機動戦士ガンダムSEEDーCross SRW!!   作:国伊都

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PHASE02『その名はガンダム』

 

 

時間は、キラとスウェンが己が運命(さだめ)と出会う少し前に遡る。

 

「時間だ」

 

 古めかしい懐中時計のふたを閉じ、指揮官席に座る仮面の男、ザフト軍クルーゼ隊隊長ラウ・ル・クルーゼは短く告げる。

 

「は……。艦長のアデスだ。これより作戦を開始する。ガモフにも通達!! 全艦、コンディションレッド! Nジャマー起動! アンカーロック解除、機関最大!」

「了解。コンディションレッド発令! 本艦はこれより戦闘を開始する」

「こちらCIC! 全砲塔、ミサイル発射管、セーフティー解除! FCSオンライン」

「MS部隊、こちら管制室! 発進シークエンスへ移行してください。アルファ1、カタパルトへ移動開始……ケーブル接続解除。電磁カタパルト出力100パーセント」

『ミゲル・アイマン、ジン・ハイマニューバ出撃する!!』

 

 フレドリック・アデスの命令のもと、ナスカ級ヴェサリウスとローラシア級ガモフは潜んでいた小惑星より離脱。陽動と新型奪取部隊の援護、回収のため最大船速でコロニー・ヘリオポリスへと奇襲をかける。

 ザフトエース、通称『赤服』に次ぐ実力者、ミゲル・アイマン駆るジン高機動タイプ『ジン・ハイマニューバ』を筆頭に、実戦配備初期型からアビオニクス、各スラスター・アポジモーター等を強化した『ジン・タイプβ(ベータ)』が小隊編成で出撃する。

 

 

 

※※※

 

 

 

 Nジャマーの電波妨害によってヘリオポリスは、蜂の巣をつついたような騒ぎとなる。

 そんな中、大西洋連邦宇宙軍で広く使用されている輸送艦『マルセイユⅢ世級』の輸送艦が宇宙港より出港するところであった。

 

「船長! 敵は!?」

「二隻だ! ナスカ級ならびにローラシア級。光学センサーでMSらしき光点をいくつか確認した!」

「MS……ルークとゲイルは『リオン』にて待機! まだ出すなよ!」

 

 オペレーターのヘッドマイクを引ったくり金髪の偉丈夫、紫のパーソナルカラーに塗られた地球軍標準パイロットスーツに身を包んだムウ・ラ・フラガは、素早く部下に指示を出し格納庫へと向かう。

 そこには彼のパーソナルカラーに塗られた高機動宇宙攻撃戦闘機、モビルアーマー・メビウスゼロ改型『エグザス』が発進の時を待っていた。

 

「大尉ッ! エグザス、いつでもいけますよ!」

 

 ムウの機体を調整していた整備兵が、手にしたタブレットPCの情報を彼に見せる。

 

「大尉に言われたように出力調整をしています。最高速度は前より落ちますが、加速と急制動、旋回性能は上がってます」

「ありがとう、班長。ガンバレルの方は?」

「そちらの方もばっちりです。大尉にはゼロのシステムより、こちらのダイレクト・プロジェクションの方が相性がいいようです」

「よし……すぐに出る」

「了解……おめーらッ! 格納庫から退避ッ!! 大尉が出撃(で)るぞ!!」

 

 ムウは脇に抱えていたヘルメットをかぶり、スーツと接続。生命維持装置の起動を確認し愛機のコックピットに潜り込む。

 

「ルーク、ゲイル。お前達は俺の出撃後に発進。俺が敵MS部隊をかき回す。混乱したところをヒット&ウェイだ。リオンだからって過信するなよ? そいつは所詮、手足のついた攻撃艇だ」

『『了解っ!』』

 

 部下に指示を出しつつ、ムウは手早く発進シークエンスを進める。

 新型OS『LION』を立ち上げ、エンジンである核融合ジェネレーターに火を入れる。

 エンジン備え付けバッテリーをメイン推進機『テスラ・ドライブ』に接続、出力を上げた。

「テスラ・ドライブ起動。ダイレクト・プロジェクション、システムコネクト……。こちらムウ・ラ・フラガ大尉だ! エグザス、いつでも行けるぞ!!」

『こちらブリッジ。今から格納ハッチを開けます。……ハッチオープン! フラガ大尉、発進どうぞ!!』

「了解! ムウ・ラ・フラガ、エグザス発進する!!」

 

 テスラ・ドライブと機体後方に接続された四機のブースター兼有線式遠隔操作武装コンテナ『ガンバレル』のバーニアによって『エンデュミオンの鷹』の翼であるエグザスが飛翔する。

 

 

 

※※※

 

 

 

「連合の輸送船より、機動兵器発進確認、数は3。一機は特殊MA、メビウスゼロタイプ。二機はリオンタイプです」

「フンッ……『エンデュミオンの鷹』を護衛によこしていたか。豪勢なことだ。避難者の収容は?」

 

 レーダー担当の報告に、不敵な笑みを浮かべるタウゼントフェスラー級コウノトリ3号船長。彼は次に避難者収容を行っている普通科隊員に通信を繋ぐ。

 

『こちら桐原三尉、宇宙港の職員全員の収容を確認。ハッチ閉鎖完了』

「よし、格納庫に入電! ⅡとⅣをASRS起動でパージ!」

『こちら格納庫、了解! 格納ハッチオープン、ASRS起動! Ⅱ、パージ完了。続いてⅣ、パージ……完了!』

 

 船長の指示により、格納ハッチから巨大な物体が二機、ステルス装置を発動させ飛び出していく。パージを確認した船長は次の指示を出した。

 

「格納ハッチ閉鎖! 機関最大! テスラ・ドライブ、クルーズモード! 対空防御、ミサイル発射管安全装置解除、FCS起動!」

「了解。機関最大、テスラ・ドライブ出力クルーズモード」

「対空防御システム及びミサイル発射管安全装置解除。火器管制装置との連動確認」

 

 ブリッジ要員が手早く発進準備に取り掛かるの横目に見つつ、船長は立ち上がると、ヘッドマイクを用い言葉を発した

「全艦に告げる。現在ヘリオポリスはザフトの襲撃を受けている。本艦はこれよりヘリオポリスを離脱。ASRS起動状態でコロニーを挟む形でザフト艦隊から隠れる。以後は事態の推移により臨機応変に対応。ではこれより発進する」

「了解! 偽装コード解除! ミューズ2これより発進する!」

 

 こうしてコウノトリ3号あらため、日本国自衛隊特殊任務部隊『ディバイン・クルセイダース』所属、ミューズ2はザフトと連合の戦闘宙域を最大船速で抜けつつ、コロニーの影に身を潜めるのであった。

 

 

 

※※※

 

 

 

 ザフト軍クルーゼ隊……。

 その名は、ザフト内はもちろん地球連合にも知られていた。

 その最大の理由は無論、隊長であるラウ・ル・クルーゼの活躍によるところが大きい。世界樹攻防戦、グリマルディ戦線、新星攻防戦……。

 この数々の戦闘で愛機の『ズィーガーリオン』を駆り、彼は多くの連合兵の命を刈りとっていった。それにより機体色とあわせ『白き死神』と仇名されることとなる。

 

 だが、クルーゼ隊はそれだけではない。エースである彼の周りが凡人達であるはずがない。

 そう、クルーゼ隊MS部隊を率いヘリオポリスへ突撃する高機動型ジン『ジン・ハイマニューバ』を駆る『黄昏の魔弾』ミゲル・アイマンもその一人である。

 

「ディック! お前はオレと一緒にヘリオポリスへ突入、イザークたちの支援! オロール、マシューはダイアンたちと共同でナチュナルを蹴散らせ!」

 

 ミゲルは僚機に指示を出し、背部スラスター出力をもう一段階上げる。共にコロニーへ突入するディックを置いてけぼりにする形になるが、それには理由があった。

 

「高速型MAに、人型もどきか……だが所詮はナチュナル!」

 

 連合製輸送艦から飛び出してきた敵MAは三機、フォーメーションはアローヘッド1。

 ということは敵の作戦は速度を生かしたヒット&ウェイ。

 

「バカなナチュラルに教えてやる。なぜMSが人型を採っているかを!!」

 

 右腕部に保持された銃剣付きアサルトライフルを構え、ミゲルは冷笑する。

 

「――全機、散開ッ! 敵の後ろを取れ!!」

 

 有効射程のぎりぎり外で、ジン部隊が花びらが咲くように、四方八方に散る。それも最高速度を維持したまま。

 

「ちっ!? 読まれていたかッ! 二人はそのまま駆け抜けろ!」

 

 敵部隊の散開を光学センサーで確認したムウは、自分の策が読まれていることに気づく。だが自機はもちろん、簡易的な四肢を備えるリオンでさえも、急制動からの方向転換は容易なことではない。特にルークとゲイルはメビウスからリオンへの機種転換から間もない。

 主力MAメビウスシリーズとはまったく設計思想の異なるリオンを一朝一夕で十全に使いこなす等、早々出来るわけはない。

 結局ムウ達はメビウスの延長線上の運用しかできていなかった。

 

「紫のパーソナルカラー……『エンデュミオンの鷹』かっ!」

 

 ミゲルは指揮官機であるエグザスに狙いをつけ、背部バーニアの出力を最大に上げる。アサルトライフルをフルオート射撃。そのまま機体をバレルロールしつつ、馬上騎士よろしく銃剣突撃を行う。

 

「ッ!? 舐めるなっ!!」

 

 ムウはコントロールレバーとフットスロットルを素早く、そして繊細に操作。その上で脳波コントロールシステム『ダイレクト・プロジェクション』を介し、ガンバレルを展開。機体上方に展開した一機のバーニアを最大出力で点火。その他のエンジンをカット。慣性モーメントを上方一点に向けるとそのまま、上方ガンバレルを呼び戻す。

 

「なんだとっ!?」

 

 結果、ガンバレルに引っ張られる形でエグザス本体が上方へ移動。ジンハイマニューバの突撃をぎりぎりで回避する。

 

「年季が違うんだよッ! 釣りだっ、とっときな!!」

 

 ガンバレルに命令を下し、ムウはユニット内蔵のレールガンでミゲル機の背部をロックオン。半プラズマした質量弾が彗星の如く疾(はし)る。

 

「くっ!?」

 

 ミゲルは背部バーニアのエネルギー供給をコンマ5秒カットし、脚部補助バーニアを点火。急激な慣性変化とAMBACを利用した反作用で機体を宙返りさせ回避。通常であればブラックアウトしていてもおかしくないGがかかるが、そこは遺伝子操作を受けたコーディネイター、見事に耐え切った。

 

「ディック!」

『ミゲル、こちらは抜けた!!』

「よし、そのままヘリオポリスへ!」

 

 コーディネイターの誕生から開戦にいたる経緯から、彼らはナチュナルを見下す傾向にある。そのため墜せない敵が現れるとそれこそ躍起になりスタンドプレーにはしることがままあった。しかしミゲルも伊達にエースをはっている訳ではない。

 本来の任務であるヘリオポリス奇襲を忘れることなく、バディのディックを損傷無く戦闘宙域を離脱させるため、あえてエグザスに突撃を敢行したのであった。

 

「オロール、マシュー、相手はエースだ! 油断するなよっ!」

『わかってるッ!』

『了解ッ!』

 

 クルーゼ隊の一員として数々のミッションを共に遂行した二人にそう声をかけ、ミゲルはエグザスにけん制射撃を行うと、すぐさまディックの後を追った。

 

「ちぃっ!? 狙いはGかっ!!」

 

 エースであろう高機動型ジンが戦線を離脱するのを見、ムウは敵の狙いに気づく。

 

「行かせるかよっ――!!」

『大尉ッ!? 敵に後ろを取られましたっ、援護を!!』

「くっ!? ――すぐに向かう! ゲイル、墜ちるなよっ」

 

 追いかけようとするも、部下のゲイルから悲痛な援護要請が届きムウは追撃をあきらめざるを得なかった。

 こうしてミゲルはヘリオポリスへと突入することに成功する。

 

 

 

※※※

 

 

 

 コロニー居住区に突入したミゲルとディックは、事前の調査で判明していた連合の防衛部隊を強襲。潜入部隊の援護を行う。

 

『こちらイザーク。敵新型機の奪取に成功!』

 

 敵装甲兵器をあらかた片付けたところで後輩であるイザーク・ジュールから通信が入る。

 

『こちらディアッカ、同じく』

『ニコルです。こちらも同じくMSの掌握に成功しました』

 

 同じく赤服であるディアッカ・エルスマン、ニコル・アマルフィからも作戦成功の報告が入る。

 

「よし、お前らは適当に施設を破壊したらすぐさまガモフに帰艦。イザーク、アスランとラスティは?」

『残りの二機を奪いに格納庫へ向かった』

「了解! ディック、左だ! 距離200!!」

『おう!』

 

 ミゲルとディックは散発的な攻撃を繰り返す防衛部隊を掃討、奪取部隊の撤退を支援する。

 そうして最後のリニアタンクを破壊したところで、モルゲンレーテの工場区画から二機のMSが飛び出してきた。

 一機は鋭角的なボディ形状に、背部大型スタビライザーと腰部フレキシブルバーニアを備えた機体。大型センサーユニットを頭部に備え、戦域管制能力を付与されていることを窺わせた。

 もう一機は逆により人型を模したスマートな構成で、背部スラスターも小型化されていた。各部に見える接続ジョイントから、武装ユニットを各ミッションで換装する汎用型であろうか。

 爆炎を影に降り立つ二機は、ジンタイプとは違う人間に近い頭部構成から、御伽噺に出てくる神代の巨人のようであった。

 ミゲルはアスラン・ザラのーソナル・コードを発する戦域管制用MSに通信をつなげる。

 

「よくやった、アスラン!」

『ミゲルッ、ラスティは失敗だ! むこうの機体には地球軍の士官が乗っている!』

 

 アスランの予想外の返答に彼は驚く。

 

「なに!? ラスティは?」

『回収した。負傷しているが命に別状は無い』

「そうか……」

 

 どうにか最悪の事態だけは免れたようだ。だが、このまま連合の新型を放っておく訳には行かない。

 ただでさえ連合の新型MAの爆撃に地上部隊は苦戦しているのだ。パイロット錬度の差からどうにか有利に立っているが、物量差は如何ともしがたい。その上でMSの量産を許してしまえば、また血のバレンタインのような悲劇が繰り返されてしまう。

 

「アスランはラスティを連れて先に離脱しろ! あの機体はオレが捕獲する!」

 

 ミゲルはアスランに指示を飛ばすと、アサルトライフルの銃口を新型MSへと向けた。

 

 

 

※※※

 

 

 

 アスラン・ザラ……あの優しかった彼が、ザフト兵? どうして……!?

 あの邂逅による混乱から脱せずにいたキラだったが、まるでシェイカーに放り込まれたかのような衝撃に、とっさにコックピットシートの背にしがみついた。

 どうやら今乗っているMS――マリーダが『ガンダム』と呟いた機体がうまく着地できなかったようだ。

 彼をこの機体内に引きずりこんだ女性兵士は、怪我をおして懸命に機体を制御していたが、その動きはあまりにもぎこちなかった。

 戦域モニターには外部光学センサーを通した映像が刻々と映し出される。その映像にキラは唖然とした。

 数時間前まで平和そのものであったヘリオポリスの町並みが、日常の風景がみるも無残に破壊されていた。街路には戦闘で飛び散った瓦礫が散乱し、消火システムが追いつかないのかあちらこちらで黒煙が上がっている。

 そこで画面の隅に動く人影を見て、キラはさらにぎょっとして身を乗り出す。

 

「サイ!? トール!……ミリアリア、カズイ!」

 

 瓦礫の間を縫うように走っていたのは、ゼミの仲間たちだ。どうやら退避シェルターを見つけられなかったようだ。

 そのとき、ジンタイプが銃剣を取り付けたライフルを発砲。機体足下にクレーターを穿つ。やっとバランスを保っていた機体が再び大きく揺らいだ。

 

「うわっ!?」

 

 勢い余ってキラはシートに座った女性の胸に頭から飛び込んでしまった。緊張で流れる汗のにおいと胸の柔らかさに、キラは状況に関係なくドキリとする。

 

「下がってなさい! 死にたいのっ!?」

「す、すみませんっ」

 

 だが男社会の軍隊にいるだけあって、女性兵士はそんな事態などお構いなしにキラに怒鳴る。あわてて身を起こすキラ。そのとたんモニター越しに、ライフルに備え付けられえた銃剣を手に持ち振りかぶったジンが目に入り、思わず悲鳴を上げる。

 女性も声を上げながら、とっさにコンソールのボタンを押し込んだ。

 その瞬間、今まで灰色がかった装甲が瞬くように色づいた。

 

(――やられる!)

 

 息をのんだキラの目の前で、ジンの動きが止まった。衝撃と共に彼らの乗るモビルスーツは白い両腕でジンのサーベルを受け止めていた。

 

「えっ……!?」

「ジンのサーベルなど、このストライクには通用しない!」

「――ストライク……?」

 

 事態に追いつけないキラの耳に、女性のはき捨てれるような上ずった声が届く。

 一方、重斬刀の一撃をとめられたミゲルは、この光景に忌々しく声を上げる。

 

「フェイズシフト装甲だと!?」

 

 ヒロイックストーリーに出てくるような、トリコロールカラーに変化した敵新型機を睨みつけミゲルは舌打ちする。

 

 フェイズシフト装甲……。

 

 開戦前から素材系業界で理論が発表されていたこの位相転移システムは、連合はもちろんのことザフトでも研究されていた。だが、開戦に伴い技術部はより必要性の高い部門に予算を振り分けられ、その開発は半ば凍結状態だった。

 その次世代の技術を、あの愚かなるナチュラルどもは実戦投入まで持ってきていただとッ――!?

 コーディネイターの優位性を揺るがしかねない事実に直面し、ミゲルは一瞬硬直する。

 その隙に新型MS『ストライク』はスラスターを吹かし、その場を脱出。頭部に内蔵されたバルカン砲の照準をミゲル機に合わせ、発射。だが照準装置の不具合か、まるきり当たらない。

 

(――この機体、もしかして……!?)

「装甲が厚かろうと……っ!!」

 

 ミゲルは動揺を跳ね除けるように叫び、新型にショルダータックルをかます。その一撃にストライクはよろめき、背後の建物にめり込むようにして止まる。ミゲルは続けざまに、コックピットめがけてサーベルを振り下ろしてきた。

 

「ッ!?」

 

 女性兵は息をのみ、その一撃を避けようと、懸命にペダルとレバーを操作する。

 そのときキラはモニターの中に見た。

 瓦礫に隠れるようにしていた友人達の姿を。このまま後ろへ下がれば彼らの命はない――!!

 そう思った瞬間、キラの体は動いていた。飛びつくように計器を操作し、女の手を押しのける。そして、目の前に迫ってくるサーベルを睨みつけ、レバーを引いた。

 くっと身を沈めた機体がジンのサーベルをかいくぐり、先ほどのお返しとばかりに体当たりする。

 吹き飛んでいくジンの巨体を目を丸くして見つめるトールたちを、モニター越しに確認したキラはほっと息をつくと、唖然とする女性兵士を振り返った。

 

「まだ人がいるんです! こんなものに乗ってるんなら、何とかしてくださいよ!」

「――きみ!」

 

 女がとがめるように叫んだ。だがキラは目もやらず、計器をチェックしていく。

 

「……滅茶苦茶だ! こんな空っぽの状態でこれだけの機体、動かそうなんて!」

「ま、まだすべて終わってないのよ! しかたないでしょう!?」

「――どいてください!」

 

 先ほどまで獲物だと思っていた敵の、予想外の反撃に呆然としていたミゲルだったが、湧き上がる怒りとともに素早く機体を起き上がらせ、剣を構えさせる。

 再び突撃してくるジンを見つめキラは叫んだ。

 

「はやく!」

 

 その声に思わず女は腰を浮かし、そこへキラが割り込むように座った。シートの横から入力用キーボードを引き出すや、凄まじい勢いで叩きはじめる。プログラム画面を睨みつつ、目の隅では正面のジンをとらえ、到達予想時間と作業完了を頭の中で天秤にかける。

 

「モーションセレクトをマニュアルに変更。レーダー連動を近接モードに設定。ウェポンセレクト……頭部バルカン砲。コマンドセット……。オートバランサー、レベル3にセット……」

 

 作業を円滑に進めるためぶつぶつと呟きながらキラは、OSの中を整理していく。

 この機体に搭載されたOS……タクティカル・サイバネティクス・オペレーティング・システム――TC-OSは、キラが今まで見てきた制御OSの中でもっとも美しいものであった。しかし今、この機体を十全に機能させるにはあまりにも中身が空っぽだった。

 本来であれば、シミュレーションや実機動作で最適なモーションパターンを構築。それを各パイロット用に組み替え使用するものであった。だが、今この機体の記憶媒体には、せいぜい『歩く・スラスターを使って跳ぶ』程度しか入っていなかった。これでは赤ん坊と同じだ。

 それら基礎モーションを軸に、キラはマニュアルで戦闘モーションを構築していく。その間にもジンのサーベルが迫る。

その瞬間キラは目線をメインモニターに移し、片手でトリガーを操作する。敵機との距離計算と発射タイミング、機体のバランス状態をOSが最適化し砲弾を発射、先ほどとは違い今度は当たる。

 

「アーマーシュナイダー……!!」

 

 けん制射撃をうけバランスを崩すも、サーベルを振り下ろすジン。その切っ先を腰部武装ラックから取り出したMS用ナイフ『アーマーシュナイダー』で受け止めたキラは、ストライクをジンに密着させスラスターを全開にする。

 

「こんなところで……やめろおぉぉっ!」

 

 トールたちからジンを引き離すと、キラはジンから一度距離をとり、二刀のアーマーシュナイダーを構え、センサー系と機体制御系が存在する首ジョイント部と腰部に突き刺した。その一撃に電気系統が火を噴く。

 

「くっ!? 機体制御不能だと!? ディック! 援護をッ!!」

 

 ありえない事態に混乱しながらもミゲルは、バディのディックに救援を要請する。

 しかし、その返答はありえないものであった。

 

『ミゲルッ!? 助けてくれ!! 連合の新型が――ッ!?』

 

 連合の新型だとっ!? 新型は自分の目の前にいるMSを含め五機のはずだ。ディックは何を言って――!?

 ディックの言葉が理解できず、ミゲルは彼がいるであろう方向にカメラを向ける。電気系統が沈黙する直前、ジンハイマニューバの頭部カメラは捉えた。

 ディックのジンを腹部から横一文字に溶断する、一機のMSを。ジンを斬り裂き着地するその様は、まるで獲物を容赦なく啄ばむ鳥のようであった。

 

 




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