機動戦士ガンダムSEEDーCross SRW!!   作:国伊都

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PHASE03『飛び立つ凶鳥《ヒュッケバイン》』

 

 

『――ヘリオポリス全土にレベル8の避難命令が発令されました。住民はすみやかに、最寄の退避シェルターに避難してください。繰り返します――』

 

 連続する爆音と振動の中、電子音声がくり返しシェルターへの避難を呼びかけていた。

 それらをスウェン・カル・バヤンは機動兵器のコックピットの中で聞いていた。大型輸送用エレベーターに乗り、地上部へと上っていくその機動兵器はしかし、連合が所有するどの機体でもなかった。

 あえて近いものを上げるとすれば、今襲撃を受けているであろう『G兵器』であろうか?

 だが、スウェンは自分を内包するこの機体と、テストパイロットとして乗るはずだった『G』を比べることはどうしても出来なかった。

 

「すぅー……はぁー……っ」

 

 なぜならこの機体は、連合の粋を集めて創り上げられた最新鋭MSを軽く飛び越える化け物だったからだ。

 

「プラズマリアクター、クウォーターモードからクルーズモードへ……」

 

 連合の次世代型MA『リオンシリーズ』以降、機動兵器の動力源は核分裂式エンジンから、核融合エンジンへと変更された。これは核分裂を抑制するプラントの戦略兵器『Nジャマー』に対抗するためであった。もちろん最新鋭MS『G兵器』にも採用されている。

 しかしこのエンジンは、核融合安定と小型化のため、それまでの核分裂式エンジンに比べ出力上限が低かった。それを補うため大容量バッテリーをサブとして組み込んだハイブリット型ジェネレーターとして設計されていた。

 このあたりは燃料電池と大容量バッテリーを搭載したザフト製MSに近い設計思想だ。

だがこの機体……ヒュッケバインMK-Ⅱは違った。

 

『プラズマリアクター』

 

 核融合から発生するプラズマを重力制御システムとやらで封じ込め、従来よりも発電効率を高められたこの新型核融合炉は、『G』の中でも重火力を持つ『バスター』、最大火力を持つ『イージス』の出力上限を軽く超える出力値をクルーズモードでたたき出していた。

 バトルモード、そしてマックスへ上げたらどれほどの数値が出るのか予想も出来ない。

 

(戦術機動兵器に搭載するモンじゃないぞ、これ……?)

 

 正直スウェンはそう思っていた。そのことを搭乗前にこの機体を彼に託した銀髪の青年、ネロに素直に伝えると、彼は苦笑してこう言っていた。

 

『この機体のコンセプトは、戦術機動兵器による戦略級兵器の運用だからな』

 

 その言葉に、この機体を開発したやつは稀代の大馬鹿野郎だと、スウェンは思ったものだ。

 だが、彼は知らない。それらのありえない思想がなければ、滅んでいたであろう世界があることに……。

 しかし今はそんなことは関係なかった。スウェンは脱線した思考を本線に戻し、ヒュッケバインの発進シークエンスを進める。

 

『この機体のOSは、Gにも採用されているTC-OSだ』

 

 ネロの言葉を思い出す。

 TC-OS。それは反応速度や情報処理速度でコーディネイターに劣るナチュラル用にモルゲンレーテが開発したMS用OS。スウェンはG兵器開発に携わる際、そう説明されていた。

 しかし実際は違った。このOSは、日本国自衛隊の人型機動兵器『パーソナルトルーパー』用共通規格OSであり、モルゲンレーテは次期主力試作機であるヒュッケバインMK-ⅡのOSを流用し『G』に組み込んだというのだ。

 

『基本はGと変わらない。だが出力や、それに伴い駆動系もGをはるかに上回るポテンシャルをこいつは持ってる。スウェン、君が受け持つ予定だった機体は?』

『……GAT-X105ストライク』

『ほう……そうか』

 

 ネロの質問にスウェンが機体名を言うと、彼はなんとも謎めいた笑みを浮かべ、納得するように頷いていた。

 

『なら、モーションパターンはスタンダードタイプ・アルファ1に設定しておく。これは基礎武装をHiプラズマカッターとフォトンライフル、頭部バルカン、防御兵装にシールドを装備したモーションパターンだ。MK-Ⅱの特殊武装であるチャクラムシューターは単体コマンドとして設定する。使用時はマニュアルでモーションパターンに組み込んでくれ』

 

 彼はプログラム調整用のキーボードを目にも留まらぬスピードで打ち込み、OSを設定していった。

 そして彼は、スウェンにヒュッケバインを任せると言って別れたのだった。

 

『おいっ!? あんた、どうしてオレにこいつを!?』

 

 別れる際、スウェンはネロの背中にそう呼びかけた。その言葉に彼は背を向けたままこう問いかけてきた。

 

『スウェン・カル・バヤン……お前は何のために戦う?』

 

《――ハッチ開放。ハッチ開放》

 

 甲高いブザー音と共にエレベーター上方のハッチが開いていく。

 あと少しで地上部にたどり着く。おそらく地上部ではヘリオポリスを襲撃したジンが破壊の限りを尽くしているのだろう。

 各関節のロックを解除。スウェンはフットペダルとレバーを操作し、エレベーターに片膝で跪くヒュッケバインを立ち上がらせる。腰部左側面にフォトンライフル、左側面の武装ラックにHiプラズマカッター、左腕部にシールドを装備していた。

 

「何のために戦うかだって……?」

 

 背部飛行ユニットであるテスラ・ドライブの出力を上げつつ、スウェンは呟いた。

 戦う理由……。

 スウェンの両親はあるテロ事件で、彼が幼い頃に亡くなった。そのため彼は施設で育つ。そんな彼がつける職など少なかった。だから手広く門戸を開いていた軍に入った。

 だから、他の軍人達のように特別な理由があるわけではない。ブルーコスモスの思想にかぶれたバカどものように『青き清浄なる世界のために』などということもない。

 だが、彼には一つだけ夢があった。

 幼い頃、父と母と共に見上げた夜空。まるで宝石箱をひっくり返したように、光り輝く星達。

 己の生き様を誇るかのようなその輝きに、彼は魅入られた。そう――。

 

「オレは星の海を……その先を見るまで死ねないんだよっ!!」

 

『星を見る者』は凶鳥の翼を羽ばたかせ、戦場へと飛び出した。

 

 

 

※※※

 

 

 

 イザークたち新型奪取部隊がローラシア級ガモフに帰艦していた頃、戦隊旗艦ヴェサリウスに珍しい報告が入る。

 

「オロール機被弾! 緊急帰投!」

「オロールが被弾だと? こんな戦闘で?」

 

 MS管制官の報告にアデスはいぶかしむ。敵の中には新型MAが二機含まれているとの報告があがっていたが、それでも精鋭であるオロールが被弾する等意外なことだった。

 だが、宙を見るように目をさまよわせていたラウはふっと笑った。

 

「どうやら、いささかうるさいハエが一匹、飛んでいるようだぞ……」

「は?」

 

 意味がわからず聞き返すアデスに、ラウは席を立ち告げた。

 

「私も出る」

 

 そのままパイロットスーツも着ずに格納庫へと向かったクルーゼは、整備中であった愛機『ズィーガーリオン』の隣に鎮座するザフト製戦域管制MS『シグー』へと乗り込む。

 コックピトットハッチを閉じるとOSを立ち上げ、素早く発進手続きを完了していく。

 そして機体をカタパルトにセットしたところで、艦橋のアデスから通信が入る。

 

『ミゲル・アイマンよりエマージェーシー! 機体を失ったようです! またディック・デュース機の反応ロスト! MIA!!』

 

 アデスの報告にクルーゼは「ほう……」と声を上げた。オロールに続き、面倒見のいいミゲルがバディと機体を失うとは……。

 どうやら、コロニー内にいる敵は駄犬ではなく、狼であるようだ。

 クルーゼはアデスに指示を出す。

 

「私が出たら、部隊をいったん呼び戻し、D装備をさせろ」

『D装備……ですか?』

 

 それは要塞攻略用の最重装備だ。コロニー奇襲に使うようなものではない。モニターの中でぎょっとするアデスに笑いかけたあと、クルーゼはシグーを発進させた。

 電磁カタパルトで加速したシグーはジンハイマニューバ以上の速度を出し、戦闘宙域へと疾走する。

 ザフト製MSの特徴であるモノアイ式光学センサーは、仲間を失いつつもジン相手に戦い続けていた紫のMAを捉える。

 

「私がお前を感じるように、お前も私を感じるか……? 不幸な宿縁だな、ムウ・ラ・フラガ……」

 

 ジン部隊の急な撤退に、戦闘の中母艦を失ったエグザスはヘリオポリスへ帰還しようとするも、何かを感じ取ったかのように、クルーゼの駆るシグーへと機首を向けた。

 

「――お前はいつでも邪魔だな、ムウ・ラ・フラガ! もっともお前にも私がご同様かな!?」

 

 機体左腕部に装備されたシールド内蔵ガトリング砲をエグザスに向け、クルーゼは叫んだ。

 

「貴様……ラウ・ル・クルーゼ!」

 

 高速でばら撒かれる弾丸を巧みに回避しつつ、ムウもモニターに映るシグーを睨みつけ毒づく。

 機体は違えど相手が誰であるか、ムウは不思議と感じ取っていた。もちろん、べたランパイロットはその操縦・戦闘の癖から、相手をある程度推測できるのだが、それ以上に彼は独特の『勘』で相手が宿敵である『白き死神』ラウ・ル・クルーゼであると確信していた。

 そのままドッグファイトとなろうとした瞬間、シグーは推進剤の消費などお構いなしに急制動。転進する。

 その先はヘリオポリスの宇宙港……。

 

「――ヘリオポリスの中に……!」

 

 奴の目的は残りの新型――!?

 クルーゼの意図に気づいたムウは、体にかかるGに耐え、進行方向を変えるとその後を追った。

 

 

 

※※※

 

 

 

 自動消火システムがうまく作動し始めたのか、戦闘で発生した火災は終息しつつあった。

 スウェンはモルゲンレーテ地下格納庫をヒュッケバインで飛び出した後、一機のジンを強襲。Hiプラズマカッターの一撃を持って撃墜。コックピット周辺を薙ぎ払ったジンのパイロットはおそらく死亡したはずだ。

 この戦闘が初陣だったスウェンだったが、一人の人間の命を奪ったことの実感は正直、あまり感じなかった。

 無我夢中だったというのもあるが、それ以上に『相手の顔がわからない』という近代戦特有の現象から来るものであった。

 そして彼は今、連合製最新鋭MS『G』で唯一奪取を逃れた『GAT-X105ストライク』と合流した。

 

「……キラ……?」

「えっ……スウェンさん?」

 

 運動公園であろう広場に停止したストライクから出てきたのは、工業カレッジ学生のキラ・ヤマトであった。

 彼は肩を負傷し意識を失ったツナギ姿の女性――おそらくG計画の技術士官か――を連れ、コックピットから降りてきたところだった。

 

「キラーッ!」

 

 そのとき、遠くからキラを呼ぶ声が聞こえた。そちらに目を向けるとキラの友人である少年達が駆けてくるところだった。

 

「トール! サイ! ミリアリア! カズイ!! みんな怪我はない!!」

「ああ、大丈夫だ。それよりキラ! こいつに乗ってたのお前なのか!?」

「あ、うん……この人と――!?」

 

 興奮したトールの質問にキラが答えようとした瞬間、それまで意識を失っていた女性が目を覚ましキラを突き飛ばす。

 

「動くな!」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 その手には連合正式採用の拳銃が握られていた。

 

「機体から離れろ! ……これは軍の最重要機密よ。民間人がむやみに近づいていいものではない」

「ちょっと!?」

 

 二十歳にも満たない少年達に銃を突きつけ、軍の言い分を押し付ける女性士官にイラつき、スウェンは思わず声を上げる。

 

「あなたは……?」

 

 スウェンと後ろのヒュッケバインに警戒心マックスの視線を送り、女性は少年達に銃を突きつけたまま尋ねる。

 

「地球連合軍所属スウェン・カル・バヤン少尉であります」

 

 その視線の鋭さから尉官以上であると推定したスウェンは、背筋を伸ばし敬礼する。

 

「え、スウェンさんが……軍人……?」

 

 彼の言葉に驚く少年達。その瞳に宿る警戒心に罪悪感が芽生えるスウェンは、彼らに謝罪の言葉を口にする。

 

「……ごめん、だまってて。騙すつもりじゃなかったんだ。ただ、軍機と言う奴でさ。……本日付で連合宇宙軍第八機動艦隊、強襲特装艦『アークエンジェル』MS部隊にGAT-X105ストライクのパイロットとして着任予定でありました」

「……第八機動艦隊所属MS開発技官、マリュー・ラミアス大尉です。少尉……その機体は?」

「あっ……これは――」

 

 上官の質問にどう答えればいいかと口を開いたそのとき――。

 

「なにをしているっ!!」

 

 幼いながらも、人の心鷲づかみにする支配力を持った声が届く。そちらに視線を送ると、そこにはモルゲンレーテで出会った少女だった。

 

「ッ!!」

 

 走ってくる彼女にマリューはとっさに銃口を向けようとする。……が、その瞬間、後頭部に冷たく硬いものが突きつけられる。

 

「動くな……銃を捨てろ」

 

 マリューの後ろには、いつの間にか近づいていた赤毛の女性……マリーダがいた。どうやらMSの影をつたって近づいたようだ。その手にもつショートバレルタイプのリボルバーをマリューに突きつけていた。

 

「あなた、いったい……?」

「もう一度言う。銃を捨てろ」

 

 彼女のその物言いはまさしく『プロ』であった。軍人とはいえ技官であるマリューに太刀打できる可能性はなかった。

 おとなしく銃を捨て、両手を挙げるマリューを注意深く見つつ、マリーダはスウェンに声をかける。

 

「スウェン・カル・バヤン……マスターは?」

「えっ……ネロは野暮用とか言って、オレにこいつを渡して別行動を……あとで合流するって……」

「そうか……。キラ・ヤマト。どうやら『ガンダム』は無事守りきったようだな?」

「あ、はい……二人とも無事でよかったです。あのマリーダさん――」

 

 怒涛の展開に何がなにやらわからないキラは、マリーダに説明を求めようと一歩足を踏み出すが、その瞬間――。

 

ドガンッ!?

 

 爆音が轟き、宇宙港と繋がる区画に穴が開く。

 そこから飛び出す一機のMSとMA。

 MSはジン系列特有の単眼式光学センサーを備えたシャープな機体……ザフト製高機動型戦域管制MS『シグー』であった。

 白いパーソナルカラーに塗られたその機体はストライクを捉えると、真っ直ぐにこちらに向かってきた。

 

「くっ……キラ・ヤマト、スウェン・カル・バヤン! お前達は機体を起動させろ!」

「えっ、でも――!?」

「はやくしろ!」

 

 有無も言わさないその鋭い口調に、二人は急いでそれぞれの機体に乗り込む。

 しかし、このままでは間に合わない――!?

 そう思った瞬間、彼女は冷静ながらも、よく通る声で言った。

 

「私が機体起動までの時間を稼ぐ」

「マリーダさん……?」

 

 彼女はそう言うと、銃をしまい彼らの前に立つ。飛来するシグーに目を放さず、彼女は左腕につけた腕時計型端末を口に近づける。

 

「プラズマ・ジェネレーター、バトルモード。T-LINKシステム、コネクト。ASRS解除……」

 

 そして彼女は凛とした声で叫んだ。

 

「Call! Gespnst!!」

 

 ――亡霊の名を……!!

 

 




やっぱ、叫ばなきゃね(^-^)
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