GOD EATER Reincarnation   作:人ちゅら

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ビジョンクエスト2回目。
ですが前回とはちょっと様子が違います。

そしてすぐ終わります。


#043 幻想浸食

──人間(ともがら)を捨てた人修羅(ヒトシュラ)

 

──破壊(ちから)を求めた人修羅

 

──何故に今また帰り来た

 

──滅ぼし足りぬか人修羅

 

──喰らい足りぬか人修羅

 

 

*   *   *

 

 

「早く下がれ──!」

 

 

 瓦礫だらけの戦場に、男の叫びが響き渡る。

 

 

「助けます!」

 

 

 視界がひどく狭かった。

 気付けば自分は瓦礫の上に寝転んでいて、上下に狭い視界の中に、駆けてくる誰かの足ばかりが見えている。

 

 

「いいから下が──っ」(がなりたてる声がうるさい)

 

 

 まるで耳元で叫ばれているようなそれを疎んじ、耳をふさごうと手を動かす。

 

 カクッ

 

 立ち上がるためについていた手を急に耳元にやろうとしたため、体勢が崩れて再び瓦礫の上へと倒れ込んでしまった。大口を開けていたため、勢いよく打ち付けられた歯茎が痛む。

 

 

(……なんだ、叫んでいたのは()か)

 

「先輩!」

 

(騒がしいなあ)

 

 

 エリック……なんとか。やたら仰々しい名字の()()は、正義感に溢れる新人ゴッドイーターだ。

 

 そう、やつの振る舞いはまったく正義感に溢れている。

 今も(おとり)である()がちょっと躓いて転んだだけで、思わず狙撃ポイントから駆け出して来てしまうほどに。お陰でこの一時間の苦労は水の泡だ。せっかくコンゴウの群れから苦労して一匹だけいた変異種を釣り出してきたというのに。

 

 たとえそれが善性から来るものでも、感情的に行動してしまうということは、独善的であるということだ。正直に言って、チームワークで仕事をしている俺たち偵察班には、まったく向いてない、むしろ足を引っ張りかねない害悪だと思う。

 だが、それでも戦力として使わなければならない。()()ゴッドイーターは致命的な人手不足の中にあるし、これはシックザール支部長の命令でもある。

 

 

(まったくヨハンにも困ったものだ)

 

 ()がため息を吐いたところで何が変わるわけでもない。

 それにもう、手遅れだ。

 

 

──────────!!!!!

 

 

 およそ人間の耳には判別しきれない轟音の爆発に、()は岩肌に、後輩(エリック)も瓦礫の山へと叩きつけられ、身動きが取れない。

 このわずかなタイムロスで、ただ転んでから立ち上がるまでの時間で、追いつかれてしまった。

 

 変異種コンゴウ──まだデータが揃っていない、未知のアラガミだ。コンゴウ種の外見で、白と寒色系の体色をしているため、便宜上「白コウゴウ」とか「雪原コンゴウ」と呼んでいる。その特徴は、冷気弾による砲撃。あれを食らって一気に運動能力を奪われ、命を落とした同僚(ゴッドイーター)は既に十名を超える。

 

 そしてその後ろに、もう一体。こちらは通常のコンゴウ。先程の轟音は、こいつの咆哮だろう。

 

 

 つまりあれだ。

 最初から失敗していたのだ。

 

 

 ()は偵察班だからどうにかやっていける程度の、適応率40台(グリーン)の旧型ゴッドイーターだ。そんな俺に、中級アラガミを二体同時に相手どって、単独で戦える力なんて無い。だからこそ自分を囮にしてまで、どうにか一対一の状況を作ろうとした。作りたかった。

 

 発見は偶然だった。

 だから撤退しても良かったのだが、放っておけばエリックが一人で突貫しかねなかった。だから作戦だと言って、どうにか有利な状況を作るために、この囮作戦を実施したのだ。

 

 だが、もう無理だ。

 あの咆哮は、おそらく仲間を呼び寄せるものだ。コンゴウは中型アラガミの中でも出現報告が最も多く、そのため研究もされていた。咆哮の周波数を検知した腕時計型端末が、増援警戒の警報(アラート)を表示する。

 

 万事休す、だ。

 

 

 俺は神機を握る手から、汗が滲むのを感じていた。

 

 

*   *   *

 

 

(ああ、状況が分かってきた)

 

()は今、誰か他人(ゴッドイーター)の中にいるのか)

 

(理由は分からないが原因は分かる。あの望遠鏡だ)

 

(あれで自走台車(オートワゴン)で運ばれてきた神機を見て、こうなった)

 

(これが彼の言う「ゲームのような」ということなのか)

 

(分からない。だが、これがゴッドイーターか。ふむ)

 

 

 ()──ペイラー・(さかき)の意識は、どうしてかカトール・鳩場というゴッドイーターの身体を通して外の世界を認識していた。

 

 

(平坦な地形と外周を囲む壁のような崖から、場所はおそらく嘆きの平原)

 

(敵はコンゴウ型が二体。うち一体は変異種)

 

(任務内容は巡回。これは不意遭遇戦か)

 

(僚機は新人のエリック・デア=フォーゲルヴァイデ。咆哮と同時に砲撃を受けて……あれは一時的な行動不能といったところかな?)

 

(そして敵は二体ともこちらへ急行中。やや距離を広めにとっているのは挟撃狙いなのか?)

 

(いや。牽制か、警戒か、最低一体はエリックを視野に収めるようなフォーメーションをとっている。これは偶然か?)

 

(その効果を理解して行っているとすれば、学習したということだろうか)

 

(どのようにして学習したのか。興味は尽きないが、やはり彼らの知能は侮り難い)

 

(ふむ……無理だね、この状況。立て直せる時間はない)

 

 

 どこまでも冷静に、そして無慈悲に状況を俯瞰する。

 私の性分はどうやらこの異常事態にも変わることはないようだった。

 

 

(ところで私が、いやカトール・鳩場がここで死んだら、私はどうなるんだろうか?)

 

(そのまま()()()()()()のは嫌だな。折角こんな体験を知ったのに)

 

(もっと見てみたいものだ。こんな経験は他にありえない)

 

(だから誰か助けてはくれないだろうか)

 

 

 そんなことを考えている間に、既にコンゴウは()の目前にあって、その丸太のような太い腕で私を、いや、カトール・鳩場を押しつぶさんとして──

 

 

*   *   *

 

 

「【サマリカーム(完全蘇生)】」

 

 

 嗚呼、()()()()()()()

 

 脆弱だった()の身体が、強靭なものへと、戦い喰らうためのものへと変わってゆく。

 

 骨が、胃が、筋肉が、内臓が、腱が、血管が、血液が、皮膚が、舌が、歯が、鼻が、耳が。コンゴウの腕に押しつぶされその手指で引きちぎられ、牙と歯で咀嚼され唾液にまみれ貪られた俺の身体が。あのゴリラ野郎のオラクル細胞に取り込まれて溶け込み、失われたはずの細胞の一つ一つが蘇り、()()()()()()()()()()()()()()

 

 そうして最後に復元された眼球が捉えた光は、紺のフードを目深にかぶった一人の少年の姿だった。

 

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