この手を伸ばせば   作:まるね子

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伍型の武装がフルスペックの四型より貧弱じゃね?と言われたので用意していた設定を反映させながら書いてみました。
オリジナル兵器の紹介ページとか作ったほうがいいのかなー……絵つきで。挿絵とかやりかた全然わからないし、やってる人も見たこともありませんが。


第二十二話「凄乃皇の剣」

 東シベリアにある仮設前線基地に到着した武たちは、以前とは打って変わって歓迎された。

 元々一年前の実戦試験が終了して帰還する段階ですでに光線級吶喊の件もあって現場の衛士たちとはかなり打ち解けていたのだが、これほど歓迎されるとは思っておらず武は目を白黒させていた。

「お前たちか……ここはよく来た、とでも言っておくべきか?」

 困惑していた武の前に現れたのは一年前も東シベリア奪還作戦の指揮をしていたソ連軍将校だった。

 お決まりの挨拶を交わして作戦の概要を話し合った後、武はソ連軍将校の頼みで凄乃皇・伍型を見に来ていた。

「これが、XG-70か……まさか我が国がこんなものに頼ることになるとはな」

 凄乃皇・伍型を見上げながらソ連軍将校は、つぶやいた。米国生まれの機体に思うところがあるようだ。しかし、彼は軍人だった。

「これに頼ることで我が軍の者が一人でも多く血を流さずに済むのなら、歓迎しない理由はない……それがあの国でないのならなおさらな」

 そう言って去っていくソ連軍将校は、一年前に初めて出会ったときよりも幾分か態度が柔らかく感じていた。

 

 

 球状の密室に重く静かに駆動音が響く。全球スクリーンに映し出される映像はゆれることなく、滑らかに後方へ流れていく。

 霞は武と共に凄乃皇・伍型のコックピットにいた。霞の役割は機体後方、および側面の兵装管理と管制補佐だ。そのための訓練も行ってきており、以前から続けてきた体力づくりの成果もでている。最近は訓練と言う名目で武の戦術機に複座で相乗りさせてもらうこともあるため、ちょっとやそっとでは動じなくなりつつあった。もはやかつてのような体力のない娘ではなく、ちょっとだけ体力が低めな娘にまで成長したのだ。

 しかし、胸は相変わらずあまり成長しておらず、最近ますますネージュやイーニァに引き離されている気がしていた。

(いけません、今は作戦中です。作戦に集中しないと)

 霞は己の網膜に映し出された情報に意識を集中した。

 凄乃皇・伍型の周囲には悠平たちが両サイドに展開しており、ソ連軍もすでに各持ち場に展開を終えている。

 前方ではハイヴのモニュメントがその巨大で異様な姿を見せつけ、その周囲には無数のBETAが蠢いている。そろそろ山間部を抜けてハイヴの正面に出るため、光線級の障害になるような遮蔽物がなくなるだろう。

 空を見上げれば国連宇宙総軍による衛星軌道からのAL弾のシャワーが降ってくる。しかし、それらはレーザーによって綺麗に打ち落とされてしまう。相変わらず恐ろしい精度だ。

「多目的VLSをAL弾頭へ……ソ連軍の支援砲撃部隊と、タイミングを合わせて発射します」

 凄乃皇と支援砲撃部隊によるAL弾頭の飽和攻撃が行われ、とてつもない数のミサイルや砲弾がBETAへと迫り――そして、再び大半がレーザーによって蒸発していく。

「重金属雲の発生を確認。作戦をフェイズ2へ移行してください」

 回線からピアティフの声が荷電粒子砲による攻撃開始を指示していた。いよいよ凄乃皇・伍型の本番が始まる。

「射線上に友軍はいません……荷電粒子砲、いつでもいけます」

「了解!まずは一発……派手に行くぞっ!」

 山間部から姿を見せた凄乃皇へ光線属種からのレーザーが襲い掛かる――が、重金属雲によって減衰したレーザー程度ではラザフォード場はものともしない。

 凄乃皇は照射されるレーザーをことごとく無視し、極太の可視光線と共に膨大な量の運動エネルギーと高出力の電磁波が放たれた。

 荷電粒子砲の膨大な熱量と衝撃によって効果範囲にいたBETAは千切れ飛び、砕け散り、蒸発し、跡形もなく消し去ってゆく。また、荷電粒子砲が()()したモニュメントは粉々に吹き飛び、その巨大な破片は周囲にいたBETAを次々に押しつぶしていく。

「――ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 オープン回線からはソ連軍の兵たちの熱狂的な歓声が響き、その光景に希望を見出している。それは佐渡島ハイヴで初めて荷電粒子砲がその威力を見せたときの帝国軍と重なるものがある。彼らもまた、自国にハイヴを抱え苦しんでいる者たちなのだ。その喜びはひとしおだろう。

「……やっぱ、何度見てもすげぇよ、この光景は」

 武が心を奮わせながらつぶやいたことを霞は感じた。霞とて平静を装ってはいるが、あれだけの威力を前にして心を奮わせているのだ。部隊内回線に耳を傾けてみるとイーニァが無邪気にはしゃいでる声が聞こえてきた。

 土煙が晴れてくると、荷電粒子砲によって凄乃皇とハイヴの間に巨大な道ができていた。しかし、BETAもすでに動き出している。どうやら先ほどの攻撃で地上の光線属種はそのほとんどが巻き添えをくらったらしく、凄乃皇へのレーザー照射はまばらになっていた。

「レーザー照射による主機への負担は軽微。BETAの先頭集団との接触まで264秒。荷電粒子砲の再発射可能まで172秒です」

「ならもう一発いけそうだな」

 戦域情報を見るとBETA群はややバラけつつあり、凄乃皇に誘引されている様子はない。弐型のときはBETAが凄乃皇に集中し、そのせいで自爆せざるをえなくなったのだが今回はそれがない。サハリン沿岸での試射テストの際はBETAがあっという間に片付いてしまったこともあって誘引現象の有無を確認できなかったのだ。

(弐型が自爆した時と伍型の違いといえば……やっぱり新型の主機ですよね)

 試製99型電磁投射砲に夕呼が提供したブラックボックスにもBETAが誘引されたという情報がある。これは横浜に戻ったら確認してみる必要があるだろう。

 そんなことを考えていると、いつの間にか荷電粒子砲の再発射が可能になろうとしていた。

「再発射可能まで20秒。射線上、効果範囲に友軍は認められず」

「了解だ!充填が完了したら発射する!各機、注意してくれ!」

 そして20秒はあっという間に過ぎ、再び荷電粒子砲の圧倒的な威力が吐き出された。

 

 

 二門の突撃砲が火を噴き、長刀が優雅に斬り裂いてゆく。

 すでに幾多のBETAの湧出を乗り越え、悠平とネージュはなおも戦場を舞い、BETAの骸を積み上げてゆく。鮮烈にして優美、幽玄にして苛烈。二人の舞は見る者を惹き込み、近づく者を肉塊へと変えてゆく。

 ソ連軍のハイヴ突入部隊が突入を開始してすでに2時間が経過するも、ハイヴ内に突入した部隊の大半は未だ健在。BETAの奇襲による被害も少なく、内部との通信も維持が続いている。最新の情報によればそろそろ最下層へ到達するようだ。

「となると、そろそろ最後の足掻きが来るかな……?」

 悠平は一人つぶやく。しかし、それに反応を示すものがここにはいた。

「…はい。もうすぐ地中侵攻の反応が来ます。場所は二箇所。一箇所は母艦級みたいです」

 抑揚のない声でネージュは未来を口にする。未だに明確な使用条件は不明だが、悠平の傍にいることに加え戦場にいることでさらにその頻度が上昇する傾向にあるらしい。

 十数秒が経ち、ネージュの予言どおりに地中侵攻の反応をセンサーが捉える。

「武、どうやら地中侵攻は二箇所同時らしい。しかも片方は母艦級だ」

「了解!なら俺たちはそっちを食らいに行くぞ!」

 凄乃皇は母艦級が現れようとしている地点へ悠然と進み、悠平たちはそれに付き従う。その姿はまさに威風堂々。戦場における絶対者の風格を放ちながら、凄乃皇は目的の場所へと向かった。

 現場に到着すると、現れた母艦級を相手にしていた大隊は勇戦しているも補給をする余裕がなかったのか、半数の機体がモーターブレードで戦闘を続けていた。それに対しBETAの数はおよそ九千。このままでは合流したとしてもじきに戦闘力を失うだろう。

「こちらエインヘリアル01!ここは俺たちに任せて補給を!」

「こちらスローン01!……スマン!ここは任せる!」

 大隊の隊長が凄乃皇の姿を確認するとすぐにこちらへと戦場を預けてくれる。

 これでこの戦場はエインヘリアル小隊の独壇場となったわけだ、が――

「……あとどれくらいやれそうだ?」

「せいぜい200も狩れればいいってとこだな」

「んー、同じくらいかなぁ……」

「……長刀の耐久度と残弾から、あと300くらいでしょうか」

「みんな似たり寄ったり、か」

 これは短刀の使用を含めた数だ。悠平がため息をつく。悠平たちも度重なる戦闘ですでに兵站が残り少なく、補給が必要な状態だったのだ。あの()が使えないかと試しに探ってみるが、残念ながら有効範囲には存在しないようだ。

「凄乃皇はまだ大丈夫だ。母艦級を片付けたらなるべくこっちで相手をするから、みんなはBETAの撹乱を頼む!」

 やはりそれが一番いいようだ。四型のように補給用コンテナを各部に配置できれば補給に苦労することはなかっただろうが、兵装や将来的に戦術機輸送用カーゴを増設するための構造で埋められているため四型ほどの余剰スペースはないのだ。

 凄乃皇が120mm電磁投射砲で全長1.8kmに及ぶ母艦級の巨体を()()()()、悠平たちは残弾を温存しながらBETAを潰しつつ、撹乱してゆく。

「チィッ、やっぱり硬い……っ!?」

 母艦級はその巨体ゆえに外皮も分厚く、ダメージが通りにくい。S-11でもあれば口の中に放り込んで爆発させれば片がつくが、ハイヴに突入する予定がなかったため準備がないのだ。フルスペックの四型には2700mm電磁投射砲が搭載される予定だったが、伍型はハイヴ突入に使用する想定で作られてはいないため搭載されていない。将来的に伍型に増設する予定の戦術機輸送用カーゴへ搭載する武装として検討したほうがよさそうだ。

 しかし、今は戦闘中。現状の兵装で母艦級の防御力を上回るには、やはりアレしかないだろう。

「射線が通る位置を探せ!母艦級は地上に出ている間はただの硬い的だ!」

 悠平が要塞級の衝角を回避しながらそう叫ぶと、霞は急いで荷電粒子砲で味方を巻き込まない位置を探し始めた。

「……っ!見つけました!タケルさん、荷電粒子砲をお願いします!」

「っ!了解っ!」

 凄乃皇が移動し、射線を確保する。荷電粒子砲発射体勢に移行したことを確認して、悠平たちは急いで射線から離れた。

「これでどうだぁっ!?」

 凄乃皇から放たれた荷電粒子砲が衝撃波を巻き起こし、一瞬で母艦級の巨体の大部分を周囲のBETA諸共消し飛ばしていく。大和級戦艦の主砲をもってしてもダメージを与えられないと言われる母艦級の外殻は、しかし、荷電粒子砲の圧倒的な破壊力には耐えられなかったのだ。

 やがて残存するBETAの殲滅が完了した時、凄乃皇を含む悠平たちの兵站はほぼ完全に底をついていた。まだまともに使えるのは荷電粒子砲くらいだろう。

 オープン回線からはエヴェンスクハイヴの反応炉の破壊に成功したというピアティフの喜ぶ声とソ連軍の歓声が漏れ聞こえていた。

「……どうにかやったか」

 体にたまった疲れを吐き出すようにため息をするとすぐに念のための補給を行う必要があることを思い出す。

 武の指示で補給コンテナの設置場所へ向かおうとするが、センサーがこの場にはいないはずの存在をキャッチした。




武装が施された戦術機輸送用カーゴが増設されれば凄乃皇の戦闘力も上昇し、戦術機の補給も可能と、まさに空中戦艦……いや、強襲揚陸艦?どこの大天使だ、それは……

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