機動戦士ガンダムSEEDーCross SRW!! 作:国伊都
PHASE04「荒ぶる亡霊《ゲシュペンスト》」
宿敵である『エンデュミオンの鷹』ムウ・ラ・フラガを振り切り、ラウ・ル・クルーゼは連合の新型MSを破壊すべくヘリオポリスへと突入した。
港湾部から居住区へ侵入を図るため、クルーゼはインフラ用液化ガスの通る管に銃口を向ける。
小さな事故が大惨事に繋がるコロニーでは、民間用とはいえこういったモノは、地上のものとは次元の違う頑丈さを持っている。
だが、戦艦にさえ損傷を与える強化爆裂徹甲弾の前では紙に等しかった。
貫通、爆発する砲弾。解き放たれる膨大な熱量に液化ガスが一気に気化し膨張、爆発する。
避難命令レベル8の発令で液化ガスの供給は停止されていたため、その爆発はコロニーに致命的損傷は免れたものの、MS一機が通るには充分な孔が開かれた。
その孔を全速力でシグーが通り抜ける。
「ちっ!? クルーゼ!!」
ヘリオポリス内部への侵入を許したことに、ムウは舌打ちと共にスロットルを全開にし、シグーの後を追った。
緊急用隔壁の隙間を縫ってコロニー内部に突入したエグザスは、すぐさま有線式遠隔操作兵装ユニット『ガンバレル』を起動、クルーゼの駆るシグーを囲むように展開させる。
リニアカノンから打ち出される半プラズマ砲弾が人間の知覚を許さぬ速度で飛翔する。
だが、四方八方から迫るそれらをクルーゼは驚異的な先読みと操縦技術で回避していく。
「今はお前と遊んでる暇はないのだよっ、ムウ!!」
それどころか、有線式の欠点である各ユニットの規則性――親機を中心とした戦闘モーション及び各有線が絡まないための戦闘マニューバ――を読み、アサルトライフルに換え右腕部に装備した重斬刀でエグザスとガンバレルをつなぐケーブルを切断していった。
「ちっ!?」
ダイレクト・プロジェクションシステムを介し、己の手足のように操っていたガンバレルの感覚が次々となくなり、ムウは奥歯に力が入る。
エグザスは同時期に配備されたリオンシリーズとは違い、四肢を持たない純粋な『宇宙用戦闘機』として開発されたMAである。それでも人型機動兵器『ジン』等のMSに対抗できたのは、ムウの腕前もだが、それ以上にガンバレルという特殊兵装があったことが大きかった。
それらを失えば、エグザスは初期量産型MA『メビウス』にも劣るものとなる。
それでもムウは、果敢に機首に装備された二連装リニアライフルを発射する。
クルーゼはその読みやすい攻撃を難なく回避、すでに決着はついたとばかりに背を向けると最大推力をもってコロニー内を飛翔する。
「熱源反応を確認……反応2? 新型は一機だったはずだが……――ッ!?」
後方を警戒しつつ、クルーゼは逃した新型MSを探す。そこでMSと思われる熱源をレーダーがキャッチ。
しかしその反応は二つ。連合の新型MSは全部で五機。そのうち四機を奪取したはずだ。ではなぜ二つの反応が……? もしやオーブのMSか……?
クルーゼはそう推察する。が、光学センサーの捉えた映像を目にした瞬間、普段は掴みどころのない笑みを浮かべる口元が引きつる。
運動公園に停留する二機の人型機動兵器。一機は灰色の装甲を持つスマートな体躯のMS。あれがおそらく連合の新型……。
「……ヒュッケバインだとっ……!!」
そしてその横で片膝を立て跪く機体の名を、クルーゼは無意識に呟く。
紺を基調とした装甲、スマートながら力強いフォルム。特徴的なV字アンテナと鷹のような一対のデュアルアイ・センサー……。そして翼のような鋭角的なウイングバインダー。
その機体を彼はよく知っていた。
PTH-P002『ヒュッケバインMK-Ⅱ』……。
彼の愛機である『ズィーガーリオン』と同じく、ゾルダーク・インダストリーが開発した最新鋭機……ッ!!
「なぜあの機体が此処に……!?」
今回の連合とザフトの戦争に、極東の龍・日本は中立の立場をとっている。かつての保護国オーブのように、秘密裏に連合と通じている可能性もあるが、現政権の首班である榊総理大臣が連合に屈するとも思えない。
となると……。
(ビアン・ゾルダーク……!)
新興企業を瞬く間に一大企業と成長させた男の姿を、クルーゼは思い出す。
とにかくあの機体は連合製MSよりも危険な存在だ。誰が乗っているか知らないが、連合に渡る前に破壊を……っ!
決断したクルーゼは盾に装備されたガトリング砲をヒュッケバインに向け、戦闘機動をとる。
その時――。
(Call! Gespnst!!)
彼の素顔を隠すマスクに埋め込まれた脳波送受信システムが、本来であれば聞こえるはずのない女性の声を彼に聞かせた。
※※※
オーブが所有するコロニー・ヘリオポリス。
このコロニーは資源採掘用の小惑星からのびる形で、居住用島三号型コロニーが接続されている。
その基盤である小惑星は、採掘に伴い様々ところに廃鉱となった空間が存在する。
それらは再利用して港湾区画や工場区画が建設されているが、そのすべてが公表されてはいなかった。
穢れを知らない白亜の装甲を持つ双胴艦……地球連合の最新鋭強襲揚陸艦『強襲機動特装艦アークエンジェル』の係留されたドックもそんな秘密区画の一つであった。
しかし、その秘密ドックもイザークたちザフト奪取部隊の陽動により、高性能爆薬によって爆破、破壊されていた。
だが、大天使の名を冠するこのMS運用戦闘艦は、その翼を折られることなく、雪辱の機会を今か今かと待ち構えていた。
「そんな! 艦を発進させるなど……この人員では無理です!」
下士官であるアーノルド・ノイマン曹長の抗議に、艦長席に座り起動作業を続ける女性――ナタル・バジルール少尉は彼を叱責する。
「そんなことを言っている間に、やるにはどうするかいいかを考えろ! ヘリオポリス内はまだ戦闘中かも知れんのだぞ! それをこのままここにこもって見過ごせとでも言うのか!?」
仮定の話としてナタルは言ったが、彼女は確信していた。
アークエンジェルの留まるこの区画が破壊されて、そこそこの時間がたっている。しかし未だ電波妨害を伴う核分裂抑止装置『ニュートロンジャマー』の起動が確認されていた。
それは、コロニー内外での戦闘が終了していないという何よりの証左。
おそらく、こちらは陽動……。本命は最新鋭MS『G』の奪取――!!
「ご命令どおり、動ける者すべて連れてまいりました!」
「シートにつけ! コンピューターの指示通りにやればいい!」
人員の確保に行かせていたジャッキー・トノムラ伍長たちに、彼女は手早く指示を出す。
彼女の毅然としたその姿に、彼らも腹をくくって作業を開始する。
「艦起動と同時に特装砲『ローエングリン』発射準備――!」
「了解ッ!! 発進シークエンススタート! 非常事態のためプロセスC30からL21までを省略! 主動力オンライン!」
本来であれば、今此処にいる人員以上の人数が艦の運用に必要であった。しかし先の爆発により艦長以下多くのクルーが戦死。現在の最上位階級が尉官最下位の少尉……。
幹部育成によってその位を得たナタルにとって、艦の運用権を担うなど荷が勝ちすぎるものであった。しかし……。
(そうしなければ生き残れない――ッ!)
本能から来る根源的意志と、軍閥家系に生まれた者の矜持。そして胸のうちでチラつく功名心……。
それらが、若い彼女に軍人にとって最適である行動を促す。
「出力上昇異常なし! 定格まで450秒!」
「長すぎる! ヘリオポリスとのコンジットの状況は?」
「い、生きています!」
「そこからもパワーをもらえ! コンジット、オンライン! パワーをアムキュレーターに接続……」
「――主動力、コンタクト。エンジン異常なし、アークエンジェル全システム、オンライン……発進準備完了!」
ノイマンが不安を押し隠して叫ぶと、艦橋にナタルの声が響いた。
「気密隔壁閉鎖! 総員、衝撃に備えよ……! ローエングリン発射と同時に最大戦速! アークエンジェル、はっ――!」
「待ってください!! 当艦前方に熱源反応! これは……っ!?」
ローエングリンを今まさに発射しようとしたその時、レーダー監視を行っていたダリダ・ローラハ・チャンドラⅡ世伍長から報告が入る。
「なんだと!? 敵か!?」
「不明! アクティヴレーダー作動! 前方の物体は20メートル級! しかし、これは……っ!?」
「報告は明瞭にせよ!」
「はっ……前方アンノウンのサイズは20メートル級! おそらくMSか、それに類する人型機動兵器と推定! しかし、熱源反応から推定するエンジン出力は、機動戦闘艦クラスです!!」
「なんだと……っ!?」
チャンドラ伍長の報告に、ナタルは思わず叫んでしまう。それはありえない報告だった。
参謀畑を歩んできたナタルでも、機動兵器の出力はある程度だが勉強している。連合の最新鋭MS『G』の核融合ジェネレーターにしても、最大出力では主力駆逐艦程度だというのに、アガメムノン級に迫る出力など、正直唖然とする報告だった。
一瞬思考停止に陥るナタルに、今度はロメロ・パル伍長から報告があがる。
「少尉! 前方アンノウンらしきものから通信!」
「なっ――、通信開け!」
この怒涛の展開にナタルのストレスは限界に近づくも、それをぐっと腹のうちに押さえ込み、硬い声で指示を出す。
本来であれば通信側の映像が映し出されるはずのモニターには、『Sound only』と記された赤文字が表示される。
『そちらは地球連合軍所属の強襲機動特装艦『アークエンジェル』で間違いないか?』
「……そうだが、貴官は何者だ? 姓名及び階級、所属を明らかにされたし」
声を聞く限り、年の頃はナタルと同じか、それより若い。おそらく二十歳ほどの男性だった。
確認というより、確信をもって本艦の名称を問われたことに、ナタルは警戒心を上げつつ、事務的に問いかける。
アンノウンのパイロットと思しき男は、その問いに苦微笑する。
『すまない。それはまだあきらかに出来ない。だが、敵ではないことは確かだ。ナタル・バジルール少尉?』
「――ッ!?」
アンノウンの言葉に、艦橋の空気が凍りつく。
意味がわからなかった。なぜ奴は彼女のことを知っているのか? 確かにナタルはもとより艦橋スタッフとしてアークエンジェルに配属される予定であった。しかし、こんな不測の事態でもなければ、艦の代表を務める立場に立つことのない。彼女の階級はそういうものであった。
そんな有象無象の一少尉の名をなぜ奴は知っている――!!
絶句する彼女を無視して――あるいは確信犯的に――アンノウンは話を続ける。
『すまないが、ローエングリンの発射は、見合わせてもらいたい』
「なんだと――!」
『貴艦の特装砲は威力がありすぎる。コロニーに対して致命的損傷を与えかねん。そちらも中立国のコロニーを破壊したくはないだろう?』
「では、どうしろと……? このまま閉じこもっていろとでもいうのか?」
アンノウンの言い分はもっともだ。しかしそれでは、ザフトにおめおめと新型機を奪われてしまう。そんなことをナタルは許容できるわけもなかった。
『突破口はこちらで斬り開く。いいな! では、通信終了ッ!』
「あっ、おい!?」
「通信切れました……」
アンノウンは一方的にそう言うと、通信を遮断した。
特装砲以外でいったいどうやってコロニーへの道を開くというのだ?
まったく意味のわからないナタルたちであったが、通信中もアンノウンを注意深く観察していたチャンドラが驚きの声を上げる。
「アンノウン、出力さらに上昇!? これは……映像出します!」
「なっ……!?」
メインモニターに映し出された映像の中で、アンノウンと思われる人型機動兵器は、まるで翼を広げるように両腕を伸ばしていた。そのマニュピュレーターには何か、柄のような棒状のものを持っていた。
するとそこから青白い光があふれ、光の刃を形成する。しかしその大きさは尋常ではなかった。機体の二倍近い大きさで、あまりの出力に機体そのものからも電光が迸っていた。
そしてアンノウンはナタルたちの見守る中、その光の刃を振り回し、ドックとコロニーを隔てる隔壁に向かって切っ先が奔る。その瞬間、隔壁はまるでバターを切るかのように溶断される。
そうしてアークエンジェルの目の前で、アンノウンは文字通りコロニーへの突破口を『斬り開いた』のであった。
※※※
脳内に聞き覚えのある女性の声が響いた瞬間、クルーゼの背中に悪寒が走る。その『死』を連想させる直感に従い、彼はとっさに乗機に緊急回避運動をとらせる。
瞬間、さきほどまでシグーのいた空間を碧色の亡霊が駆け抜ける。
「あれは……っ!!」
力強さを感じさせる丸みを帯びた装甲、左腕部に装備された猛獣の爪を連想させる三つの突起物。頭部からウサギの耳のように左右へ伸びる、特徴的なデュアルアンテナ。
バイザー越しに輝くデュアルアイでシグーを睨みつるその機体は、獲物である二機を守るように着陸すると、その腹部装甲を開き、己の主を飲み込む。
「ゲシュペンストMK-Ⅱ……ッ!!」
シグーの前に立ちはだかったのは、亡霊の名を持つ鋼の巨人であった。
その上、その機体色は鮮やかな碧(みどり)……。その色を纏い戦場に立つ者を、クルーゼは一人知っていた。
その瞬間、こめかみに短くも鋭い痛みが走る。
それと同時に立ちはだかる巨人、ゲシュペンストMK-Ⅱの背部コンテナが開き、円盤のようなものが射出される。
「T-LINKリッパー、行けッ!!」
白色に染め上げられたシグーをメインモニター越しに睨みつけ、ゲシュペンストMK-Ⅱに乗り込んだマリーダは、彼女の忠実な僕(しもべ)である切り裂き魔たちに命令する。
主の命令を受けた彼らは、回転翼兼攻撃手段である三枚のブレードを展開し高速回転。T-LINKシステムを介し、敵を見定めた彼らは複雑な軌道を描き、シグーへと迫る。
「クッ……だがこれしき!!」
悪態をつくも、クルーゼはシグーの各所に配されたスラスターと四肢を用いてその斬撃を紙一重で回避する。それどころかアサルトライフルやガトリング砲の砲弾をばら撒き打ち落とそうとする。
だが、それにばかり意識を集中させるわけにも行かなかった。
「ラウ・ル・クルーゼッ!!」
怒りの声をあげ、マリーダはゲシュペンストをシグーへ向けて突貫させる。
左腕部に装備された打撃兵装『プラズマステーク』を起動、閃光を纏う拳を繰り出す。必殺の一撃を、しかしクルーゼはシールドで受け流した。だが、その隙をついて一機のリッパーが右脚部を膝関節から切断する。
「さすがだな、マリーダ・クルス!」
「黙れっ! この裏切り者がッ!!」
仕切りなおしとばかりに砲弾をばら撒き、シグーはゲシュペンストと距離をとる。けん制ながら正確無比なその攻撃に、マリーダは僕であるリッパーたちを犠牲にし耐える。
「君がいるということは……『彼』も来ているのかな!」
「お前に答える義務はない!」
マリーダのにべもない物言いに、クルーゼは確信する。
(――あまり時間はかけられないかっ)
せめて連合の新型だけでも破壊しなければ、後の戦いに不確定要素を残すことになる。そう考えたクルーゼは、立ち上がりいつでも動けるように身構える新型に目をやる。
その時だ。
轟音と共に、コロニーの一角にエックス上に線が走ったのは。
「なにっ!?」
その瞬間人工の大地が斬り裂かれ、その先の空洞から白亜の戦艦が飛び出してきた。
「連合の新造艦! 仕留め損なったかッ!?」
破壊は出来ずとも、閉じ込めることには成功したはずと考えていたクルーゼは、コロニー内を飛翔するアークエンジェルの姿に舌打ちする。
その隙をついてマリーダは今一度ゲシュペンストで突撃を敢行した。
「貴様はここで墜すッ!」
「そうもいかんのだよッ!」
コックピットめがけて繰り出されるプラズマステークの一撃を、クルーゼはシールドをゲシュペンストに放り投げるという、彼らしくない奇策で防ぐ。
そしてゲシュペンストをすり抜け、彼はシグーをストライクへと突撃させる。
「なっ!?」
コックピット内に鳴り響く接近アラームに驚くキラ。彼の見つめる画面上で、シグーは腰部に装備された丸い物体をストライクめがけて投げ込んだ。
「後ろに民間人がいるようだが、どうする? 連合のパイロット!!」
クルーゼが投げ込んだのはMS用投擲弾――つまりはMSサイズの手榴弾であった。
『キラ、爆弾だ!!』
ヒュッケバインに乗り込んでいたスウェンがとっさに叫ぶ。
「みんな伏せてっ!」
外部スピーカーを通してキラは声を上げると、一か八かとアーマーシュナイダーを掴み、手榴弾へむけて放つ。
運よく刃が手榴弾に刺さり、空中で爆発。その爆風をキラとスウェンは機体を使って防ぎ、外にいたマリューたちを守る。
その爆発がやみ、キラは急いでザフトのMSを探す。
だがクルーゼ駆るシグーは素早くその場を離れ、アークエンジェルの放つミサイルをうまく回避し、コロニーに大穴を空けるとそこから離脱するところであった。