定礎復元の代償に英雄を喪った女神は悲嘆に暮れる。
もう二度と二人が会うことはないだろう。
その出会いは奇跡だったのだ。
だがもし再び彼と彼女の逢瀬が訪れるのならば。
出会いは奇跡ではなく、運命なのだろう。
読んでいただければ一部の方はお気づきになるでしょうが
私が尊敬する、Pixivのある作品を元としています。
勿論所々改変を加えてはいますが。
運営さまに迷惑のかからない内に削除するかもしれません。
女神の涙は血の欠片が刺さった怪物の心へ染み渡り、欠片を溶かした。
大切な人を守る。
それは、その人の体が傷つかぬよう害を取り除くこと。
しかしそれなら、誰にだってできる。
本当に守るということは、誰もがその人を否定しても自分だけはその人を受け入れ、辛くとも心が壊れぬようそっと寄り添うこと。
そしてその人を思う心を、愛というのだ。
濃厚な香りと瞳が染まるような色彩。日本晴れの陽射しを照り返して輝きを放つ、満開の華。
燃えるように咲き誇る、一面の薔薇絨毯だ。
その紅の波間に、寂しげな女は浮かんでいた。
女は花を摘み取り、腕でかき抱くように己の胸に押し付けた。
薔薇の棘がその柔肌を傷つけることはないが、それにより女の心は傷ついているようにも見える。
「私、とても寒いの……温めてよ、アステリオス……」
連れを亡くした只の女の涙は、胸の薔薇へ落ちる。
薔薇はより鮮やかに艶やかに、赤みを帯びた。
♢
「ああ、美しき女神よ。
願わくは私に、貴女の為に剣を振るいし誉れを。
貴女を守護するお許しを賜りたく……」
どこか芝居掛かった口上を述べる勇者が跪くのは、誰もが夢見る理想の少女。
男は名を呼ばれただけで名誉に身を震わせ、命を賭した守護を約束する存在。
「……彼方は、
いえ、彼方達は私に、何か見返りは求めないの?」
「は?」
「何か無いの?
守るという行為は人間にとって、親愛や求愛と同じなのでしょう?
私に、恋して欲しいとか……愛して欲しいとか」
「そんな、滅相もない‼︎
私は貴女の為に戦うことができればそれで良いのです!
女神様の伴侶になど、畏れ多い──」
謙遜し、謙虚を演じる人間。
「あぁそう。
私にだってそれに応える気があって訊いたわけじゃないわ。
戯れの質問よ、お忘れなさい」
くだらない。
どの男も私に好きだなんて言わないわ。
畏れ多い? 違うでしょう。
彼方達が『好き』なのは、女神様の為に戦う『ヒロイックな自分』でしょう。
結局のところ、本当に私の為に戦う男なんて居やしない。
皆、自分の為に戦って勝手に死んでしまえばいいんだわ。
そう思ってた。だから、考えたことも無かったの。
『 ぼくは、えうりゅあれが、だいすき、だ! 』
♢
──守護英霊召喚システム・フェイト 起動
──霊基を 固定 しました
──全工程
──英霊より グランドオーダー 同行を 了承 されました
そこは人理継続保障機関フィニス・カルデア内の、サーヴァント召喚室。
広く薄暗い空間に、小さな光の玉が現れる。
浮遊する光玉は、床に刻まれている軌跡を辿り青い魔法陣を浮かび上がらせる。
魔法陣に電流が迸り、淡い光を放つ。
光はやがて空間を埋め尽くし、視界を白く染め上げた。
光が収まった時には天井を貫くような光の柱、その中には小さな人影が見える。
そして光の柱は空気に溶けるように消滅し、はっきりと人影が視認できるようになる。
可愛く美しく愛らしく。それは人が思う理想の姿。
しっとりとした桃色の髪と、明るく輝くピンクゴールドの大きな瞳。
ツーサイドアップという髪型で地面に着くほど長い髪が、彼女の身じろぎに合わせてふわりと舞った。
「──私はエウリュアレ。女神様よ。
……ってあなたたち、あの時の」
「覚えていてくれたんだ! ……久しぶり。そしてようこそ、カルデアへ!」
「お久しぶりです、エウリュアレさん。どこか調子が悪いところは……」
「ええ。特に無いわね、大丈夫よ。
……あなたたち、あの時よりも大きくなっている気がするわ。
成長が早いのかしら」
エウリュアレの目線は立香たちの目線より大分低いが、その差はオケアノスの時と然程変わっていない。
彼女が感じた変化は、幾つもの特異点を渡り死線を越えた立香とマシュの「強さ」である。
それは能力のことでもあるが、なにより気力──心の変化である。
「そ、そうかな? だと良いなあ……っとそうだ、まずはカルデアの案内をしようと思ってたんだ。えっと……」
「……アステリオス」
「?」
「アステリオスは、いるのかしら?」
興味なさげな風だがそわそわと落ち着かないエウリュアレに、立香とマシュは優しい表情で微笑んだ。
「うん、いるよっ!
エウリュアレが来るかもしれないって、いつも自分の部屋を花だらけにしてて……行っちゃった」
カルデアは広く入り組んではいるが、あの迷宮を知っているエウリュアレは初めての場所でも迷わない。
無機質だが冷たくはない廊下に、衣装の裾を持ち上げて駆ける女神の足音が響く。
会ったら何を話そうかしら。
どうお礼を伝えたらいい?
何なら彼が喜ぶかしら。
あなたの好きな歌、何だって歌うわ。
名前も何百回だって呼んで、たくさん撫でてたくさん抱きしめて……特別に、接吻だってしちゃったり……
やがて前方に、頭から一対の立派な角を生やした大きな人影を見つける。
「……! アステリオス!」
ぴくっと身じろいだ人影──アステリオスは大好きな声がした方へ振り向く。
表情は嬉しそうで、花が咲いたようだ。
「えうりゅあれ……? えうりゅあれ!
えうりゅあれだ!」
「アステリオス……!」
彼を見た瞬間、色々難しく考えていたことは吹き飛んだ。
走る勢いそのまま、アステリオスの腹の辺りへ抱きつく。
だいすき、大好き、大好きよ、大好きなの
「──だいすき‼︎ わたしも、あなたのこと、だいすきよぉ‼︎ あすてりおす‼︎」
泣きながら、幸せで、嬉しくて、溢れる想いを伝える。
私の歌を聴いてほしいの。
あなたの名前を呼びたいの。
これから先もあなたの隣で、あなたの為に、居させてください。