AD.1573 封鎖終局四海 オケアノス
定礎復元の代償に英雄を喪った女神は悲嘆に暮れる。

 もう二度と二人が会うことはないだろう。
 その出会いは奇跡だったのだ。
 だがもし再び彼と彼女の逢瀬が訪れるのならば。
 出会いは奇跡ではなく、運命なのだろう。





読んでいただければ一部の方はお気づきになるでしょうが
私が尊敬する、Pixivのある作品を元としています。
勿論所々改変を加えてはいますが。
運営さまに迷惑のかからない内に削除するかもしれません。


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儚く運命に破れた、当たり前の愛の結末を

 

 

 

 女神の涙は血の欠片が刺さった怪物の心へ染み渡り、欠片を溶かした。

 

 大切な人を守る。

 それは、その人の体が傷つかぬよう害を取り除くこと。

 しかしそれなら、誰にだってできる。

 本当に守るということは、誰もがその人を否定しても自分だけはその人を受け入れ、辛くとも心が壊れぬようそっと寄り添うこと。

 そしてその人を思う心を、愛というのだ。

 

 

 

 

 

 濃厚な香りと瞳が染まるような色彩。日本晴れの陽射しを照り返して輝きを放つ、満開の華。

 燃えるように咲き誇る、一面の薔薇絨毯だ。

 その紅の波間に、寂しげな女は浮かんでいた。

 女は花を摘み取り、腕でかき抱くように己の胸に押し付けた。

 薔薇の棘がその柔肌を傷つけることはないが、それにより女の心は傷ついているようにも見える。

 

「私、とても寒いの……温めてよ、アステリオス……」

 

 連れを亡くした只の女の涙は、胸の薔薇へ落ちる。

 薔薇はより鮮やかに艶やかに、赤みを帯びた。

 

 

 

 

 

 

「ああ、美しき女神よ。

 願わくは私に、貴女の為に剣を振るいし誉れを。

 貴女を守護するお許しを賜りたく……」

 

 どこか芝居掛かった口上を述べる勇者が跪くのは、誰もが夢見る理想の少女。

 男は名を呼ばれただけで名誉に身を震わせ、命を賭した守護を約束する存在。

 

「……彼方は、

 いえ、彼方達は私に、何か見返りは求めないの?」

 

「は?」

 

「何か無いの?

 守るという行為は人間にとって、親愛や求愛と同じなのでしょう?

 私に、恋して欲しいとか……愛して欲しいとか」

 

「そんな、滅相もない‼︎

 私は貴女の為に戦うことができればそれで良いのです!

 女神様の伴侶になど、畏れ多い──」

 

 謙遜し、謙虚を演じる人間。

 

「あぁそう。

 私にだってそれに応える気があって訊いたわけじゃないわ。

 戯れの質問よ、お忘れなさい」

 

 くだらない。

 

 どの男も私に好きだなんて言わないわ。

 畏れ多い? 違うでしょう。

 彼方達が『好き』なのは、女神様の為に戦う『ヒロイックな自分』でしょう。

 

 結局のところ、本当に私の為に戦う男なんて居やしない。

 皆、自分の為に戦って勝手に死んでしまえばいいんだわ。

 そう思ってた。だから、考えたことも無かったの。

 

 『 ぼくは、えうりゅあれが、だいすき、だ! 』

 

 ()()()()死んだ人へ、どう思いを伝えたらいいのかなんて。

 

 

 

 

 

 

 ──守護英霊召喚システム・フェイト 起動

 

 ──霊基を 固定 しました

 

 ──全工程 完了(クリア)

 

 ──英霊より グランドオーダー 同行を 了承 されました

 

 そこは人理継続保障機関フィニス・カルデア内の、サーヴァント召喚室。

 広く薄暗い空間に、小さな光の玉が現れる。

 

 浮遊する光玉は、床に刻まれている軌跡を辿り青い魔法陣を浮かび上がらせる。

 

 魔法陣に電流が迸り、淡い光を放つ。

 光はやがて空間を埋め尽くし、視界を白く染め上げた。

 

 光が収まった時には天井を貫くような光の柱、その中には小さな人影が見える。

 

 そして光の柱は空気に溶けるように消滅し、はっきりと人影が視認できるようになる。

 

 

 

 可愛く美しく愛らしく。それは人が思う理想の姿。

 しっとりとした桃色の髪と、明るく輝くピンクゴールドの大きな瞳。

 ツーサイドアップという髪型で地面に着くほど長い髪が、彼女の身じろぎに合わせてふわりと舞った。

 

「──私はエウリュアレ。女神様よ。

 ……ってあなたたち、あの時の」

 

「覚えていてくれたんだ! ……久しぶり。そしてようこそ、カルデアへ!」

「お久しぶりです、エウリュアレさん。どこか調子が悪いところは……」

 

「ええ。特に無いわね、大丈夫よ。

 ……あなたたち、あの時よりも大きくなっている気がするわ。

 成長が早いのかしら」

 

 エウリュアレの目線は立香たちの目線より大分低いが、その差はオケアノスの時と然程変わっていない。

 彼女が感じた変化は、幾つもの特異点を渡り死線を越えた立香とマシュの「強さ」である。

 それは能力のことでもあるが、なにより気力──心の変化である。

 

「そ、そうかな? だと良いなあ……っとそうだ、まずはカルデアの案内をしようと思ってたんだ。えっと……」

 

「……アステリオス」

 

「?」

 

「アステリオスは、いるのかしら?」

 

 興味なさげな風だがそわそわと落ち着かないエウリュアレに、立香とマシュは優しい表情で微笑んだ。

 

「うん、いるよっ!

 エウリュアレが来るかもしれないって、いつも自分の部屋を花だらけにしてて……行っちゃった」

 

 

 

 カルデアは広く入り組んではいるが、あの迷宮を知っているエウリュアレは初めての場所でも迷わない。

 無機質だが冷たくはない廊下に、衣装の裾を持ち上げて駆ける女神の足音が響く。

 

 

 会ったら何を話そうかしら。

 どうお礼を伝えたらいい?

 何なら彼が喜ぶかしら。

 あなたの好きな歌、何だって歌うわ。

 名前も何百回だって呼んで、たくさん撫でてたくさん抱きしめて……特別に、接吻だってしちゃったり……

 

 

 やがて前方に、頭から一対の立派な角を生やした大きな人影を見つける。

 

「……! アステリオス!」

 

 ぴくっと身じろいだ人影──アステリオスは大好きな声がした方へ振り向く。

 表情は嬉しそうで、花が咲いたようだ。

 

「えうりゅあれ……? えうりゅあれ!

 えうりゅあれだ!」

 

 

「アステリオス……!」

 彼を見た瞬間、色々難しく考えていたことは吹き飛んだ。

 走る勢いそのまま、アステリオスの腹の辺りへ抱きつく。

 

 

 だいすき、大好き、大好きよ、大好きなの

 

 

「──だいすき‼︎ わたしも、あなたのこと、だいすきよぉ‼︎ あすてりおす‼︎」

 

 泣きながら、幸せで、嬉しくて、溢れる想いを伝える。

 

 

 

 私の歌を聴いてほしいの。

 あなたの名前を呼びたいの。

 これから先もあなたの隣で、あなたの為に、居させてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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