この手を伸ばせば   作:まるね子

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積みゲーをちょっとだけ消化してたら一日あいてしまった。でもまだ消化全然終わってないドウシヨウ……


第十五話「暗躍する者たち」

 BETAの新潟上陸から五日が過ぎ、荷電粒子砲の修復を完了させた悠平は悠陽と再びレシーバーを用いた顔を合わせない会話を行っていた。

「……驚きました。まったく信じていなかったわけではありませんが、本当にかようなことが起こるとは」

 悠陽は神妙そうに口を開いた。

「あの日、国連軍との合同実弾演習がなければ帝国軍は多大な被害を出していたことは間違いありません。もしや、あれはそなたが?」

「そうです。帝国軍の戦力を少しでも低下させないために、俺たちが直接出向きました」

「では、あの新型か不知火にはそなたも……っ?」

 悠陽が驚いた声を上げた。まさか前線に直接出てきていたとは思っていなかったのだろう。だが、帝国軍を少しでも多く守るためには悠平たちが直接出るほうが確実だったのだ。

「これで俺の素性はもう大方バレたようなものですが、これで俺が未来見てきたという話に信憑性が出てきたと思います」

 悠平はあえて信憑性という言葉を使った。たった一度未来を言い当てた程度ではまだ偶然の可能性もあるためだ。

「そのようですね。ですが、そなたは一体どのようにして未来の情報を……?」

「……俺は数年後の未来でG弾の爆発に巻き込まれ、様々な偶然が重なった結果、過去に飛ばされました」

「――っ、G弾が……」

 悠陽が息を呑む。G弾が使われたことにか、G弾がもたらした結果にか、あるいはその両方にか。

 その未来ではオルタネイティヴ4が完遂されていること、米国の保有するG弾を接収することに成功していること、ハイヴ攻略作戦中に一人の人間が隠し持っていたG弾によって過去へ飛ばされたことを悠平は話していく。

「重力異常というのはつまり、時間や空間が歪むということでもあります。それを突き詰めれば――」

「過去や未来につながる穴のようなものが開くこともありえない話ではない、ということですね……」

 悠平は肯定した。実際にはもっと複雑に絡まりあった要因があるが、今悠陽に説明しても混乱させるだけだろう。

「……さて、それじゃあ榊首相が殺されるという未来について詳しく説明します」

「……お聞きします」

 

 

 悠平が未来で起きた12・5事件――沙霧大尉の起こしたクーデターについての概要を話し終え、レシーバーを回収するのを待って霞は口を開いた。

「あの人はあなたが感じた以上に未来のことを信じているみたいです」

「口がうまいなんてことはないはずだけど、よく信じてもらえたなとは思うよ……」

 悠平が苦笑すると、霞は首を横に振った。

「ユウヘイさんの言葉には、どこか重みがあります。あの人はそれを感じているんです」

 霞は悠平をまっすぐ見つめながらそう言った。

「……そっか。わざわざ確認してもらうために来てもらって悪いな」

「いいえ。私も、気になっていましたから」

 今回、霞は悠陽に自分たちのことを明かすタイミングを計るために悠平についてきていた。悠平が悠陽に未来を言い当てた理由を明かしたのは、霞のリーディングによって悠陽がどれくらい信用しているかを確認したからなのだ。

 少々ズルいとは思うが、タイミングを誤るわけにはいかなかったため霞も進んで協力を買って出たのだ。

「本当ならクーデター阻止のためにもっとしっかり話し合いたいところだけど、あまり長居するとこの場所でも見つかるかもしれない。今日はここまでだな」

「はい」

 霞は頷き、悠平の袖を握った。

 次の瞬間には周囲の景色は一変し、帝都の町並みが一望できる場所へと移動していた。おそらくビルの屋上なのだろうが、霞はそれよりも気になることがあった。

「……?」

 霞は手レポートする瞬間、悠陽の心の色を見た気がしていた。その色は――

(あれは、決意の色……?)

「ん、どうしたんだ?」

 悠平は霞が何かを気にしていることに気づいたらしく、声をかけてきた。どうやら少しぼうっとしてしまっていたらしい。

「なんでもありません。早く戻りましょう」

 霞は悠平を促した。

 その色はテレポートする瞬間に見えた気がしただけであり、気のせいかもしれない。もし正しいとしても、一瞬だったため一体何に対する決意かも定かではないため判断がつかないのだ。それならばあまり気にしすぎても心配をかけるだけだろう。

 それに、横浜基地では武が待っているのだ。あまり遅くなってはそれこそ心配をかけてしまう。

 

 

 アメリカ政府はオルタネイティヴ4――夕呼からのXG-70接収要請を議題に会議を行っていた。

 もともとは00ユニット完成の目処が立ち次第XG-70を全機横浜基地へ移送するという交渉を行っていたが、夕呼が追加の交渉を出したことで状況が一変したのだ。

「まさか、このようなものが現れるとは……」

 会議室の一席に座る男が難しそうな表情で画面を見つめながらつぶやいた。画面に映っているのはBETA新潟上陸時に横浜基地から出撃していた試作機だった。

 試作機は腰部のユニットを前方へ展開すると、まばゆい光の奔流を吐き出し、数千ものBETAを一瞬で消し飛ばした。

「これは間違いなく荷電粒子砲だぞ」

「ではこの戦術機には本当に抗重力機関が……?」

「いや、これだけであの女が抗重力機関を独自に完成させたと考えるのは早計だ」

「他に情報はないのか?」

 会議の喧騒の中、一人の男が一歩前へ出た。その男は戦術機開発メーカー・ボーニングの人間であり、今回の議題に関して意見を聞くために召喚された技術者だ。

「この試作機は以前、ミス・ユウコの使いとしてユーコン基地に姿を見せています。その時、それを目撃した我が社の技術者の報告によれば、ジャンプユニット使用することなく中へ浮かび、重力を無視するかのようにそのまま衛星軌道へ昇っていったということです」

 会議室内がどよめいた。戦術機を単独で衛星軌道へ飛ばすなど、未だなしえるものではない。よしんば単独で打ち上げることができたとしても、二度の大気の摩擦に機体が燃え尽きてしまうのがオチだ。

「それを可能とするには重力制御によって大気との摩擦が発生しない速度で大気圏からの離脱・再突入を行うか、ラザフォード場による保護を行うしかありません。つまり、どちらにせよ抗重力機関を搭載していなければなしえないことになります」

「……あの女が独自に抗重力機関を作り出したのは確実、ということか」

「ちょっと待て、ラザフォード場の制御はどうなっている!?HI-MAERF計画では結局欠陥を解決することはできなかったのだぞ!?」

「もしや00ユニットが完成したと?」

「バカな。完成したのならばそう公言しているはずだ」

「では、なんらかの制御システムはすでに完成している、ということか」

「それで、例の交渉内容はどうするのだ?」

 それまでの喧騒はその一言で嘘のように静まり返り、会議室は重苦しい空気に包まれた。

 夕呼が提示した新たな交渉内容。それは試作機に搭載された新型の抗重力機関をXG-70用に改良し量産するために、アメリカが保有するG弾の供出をするというものだ。

 米国――その中でもオルタネイティヴ5を支持する者たちにとって、G弾は必要不可欠な兵器だ。それを差し出せと言われてハイどうぞ、と差し出せるものではない。

 しかし、オルタネイティヴ4がすでに独自に抗重力機関を開発し、荷電粒子砲を実用化しているということは非常に大きな意味を持つ。

 何よりも、この試作機に搭載されている抗重力機関はムアコック・レヒテ型とは違ってグレイ・イレブンを燃料として消費せず、抗重力機関の製造に必要なだけだという。つまり、一度作ってしまえば壊れるまで使い続けることができるのだ。これをXG-70に搭載すれば、G弾による重力異常を起こすことなく大陸を取り戻すことも可能だろう。

 だが、そのためにはG弾という究極の兵器を手放さなければならない。そして、彼らが抱えるジレンマはこれだけではない。

 夕呼は、最悪の場合は独力でXG-70に変わる戦略航空機動要塞を開発すると言ってきていた。新型の抗重力機関と荷電粒子砲。そしてラザフォード場の安定制御が可能になったのならば、それも可能だろう。国連上層部も本来の目的とは多少ズレてはいるものの、それほどの成果を出したのならば戦略航空機動要塞の開発のためにオルタネイティヴ4をそのまま続行することも考えられる。

 だがその場合、XG-70を使ってもらえなかったアメリカは恩を売るどころか夕呼に見限られたと各国に判断される可能性すらある。それはアメリカにとって不利益にしかならないことだ。

「ならばどうする?おとなしくG弾を差し出すか?」

「いや、ダメだ!あれは我々にとって唯一の希望!やすやすと引き渡すわけにはいかん!!」

「それならば、まずは元々の要望どおりXG-70を提供してやって成果を確認してからでもいいのではないですか?」

「なるほど……確かに、本当にそれが使えるとは限らんしな」

「だが、我が国の資産をそう簡単に渡してしまうのは……!」

「では、今少しは様子見ということでよろしいのでは?元々00ユニットが完成するまではそうするつもりだったわけですし」

「うむ。成果が出ればG弾を提供する代わりにその抗重力機関を現物で要求することも可能だろう。そうなれば我々がXG-70で大陸からハイヴを排除し、ユーラシア全土をアメリカの属国にすることも夢ではない」

「制御システムについても、今は当時よりも遥かに演算能力が向上している。あのような小国にできることならば、我々にできぬことではない」

 会議の喧騒は急速に纏まりだした。彼らはアメリカこそが世界の盟主であり、今日もアメリカの利益のために行動している。

 

 

「わざわざ成果が出るのを待つだと?生ぬるいことを……それであの小国が調子付かせることになっては元も子もないではないか」

 会議に参加していた男の一人は、己の執務室で苛立ちを吐き出した。

「そう言うな。やつらの考えも一理はある」

 男の苛立ちに言葉を返したのは、モニターの向こうにいる青年だった。青年は椅子に身を預け、頬杖をついている。

「だけど、確かに生ぬるいな……成果が出るまで待つもなにも、もう成果は出ている。なら、さっさと手を打ってしまえばいい」

「……と、言うと?」

「そうだね……忠告がわりにあの基地を爆破でもしようか。それでだめなら、例の仕掛けを使って第四計画ごと接収してしまえばいい。そうすれば完成品もデータも手に入るし、すべての栄誉をアメリカのものにできる。あの国には身の程と言うものを知ってもらわないと」

「ああ。やはりあの小さな島国ごときに世界の命運を託すのは間違っている。我々、アメリカこそが世界を導く盟主にふさわしき国だ」

 そう言って男は息巻いた。

 そもそも、日本がオルタネイティヴ4を誘致したこと自体が気に食わないのだ。おとなしくアメリカへ隷属していればいいものを、榊首相が存在するせいでそれも思うようにいっておらず、ずっと歯がゆい思いをしていた。

 だが、それも例の仕掛けが片付けてくれる。もう少しの辛抱だった。




早くユウヤとの合流まで書きたいなー。

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