この手を伸ばせば   作:まるね子

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これまでのハイスピード投稿のツケが回ってきたようです……筆が進まねぇ!


第十六話「悠」

「それで、XG-70用のミカナギ型の製造は順調なのかしら?」

 夕呼が椅子に体重をかけながら悠平に尋ねた。

「基幹部分は概ね完了。あとはジェネレーター部分を組み上げれば完了で……ふぁぁ……」

 悠平は大きなあくびで説明を中断した。BETA新潟上陸からかれこれ一週間ほどまともに睡眠を取っていないのだから無理もない。

 だが、その甲斐あって悠平でなければできない作業はほぼ完了していた。明日は丸一日休養にあてるのもいいだろう。

「――ということで、明日は休みますからそのつもりでいてください」

「やることをきっちりやってくれたのなら、別にかまわないわよ。倒れられても困るんだし。それで――」

 アンタのほうはどうなの?と言って夕呼は武のほうへ目を向けた。

「A-01はやっぱりさすがですね。XM3をもうかなり自分のものにしてきています」

「それ、アンタが言うと嫌味に聞こえるわよ?」

「嫌味って……単に使ってる年月の差ですよ」

 武の報告によれば、前の世界で悠平たちが行っていたような三つ巴の高機動近接戦訓練はまだ難しいものの、XM3を使い始めた当初の武のような機動はほぼ完全にものにしたという。つまり、反応の遅れや判断ミスさえ起こさなければ、当時の武のように単機で二十以上の要塞級を足止めすることができるということだ。

「207小隊のほうは、やっぱり先入観がない分かなり習熟が早いですね。操縦技能だけでいえば、A-01の先任少尉と同等近いと思います」

 悠平とネージュもそうだったが、XM3の習熟はやはり先入観がないほうがかなり早いらしい。だが、それだけではまだ足りない。状況判断能力や連携は戦術機に乗り始めて一ヶ月も経っていない状態では任官にはまだ足りないと言わざるを得ないだろう。

 幸いと言っていいのかわからないが、今回は悠平が前の世界から持ち込んだ技術だけでオルタネイティヴ4の継続を期待できるらしい。反応炉からの情報漏洩にさえ気をつければ、まだ時間は十分にあると言えるだろう。

 

 

 翌日、残りの作業を他の技師たちに任せた悠平はネージュを抱き枕にして惰眠を貪っていた。水月に付き合わされて休日返上で訓練を続けていたネージュも少なからず疲労がたまっており、タイミング的にも丁度良かったのだ。

 だが、布団の中でネージュの柔らかい体とほのかに甘い香りを堪能していた悠平は部屋に駆け込んできた闖入者によって叩き起こされることとなった。

「たっ、たたた大変だ!起きろ御巫っ!!」

「んー……なんだぁ……?」

「…………」

 悠平は眠そうに目を擦り、ネージュは不機嫌そうに薄く目を開いた。時刻は昼前であるため、起きることに支障はないが、もう少しゴロゴロしていたかったのだ。

「寝てる場合じゃないぞ!?いいから早く起きてくれ――って、ス、スマン!!」

 武は布団を剥ぎ取ろうとしたと思ったら、勢いよく後ろを振り向いた。どうやら布団を剥ぎ取る直前にネージュが何も着ていないことに気づいたようだ。

 悠平は武が後ろを向いている間にネージュに着替えを促し、その間に何が起きたのかを尋ねた。

 

 

「まあ、そうなのですか。ふふっ、話に聞いていた以上なのですね、あの者は」

「み、御剣訓練兵は十分によくやっているかと思います……」

 来賓の対応を行う応接室の入り口に慌てて駆け寄った悠平の目に映ったのは、変な汗を流しながら賓客の応対をしているまりもの姿だった。だが、それも彼女を相手にしていたのなら仕方のないことだろう。

「で、殿下……っ!?」

 まりもが応対していたのは、服こそ普通だが紛れもなく煌武院悠陽殿下だった。

「また間違えられてしまいましたか。わたくしの名は御剣悠と申します。ここで訓練を受けている御剣冥夜の双子の姉であり、御剣家の隠し子です」

 悠陽――悠の言い分はこうだ。悠は生まれつき体が弱く、早世するのは確実と言われていた。そのため、冥夜が気に病まないようにと生まれてすぐに引き離され、冥夜は存在を知らされずに育ってきた。

 しかし、ここに至って余命幾許もなくなり、命尽きる前に一度でいいから冥夜と顔を合わせて話をしたくてこうして出向いてきたのだという。

「この世には自分と同じ顔をした人間が三人いると聞きます。殿下とそっくりというのは余命幾許もない身としては誇らしくもあり、申し訳なくも思います」

 あまりに堂に入ったその物言いに悠平たちはあっけにとられ、護衛としてついてきていた斯衛が演技過剰気味にハンカチで涙をぬぐっていた。

「おいたわしや、殿――悠様……不肖、この月詠真耶が最期までお供いたしますっ!」

 少々怪しいところはあるが、意外と演技ではないのかもしれない。

 

 お互いに自己紹介を終えて、悠平たちは悠を連れて冥夜をあらかじめ呼び出していたB17フロアの特殊会議室へと訪れていた。

「――っ!?で、殿下っ!?」

 悠が部屋へ入ってくるのを見て冥夜は目を丸くしていた。決して会うことはないと思っていた双子の姉が横浜基地へ冥夜に会うためにやってきたのだから当然だろう。

「盗聴器の類は?」

「くまなくチェック済みです。問題ありません」

 真耶の目は、本当によろしいのですかと問うようだったが悠は静かに頷き、冥夜に向き直った。

「……こうして言葉を交わすのは、生まれて初めてですね、冥夜」

 本来なら許されない悠――悠陽の姉としての態度に冥夜は驚きを禁じえず、どう振舞えばいいのかわからずに混乱しているようだった。この場に悠平たちがいたのもその一因だろうが、悠陽と真耶はこちらがすでに知っていることを承知しているため、まるで気にしていないことも冥夜の混乱を助長させていた。

 そんな冥夜を悠陽は優しげな目で見つめ、持参したものを冥夜に手渡した。

「これは……」

「そなたとわたくしが赤子の頃、わずかな時とはいえ共にあった証です」

 冥夜に手渡されたのは簡素な、けれどもとても大切にされているのがうかがい知れる古びた人形だった。

「――っ、よろしいの、ですか……?」

「はい。それほど時間を取ることはできませんが、今ここにいる間だけは誰にもはばかることなく、わたくしたちは姉妹です」

「姉……上……っ」

 それからはしばらく完全に姉妹の時間とするため、悠平たちは外に出て白の斯衛たちとともに部屋の周囲を監視することにした。その間、斯衛たちの視線が痛かったのは気のせいだと思いたい。

 

 

 姉妹の時間を過ごした悠陽は夕呼の執務室を訪れていた。夕呼が悠陽の真意を確かめるために呼んだのだ。

「一度お会いしたいと思っておりました、香月博士」

「まさか、煌武院悠陽殿下のご尊顔を拝めるとは思っていませんでしたわ」

 そう言ってふてぶてしさを見せる夕呼だが、どこか緊張の色は隠せないでいた。さすがの夕呼も政威大将軍相手ではいつもどおりとはいかないようだ。

 それを知ってか、悠陽は先手を打ってきた。

「博士は、わたくしがなぜここに来たのかが気になっていると思います。ですので、まずはわたくしが彼から聞いた話を再確認させていただきたいと思います」

 彼、と言ったところで悠陽は悠平を見た。どうやらすでに声でバレていたようだ。レシーバーの使用時に変声機の類を使ってなかったので当然と言えば当然だが。

「ですが、その前に……真耶」

「はっ」

「申し訳ありませんが、この者たちと内密の話があります。部屋の外で待機していてもらえますか」

「殿下!?ですが、それは……っ」

 真耶は悠平たちを見遣って苦そうな顔をした。信用がもてないと言いたいのだろう。しかし、悠陽の本気の命令に真耶が逆らえるはずもなく、渋々部屋の外へと出て行く。

「社、一人で部屋の前に立たせるのもなんだから、話し相手にでもなってやって」

 霞は頷き、真耶に続いて部屋から出て行った。話し相手とは言ったが、実際は余計な真似をしないように監視につけたのだろう。

 二人が執務室から出て行くのを確認して、悠陽は悠平から聞いた話を口にしていく。

 悠平が未来から来たこと。未来の情報を用いてBETA新潟上陸を阻止したこと。この先に起こるクーデターを阻止しようとしていること。

「それゆえに、わたくしもこの国を預かる者として沙霧大尉と話をしてみました」

「沙霧大尉と……っ!?」

 驚く武に悠陽は頷いた。

「大尉にクーデターの背後に動いているものについて話をした結果、あの者はクーデターを起こさないことを誓ってくれました」

 少々賭けでしたが、と悠陽は苦笑していた。今回この横浜基地に御剣家の人間としてやってきたことといい、腹が決まると意外に行動力があるようだ。

「そうか……じゃあ、この世界でクーデターは起きないんだな」

 武は悠陽の思わぬ行動力に驚きを隠せないでいるようだが、同時に安堵もしているようだ。

「……では、今回横浜基地にいらしたのは、この報告をするためということでしょうか?」

「あくまでも、冥夜と一度話してみたかったのが一番大きな目的です。それ以外は、御巫大尉と二人になれるタイミングがあれば確認をと思っておりました」

 夕呼の問いに悠陽はそう答えた。そして、悠陽の話はまだ終わっていなかった。

「非公式とはいえ、こうして会談の場をもてたのは幸いでした。ですから、ここでわたくしは尋ねたいのです」

 そなたたちのことを。そなたたちの抱えるものを。そして、そなたたちの求める未来を。そう言って、悠陽は悠平たちをまっすぐ見つめた。

「わたくしは、そなたたちと手を取り合っていきたいのです」

 

 

 夕呼はため息をついた。悠陽が言ったのは、要は全てを知りたいということだ。彼女はすでに悠平が未来から来たことは知っている。ならば下手に隠すのは得策ではないだろう。

 だが、一体どこまで教えるべきかということには非常に頭を悩ませることとなった。下手に隠さないほうがいいとはいっても、全てを話せるわけではないのだ。

(さて、どこまで教えるべきかしらね……)

 頭の中でどこまで話すかの計算をしていると、唐突にヴィジョンが頭に浮かんだ。この感覚は覚えがある。

(――社?殿下に全てを話せと言うの?)

 霞から肯定を示すヴィジョンが送られてくる。霞には悠陽が信じられるという根拠があるということだろうが、夕呼はあまり面白いとは思えないでいた。良くも悪くも子供っぽいのだ。

 とはいえ、悠陽とのパイプを作っておくことで今後動きやすくなるのは間違いないだろう。

 夕呼は勝手に行動しないことと誰にも話さないことを条件に、悠陽に全てを話すことを決めた。

 

 

「わたくしの想像した以上に、重たいものなのですね……」

 全てを聞き終えた悠陽は酷くどんよりした雲が頭上に見えるかのように沈んでいた。自分から教えて欲しいというくらいだからある程度心構えはしていたのだろうが、予想以上に重い現実に相当堪えたようだ。特に00ユニット――純夏に関する話は一番効いたようだ。

「申し訳ありません、白銀……そなたもつらいでしょうにこのような……」

「い、いえ、殿下のせいじゃありませんから!」

 武は暗雲を漂わせる悠陽に辛さを感じさせないように振舞ったが、それが逆に作用して悠陽は余計に沈みかけてしまった。

「純夏のことは純夏自身が何らかの手段を講じています。少なくとも、前の世界よりいい未来を導けるはずです」

 悠平はそう告げた。00ユニットとして死を迎えたにもかかわらず、00ユニットとしての力を残していたような非常識な存在なのだ。そのくらいはやってのけても不思議ではない。何より、前の世界で致命的だったいくつかの問題はすでに解決の目処がついている。

「何らかの……?そなたは手段の内容を存じないのですか?」

「……ええ」

 夕呼からは準備が完了したら知らせるとだけ伝えられており、それ以上のことを悠平は知らされていない。悠平にとって不都合である何かがあるのかもしれないが――

 

 ズキッ、と頭が痛んだ気がした。

 

(いや……俺が必要になる時が来たら、やるべきことをやるだけだ)

 悠平はそう考えつつも、握った拳に力が入っていることに気がついていなかった。

 

 話も一通り終わり、悠陽との協力体制を敷くことが決まった。とは言ったものの現状ではアメリカやオルタネイティヴ5に注意し、国内や政府の改善以外に特にしてもらうべきことはないのだが。

 気がつくとそれなりに時間が経っていたようで、悠陽は帝都に戻ることとなった。

「――そういえば」

 部屋の外に待機していた真耶を呼ぼうとしていた悠陽が何事かを思い出したように悠平たちに向き直った。

「明日は珠瀬事務次官がこの横浜基地を視察する予定でしたね。その時は何もなかったのですか?」

 それを聞いて悠平と武は一切の動きを止めた。その様子は呼吸すら止めたようであり、まるで時が止まったように錯覚させるものだった。

 だが、その静寂は次の瞬間に一気に吹き飛んでしまった。




殿下 が仲魔に 加わった!
「ワタクシ ソナタ マルカジリ。 コンゴトモ ヨシナニ ……」

なんだかキャラがブレてる気がするけど、このまま行きます。
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