機動戦士ガンダムSEEDーCross SRW!!   作:国伊都

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第一章『すれ違う翼』
PHASE01『偽りの平和ー1』


ラグランジュ・ポイント……母なる地球と寄り添うことのできる重力安定点。その一角であるL3。

そこに浮かぶ人工天体。資源用小惑星と接続された島三号型解放コロニー。それは地球赤道直下に浮かぶソロモン群島を中心とした、現在数少ない独立国家『オーブ首長国連合』所有のコロニーである。名を『ヘリオポリス』という。

 そのコロニーと宇宙空間の出入り口。民間用に解放された宇宙港に、風変わりな大型輸送船が一隻、寄港の順番を待っていた。

 サンドカラーを施されたその輸送船は空気の存在しない宇宙空間にもかかわらず、両翼に飛行機と同様の『翼』を備えていた。

 その姿は、機首に配置されたブリッジと相まって宇宙開発黎明期のスペースシャトルを髣髴(ほうふつ)とさせる。

 

 この大型輸送船『タウゼントフェスラー』は、ヘリオポリスを所有するオーブ首長国連合と経済的同盟を結ぶ独立国家、東アジアの沈まぬ太陽と謳われる日本に籍をおく、工業系複合企業『ゾルダーク・インダストリー』船舶部門が開発した大気圏内外両用の万能輸送船である。

 単独での大気圏離脱は出来ないものの、高性能飛行装置『テスラ・ドライブ』と艦船用核融合エンジンによって、大容量の物資を低コストで輸送でき、大気圏突入能力も持っている。

 そのため、地球・プラント間の戦争前は各勢力で積極的な購入が行われるベストセラー機であった。

 

 しかし戦争勃発後は、日本と経済的同盟を結ぶオーブ等の『血のバレンタインの悲劇』後人類が二分された中、懸命に中立を保つ国やジャンク屋組合等でしか新規販売はされていない。

 

 そんな高性能輸送船『コウノトリ3号』のブリッジで、クルーに混じって一組の男女が寄港のときを待っていた。

 

「こちら日本国ゾルダーク・インダストリー物流部所属『コウノトリ3号』。ヘリオポリス管制室、応答願う」

『こちら第一管制室。どうぞ』

「まだ接舷は出来ないのか? スケジュールが詰まってんだが?」

『申し訳ない。あと少し待っていただきたい。先客が手間取っているんだ。クルーがひよっこらしくてな』

 

 管制官の応答に、威厳漂う顎ひげを蓄えたコウノトリ3号船長が鼻で笑った。

にしては連合の払い下げなんて高級品を扱ってるじゃないか? 豚に真珠じゃねえのか?」

『ッ……ははっ、あんた達の船には負けるさ。……おっと、接舷許可が出た。これよりガイドビーコンを発信する』

 

 ほんの微かだが上ずった声で管制官は指示を出してきた。その反応に船長は特に反応することなく従う。

 

「ほいほい了解。ガイドビーコン受信……完了。これよりコントロールを委譲する。ぶつけんなよ? 高いんだから」

『……アイ・ハブ・コントロール。わかってますよ』

 

 ヘリオポリス管制室側にコントロール委譲されたコウノトリ3号が、ゆっくりと宇宙港へと吸い込まれていく。

 副操縦士にその作業監督を任せた船長は席を回転させ、後ろで今までの様子を見ていた男女に向き合う。

 

「小隊長。あなたの言ったとおりですね」

 

 先ほどの軽口とは違う、無骨ながらも鋭い響きを持った口調で船長は言った。

 

「中立を保つためとはいえ、何をやらかすかわからない連合によくいい顔が出来ますよ」

 

 嫌悪感を含んだその言葉に、小隊長と呼ばれた青年は苦笑する。

 

「仕方がないさ。中立国とは言っても、我々と違い軍事力ではまだまだ連合に対抗できん。そうである以上はおとなしく従いつつ、己の利になるよう強かに立ち回るしかない。

 それに今回の計画を主導するハルバートン准将は、連合内でも中道派だ。ヤツラに比べればマシと考えたのだろう」

 

 冷静な分析ながら歯に衣着せぬ言葉を発する青年は、その鍛え抜かれた肉体と鷹のような鋭い眼差し、煌く銀髪がなんともいえぬオーラを発していた。

 

「しかし、少しは抵抗してほしいモンですよ。同じ先祖を持つものとしてはね」

「まあ、仕方がないさ。これが政治という奴さ」

「ぼやくだけ無駄だと?」

「ああ……」

「……マスター、そろそろ準備を」

 

 くだを巻く船長に付き合う青年に、それまで寄り添っていた女性が口を開く。

 

「ああ。ありがとう、マリーダ。だがマスターはやめてくれ」

「しかし――」

「君にとって“本当のマスター”はあの人のはずだ」

「ですがそれでも、今のマスターはあなたです。それに……私は決して忘れたわけではありません。あの人のことも、彼らのことも……」

 

 腰まで届く赤毛を一房に結った女性は、強い決意を湛えた瞳で青年を見つめきっぱりと言うのだった。

 

「慕われておりますな、マスター?」

「茶化さないでくれ、船長。……わかったよ、マリーダ。君の好きにするがいい」

 

 折れぬ彼女の意思と船長の茶々に苦笑するしかない青年。

 

「では船長、俺とマリーダは計画通りに行動する。もしもの際は手筈通りに」

「了解しました。では、お気をつけて……ネロ・ゾルダーク小隊長」

 

 こうして銀髪の青年……ネロ・ゾルダークはバディのマリーダ・クルスとともに、『始まりの場所』へと降り立つのであった。

 

 

 

※※※※

 

 

 

『――では次に、激戦の伝えられるカオシュン戦線、その後の情報を……』

 

 いつの間にか小型ウィンドウに映るニュースに気をとられていた少年……キラ・ヤマトは視線をメインウィンドウに戻し、投げやり気味にキーボードを叩く。

 東洋系のその容姿は幼いながらも繊細な顔立ちで、憂いを帯びたその瞳は中性的でなんともいえない色気を放っていた。

 ここはキラが籍をおく工業カレッジのキャンパスだ。人工天体でありながら、緑ゆたかな中庭やあふれる陽射し……そして笑顔で行き交う若者達の姿と相まって、『平和』という言葉がかちりとはまる光景を作り出していた。

 作業に集中しようと一度大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。しかしアナウンサーの硬い声はどうしたって耳に入ってくる。

 

『――新たに届いた情報によりますと、ザフト軍は先週末、カオシュン宇宙港の手前六キロの地点まで迫り……』

 

 その時、小さな翼で日光をはね返し、キャンパスの上空を一巡りして、『彼』との絆である小鳥型ロボット……トリィが戻ってきた。コンピューターの縁にとまるしぐさは本物と見紛うほどである。

 主であるキラを見つめ首をかしげるトリィに、幼き日に別れた『彼』の姿が重なった。

 

(――父はたぶん、深刻に考えすぎなんだと思う)

 

 別れの日、『彼』は十三歳とは思えない大人びた口調で言った。穏やかで物静かな、しかし伏せた緑の目に宿った寂しさが印象的だった。

 『彼』とは物心ついた時から、月面都市『コペルニクス』で幼年学校時代をともに過ごした。二人はいつも一緒だった。

 『彼』の父はプラントの有力者であった。そのためコーディネイターに寛容ながら、連合の施設も多数ある月面都市に母子をいつまでもいさせることは出来なかったのだ。

 

(キラもそのうち、『プラント』に来るんだろ?)

 別れの最後に言われたその言葉を思い出す。

 しかし、キラの両親は『彼』の両親とは違いナチュラルであったためか、どちらにも公平に門戸をひらくオーブを選んだ。

 別れて三年――いまだ『彼』とは再会できていないが、ここはナチュナルとコーディネイターが共存するオーブだ。

 

(――きっとまた、会える)

 

「お、新しいニュースか?」

 

 ここ数年で聞きなれた少年の声が突然聞こえ、キラは我に返った。

 

「トール……」

 

 トール・ケーニヒ。キラと同じゼミに通う少年だ。隣にはガールフレンドのミリアリア・ハウもいる。

 

『――こちら、カオシュンから七キロの地点では、依然厳しい戦闘の音が……』

「うわ、先週でこれじゃ、今ごろはもう陥ちゃってんじゃねえの、カオシュン?」

 

緊張と恐怖に上ずるリポーターとは対照的に、トールはお気楽にコメントする。

 多少不謹慎だが、今回の戦争を対岸の火事と思っているオーブ国民の大半は彼と同じ気持ちでニュースを見ていた。

 

「カオシュンなんてけっこう近いじゃない? 大丈夫かな、本土」

 

 ミリアリアは多少心配性なところがあり、ありえないと思いつつも不安を口にする。

 

「そーんな。本土が戦場になるなんてこと、まずナイって。カオシュンなら、日本海軍がどうにかしてくれるよ」

「トール、海軍じゃなくて海上自衛隊だよ」

「キラ……どっちでも一緒だろ、それ?」

「でも……」

 

 トールの間違いを訂正しつつ、キラは去年ヘリオポリスで偶然出会った自衛隊隊員の女性を思い出す。

 ウェーブのかかった栗毛を背中まで伸ばした女性は、笑顔ながら薄ら寒さを覚える表情で「日本に軍隊は存在しないのよ? ヤマト君?」とにじり寄られたことを思い出す。

 あの時は何故か脳裏に『狂犬』という言葉が浮かんだものだ。

 

「まあ、とにかく! オーブは中立なんだから大丈夫だって! なっ、キラ?」

「う、うん……」

 

 どこまでも楽観的なトールの言葉に戸惑いつつも同意するキラ。

 だが彼も思っていた。自分達のいるオーブは中立だ。『戦争』なんていう恐ろしいものは自分達とは関わりのない、『外』の出来事だと。

 

 

 

※※※

 

 

 

「ちょっと君達、いいかな?」

「はい……?」

 

 ゼミの研究ラボへ向かうべくエレカを待っていたキラたちは、その声に振り向く。

 そこにいたのは、二十歳ほどの男女だった。

 繊細な銀糸のように太陽光に煌く銀髪の青年と、夕日のような赤毛の女性。どちらも表情の読み解かれたくないためか、大き目のサングラスをしていた。声をかけてきたのはどうやら男性の方だった。

 

(この二人……)

 

 二人の立ち姿は、つい先ほど出会った三人組に似通っていた。特に赤毛の女性は、先ほど彼らに威圧感を与えつつエレカに乗り込んだショートカットの女性に近い。ただ、彼女の方が余裕を感じさせる。イメージとしては鞘に収まった剣だろうか。

 

「……なんですか?」

 

 黒のロングコートにサングラスという、明らかに怪しい二人組みにトールが警戒心も隠さずに問い返す。

 しかし青年はそんなことなどお構いなしに話を始めた。

 

「君達もしかして、カトウ教授のゼミ生だったりする?」

「えっ……?」

「……そうですけど、なにか?」

 

 あまりにも的確な質問に、社交的なミリアリアも肯くも顔を強張らせる。

 その反応もスルーして飛び跳ねんばかり――絶対にわざとだろうと三人は確信する――に喜びをあらわにする。

 

「一発で見つけられるなんて、幸先がいいなぁっ! なあ、マリーダ?」

「ええ、そうですね。マスター」

「マ、マスター……?」

 

 女性の青年への珍しい呼称に、ついオウム返ししてしまうキラ。青年は苦笑を浮かべサングラスの位置を直す。

 

「いや、あだ名みたいなものだよ。それよりあなた達にお願いがあるだけど……よかったらカトウ教授のラボまで連れて行ってくれないか? ああ、もちろんタダとはいわないよ。後でコーヒーでも奢るからさ。あ、それともジュースの方がいいかな?」

 

 それは三人の予想通り――もちろん悪い意味でだった――のもので、思わず顔を見合わせ、囁き声で言葉を交わす。

 

(どうする……?)

(どうするって言っても)

(あの二人、絶対に怪しいわよ。断った方がいいわ)

(だよな)

(でも……この調子じゃ、どうせ後でこの二人に会いそうだよ?)

(だけど……)

(そうだっ、キラ。お前が話しつけてくれよ)

(えっ!? ぼくが?)

(お前のその丁寧な態度だったたら、大抵のやつは遠慮するからさ。頼むよ?)

 

 トールはそう言ってキラを拝むと、肩を掴んで例の二人の方へ向かせ背中を押す。

 たたら踏むキラはサングラス越しから青年の視線にさらされる。

 

「えっ……えっと――」

「――おおーいっ!」

 

 断りの言葉を発しようとするキラ。しかしその時、二人のさらに後方から声をかけられた。

 そちらに目を向けるとベージュのカジュアルジャケットにジーパンという、どこにでもいそうな出で立ちの青年が走ってくるところだった。

 年のころはキラたちより二つほど年上だろうか? 目の前の怪しい青年と同じ銀髪を耳にかかるほどまで伸ばしているが、こちらは灰色がかった銀髪だ。

 

「君達、もしかしてモルゲンレーテに行ったりする?」

「えっ……その――」

「――みたいだよ。俺たちもそこまで用があって丁度彼らに連れて行ってもらうところ」

「本当ですか! いやーよかったぁーっ! 仲間とはぐれて迷子になってしまって。君たちオレもお願いできるかな?」

「えっ、いやちょっと!?」

 

 なぜか二人を連れて行くことが決定していた。混乱するキラたちに青年は年上とは思えない屈託のない笑みで頭を下げる。こんな状態で断れるほどキラたちは冷酷ではない。

 しぶしぶ肯くしかなかった。

 

「……わかりました」

「いやーホントにありがとう! ヘリオポリスに来るの初めてでさ。あ、名前を聞いてもいいかな?」

「あ、キラ・ヤマトです。こっちが同じゼミに通うトールとミリアリア」

「……どうも」

「はじめまして」

「で、こちらは……?」

 

 友人二人を紹介し、勢いでもう二人を紹介しようとして、そう言えばまだちゃんと名前を聞いていないことに気づく。

 

「俺はネロ。こっちはマリーダ」

「マリーダだ。よろしくたのむ」

 

 キラの意図に気づいた青年――ネロは青年にむかってマリーダという赤毛の女性とともに会釈する。

 

「よろしくお願いします。オレはスウェン。……スウェン・カル・バヤン」

 

 そう言って青年――スウェン・カル・バヤンはキラと握手を交わす。

 それは、正史ではありえ得ない『攻撃』の名を冠する巨人を操った二人の邂逅であった。




ノワール大好きです。

でもまだ出ません。
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