この手を伸ばせば   作:まるね子

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TSFIA読んでないので完全にオリジナルです。
茜とあきらの会話とかがハイヴ内であったらしいですが、読んでないのでわかりません。どうしよう……


第十八話「駆ける者たち」

 戦術機母艦の甲板から月を見上げながら、武は出発前に夕呼から聞いた話を思い出していた。

「え、涼宮たちが……!?」

「えぇ。不知火・弐型と月虹の実戦運用試験に富士教導団の衛士として参加するわ」

 涼宮茜。A-01時代の戦友の一人にして数少ない生き残りだ。夕呼の話では宗像美冴と風間祷子、そして武は会ったこともないがもう一人のA-01の生き残りも参加するという。彼女たちは挨拶もなしに転属してしまったため、富士教導団に引き抜かれたと聞いたときは驚いたものだった。

 そして未確認ではあるが、A-01の部隊長を務めていた伊隅みちるの妹、伊隅あきらの所属する第31戦術機甲部隊も甲20号攻略作戦に参加するらしい。一つの戦場に、武にとって縁が深い者たちが集まるのだ。

(運がよければ、戦場でばったり鉢合わせるかもしれないな……)

 久しぶりに会いたいという気持ちと、弐型と弐型改の比較相手として負けられないという気持ちを抱いて、武は一人月を眺め続けていた。

 

 

 悠平はネージュを伴って電磁投射砲のチェックを行っていた。この電磁投射砲には夕呼が抗重力機関の研究の際に生み出した副産物である超高出力ジェネレーターを小型化したものが搭載されており、凄乃皇に搭載する際にミカナギ型抗重力機関の一部として組み込むこともあってその整備を任されているのだ。元のサイズならば凄乃皇の荷電粒子砲の電力すら賄える超高出力ジェネレータだが、電磁投射砲の内部に納まるほどの小型化を行っても36mm弾の使用ゆえの射程の不利を補うほどの出力を与えていた。

 整備が一段落し、ネージュと二人で体を伸ばしていると二人に水の入ったボトルが投げ込まれた。

「おつかれ。調子はどうだ?」

「ジェネレーターは問題なしだ。あとは冷却システムのチェックだな」

 様子を見に来た武に悠平は今も整備兵たちが作業をしている冷却システム部分を指し示した。

 銃で言えばフォアグリップにあたる部分に内蔵された冷却システムは、そのほとんどがある液体の性質に依存したものとなっている。その液体は、常に温度を常に一定に保とうとする性質を持っており、その強制力は非常に高いものであるという。しかし、その液体の本来の使用目的は別にあり、電磁投射砲に使用するために作られたものではなかった。

「人工、ODLだってっ?」

 武はこのタイミングで聞くとは思っていなかった名称に目を丸くしていた。

 ODL。それは00ユニットの量子電導脳を保護し、冷却材としても使用されたBETA由来の技術。量子電導脳の稼働率や時間経過によって劣化するため、そのたびに交換・浄化が必要になるものだった。しかし、00ユニットが稼動していた当時、浄化や交換のためにはハイヴの反応炉に接続せねばならず、これによってBETAへ情報が漏れるという致命的な問題が発覚したことで甲1号目標――オリジナルハイヴの攻略を敢行しなければならなくなったのだ。

 夕呼は第二、第三の00ユニットが必要になる可能性を考え、その結果生み出された代替物が、現在電磁投射砲に使用されている特殊な液体――人工ODLだった。00ユニットのために生み出したものが別の用途でも役に立つというあたりが、夕呼の天才たる所以の一つなのかもしれない。

「これがあの時にあったら、純夏は今もこの世界で生きていたのかな……」

「さあな……所詮それはこの時間に生きている俺たちには確認できないIfの可能性だ。どうしても確認したければ、今ある成果を持ったまま過去へ行くしかない」

「因果導体じゃなくなった俺には、無理な話かぁ。なら、今を精一杯足掻くしかないな」

「……だな」

 武の声には過去を想う悲しみが含まれていたが、同時に今を受け入れ、生きる覚悟も秘められていた。今の武は霞のためにこの世界にいるのだ。しかし叶うことならば、こんな世界でも純夏と霞の二人共が武と共に幸せに生きられて武の仲間たちも生き残る、そんなご都合主義(ハッピーエンド)を悠平は願わずにはいられなかった。

 

 

 2003年4月10日、甲20号攻略作戦――錬鉄作戦(オペレーション・スレッジハンマー)が開始された。

 鉄原ハイヴ周辺に展開していた無数のBETAめがけてAL(対レーザー)砲弾の雨が降り注ぐが、それらはほとんどがレーザー属種によって打ち抜かれ、蒸発してしまう。しかし、それによって発生する重金属雲が以降のレーザーの脅威度を大きく引き下げる。

 そして次にやってきたのは、通常弾の雨だった。降り注ぐ砲弾の雨をレーザーが貫くことはなく、大地は爆ぜ、BETAを食い破り、屍を蹂躙する。それは海に展開した艦隊からの支援砲撃がなせる圧倒的な嵐だった。内陸では艦隊からの支援が届かないため、こうはいかない。

 しかし、それでもまだ無数のBETAが大地を埋め尽くさんとしてくる。最初に展開していたBETA群は大幅に数を減じてはいたが、後から後から湧いてくるのだ。

 再びBETAが展開するのを阻止するため何機もの海神が海岸線に上陸し、確保した上陸地点へ戦術機母艦から発進した部隊が次々に上陸、戦線を構築して押し上げてゆく。

 BETAの勢いは戦闘が始まってまだ間もないこともあって衰える様子は見られない。しかし、それは展開された戦術機も同じだった。否、同じではない。これまでのどの作戦よりも機敏に動き、BETAを圧倒していた。今回、帝国軍と国連軍の参加部隊は全機にXM3が搭載されているのだ。衛士の戦死者をこれまでの半数にまで減じる、奇跡のOS。それはたった一人の訓練生だった男が世界にもたらした希望の一つだった。

 そして今、その希望をもたらした男もまたこの戦場を仲間たちと共に駆けていた。

 

 

 作戦がハイヴの(ゲート)を突入口として確保する段階へ移行した時、確保の増援ために移動していた帝国軍の小隊が連隊規模のBETAによる地中侵攻に遭遇し、奮戦を行っていた。

「クソッ、新しいOSじゃなかったら出てきた瞬間にやられていた!?」

 帝国軍衛士が動き回りながら突撃砲を連射する。彼の乗る撃震は旧OSの頃と比べて遥かに思い通りに動くようになった。しかし、撃震は改修が施されているとはいえ第一世代機でしかなく、その動きは徐々にBETAの物量についていけなくなっていく。

「隊長!ここは一度後退しましょう!このままでは持ちませんっ!」

 他の衛士たちが隊長に進言する。しかし、隊長は後退命令を出すわけには行かなかった。

 現在、地中侵攻してきたこのBETA群はこの小隊を狙っているように見えた。その小隊が後退してしまえば、このBETA群を引き連れて一緒に移動してしまうのだ。ならば取れる手段は一つ。ここでこのBETA群を釘付けにして援軍が来てくれるまで耐えるしかないのだ。

 しかし、わずか一個小隊では全滅するのも時間の問題。これだけの数のBETAを相手にするのに兵站もかなりの勢いで消費していっている。XM3がなければ地中侵攻を回避できていたとしても、とっくに全滅していただろう。

 どれだけ時間がたったのか、それともまだ数分もたっていないのか判断がつかなくなりつつあった頃、ついに限界が訪れた。

「うわぁぁっ!?」

 仲間の悲鳴にとっさに状況を確認する。

 どうやら撃墜されたわけではないらしいことにわずかばかりの安心を覚えたが、右膝から下の部分が破壊されていた。これではまともに動くこともできないだろう。

「お前は後退しろ!ここは俺たちだけで持たせる!」

「で、ですが、この数を三機だけでは……っ!?」

「ここでむざむざ死なせるわけにはいかん!今は一人でも多くの衛士が生き残らねばならんのだっ!」

 もはや人類に長期戦を行えるほどの余裕はほとんどない。ならば、一人でも多くの衛士が生き残ることが重要なのだ。無論、隊長もここで死ぬつもりはない。たった三機であってももう少し位は持つだろう。

「HQ!増援部隊はどうなっている!?」

 隊長がわずかに焦りを見せながらHQに尋ねた。

「現在、国連軍の一個小隊と帝国軍の一個中隊がそちらに向け移動中です!国連軍のほうはまもなく到着します!もう少しだけ持ちこたえてください!」

 帝国軍衛士は唇をかんだ。国連軍が、それもわずか一個小隊で援軍に来る。時間稼ぎくらいにはなるだろうが、状況の打開にはまず戦力が足りないだろう。この帝国軍衛士は国連軍があまり好きではなかった。凄乃皇という強大な力を持つ兵器が佐渡島ハイヴのモニュメントを吹き飛ばした時は取り戻せるかもしれないと思った自らの故郷が、最終的には消し飛んでしまった。なんらかのトラブルがあったのだろうが、それでも故郷を消し飛ばしてしまった国連軍を許すことができずにいたのだ。

 そんな思考に沈みかけていた帝国軍衛士は隊長の声によって現実に引き戻された。

「避けろっ!03……っ!!」

 気がつくと目の前には要塞級の太く鋭い脚が迫っていた。もはや回避は不能――

 

 閃光が煌めいた瞬間、目の前に迫っていた要塞級の脚が吹き飛んだ。

 

 帝国軍衛士は半ば呆然としていた。通常、破壊することは非常に困難なほどの硬度を持つ要塞級の脚が目の前で吹き飛んだのだ。それだけではない。周囲を確認すると、小隊を取り囲もうとしていたBETA群の一角が一筋の閃光によってあっという間に弾け飛んでいったのだ。

「うわぁぁああっ!?た、助けてくれぇええっ!!」

 悲鳴を聞いて慌てて仲間を確認すると、片足を失った機体に複数の戦車級が取り付いていた。

「チィ……ッ」

 とっさに短刀で戦車級を払おうとするも、バランサーがイカれているのかホバリングしている仲間の機体がフラフラと揺れて狙いが定められないでいた。

「……そこの機体、どいてください」

 突然女の子と思われる声で名指しの通信が入ると、見慣れない機体が目を奪われるような動きで長刀を仲間の撃震にむかって振りぬいていた。帝国軍衛士には一瞬、仲間の撃震が戦車級ごと切り裂かれた光景を見た気がしたが、切り裂かれたのは機体に取り付いていた戦車級だけ。あれだけ不安定な状態である撃震に取り付いていた戦車級だけを切り伏せて見せた謎の機体は止まる気配を見せず、そのまま周囲のBETAを切り伏せにいった。その様子は幼い頃に見た斯衛の剣舞を髣髴とさせた。

「こちらは国連軍横浜機関所属実験開発部隊、エインヘリアル小隊隊長の白銀武中尉です!これよりそちらの隊を援護します!我々がこのBETA群の相手をしている間に接近中の帝国軍中隊と合流してください!」

 謎の機体の部隊を率いる隊長からオープンで呼びかけられた。どうやら若い男のようだ。戦域情報を見てみると、どうやら五機編成の小隊らしい。

(実験開発部隊なんて後方の甘ちゃんじゃないか!?そんなやつらがたった一個小隊で、こいつらを……!?)

 こうしている間にも見たこともないような戦闘機動で駆け回り、ものすごい勢いでBETAを駆逐するエインヘリアル小隊。その勢いはこのまま自分たちが後退しなかったとしてもそのまま片をつけられるのではないかとすら思えるほどだった。

「そうか、あなたが……わかりました。ここは白銀中尉に任せます」

 隊長がひどく感心したような声で相手の隊長へ戦場を預けた。片足を失った撃震を守りながら後退を開始した隊長に続いて後退を開始する中、帝国軍衛士はなぜ隊長がこうも簡単に後退を決めたのかを疑問に思っていた。

「……隊長、なぜあの部隊に任せて後退したんですか?見たことのない機体でしたが、たった一個小隊では……」

 同じ疑問を覚えていたらしい、隊長と共に破損機を守っていたもう一人の仲間が尋ねた。

「名前で気づかなかったか?あの男はXM3の発案者だ。新OSのトライアル中に起きたBETAの襲撃時にも、単機で武装もなしに大量のBETAを足止めして実弾を装備した部隊の到着まで時間を稼いでみせたという逸話を持っている」

 帝国軍衛士はそこまで聞いてようやく思い出した。XM3を生み出した者の一人であり、何がしかを知るらしい一部の者からは英雄とまで称えられている男。それがあの白銀武なのだと。

 

 

 ユウヤは戦闘を行いながら己の機体に装備された電磁投射砲のことを考えていた。初めて見た時は気がつかなかったが、渡された資料を見てこの電磁投射砲は弐型改用に作られていたのを知ったのだ。

 通常、可動兵装担架は背中の二箇所だけだが、弐型改はYF-23ブラックウィドウⅡと同じく両肩に二箇所ずつ追加されており、最大六箇所まで同時使用ができる。この電磁投射砲は背部にマウントし、発射時の衝撃に耐えるために兵装担架の接続部を二箇所使用しているのだ。つまり、右肩の兵装担架システムを二箇所とも使用して支えているのだ。そんな状態で従来どおりの動きを行えるのは新型関節を実装されたこの弐型改だけだろう。弐型フェイズ3であっても、従来どおりの関節を使用している限り、この電磁投射砲を扱うことはできないのだ。

(なるほどな……これは確かにこいつじゃないと試射できないな)

 空になった電磁投射砲のマガジンを交換しながら、ユウヤは弐型と弐型改の比較について考える。新型関節を実装したことにより、XM3による高次元高負荷の機動を無理なく行えるようになった弐型改。この電磁投射砲をまともに運用できるというだけでも通常の弐型よりもはるかにアドバンテージがあるだろう。ならば、

(あとは俺たちの技量次第、ってことだよなぁ!)

 ユウヤは獰猛な笑みを浮かべ、次の獲物へとトリガーを引いた。

 




というわけで弐型改の利点とかご都合主義的に用意してみました。
書いてから気づいたけど、イメージ的にはランチャーストライクみたい。左肩にも載っければ二門同時発射とか、ロマンですねぇ……背中にも兵装担架つければ重装型不知火・弐型フェイズ2.5改かなぁ。

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