この手を伸ばせば   作:まるね子

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UAの伸びっぷりがすさまじい……これが更新頻度の恩恵か……
でもそろそろヘタリそうかも。


第二十話「胎動」

「アンタ、面白いことやったみたいじゃない」

 大陸から戻ってきた悠平はいきなり夕呼から呼び出されたかと思うと、突然こんなことを言われたのだ。初めは何のことかわからなかったが、話を聞いていると超重光線級との戦闘のことを言っているのだと分かった。

 あの時、32mm弾ではほとんど効果が認められず120mm弾を集中的に使用していたのだが、装弾数の少ない120mm弾はあっという間に撃ちつくしてしまい、どうしようかと思ったのだ。

 そこで悠平は()()()()()にある投棄されていた突撃砲のうち、120mm弾の残弾が残っているものをアポーツで弐型改の手元に取り寄せ、使用していったのだ。それが茜たちが見た大量に投棄された突撃砲の正体だった。

 これまで、アポーツは悠平の手元に取り寄せるというものだった。それが今回は乗っている()()()の手元に取り寄せたのだ。

「おそらくだけど、自分の手元に取り寄せるという条件を拡大解釈して、乗っている戦術機の手元に取り寄せたんでしょうね。アンタの解釈次第では自分の手元だけじゃなく、まったく別の場所へ転移させることもできるかもしれないわ」

 夕呼がいつもよりも生き生きして見えるのは気のせいではないだろう。

「えぇと……また実験、ですか?」

「何よ、嫌そうね……まぁいいわ。今回は他にやることもあるし、勘弁してあげる」

 悠平は安心すると同時に怪訝に思った。あの夕呼が他にやることがあるという理由で実験を免除したのだ。気になるのも無理はないだろう。

 夕呼はそれを知ってか知らずか、現在やっていることを話し始めた。

「アタシは今、アンタがやった量子融合を因果律量子論を基に作った転移装置を応用して同じようなことができないかと思って研究してるのよ」

 転移装置。それはかつて因果導体だった武を元の世界に送り出し、00ユニットの完成に必要だった数式を回収するためのものだった。

 悠平の能力による量子化と再構成、因果律量子論による確率の霧の状態と存在の確定。確かにこの二つは似ている。すぐに思いつく違いといえば、因果律量子論の場合は観測者の有無によって存在が確定するか否かが変わるということだろう。

 それを考えると、たしかに転移装置を応用すれば似たようなことができる気がしてくる。

「まぁ……仮にできるということが分かったとしても、実用化はまだまだ先でしょうけどね」

 転移装置そのものを見たことがあるわけでもないため悠平にはわからないが、どうやら課題は多いようだ。

「あ、そうそう。鉄原ハイヴから入手したグレイ・イレブンが一週間以内に届くそうだから、届いたら早速ミカナギ型の製造を開始してちょうだい」

 夕呼の話によると、鉄原ハイヴには想定以上のグレイ・イレブンが存在していたという。あの暴走でもしていたかのような超重光線級と何か関係があるのかは不明だが、これだけあれば複数の抗重力機関を用意することもできるだろう。

(――ちょっと待てよ。これは……もしかして、すごい凄乃皇が作れるんじゃないか?)

 悠平は頭の中で凄乃皇の完成形の姿がおぼろげながら見え始めていた。

 

 夕呼は執務室から出る時に見えた悠平の横顔が、自分が何かを思いついたときと同じ顔をしていた事に気づいた。

(何か面白いことでも思いついたみたいね。これはいっそ凄乃皇の開発を任せてみるのも面白いかしら?)

 夕呼はそんなことを考えるくらいには機嫌が良かった。

 電磁投射砲の実用試験は大成功に終わり、弐型と弐型改の比較試験も上場の結果。元々弐型採用の声が強かったところに月虹が割り込みをかけ、今回の評価試験で月虹に軍配があがりかけていたが電磁投射砲との兼ね合いを考えて弐型改の正式採用の機運が高まっている。

 今回の実戦で新型関節の有用性も完全に証明できたため、これを横浜機関の成果の一つとして各国へ技術提供することとなり、その見返りで追加の開発予算を得ることもできた。

 電磁投射砲の技術提供も求められたが、こちらは丁重にお断りした。まだたった一度しか実戦に投入していないためデータが足りないこともあるが、成果は小出しにするのが長く続けるコツでもあるのだ。

 ここまでの首尾は上々といえるだろう。だが、本命が動きをみせていないことには注意が必要だ。

(でも、凄乃皇が完成すれば、そろそろ尻尾くらいはつかめるかしら?)

 夕呼は武たちに横浜機関が設立された()()()()の理由を明かすべき時をそろそろ決めようとしていた。

 

 

 90番格納庫ではオルタネイティヴ4でロックウィード・マーディンから派遣されてきたものの、そのまま横浜に残ることを決めた技術者たちが作業を行っていた。

 わざわざ睡眠時間を削ってまで作業を進める技術者たちの顔は、オルタネイティヴ4で再びXG-70に触れられることが決まった時のように生き生きしていた。何故なら、今再びXG-70に触れることができるのだ。しかも今回はオルタネイティヴ4の時のように時間に追われて不完全な調整で送り出さなければならない、なんてことはないのだ。今度こそ本当の意味でXG-70を完成させることができる高揚感で疲れが吹き飛んでいるのだ。

 彼らは悠平が用意した新型の抗重力機関にあわせて、弐型と四型の予備パーツと新造パーツで伍型を作り出そうとしていた。

「あ、あのー!そんなに急いで作業しなくてもいいですよー!今回は特に期限なんてないんですからー!」

 作業音で聞こえにくいため、作業を見守っていた悠平は大声で技師たちに声をかけた。

「期限がなくても、俺たちが早くコイツの動いてるところを見たいんだ!気にしないでくれ!」

 技師たちのリーダーをしている男が悠平に応えた。周りを見ると全ての技師が同意し、とてもいい笑顔でそれぞれやる気をアピールしていた。

「それにモノが完成しても、稼動テストやら試射やらでまだまだ調整に時間がかかるんだ!あんまり時間をかけてちゃこの老いぼれが先にくたばっちまうよ!」

 ガハハハと豪快に笑いながら、リーダーは作業を続けていく。

「今回のは最初からレールガンも搭載できますからね!超重光線級なんて化け物のせいで単機でハイヴを落とすのは無理でも、確実に人類の希望になりますよ!」

 別の技師がとても嬉しそうに言葉を送ってくれる。聞いた話では、明星作戦の際に息子が日本人の婚約者をG弾の爆発で亡くしたという。自身も実の娘のように思っていただけあってG弾を人類の希望とはみなしていないのだ。

「このミカナギ型の起動試験のデータは拝見させていただきました!これならきっとこっちに来れなかったお父さんも喜んでくれます!」

 そう言いながら感極まったように悠平に抱きついた女性は父親がムアコック・レヒテ型の開発に関わっていたらしく、その技術がG弾に転用されてしまったことをとても悔やんでいたという。しかし、悠平は今はそのことよりもネージュの無言の威圧感に冷や汗を流し、抱きついている彼女に早く離れてほしいと心の中で願っていた。

 今日も作業は続いていく。全ては凄乃皇の完成のために。

 

 

 ユウヤは武、イーニァの三人で今日もシミュレーター訓練に明け暮れていた。悠平とネージュが凄乃皇のほうにかかりきりになってしまったため、五人全員がそろうことが少なくなっていたのだ。

「なあ、凄乃皇ってのはそんなにすごいモンなのか?」

 訓練が終了し、シミュレータールームの壁にもたれて休憩していたユウヤが尋ねた。噂ですごいということは聞いてはいたが、どうすごいのかがいまいち分からなかったのだ。

「そうだなぁ……霞、映像出せるか?」

「はい。私の権限なら、データベースの記録映像にアクセスできます」

 そう言ってシミュレーターの操作をしていた霞は準備を始めた。見たほうが早いということらしい。

 やがて画面に映し出されたのは、甲21号攻略作戦――佐渡島ハイヴの光景だった。超遠距離からの望遠で撮影されたらしく、映像は補正が入っているにもかかわらず少し荒く、船から撮影したらしく波の音がわずかに聞こえてくるだけだった。

 そんな映像の中、異様な威圧感を放つ構造物が平らにならされた大地に屹立していた。それは鉄原で見たものと同じ、ハイヴのモニュメントだった。BETAにその地を奪われた烙印である。その周辺、映像のいたるところで人類とBETAが戦闘を繰り広げていた。

 少し経って霞が画面右下あたりを指差した。そこには小さく、しかし戦術機よりも遥かに大きい何かがいた。

「これが、凄乃皇なのか?」

「ああ。そして……ここからだ」

 ユウヤの問いに武が頷いた。そう、ここから始まるのだ。

 凄乃皇が渓谷状の地形が残っている場所を進んでいると、遠く離れた場所から数本の光の筋が凄乃皇に向かって煌いた。光線属種だ。ユウヤは一瞬ダメかと思ったが、良く見ると凄乃皇は平然と前進を続けていく。そして再び、幾本ものレーザーが凄乃皇へむかって煌いた。

「なっ……レーザーが、曲がっただと!?」

 強大な重力偏重によるフィールド――ラザフォード場によってレーザーが捻じ曲げられたのだ。武はユウヤの驚いた顔に、ここからが本番だと言って画面に注視した。

 

 凄乃皇から光の槍が放たれ、激しい閃光と爆風によってハイヴのモニュメントが無数のBETAごと吹き飛んだ。

 

「…………」

「すっごーい!」

 イーニァははしゃぐが、あまりの光景にユウヤはすっかり映像に魅入られていた。G弾のような深刻な重力異常を引き起こすことなく、これほどの威力を発揮する兵器が存在するのだからそれも仕方ないことだろう。

 しかし、同時になぜあれほどの兵器が今は存在していないのかと疑問を感じた。あの兵器ならばそれこそハイヴを単機で制圧することも当時は可能だったろう。

「制御システムにトラブルがあってな……結局回収することもできなくて、自爆させる羽目になったんだ」

 理由を口にした武は少しつらそうに顔を歪めていた。自爆で知り合いを亡くしたのだろうとユウヤは踏んでいた。

 佐渡島の自爆で弐型を、桜花作戦で四型を失ったこと。貴重なグレイ・イレブンを燃料として消費するため、量産化が困難なこと、ラザフォード場の制御が困難であることを聞いてユウヤは横浜機関の設立目的達成が非常に困難であることに思い至った。

「……でもよ、ユウヘイは今その凄乃皇にかかりきりなんだろ?ってことは完成が近いのか?」

「俺も詳しいことは教えてもらえてないんだけど、大きく進展してるのは間違いないだろうな」

 ユウヤはその凄乃皇の姿に人類の希望を見ていた。アメリカで欠陥品の烙印を押され、日本でその完成を見る凄乃皇もまた日米の合いの子。自分と不知火・弐型と同じなのかもしれない。

(世界を()()()救うには複数の国が力を合わせないとダメ、ってことなのかもな……)

 それを考えると、アメリカのG弾の運用を前提としたハイヴ攻略は独りよがりなものでしかなく、やはり間違っているのかもしれないとユウヤは思うのだった。

 




ちょっとずつ進んでいる……ように見えて実は結構な速度で話が進んでます。
一日のストーリーの文量多いですからね、原作オルタは。台詞も多いですし。
この二次創作がさくさく読めるーって思ってる方はそれも原因かもしれません。

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