機動戦士ガンダムSEEDーCross SRW!! 作:国伊都
オーブ首長国連合所属コロニー『ヘリオポリス』……重力安定点であるL3に存在するかのコロニーの周辺には同じく安定軌道にのった小惑星――小といってもその大きさは直径300mになるものもある――がいくつか存在する。
その一つに隠れるように二隻の宇宙船が寄り添っていた。
船体下部に大きな格納ユニットを備える緑の船。そしてもう一隻は特徴的な三胴構造を青に塗った船である。
まったく形状の異なる船だが一つだけ共通点があった。
それは船体各所に設けられた筒……砲塔である。
プラント所属の軍事組織『ザフト』の戦闘艦。それぞれ名を『ローラシア級ガモフ』、『ナスカ級ヴェサリウス』という。
そのうちの高速宇宙戦闘艦ヴェサリウス、艦体中央のブリッジで艦長アデスは自分の上司である戦隊長と議論を交わしていた。
「そう難しい顔をするな、アデス」
「は……しかし」
戦隊長の苦笑に、アデスはさらに眉間のしわを深める。
「――議会からの返答を待ってからでも、遅くはなかったのでは……隊長」
今から行う作戦は、建前であろうと中立を謳う一つの独立国家に喧嘩をうるものだ。
正直、外交問題に発展した際――いや、確実に外交問題になる――矢面に立たされるのは御免である。
だが、我らが隊長である仮面の男は否という。
「遅いな。私の勘が告げている。ここで見逃せば、その代価、いずれ我らの命で支払わねばならなくなるぞ」
傲慢にして愚かなる地球連合との戦いで、数々の功績を残し『白き死神』とまで仇名されるラウ・ル・クルーゼは手にしていた写真をアデスによこす。
ブリッジを漂う写真には不鮮明ながら、鋼鐵で覆われた人型が認識できた。
「――地球軍の新型兵器、あそこから運び出される前に、奪取する」
(それに――)
彼の勘はそれ以上のものがあると警鐘を鳴らしていた。
※※※
「あ、キラ。やっと来たか……って、その人たちは?」
ネロたち三人を連れ、キラたちはカトウ教授のラボへと入る。
彼らに声をかけたのは、同じゼミ仲間のサイ・アーガイルだった。色つきめがねに派手なジャケットの出で立ちだが、根は真面目で思慮深く、同じくゼミ仲間のカズイ・バスカークを含めたグループのまとめ役であった。
「えっと……教授に用があるらしくて」
「停留所で出会ってね、道案内をお願いしたんだ。ネロという。よろしく」
「サイ・アーガイルです。あなたも教授に?」
「サイ、『も』って?」
ネロと握手を交わすサイの言い回しにキラが口を挟む。
問いに彼は目線を壁際に向ける。それを追うと、帽子を目深にかぶった少年がいた。歳はおそらくキラたちと同じほどか。だが、同い年の少年にしてはずいぶん華奢であった。
「あの人も教授を訪ねてきてね。ここで待ってろっていわれたんだと」
「そうなんだ……」
カトウ教授は、ゾルダーク・インダストリー総帥のビアン・ゾルダークや多機能万能航空機『アーマードモジュール』を開発したフィリオ・プレスティには負けるが、ナチュナルでも有名な方で、今まで来客がなかったわけではない。だが一度にこれほど客が来ることなどなかった。
そのことに疑問を持ち考えるキラ。その眼前に一枚のディスクが突き出される。
「これ預かってる。追加とかって。渡せばわかるってさ」
「え~? まだ前のだって終わってないのに~」
それは教授から依頼されたプログラム解析の追加ディスクだった。
確かに情報処理系は得意であったが、まだ一学年のキラには少々荷が重いもので、うんざりしつつサイからディスクを受け取る。そんなキラにトールが後ろからタックルして首を絞め上げる。
「そんなことより、手紙のことを聞けーっ!」
「手紙?」
きょとんとするサイの顔をみて、キラはあせってトールの口をふさぐ。
それは、ネロたちと出会う前に聞いた話のことだった。
フレイ・アルスター……。
地球連合高官を父に持ち、遺伝子操作をうけたコーディネーターにも負けない華やかな容姿を持つ彼女は、キラにとって憧れの存在だった。
その彼女が目の前にいるサイから手紙を貰っていたという。
正直彼自身、気になっていたが、だからといって直接聞くなんて出来やしない。
「な、なんでもない!」
キラはそう言って、話を切り上げるため急いで解析作業にうつる。
と、そこで彼は視線を感じ、そちらに目をやった。壁際にいた少年が、じゃらあっている彼らを金色に近い瞳で睨むように見ている。驚くほど鋭い目だった。中性的な顔立ちは笑えばとてもよく映えるはずなのに、その口は堅く閉ざされ、その目と相まってまるで獅子のような印象を受ける。
キラと目が合うと、少年は視線をそらした。その顔に焦りの色が浮かぶのを、彼は心奪われたように見つめた。
「へー、人型インターフェイスの制御プログラムか。作業用の?」
「えっ……あ、はい。なんでも全領域の作業用に使用するとかで」
いつの間にかキラのコンピューターを見ていたネロが、彼に尋ねてきた。
「わかるんですか?」
「まあね。仕事柄いろいろな制御プログラムに接してきたから」
どうやら彼はプログラムエンジニアらしい。
「あのー……キラ」
とそこで、所在無さげに視線を彷徨わせていたスウェンが声を上げる。
「あ、そうだった……サイ!」
「なんだ、キラ?」
「工場ブロックの入館パス持ってる人、誰か知らない?」
「えっ、何人か知ってるけど……どうして?」
「実は……」
本来であればスウェンとはモルゲンレーテ前で別れるはずだったのだが、彼の目的地である工場ブロック中枢は最重要機密区に指定されており、入館パスがないと入れないのだ。
そしてスウェンはそれを忘れてきったらしく……。
「でもその区への許可を持った人は、教授しか知らないよ」
「マジか……ああ~このままじゃ遅刻だーっ!?」
サイの無常なる答えに、頭を抱えるスウェン。その光景を横目に見つつ、しかしネロは思う。
――実に運がいい。と。
そのとき突然、轟音と凄まじい揺れが彼らを襲った。
「――なに?」
「隕石か?」
キラたちはあわてて部屋を出てエレベーターを目指す。が、非常事態モードになったエレベーターは扉を開けたまま停止していた。その間も大きな揺れが建物を襲う。
一同は非常階段へと向かった。そこで丁度駆け上がってきた職員と鉢合わせる。
「どうしたんです?」
「ザフトに攻撃されているだっ! コロニー内にモビルスーツが入ってきてるんだよ!!」
「ええっ!?」
みな、一瞬立ちすくむ。意味がわからなかった。なぜザフトがヘリオポリスを襲うのか?
ナチュラルもいるとはいえ、ここは中立のオーブだ。地球軍と戦っているザフトがなんで――ッ!?
だが今は理由を考えてる暇は無い。早く避難を。
キラたちは職員達の後に続いた。そのとき例の少年が、身を翻した。
「――きみ!」
中心部へと駆けていく少年をキラは思わず追いかける。
「キラっ!?」
「マリーダ。二人を頼む」
「了解」
友人を止めようと足を踏み出すトール。だがそこで彼の肩を掴むものがいた。ネロである。そして彼は横にいたマリーダに指示を出し、彼女はただの女性とは思えないすばやい動きで二人の後を追った。
「ちょっ――!?」
「君達は早く避難を」
「でもっ!!」
「――はやく行けッ!!」
先ほどまでの気のいい青年は、まるで刃のような鋭い声で少年達に『命令』する。
それに逆らえるほど少年達は強くはなかった。
「――大丈夫だ、マリーダがついてる」
別れる際にネロは彼らにそう一言告げる。その言葉の意味するところはわからなかったが、トールたちは友人を失うかもしれない、という不安を多少は取り除かれたような気がした。
※※※
そのころ工場区の外では激しい戦闘が繰り広げられていた。
秘密裏に展開していた地球連合の護衛部隊は、地対空ミサイルでザフト製モビルスーツ『ジン』タイプへと応戦する。しかし運動性、俊敏性に差がありすぎる人型に対抗できるわけも無く、赤子の手を捻るように次々とつぶされていく。
そんな混乱した戦場をすばやく駆け抜ける赤と緑があった。それはラウ・ル・クルーゼが今作戦用に編成したザフトエース、通称『赤服』を有する潜入部隊である。
彼は隠密行動をとって、探知されにくい小型艇でコロニーに潜入。連合の新型戦艦が係留されていた区画を陽動を兼ねて高性能爆薬で破壊。その後MS部隊の援護を受けつつ、赤服の五人が敵新型MSを奪取するという手筈をとっていた。
「運べない部品と工場施設はすべて破壊しろ! ――報告では五機のはずだが、残り二機はまだ中か?」
MS用トレーラーに張り付く敵兵をすばやく排除しながら『赤服』の一人、イザーク・ジュールは指示を飛ばす。
「俺とラスティの班で行く。イザークたちはそっちの三機を先に!」
もう一人の赤服である、アスラン・ザラがイザークに叫ぶ。その答えにイザークは肯く。
「任せよう――各自搭乗したら、すぐに自爆装置を解除!」
イザークは他二人の赤服、ディアッカ・エルスマンとニコル・アマルフィに指示を飛ばし、自身もこの戦争で命を預けることとなる鋼の巨人へと乗り込んだ。
※※※
友人達とわかれたキラは、追いかけていた少女(正直、帽子をとるまでわからなかった)の手をとり、この戦火から逃れるため工場区へと駆けていた。
施設への損傷が激しいためか、走り抜ける廊下は非常誘導灯以外の照明がおちており、薄暗かった。
「えっ……これって……」
そしてやっとのことでたどり着いた工場区の格納庫で彼は邂逅する。己が運命(さだめ)と。
「モビル、スーツ……?」
灰色の装甲。無駄を排したスマートな機体形状。そしてかつてオーブ本国の博物館で見た武者兜のような頭部……。
その機体は、今この瞬間コロニーで破壊の限りを尽くす『ジン』タイプとはまったく違う設計思想で開発されていた。
「地球連合軍の新型機動兵器……やはり……」
唖然とするキラの隣で金髪の少女はがくりと膝をついた。
「お父さまの……うらぎりものッ……!!」
怒り、悲しみ、後悔……様々な感情がない交ぜになった少女の叫びが格納庫に反響する。
その時、MSの腹部――おそらくコックピット部だろう――でザフト兵と銃撃を交わす女性が銃口をとっさに向ける。
「ふせろっ!」
撃たれる!? そう思った瞬間、後ろから鋭い声で叫ばれ、同時に二人は背中から押し倒される。
そのおかげか、命中することは無かった。
「無事か?」
「……マリーダさん?」
二人に覆いかぶさり凶弾から守ってくれたのは、あの赤毛の女性だった。サングラスを外しあらわになった赤い瞳でキラに問う。
「あ、はい……大丈夫です。彼女も……」
「そうか。あれは……ガンダム……ッ」
キラの返事に短いながらも、やさしげに微笑むと輸送用コンテナに寝そべるMSを見つめ呟いた。
「ガンダム……?」
たった一言だったが、その言葉はキラの耳に妙に残った。
とそのとき、マリーダが『ガンダム』と呼ぶMSの上で戦う女性を倒そうと、赤のパイロットスーツを着込むザフト兵が後ろから忍び寄っているを見つける。
「うしろ!」
「おいっ!」
思わず叫び、キラはマリーダの静止も聞かず通路を飛び出す。5、6m程もある落差をものともせず飛び降り、そのままザフト兵の背中へとダイブ。
「うわっ……!?」
細身とはいえ健康的な16歳の体重を落下エネルギーと共に受けたザフト兵は、叫び声をあげMSから転げ落ちる。おそらくは死んでないはずだ。
「ラスティっ!?」
硬い装甲上を受身をとって転がり、女性のところまで移動したキラの耳に、怒りのこもった声が届く。
顔を上げると銃撃と共にもう一人の赤を纏ったザフト兵が突撃してきていた。銃弾は機体の陰から応戦していた男の頭を貫く。
「ハマナ! あうっ……!?」
仲間の名を叫ぶ女性の肩に銃弾が掠める。が、そこで弾がきれたのか、ザフト兵はコンバットナイフを抜き放ち、彼女に迫る。キラは思わず彼女の前に躍り出る。と――。
「――キラ?」
そこで彼は再会した。
美しい桜の花びらが舞い散る道で別れたはずの親友と。銃弾の舞い飛ぶ戦場で……。
「…………アスラン?」
見間違えるはずがない。三年前に別れたとはいえ、物心ついたときからずっと一緒にいた『彼』の顔を。
だが間違いであってほしかった。ヘルメット越しとはいえ、彼の顔は血で汚れていた。おそらくここにたどり着くまでに殺してきた人たちの血であろう。
(どうして……)
意味がわからなかった。
キラは思う。どうしてこんな戦場(ところ)で親友(アスラン)と再会したのか?
……どうして彼にナイフを突きつけられているのか?
「くっ!」
「ッ!?」
その時、銃声が二人の止まった時間を動かす。肩を負傷していたかばいながら、銃を構えアスランに向けてトリガーを引く。
間一髪のところでよけたアスランは、持っていたナイフを狙いも付けずに投擲し、キラが突き落とした仲間の元へ飛び、物陰を通ってキラたちから離れる。
その光景を呆然と見ていることしか出来なかったキラ。と、そこで手を思いっきり引かれ、いつの間にか解放されていたコックピットに吸い込まれるのだった。
※※※
キラが無常なる運命に直面していた頃、ネロはスウェンを伴ってモルゲンレーテ内を疾走していた。
「あんた、いったい何者なんだッ!!」
スピードを緩めることなくスウェンは、前を走るネロの背中に疑問をぶつける。
意味がわからなかった。
早く仲間に合流しなければならない自分を無理やりひっぱり、こうしていつ崩壊するかわからない場所を走らされていることに。
十三で入隊して以来、厳しい訓練を受け、パイロットというエリートにふさわしい能力を身に着けた自分でさえ、ついていくことしか出来ないネロの存在に。
なにより、一部の人間しか知らないはずの『G』の存在を知っていることに。
(ザフト……? いや、それならばすぐさまオレを殺してるはずだ……)
ザフトであれば『G』のパイロットである彼を見逃すはずがない。それとも、所詮ナチュナルなどと侮っているのか? いやそれならば、わざわざ連れてくるはずがない。
と、そこでネロはある一角で脚を止める。
そこは重厚な扉を持った部屋であった。
「おいっ……」
スウェンの声を無視してネロは素早く扉横にあるふたを開ける。そこには強制解放用のエマージェーシーレバーがあった。
ネロはそれを躊躇無く引く。
圧縮空気の抜ける短い音と同時に扉が開かれる。ネロはすぐさま部屋へと突入。スウェンも一拍遅れで後を追う。
「……ッ! これって……」
その部屋は吹き抜け構造で、二人のいる階より下も見下ろせた。だが、そんなことよりも目の前の存在にスウェンは目を奪われた。
まだ機能していた明かりに照らされ、それはまるで飛び立つときを待って入るようだった。
濃紺色の装甲に、ところどころ黄色や白で構成された機体。
『G』シリーズに似た、鷹の目の様な一対のデュアル・アイとブレードアンテナ……。
機体後部には、小型ながらまるで猛禽類の翼のようなバックパックが接続されていた。
「オーブの……モビルスーツ……?」
自分が乗るはずの『G』は連合開発部と、オーブ半国営企業モルゲンレーテの共同開発だ。中立を保つために力を欲するオーブが連合の技術を盗用してMSを開発してもおかしくは無い。
だが、彼の推測(ある意味正しいのだが)を、隣にいる青年……ネロが否定する。
「これはパーソナルトルーパーだ」
「パーソナル、トルーパー……?」
その名称には覚えがあった。
人型機動兵器というSF作品から飛び出したような兵器の開発はザフトが初ではなかった。
旧世紀よりサブカルチャーという独特の文化を持ち、いまだ『神道』という宗教の祭司である『天皇』を中心に結束する最古の独立国家……日本。
その日本が開発した人型機動兵器、その総称こそがパーソナルトルーパー。通称『PT』である。
呆然とそれを見つめるスウェンに、ネロは続ける。
「こいつは、日本国自衛隊次期主力機としてゾルダーク・インダストリーが開発した試作機……名をヒュッケバインMK-Ⅱ」
「……ヒュッケバイン……」
彼は出会ってしまった。本来では決して出会えないはずの凶鳥(あいぼう)と……。
当作品のスウェンはストライクのテストパイロットでヘリオポリスへ来ています。
ファントムペインにははいっていないので、性格も原作とは違います。
クールな彼が好きな方、ごめんなさいm(__)m