この手を伸ばせば   作:まるね子

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……うん。早すぎるよね、やっぱり。
でも早くキリのいいとこまで書いてしまいたい。
積みゲー消化したい……でも続き書きたい……うぼぁー。


第十二話「襲撃」

 悠平たちはBETAの侵攻が少ない左翼寄りのやや後方に、いわゆるお客さん待遇で配置されていた。名目上は火力支援部隊の護衛ではあるが、他に一個中隊の護衛がついている。暗に邪魔をするな、と言われているのだ。しかし、米軍が反対方向の右翼側に集中していることから、ソ連軍のほうでも米軍の狙いの一つが実験部隊である可能性を考慮に入れているのだろう。悠平たちも霞の安全を考え、ピアティフの傍でCPの補佐を行うことになっていた。

 戦闘を開始しておよそ三十分。現状、戦況は優勢に推移している。ラプターの二個大隊が加わったことも優勢に推移している理由の一つではあるだろうが、一番の理由は光線級の数の少なさだ。だが、これは決して安心できる類の情報ではない。すでに超重光線級は倒されたとはいえ、それ以前から少しずつ光線級の出現頻度は増えていたのだ。おそらく今回()光線級はどこかに潜んでいるのだろう。BETAによる地中侵攻はもっとも警戒しなければならないことであり、常識だ。

 だが、ネージュはそういったものとは()()()()、BETAの地中侵攻が起きる予感がしていた。おぼろげながら、地中から現れたBETAがソ連軍の戦術機を背後から襲うヴィジョンを幻視する。

(……これは、何なんでしょうか?)

 ネージュは以前から時折、()を幻視することがあった。この数ヶ月間では、悠平とエレメントを組んでいると特にそれが顕著であることに気づいたが、それを今まで気にしたことはなかった。

 だが、今は妙にそのことが気になる。それはネージュ自身にまだ自覚がないが、常識を身につけ始めたことによる自身の特異性を強く認識し始めたことによって発生した違和感だった。

「ん?左翼が少し前に出すぎている……?」

 それは戦域情報を確認していた武の声だった。確認してみると、確かに前に出すぎている。ここで部隊の真後ろからBETAの地中侵攻が発生したらまずいのではないか。そう思った瞬間、先ほど見えた幻視が再び脳裏に強く現れ――けたたましい警告音(アラート)が鳴り響いた。

「コード991……っ、地中侵攻だって!?」

 それは突然現れた。左翼の真後ろからBETA群が湧き出し、対応の遅れた最後尾の戦術機が次々に殴り飛ばされ、捻り潰され、食い破られていた。

「馬鹿なっ!?掘削振動は感知できなかったぞっ!?」

 火力支援部隊を護衛していた中隊の誰かの声がオープン回線から聞こえていた。急いでログを確認してみるが、確かに掘削振動と思われるログは残っていない。ならば、考えられるのは――

「やつら、()で待っていたのか……っ!」

 ネージュの考えを悠平が代弁する。そう、あらかじめ地中で待機し、ずっとタイミングを計っていたのだ。

 すでに地球上の全ハイヴを統括する重頭脳級は存在しないため、それ以上BETAがこちらを学習し対応することはないと言われている。だが、それまでの学習によって確立したものは別なのだ。つまり、この待ち伏せ(アンブッシュ)はすでにBETAが確立していた戦術なのだ。

「クソッ、このままじゃ左翼が壊滅しちまう!エインヘリアル01よりCP!左翼の連中はどうなっている!?」

 CPからの返答によればBETAに応戦してはいるが混乱がひどく、壊滅しないようにするのがやっとだと言う。現在は地中侵攻してきたBETA群に対し、中央からいくらか戦力を回してBETAを誘導して火力支援部隊による面制圧を行おうとしているという。

 それを聞いた瞬間、ネージュは左翼よりもさらに()()からのレーザーが火力支援部隊の砲弾を打ち落としていくヴィジョンを幻視した。

(……今までのヴィジョンは、全て現実になりました。だとしたら、今回も……)

 ネージュは妙な確信に引かれて、不知火・改を左翼の左側に存在する山間部へ向けて奔らせた。

「お、おいっ、03!?ネージュ、どうしたんだ!?」

 武はネージュの突然の行動に戸惑う。しかし、光線級が現れるのをただ待つわけには行かない。

「……左翼のさらに左側に複数の光線級が()()()

 武たちはあわてて戦域情報を確認する――が、そこにBETAがいるという情報は()()確認されていない。

「……武、ネージュは人工ESP発現体だ。もしかしたら何かを感じているのかもしれない」

 悠平がネージュの行動を支持する。

 嬉しい。

 悠平が、自身でも理解できていないものを信じてくれたことがネージュは嬉しかった。

「――よし。エインヘリアル01より各機、03を先頭に縦壱型隊形(トレイル・ワン)!03の進路に続け!」

 武は護衛部隊から離れることをCPに伝え、ネージュに続いて不知火・改を奔らせた。

 

 

 武たちが移動を開始して数分後、左翼は一時的に戦線を押し上げることで地中侵攻してきたBETA群から距離をとり、火力支援部隊による面制圧が開始された。

 飛来する大量の砲弾にソ連軍衛士は地中侵攻してきたBETAの大半が片付くことを確信し、――しかし、戦線を押し上げた左翼の左奥側に存在する山間部からの大量のレーザー照射によって驚愕の表情を浮かべた。

「光線級だと……!?やつら、あの山間部を回り込んできたのかっ!?」

 左翼は地中侵攻してきたBETA群と前面のBETA群を相手にするだけで精一杯だ。火力支援部隊の護衛につけていた中隊が援護に来てくれるようだが、それだけではさらに左側に出現した光線級に対処するだけの余裕はない。

 なんとか時間を稼ぐよう部下にに命令するが、射線が開けているため光線級に狙い撃ちにされていく。

 増える損耗率。

 響く仲間たちの悲鳴。

 死にたくない。

 助けて。

 ある者は祖国を(たたえ)る。

 ある者は死んだ家族の名を呼ぶ。

 ある者は恋人の名を呼ぶ。

 ある者はBETAへの怨嗟を叫ぶ。

 一人、また一人と仲間が蒸発し、すり潰され、食われていく。

 もはやこれまでかとソ連軍衛士が諦めかけたその時、彼が予想だにしていなかった言葉がオープン回線に響き渡る。

「これより、山間部の光線級吶喊(レーザーヤークト)を仕掛ける!もう少しだけ持ちこたえてくれっ!」

 それは日本からやって来た、年若い男の声だった。

 

 

 山間部から死角になるように移動しながらネージュに続いていたユウヤたちは山間部に光線級が現れ、レーザーを照射するところを目撃した。

「すげぇ、本当にいやがった……っ」

 光線級は砲弾のほとんどを打ち落とし、左翼の戦力を次々に削り取っていく。レーザー照射が来てからここの光線級に気づいて光線級吶喊を仕掛けたとしても、左翼の壊滅は免れなかっただろう。しかし、ネージュが稼いだ数分は彼らを救うには十分な時間だった。

 山間部にいるBETAのほとんどが光線級と重光線級だが、中には護衛のつもりなのか要撃級の姿も見える。しかし、今のユウヤたちの相手ではない。

「エインヘリアル01より各機、02、03は俺に続いて光線級の目を引く囮をやる!04、05は光線級を優先的に叩いてくれ!」

 武の命令で悠平とネージュが武に続いて空中へと跳ね上がる。空中に躍り出た武たちを光線級が狙うがレーザーが放たれる瞬間、武たちはすでにマニュアルで光線級の照準を振り切っていた。そして光線級の狙いが逸れているうちにユウヤとイーニァが次々に食らい尽くしていく。時には重光線級の大きな体を壁にしながら、レーザー照射を回避しながら。

「うぉぉぉおおおおおっ!」

 いくら武たちでもいつまでも全てのレーザーを回避するなんてことはできない。光線級の体を36mmの牙が食らいついていく。迅速かつ正確に。

 光線級の注意がユウヤたちに向けられたことで左翼は早急に体勢を立て直し始め、BETAを駆逐してゆく。

 光線級の目を36mmの砲弾が吹き飛ばし、要撃級の前腕を長刀が斬り飛ばし、穿ち、両断し、粉砕し、殲滅していく。

 やがて、山間部のBETA群の処理があらかた完了した頃、裕也たちの耳に一つの言葉が聞こえてきた。

「君たちのおかげで助かった。感謝する」

 それは左翼の指揮を行っていたソ連軍衛士のものだった。

 

 

 武たちは山間部のBETA群の排除を完了し、念のために周囲の警戒を行うことにした。また光線級による狙撃やBETA群による奇襲を受けた場合、左翼が持たない可能性を考えたのだ。

「このあたりにBETAはもういないみたいだな……念のためアクティブも打ってみたが、反応はない」

 悠平がBETAによる待ち伏せの警戒していたが、反応がないという報告が来る。センサーにも反応がないため、山間部周辺にはもうBETAはいないのだろう。

 武は戦線に加わる指示を出そうとするが、イーニァが妙にキョロキョロしている姿が視界に映った。

「どうした、イーニァ?」

 ユウヤも気づいていたようでイーニァに尋ねた。

「たくさん、こっちを見てる……攻撃しようとしてる」

「たくさん?どういうことだ……?」

 レーダーを確認してみるが、反応はない。戦闘で精神が昂ぶっているのかと武は思ったが、

(――いや、そうじゃない。イーニァも霞と同じなんだ……ってことは、俺たちの近くにいる何かの精神を感じ取っているのか!?)

 そこまで考えが至ると、武の行動は早かった。

「各機、全周警戒!奇襲に備えろっ!」

 武が命令を下した瞬間、耳障りなロックオンアラートが鳴り響く。

「全機、緊急回避っ!」

 それぞれがとっさに緊急回避を行うと、連続してチェーンガンの射撃音が鳴り響く。銃声が鳴り止むと、それまで各自がいた場所には36mm砲弾による銃痕が刻まれていた。

 レーダーに反応はない、ということは()()()()()

 奇襲に失敗したと判断したのかあちこちからラプターが姿を見せる。その数、十二機―― 一個中隊。どうやら逃がすつもりはないようで、すっかり囲まれてしまっていた。

「ラプター!?馬鹿なっ、アメリカが俺たちを攻撃するっていうのか!?」

 ユウヤはラプターの銃口を向けられていることを若干信じられないでいるようだ。理由を問うために通信を入れようとするも、無線封鎖でもしているのかまるで反応がなかった。

「01より各機、どうやらやつらは俺たちを無事に逃がす気がないらしい……04、05は俺と前方のやつを!02と03は後方を片付ける!……散開っ!」

 覚悟を決めた武は()の攻撃が始まると同時に己の戦闘機動で相手をし始め、ユウヤとイーニァも武に続いた。

(アメリカが介入してきた時からこうなる可能性はずっと考えてたんだ……たった一個中隊が俺たちの相手になると思うな!)

 

 ラプターは米軍が誇る最新鋭のステルス戦術機だ。そのステルス性の高さは戦術機のレーダーを騙し、一方的な攻撃を可能とする。対人類戦闘を想定された、先を見据えた戦術機なのだ。

 だが、そのラプターが今、劣勢を強いられていた。武のアクロバティックな戦闘機動がラプターの自動照準を振り切り、ラプターの突撃砲は無駄弾を打ち出すばかり。ステルスによる優位性は武の戦闘機動によってまったく意味のないものに成り下がっていた。その戦闘は米軍が恐れたステルス対ステルスの構図にとてもよく似ており、近接戦闘で勝る武は単独でラプターを追い詰めていた。

 そのラプターからユウヤとイーニァが少しずつ戦闘力を奪っていく。情報を得るために搭乗している衛士を殺さず生け捕るためだった。

 そしてその後方では、横浜基地最強のエレメントがその猛威を振るっていた。

 悠平の捉えどころのない戦闘機動に惑わされ、翻弄されているラプターへ肉薄したネージュが流れるような軌跡でラプターの両腕と両足を長刀で斬り飛ばしていく。ネージュを狙った砲弾は、まるでどこへ向かうかが見えているかのように全て回避され、攻撃を行ったラプターは悠平の突撃砲によって戦闘力を奪われていく。

 最強の第二世代機と呼ばれるF-15を相手に百回戦っても負けなかったという化け物じみた記録を持つラプターが、性能で劣るはずの不知火を相手に手も足も出ずに追い詰められていく。それは新OSの優位性の証明であり、彼らの戦闘機動の有用さをまざまざと見せ付けるものだった。

 すでにラプターは半数を残すのみであり、壊滅は時間の問題かに見えた。

 ネージュがまた一機、ラプターから戦闘力を奪った頃、悠平は二機のラプターから集中的に攻撃を受けていた。しかし、元々一対多を得意とする悠平の戦闘機動に二機のラプターはすっかり翻弄されていた。

 この隙を狙い、残りのラプターからも戦闘力を奪うためにネージュはジャンプユニットを噴かした。長刀を構え、這うようにラプターへ接近し、その牙を突き立てる。しかしその瞬間、ネージュの視界には戦闘力を奪ったはずのラプターが残されたジャンプユニットで悠平に体当たりを仕掛ける姿が映っていた。

 迂闊にも、悠平が複数のラプターを同時に相手にする姿を見て無意識に焦っていたネージュは、両腕と両足を斬り飛ばしたことで戦闘力を奪ったと思い込んでいたのだ。

 悠平もまた、至近距離からの噴射跳躍による体当たりをとっさに回避することができず、そのラプターに地面へと押し倒されてしまった。その光景を見たネージュはショックに震え、同時にヴィジョンを幻視していた。

 

 倒れた悠平と折り重なるラプターへ向かって大量の自立誘導弾が飛んでいく。

 

「ユーヘーッ、逃げて……っ!」

 ネージュは生まれて初めて叫んだ。悠平を失いたくない一心から、しかし、ラプターがジャンプユニットを巧に噴かして悠平は地面に押さえつけられる。

 そして、ネージュが視たとおりに隠れていた三機のラプターから撃ち出された大量の自立誘導弾が、悠平の不知火・改と四肢を失ったラプターを爆炎で飲み込んだ。

 




今回は本文の文字数、5555文字でした。なんだかすごい……

BETAが思ったよりあっさりなんとかなりそうなのは許してください。戦闘に使えそうな表現方法の引き出しが少ないんですorz

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