この手を伸ばせば   作:まるね子

20 / 49
本能に任せた結果がひどすぎたのですこし考えながら書きました。
でもやっぱりあっさり戦闘。


第十九話「いつかまた戦場で」

 国連軍の遊撃部隊が光線属種による奇襲で瓦解しそうになっていた戦線を光線級吶喊で立て直したり、地中侵攻で壊滅しかけた部隊を助けてそのままBETA群を壊滅させたりしているらしい。

 仲間たちから情報が伝わってくる。誰もお喋りを咎めないのは、戦意高揚の目的もあるからだろう。実際にその部隊に助けられた者たちから様々な情報が入ってくる。

 いわく、五機編成の一個小隊である。

 いわく、隊長は年若い男である。

 いわく、どこか不知火に似ているが見たこともない機体である。

 いわく、全機とも筆舌に尽くしがたい戦闘機動と技量である。

 それを聞いた茜は、その中にいるであろうかつての戦友を想い、思わず笑みを浮かべた。

(元気にやってるみたいね、白銀)

 かつて水月がいた突撃前衛(ストームバンガード)を望み、しかし届かず、その位置にいた武。その戦闘機動は常識を覆し、茜に嫉妬と羨望を抱かせた。そして、茜が負傷で参加することができなかった最後の作戦で唯一生き残ったヴァルキリーズ。茜は武が最後の作戦で戦死した彼女たちのことをすべて背負い、いつか潰れてしまうのではないかと心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。

 すでに地上での戦闘はほぼ終息し、BETAの地中侵攻もすでに打ち止めという段階まで来ていた。まだ油断はできないが、戦闘の中心はハイヴ内へと移り始めている。反応炉破壊後の残存BETAの移動に備え一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)でBETAの数をじわじわと減らしているのだ。そして、もうすぐ反応炉破壊のために複数の部隊による突入作戦が行われる。どうやら武の部隊もその作戦に参加するらしい。

 突入準備を進めていると、武の部隊に関する情報が入ってきた。どうやら武の部隊名はエインヘリアルというらしい。ヴァルキリーズとかけているのだろう。そしてどうやらその部隊が噂の新型関節を実装した不知火・弐型を運用しているらしい。月虹との比較試験を行っている不知火・弐型に乗っている茜にとって、もう一つのライバルというわけだ。

(新型関節がどれほどのものかはしらないけど、今度は負けないんだからね……!)

 目指すは最速での反応炉破壊。そしてこれが成し遂げられれば、人類は初めてまともな戦闘で大地を取り戻すことができるのだ。

 

 

 ハイヴ内を恐ろしい勢いで悠平たちは進撃していた。地面に、壁に、天井に多くのBETAが確認できるが、それらは彼らの快進撃を阻害できるものではなかった。

「これが本物のハイヴの中か……さすがにすさまじいもんだな」

「まだまだこんなもんじゃないさ。偽装横坑や偽装縦坑、果ては母艦級まで出てくるんだからな」

 ユウヤの感想に武が反応をかえし、注意を促した。その瞬間を狙っていたかのようにセンサーが反応を捉えた。早速お出ましのようだ。

 偽装横坑からBETAがあふれ出してくる。しかし、シミュレーターよりも()()()。BETAが無制限に現れる設定が施されたハイヴ攻略シミュレーターでは偽装横坑からあふれたBETAがまるで津波のように重なり合って押し寄せてくることもあるのだ。それに慣れた悠平たちの対処は驚くほど素早く、的確なものだった。

 あふれたBETA群が地上を目指そうとするのを確認した悠平たちは少し手前にあった横道を目指してBETA群に先行し、一番後ろにいたネージュは横道に入りながら迫り来るBETA群へ起動状態のS-11を投擲した。

 起爆したS-11の爆風は悠平たちが隠れた横道へほとんど流れてくることなく、偽装横坑からあふれたBETA群の大部分を吹き飛ばしていた。

「ナイスだったぞ、ネージュ」

 悠平が褒めると、ネージュは無言で親指を立ててかえした。相変わらず表情は薄いのだが、一年前とは比べ物にならないくらい表現が豊かになったようだ。

 移動を再開し、しばらくすると時折爆発音や振動を感知するようになっていった。どうやらそう離れていない場所で戦闘が行われているようだ。戦域情報を確認するとかなり大規模なBETA群に遭遇したようだが、すでに状況を脱しつつあるようだ。悠平たちに負けず劣らず錬度の高い部隊らしい。部隊コードを確認してみると、富士教導団と第31戦術機甲部隊のものだということがわかった。

「なぁ、これって涼宮茜たちがいる部隊じゃないか?」

「涼宮が?……なるほどな。どおりで錬度が高いわけだ」

 悠平の言葉に武が嬉しそうに返す。茜がいるということは祷子や美冴もいるだろう。そして第31戦術機甲部隊といえば伊隅あきらがいる部隊だったはずだ。

「ここからならそう遠くないみたいだが……どうする、合流するか?」

 悠平が尋ねると武は逡巡した。きっと本心では合流したいのだろう。しかし、合流することによって一度に壊滅するリスクが上昇する危険もある。反応炉はだいぶ近づいているとはいえ、リスクが少ないに越したことはないのだ。

「……いや、このまま行く。あいつらが近くまで来ているのなら、最低でもどちらかは囮として機能するはずだ。そうなったら反応炉まで到達しやすくなる」

 武の決定に悠平たちは頷き、奥へと進撃を続けた。

 

 

 数度の奇襲を潜り抜け、大広間の一つ手前の広間へ到達したイーニァたちはそこに広がる惨状と戦域情報のマーカーからすでに反応炉へ向かった部隊がいることに気がついた。

「BETAあんまりいないね、ユウヤ」

「確かにな……少し前に感知したS-11の爆発はどうやらこれみたいだな」

「あぁ。でも、油断するなよ。こういうときこそBETAは何かをしでかすんだ」

 武はそう言うとわずかに逡巡した。大広間では戦闘が継続しており、S-11の設置作業を行っているのだろう。それを手伝いに行くか迷っているのだ。

「大広間にあまり数を集めすぎるのもまずいか……全機、全周警戒!反応炉に向かったやつらをここで援護するぞ!」

 ここでBETAの奇襲が発生すると大広間にいる者たちは窮地に立たされるだろう。それを避けるために武はこの場に留まることを選んだのだ。

 イーニァは反応炉にいるらしい者たちの様子を()た。その心には絶望はなく、わずかな焦燥と高揚が広がっていた。BETAに苦戦しているようだが、状況は悪くないらしい。

 そこでふと、イーニァは妙なことに気がついた。大広間にある巨大で薄ぼんやりしたなにか――おそらく反応炉だろう。BETAにも思考があるということはすでに証明されており、反応炉もまたBETAの一種であることもわかっている。しかし、

(同じものが、もうひとつある……?)

 そう、反応炉と思われる薄ぼんやりとしたものが、もう一つ。それも自分たちの()にあるのが感じられたのだ。

「……それは本当なのか、イーニァ」

「うん。それにこれ、動いてるみたい……こっちに近づいてる」

「……白銀中尉、気をつけろ」

「ユウヤさん……?」

 ユウヤの緊張した態度に武がやや怪訝そうに、しかし、油断のない表情で言葉の続きを促した。

「俺は動く反応炉らしきものに一つだけ心当たりがある……というか、それしか可能性が思い浮かばない」

「……まさかっ!?」

 ユウヤの言う可能性、それに気づいた悠平が声を上げた。そして、イーニァもまた、その心当たりに辿り着いていた。

 センサーがそれの移動する振動を感知する。振動は徐々に大きくなり、センサーはそれが近づいてくることを示していた。広間の()が開き、それが姿を見せようとした瞬間、

 

 強烈な閃光が広間を照らし出していた。

 

「馬鹿な!?ハイヴ内でレーザー照射だとっ!?」

 ユウヤが驚愕し、必死に回避行動を取ろうとする。だが、レーザーを照射した()()の様子がおかしい。

 その姿はかつてエヴェンスクハイヴから姿を現し、ユウヤとイーニァを苦しめソ連軍に多大な被害をもたらした超重光線級だった。しかし、かつて猛威を振るった連続照射は通常の光線級の出力にすら届いておらず、ハイヴの壁を焦がすことさえない。また、その動きもデタラメでどこか弱々しいものだった。まるで、未完成の状態で無理に動かしているかのような不完全さ。それはおそらく正しいのだろう。だが、こんなやつを放置するわけにはいかない。

 イーニァはその超重光線級が暴走状態にあることをリーディングにより気づいた。不完全な状態で無理に動かしたせいで暴走したのか、暴走したから不完全な状態なのかはわからないが、これはチャンスだった。

「各機、やつの注意をユウヤさんから逸らせ!あのデカブツは電磁投射砲で片付ける!」

 このサイズでは36mmでは歯が立たず、120mmでも少々心もとない。それゆえの電磁投射砲だった。

 武が分厚い体皮を切り裂き、悠平がネージュと共に傷を抉り、イーニァが追撃を行う。そして、

「ふっとびやがれぇぇぇええええっ!!」

 ユウヤの咆哮が広間に轟いた。

 

 反応炉の破壊を成功させた茜たちはこの超重光線級が無残な姿を晒している姿を見て、思わず腰が引けてしまうのはこのわずか数分後のことだった。

 

 

 2003年4月12日。国連軍・帝国軍統合作戦司令部は反応炉を含む地下茎構造の完全制圧を宣言。人類は初めて奪われた大地を通常兵器だけで取り戻すことに成功した。

 茜はその宣言を耳にしながら広間に崩れ落ち、無残な姿を晒していた巨体を思い出していた。動いているところを見たことはなかったが、あれはおそらく桜花作戦が実施された際にソ連軍に多大な被害をもたらした超重光線級だろうと思っていた。

「あれってやっぱり、白銀の部隊がやったんだろうな……」

 茜はあんなものを倒せる部隊が他に参加しているとは思っていない。茜たちが大広間から脱出してきた際、周囲には()()の突撃砲が投棄されており、しかし破壊された戦術機は一機も見当たらなかった。超重光線級を倒したと思われる部隊はその時すでに後退を開始していており姿を見ておらず、S-11で反応炉を爆破する時にほんの一言声を聞いただけ。

 

「反応炉を爆破します!退避してください!」

「了解した!そっちも急げよ!」

 

 このたった一言、それだけだった。だが、あの声は間違いなく武のものだと茜は確信していた。

 茜は反応炉の破壊に成功したがまるで武に勝った気がせず、ハイヴを脱出してから完全制圧宣言が出されるまでの丸一日ずっと悶々としたものを抱えこんでいた。

「さっきからぼーっとしているがどうした、恋の悩みか?」

「あらあら、そうなの?お相手はどなたかしら?」

 いつの間にか傍には美冴と祷子が集まってきていた。美冴は茜をからかうつもりで声をかけたようだが、祷子はどこまで本気なのだろうか。

「違いますよ!ただライバルのことを考えてたんです!あ、信じてないでしょ!?本当に違うんですからねー!?」

 茜は怒ってます、というポーズをつけ、二人に答えた。その顔は怒りながらもどこか笑顔が垣間見えていた。

 武は茜にとって目標の一つであり、いつか乗り越えるべきライバルだ。その心に嘘はない。だが、同時に大切な戦友でもあるのだ。

 茜は気持ちを切り替えることにした。いつまでも考え込んでいても仕方がないのだ。

(白銀、今回は微妙な結果になっちゃったけど……今度は絶対に負けないんだからね!)

 茜の中では今回の性能比較の結果などもはや関係なく、すでに次の勝負が決まっているのだった。




TSFIA読んでないからかなりいろいろ省略&捏造しました。暴走BETAとか出してみたかったのです。……BETA奇行種?

さて、どこまで続けられるのか……本気でわからなくなってきた。
俺は一体どこを終着点にしているんだ……(汗

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。