常的に行われている。

 

 その日も二人組(ツーマンセル)で任務に当たっていたところ、囮になって釣り出すはずだった先輩ゴッドイーターが、不覚にも瓦礫に足を取られて転倒してしまった。もちろん囮役とは言え距離はとっていたし、すぐに立て直すことは出来たのだが、エリックは待機することが出来ず、追い来るアラガミの前に飛び出してしまった。

 エリックはまだアラガミを捌きながら高速移動する技術を身に着けてはいない。だからこそスナイパー型でもないのに釣り野伏などやっていたのだが、今更そんな事を言っても仕方がない。開き直ってその場で撃退することにしたのだが、当然ながらこれは無茶を要する選択だった。

 結果として、指導係のゴッドイーターは負傷により二週間程度の戦線離脱(バカンス)という、手痛いしっぺ返し(プレゼント)を食らう羽目となる。

 

 

 ……はずだった。

 




シックザールが憎いわけじゃないんですよ。
むしろシックザールは好きなキャラで、部分的ながら救済されてるSS(「私は偵察班なんだけど」とか)好きなんですが……こう、設定を煮詰めていくと全てのしわ寄せが彼に集中してしまうので。
ゲームのシナリオ的な都合もあるんでしょうけど、極東支部って活動規模の大きさに比べて組織としての規模が妙に小さいから……
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