この手を伸ばせば   作:まるね子

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オルタ本編に登場しなかったキャラとか名前すら出てないキャラとかどうしようか……
多恵さんきょぬーかわいいけどオルタードやってないから口調とか微妙にわかりません。茜ラブってことと、猫っぽいことと、興奮するとおかしな方言が出ることだけ理解していれば大丈夫かな……


第七話「導く先」

「大尉。私は……私たちは、これからどうなるのですか?」

 悠平の輝津薙に簡易ハーネスを使用して相乗りしているクリスカが少し不安そうに尋ねた。そういえば詳しい説明がまだだったことを思い出す。

「そうだな……まずは適切な治療とリハビリってところだな」

「リハビリ、ですか……?」

 治療は分かるが何のリハビリが必要なのか理解できないようだ。

「まぁ、どちらにせよクリスカ少尉にはまず治療が必要だ。そのままじゃ普通に生活するのも大変だろうしな」

 リハビリのことはそれからでいい、そう言って悠平はクリスカに整備用の簡易ヘッドギアを差し出した。

「今、メインカメラに地球が綺麗に映ってるんだ。向こうも丁度見ているみたいだし、時間つぶしにイーニァと会話でもしながら見てみたらどうだ?」

「……何故、私にこのようなことを?」

 クリスカに理由を尋ねられ、悠平は少し困ったように苦笑した。詳しい説明は全員で顔をあわせてからのほうがいいと考えて横浜基地に戻ってからすることを決めており、かといって特に話せるような話題も思いつかないため、本当にただ間を持たせるための時間つぶしに提案しただけなのだ。

 何かいい理由はないかと少し逡巡すると、ふいに丁度よさそうな理由を思いついた。

「そうだな……綺麗なものや風景を見ることは心の栄養になる、って誰かが言っていた気がするんだ」

「心の、栄養?」

 今クリスカに一番必要なものは壊れかけた自我を癒す心の栄養だと悠平は考えたのだ。病は気からというわけではないが、心が活力を取り戻せば脳のダメージ回復や自我を癒す助けになるのではと考えるのはあながち間違いというわけではないだろう。

 この世界では本当に綺麗な景色というものは今もBETAによって減り続けている。この衛星軌道から見た地球は現在でも美しいと言えるものの一つだろう。

 簡易ヘッドギアをつけて外の光景を見たクリスカは、地球の美しさの圧倒されるかのように息を呑んだ。

「これが、地球…………ユウヤにも見せてやりたいな……」

 そう口にして以降クリスカは網膜に映し出された地球に魅入ってしまい、降下ポイントに到着するまで一言も喋ることはなかった。

 

 

 悠平たちが日本へ戻った時はすでに消灯時間を過ぎていたこともあり、夕呼の強権によって正式な挨拶は翌朝に回されることとなった。

 そして翌日である10月24日、夕呼の執務室には武、霞、悠平、ネージュ、クリスカ、イーニァが集められていた。

「さて、昨夜は到着が遅かったこともあって挨拶が遅れたけど、アタシがこの横浜基地の副司令・香月夕呼よ」

「それで、私たちは一体何をすればよろしいのですか?」

「さあ?アタシに聞かれても困るわ。アンタたちを引っ張ってきたのはアタシじゃないもの」

 クリスカはそれを聞いて面食らったように固まってしまった。この場で一番階級が高い人がこれでは無理もないだろう。

 悠平たちはあらかじめ決めてあったとおり、自分たちが未来からやって来た存在であること、悠平たちが乗ってきた機体は未来の技術で作られていること、未来で起きる悲劇を回避するために行動していること、イーニァが急成長した理由をクリスカに説明した。

 初めは突拍子もない話に目を白黒させまるで信じられないような顔をしていたが、霞とネージュが同じ人工ESP発現体であること、イーニァ自身が未来から来たことを肯定したことで一応の納得を見せていた。

「……にわかには信じがたいが、それが本当ならイーニァの体が急に成長したことも、プラーフカの後遺症が回復していることも納得がいく」

 そして、あのままでは自分が死んでいたことも、とクリスカは己が処分されかけていたことを語った。クリスカを救出するタイミングとしてはかなりきわどいところだったようだ。

「それで、クリスカ少尉はまず治療に専念してもらおうと思う。とはいっても適度にシミュレーターや実機訓練はしてもらっても大丈夫だけど」

 悠平はユウヤが来るまでの間、二人の上官として振舞うこととなっていた。そのため、二人の役目もそれぞれ悠平が決めることとなったのだ。

「イーニァにはこれまでどおり、戦術機に乗ってもらう。弐型改に関してはXFJ計画終了まで予備部品を手に入れる手段がないから、当面は他の機体に乗ってもらうことになる」

「ま、待ってください!イーニァを一人で乗せるなんて……!」

 クリスカはイーニァが一人で戦術機に乗ると聞いて顔色を変えた。クリスカの知るイーニァならば緊急時でもない限り一人で戦術機に乗るなんてことは考えられず、とても心配なのだろう。

「大丈夫だよ、クリスカ。ずっと一人で乗ってきたからもう平気だよ」

「イーニァ……本当に、私の知らない時間が今のイーニァにはあるんだね……」

 今のイーニァはXM3を使えば紅の姉妹がそろっていた時と同等以上の技量がある。むしろ未だ不調なクリスカが一緒では足手まといになりかねないのだ。XM3に関してはこれから慣熟を行っていけばいいものであり、治療が進めばじきに問題なく戦えるようにもなるだろう。

「まぁ、その前にクリスカ少尉は処置とプラーフカの不活性化を施さないとな。このままじゃ薬を使い切ったら意味がなくなる」

 イーニァはすでに前の世界でその処置を受けていた。だからこの世界では不活性化を行う必要がなく、ユウヤが傍にいなくても暴走が起きないようになっているのだ。

 一通りの話が終わり、クリスカは何段階かに分けて調整を行っていくことになった。調整を担当するのは前の世界でも人工ESP発現体の担当をしていた女医だったが、この二人を出会わせることで妙な化学反応が発生することをこの時誰も知る由がなかった。

 

 

 ブリーフィングルームはそわそわした空気で満たされていた。みちるによると今日から新しいOSによる訓練が始まるということだ。なんでもそのOSの教導のために新OSの発案者である大尉がわざわざやってくるという。

 だが、水月はそのOSよりもむしろ大尉のほうに興味があった。昨日みちるに見せられたシミュレーターの録画に映っていた新OSを実装された三機の不知火。そのうちの一機に乗っていたのがその大尉だという。水月はその大尉と戦ってみたくて仕方がなかった。

(常に長刀を振ってたやつだといいんだけど……三機とも機動はアタシたちの知ってるものとはまるで違っていたけど、あんなレベルの近接格闘をしていたのはあいつだけだし)

 まるで芸術のような太刀筋と機動を持っていたあの不知火と戦ってみたい。戦って勝ちたい。そう考えるだけで水月はすでに体がウズウズしていた。

 少ししてみちるがブリーフィングルームに入ってきた。一緒に入ってきた若い男がその大尉だろう。背は高いが、思ったよりぱっとしない男だ。

 やがて自己紹介と新OSの特性について説明が始まった。新OSはコンボ、キャンセル、先行入力によって柔軟な対応を可能にし、パターン認識と集積によって独自の戦術機動概念を実現することができるものだった。もしこれが本当ならば間違いなく戦術機の歴史が変わるだろう。

 だが、そんなものは体で覚えこませればいい。それよりも水月は早く武と戦ってみたかった。

「隊長!新OSの能力と白銀大尉の技量を確かめるためにも一度シミュレーターで戦ってみたいのですが!」

「ほう、奇遇だな速瀬。これから丁度お前たちには白銀大尉とシミュレーターで模擬戦をしてもらうことになっている。当然、XM3を実装済みだ」

 それを聞いて水月は心の中で握りこぶしを固めた。

「まったく、白銀大尉と戦いたいからって伊隅大尉が説明する前に挙手してまで提案するなんて、やっぱり溜まっているんですね」

「ぬぁんですって!?」

「――と、築地少尉が言っていました」

「にゃっ!?い、言っでないっぺっ!?」

「む~な~か~たぁ~!?」

 またこのパターンだ。この恨みはシミュレーターで武にぶつけることを水月は密かに誓った。

 強化装備に着替えてシミュレータールームへ行くと、そこには夕呼がいた。新OSを使った訓練の見学に来たそうだ。

 模擬戦は三対一。水月は正直舐められているとしか思えないものではあったが、その自信を打ち砕いてやろうという気概が満ちていた。

(そうよ、新OSを積んでいるという条件は同じ。その上数はこっちのほうが上。副司令直属の特務部隊の実力、存分に思い知らせてやろうじゃない!)

 水月は涼宮茜、柏木晴子とともに一番手に名乗りを上げ、シミュレーターへと入っていった。

「アンタたち!あの大尉さんに目に物を見せてやるわよ!」

「「了解!」」

 水月の言葉に茜と晴子が応えた。

 鈍い駆動音と共にシミュレーターが起動する。機体は乗り慣れた不知火。戦場は市街地演習場だ。隠れるところは多いが、こちらは三機。まず負ける要素はない。

「たった一機をいちいち警戒して探るのはまどろっこいいわ!暴れまわっていぶりだすわよ!」

 そう、いぶりだしてしまえば問題なく片付けられる。数の差とはそれだけ大きいのだ。

 三人は一斉にペダルを踏み込み、不知火がそれに合わせて足を上げ――

 

 轟音と共に盛大にすっ転んだ。

 

 何故自分は転んだのか、わけが分からない。何とか立ち上がろうとするが、反応が過敏すぎる。

「何、これ!?」

「遊びが、なさ過ぎる……!?」

 今の轟音で居場所は確実に武にバレただろう。急いで体勢を立て直さなければならない。そう思って戦域情報を確認してみると、

「――っ!?全機散開っ!!」

 慌ててジャンプユニットを噴かしてその場から離れると、数発の砲弾が水月たちのいた場所へ叩き込まれた。いつの間にか射線が通る場所まで来ていた武は移動を繰り返し、水月たちから離れていく。

「逃がさない!晴子、援護して!」

 茜が逃げる武を追って不知火を奔らせた。二機で追い詰めるつもりなのだ。()()()()()()

「じゃあ、おいしいところはしっかりといただきましょうか!」

 水月は唇を軽く湿らせ、追い詰める予定のポイントへ先回りをするべく駆け出した。

 最初はあまりの反応の過敏さに戸惑ったが、こうして動いてみれば分かる。このOSはすごい。これまで使っていたOSがまるでドン亀のように思えるくらい挙動が軽かった。こんなものを発案する武の発想力は認めてもいいのかもしれない。だが、

「まだ腕は認めたわけじゃないわよ……!」

 戦域情報を見ると、予定のポイントまで追い詰めつつあるようだ。それにしてもよく動く。あの二人を相手にして未だにかすりもしていないということは、腕もなかなかのものなのかもしれない。

 しかし、それも水月が待ち構えているポイントに追い詰められるまでのことだ。ここまで来れば、水月の独壇場になる。

「……来たっ!」

 程なくして武の不知火が姿を現した。ここに来るまでに二人が撃墜してしまうことも覚悟していたが、どうやら心配は杞憂だったらしい。

 武の後方に茜と晴子が追いつき、配置につくことで狩場が完成した。武が追い込まれた場所は地上は水月が、空は茜と晴子が食らいつく袋小路となった。

「さぁ、観念しなさい……っ!」

 水月が突撃砲で牽制しつつ、長刀で武へと食らいつきにかかる。だが、

「――っ、消えた!?」

 否、武は空にいる。ならば二人の餌食になるだけだ。しかし、水月の耳に届いたのは武の撃破判定ではなかった。

「何コイツっ、早いっ!?」

「自動照準が追いつかない……っ!」

 見上げてみると、武は見たこともないほどアクロバティックな戦闘機動で戦場を駆け回っていた。

(こんな機動、ヴォールク・データでは使ってなかったわよ!?)

 ヴォールク・データでは突破力を優先していたのだろう。よく見てみると所々共通的な動きが見られる。だが、こちらこそが武本来の戦闘機動なのだとしたら、

(手加減されていた……!?いや、違うっ……アタシたちが新OSに慣れるまで待ってたんだっ!!)

 水月も地上から突撃砲で武を狙うが、まるで追いつけない。なんと言う変則機動。まるで機動自体が武器となっているようだった。

「涼宮機、機関部に直撃。致命的な損傷――大破。柏木機、管制ユニットへの直撃。致命的な損傷――大破」

 凶悪なまでの回避機動に焦る中、あっという間に二人が食われてしまった。

 

 ――面白い。

 

 水月は唇が釣りあがるのを感じた。どうやらあの長刀を使い続けた衛士ではなかったようだが、まさかこれほどの牙を隠し持っているとは思っていなかった。

(これでも手加減されているような気がするけど、そんなことはどうでもいいわ!)

 おそらく武が自分たちに要求しているのは、()()レベルなのだ。()()武の機動について来いと言っているのだ。

「いいじゃない!やってやるわよ!!」

 認めよう。武は今の自分たちよりも遥かに上だと。そして、今武が見せている高みまで上らなければそう遠くない未来に死んでしまうような気がする。

(だったら、アタシはもっと強くなる!生きて決着をつけるために……っ!!)

 突撃砲を放り捨て、長刀を構えた水月が吼え、武もそれに応えるかのように突撃砲を捨てて長刀を構えた。二機の不知火が奔り、そして、

 

 水月の耳に、己の撃墜判定を告げる遥の声が届いた。

 




なんだか最後の文が君望を髣髴とさせる締めくくり方になった気がするのは気のせいか……アニメ版を途中までしか見たことないくらいなんですけどね。
……ドロドロ展開があまりにきつくて最後まで見続けられなかったんですorz

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