GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

43 / 48
原作ゲームから遡ること三年ということで、ゴッドイーターの装備は原作ゲームよりも更に悪く、ほとんど存在しないか性能50%程度の下位互換品ばかりの状態です。


#042 そして扉は開き

 食料や薬品、グレネードのような補助武装、野営装備など、ゴッドイーターの装備の多くは、長いこと人間の正規軍のものを流用していた。これは人類世界がまだ辛うじて残っており、フェンリルが営利企業組織としての建前を捨てることが出来なかったからだ。

 

 もしもフェンリルが現在のように人類世界の統治者として活動していたなら、連合軍はその肩書と建前によってフェンリルと敵対していた可能性が高かった。無論そうなればフェンリルが勝ったことは疑うべくもないが、それに伴う損害は致命的なものになりかねなかった。

 

 そうして人類文明を道連れに衰退していった連合軍が、自らの存在を賭けて挑み、完全に壊滅した最後の反攻作戦から三年。世界各地のフェンリル支部とその周辺の都市(ネスト)を再建し、配給食料とパッチテストを始めとする支援体制、ひいてはフェンリルによる支配体制を確立した。

 これでようやくフェンリルは、自前の戦力であるゴッドイーターとその装備の開発に、注力できるようになったのだ。

 

 それがここ、西暦2068年のフェンリル極東支部の現状であった。

 

 

 今、シンの共にこの部屋にいるのは、装備開発部門の俊英・(くすのき)リッカと、神機ゴッドイーター開発部門長のペイラー・(サカキ)

 そしてその目の前に、未知の道具がある。

 

 

「この玉は一体──」

「あの、これは──」

「それはどういう──」

「こっちと、これと、これと、あとこれも──」

 

 

 こうなることは、想像して(しか)るべきだった。

 

 

「あー……」

 

 

 まだしばらくは、この部屋のシャッターが開くことはなさそうだった。

 

 

*   *   *

 

 

「じゃあ博士、お先にー」

「ゆっくりで構わないからね。なんなら私が行くまで待っていてくれて構わない。いやそうしよう、それがいい。そうしてくれるなら──」

「いえいえ、お忙しい博士のお手を煩わせるなんてー」

 

 

 カラーケースを積んだ台車を押しながら、リッカは未知の道具たち(おたから)を種々の検査にかけるため、一足先に部屋を出ることになった。

 これからの作業に目を輝かせる彼女に、にこやかに手を振られたサカキといえば、執着を振り切るように積まれたカラーケースから目を逸らしてなお未練たらたら。先んじられることを諦めきれない様子でぶつくさと呟いたかと思えば、腰を浮かせ、手を伸ばして引き止めにかかっている。

 

 

「それじゃあシンくん、ごゆっくりー」

「ああ」

「嗚呼……」

 

 

 リッカが退出すると、再びシャッターが降り、部屋は密室となる。

 しばらくは名残惜しげにドアの方を見つめていたサカキを前に、シンは待機モードへと推移した。そうしておけば、定義した外的刺激に晒されるか生命の危険に陥るまで、何時間でも何日でも何年でも待つことができるからだ。今のサカキは、シンにとってさほど興味を持てる対象ではない。

 

 

「それで、マガツヒっていうのは何なんだい?」

 

 

 どれほど時間が経ったか知らないが、ようやくシンに視線を向けて口を開いた。

 予想していた幾つかのパターンのうち、最も核心に近い質問だったことについては「流石の頭脳」と内心称賛しつつ、しかし正確な答えを持たないシンは頭を悩ませた。

 

 

禍ツ霊(マガツヒ)は……無機物と有機物を分かつもの、らしい」

「ふむ。それはつまり、生命エネルギーってことなのかね?」

「おそらくは。アラガミも、おそらくそれで動いている」

「それはどういう──」

 

 

 シンがオウガテイルに【吸血】の権能を使った際、確かにコアからマガツヒが漏れ出し、それが尽きたときにオウガテイルは崩れ去った。

 リンドウとのアナグラまでの道程でも、リンドウの神機がアラガミのコアを打ち砕いた時にも、マガツヒの漏出とコアの崩壊は見ている。

 

 恐らくは世界の受胎──ボルテクス界化が原因だろう。

 

 

「アラガミの持つ不自然な能力について、そのエネルギー源については謎だった。いや正確にはオラクル細胞が放出する電磁波のパルスと、異能を使う際との同期性から、恐らくはそのパルスを発生させるものがエネルギー源だろう……というあたりまでは予想されていたんだが……」

「だが?」

「物質や現象としては観測できていなくてね。あとはオラクル細胞を加圧することで、これが大きな熱量(エネルギー)として放出されることが、経験則として分かった程度だったんだ。これを応用して遠距離型神機を作ったわけだけど、まあ、我々はそれくらい、アラガミについて分かっていない」

 

「それは仕方がないんじゃないか? 技術なんてそんなもんだろう。理屈を知らんでもハサミで(カミ)は切れる」

「それはそうなんだけど、そこで留まれないから僕は科学者なんだよ」

「分かる気はするが……」

「ただ、一つ気になっていることはあるんだ。もしかしたら、という程度の、仮説でしかないんだけど──」

 

 

 道楽者(マッドサイエンティスト)の独演会に、流石のシンもいささか食傷気味になっていた。楽しいのだろうということは膨れるマガツヒを見れば分かるが、シンの科学知識など、二十一世紀初頭の日本で大学受験に受かるかどうか、という程度が関の山だ。

 世が世なら羨望の的となっただろう、サカキ教授の個人講義(プライベートレッスン)ではあったが、今この場で受けるシンにしてみれば、説明不足で断片的にしか理解できない。

 

 猫に小判。

 豚に真珠。

 

 そんな言葉が、シンの脳裏をよぎっていた。

 

 どんどん専門的な話へと転がってゆくサカキ博士(モジャモジャ頭)の言葉を聞き流していると、流石にサカキの方でもシンの生返事に気が付いたのだろう。ようやく言葉を止め、バツが悪そうにすっかり冷めてしまったマグカップに口をつけた。

 そうして半ば無理矢理に人心地つけたところで、シンが何気なく手元で弄んでいた筒──宝重・万里の遠眼鏡──に、その意図が伝わるように熱視線を注いでみせる。眼鏡のレンズを調整しながら、過剰にアピールしながら、悪びれもせずサカキは再び口を開く。

 シンにしても、分かりやすくしてくれた方がありがたかった。

 

 

「で、それなんだが」

「実際に見てみればいい」

「それもそうだね。少し、気分転換を兼ねて外に出るとしよう。これで神機を見れば良いんだったね?」

「ああ」

 

 

 そうして二人は遂に部屋を出ると、奇妙に静まり返った廊下をエレベーターでエントランスまで。

 神機保管庫へと足を向ける二人の前から、一台の神機が自走台車に載せられ運ばれて来るではないか。

 

 

「あれでいいか。どれ──」

 

 

 そうして博士は手にした円筒を右目に当て、移送中の神機を不用心に覗き込んだ。

 




感想、評価、お気に入り、いつもありがとうございます。
おかげさまで楽しく書き続けることが出来ています。

さて、これでシンが持ち込んだ種々のアイテムを軸に、原作ゴッドイーターに登場した様々なアイテムが開発されていくことになりました。

シンの専用神機の開発も並行して行われてはいますが、こちらはコアや素材を収集して存分に研究開発できる体制が整うまで、しばらく停滞するかと思います。第一候補は人修羅の拳闘スタイルということで、ナックル型か、ガントレット型か、その辺りになるかな? まだ考え中ですが。

次話からようやく原作から逸脱して物語がガッツリ動き出す……と思います。たぶん。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。