この手を伸ばせば   作:まるね子

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なんかギャグが混じりつつあるけど、勢いだけで書き進めてます。
オルタのメカ本なんて持ってないから戦術機の詳しい構造とかよくわかんねーorz


第六話「再生の兆し」

 主要な関節がほとんど使い物にならない不知火が搬入されたことを整備班から報告され、クレームという名の脅しを送り主に叩きつけた夕呼は頭を抱えていた。脅し(クレーム)のおかげで捨て値同然まで値切ることはできたが、相変わらず使える機体がないことにかわりないのだ。不知火を修理して使おうにも、予備パーツが足りていない現状では武の不知火を維持するだけで精一杯だ。

 今後の対策に頭を悩ませていると、執務室のドアが開く音がした。顔を上げてみると武と悠平、ネージュが入ってくるところだった。搬入された不知火のことだろうと予測を立てた夕呼は、面倒くさそうに口を開いた。

「……一体何の用よ?こっちは想定外の事態で忙しいのよ?」

 夕呼は自分自身でも苛立っているのが分かるほどの声色で尋ねた。オルタネイティヴ4のときに比べれば全然たいしたことがないトラブルだったが、一度山場を越えた影響もあってトラブルに対する覚悟がおろそかになっていたらしい。

 夕呼の声色にやや腰が引けつつも、悠平が口を開いた。

「そのことなんですけど……あの不知火を一機、俺に預けてもらえませんか?少しやってみたいことがあるんです」

「やってみたいこと?」

 夕呼の問いに悠平がうなずいて応える。

 不知火の状態は各部の関節がそのままでは使用できない状態ではあったが、要である電磁伸縮炭素帯はほとんどがまだ使用でき、関節周り以外のパーツは特に問題はなかったという。要するに、電磁伸縮炭素帯を補助するためのサーボモーターや関節周りの金属部品が一番の問題になっているのだ。

「それで、アンタはどうするつもり?」

「あの不知火を使って、新しい関節機構を持った戦術機のテストを行おうと思ってます」

 戦術機は関節部分の消耗が特に激しい。主脚やジャンプユニットで三次元機動を行い、腕で武器を振るうのだ。負荷が特に掛かる膝やマニピュレーターなどは特に消耗が激しい。

 ただでさえ消耗が激しい関節部品だが、武が発案したXM3によって関節――特に主脚にかかる負荷が激増した。

 そこで悠平は損耗しにくい関節機構を新たに生み出そうと考えていた。

「……へぇ、電磁力による非接触関節と従来の電磁伸縮炭素帯のハイブリット……確かにこれが実現できるならエネルギーが続く限り負荷にも耐えられるし整備性も向上する。こんな大掛かりな改造を行うのならたしかにあのスクラップは有用ね」

 悠平に渡された開発計画書を見ながら夕呼は応えた。確かにこれが実現できればXM3に完全対応した戦術機を作ることもできるだろう。

 しかし、問題がないわけではなかった。

 非接触関節――簡単に言えば、リニアモーターの原理で関節を浮かせることで部品同士の接触を回避し、部品の消耗を抑えることができるものだ。物理構造による保持は静止時にしか行われないため、静止時は電力を必要とはしない。だが、悠平が元いた世界においてリニアモーターカーの開発は制御の難しさから難航し、全面開通は三十年以上先とも言われている。しかし、この世界の電子制御技術は元いた世界よりも遥かに高いことがわかり、こちらの問題はすぐにでも解決することが可能だった。

 実際に問題となる一つ目は電力の問題。電磁伸縮炭素帯だけでも相応の電力を使用するが、これに電磁力による非接触関節機構を組み込んだ場合、膨大な量の電力が必要になるのだ。しかも関節にかかる負荷が大きくなればなるほど必要な電力は増大する。現状の不知火の主機ではわずかな時間しか稼動できないだろう。しかし、その問題点に対し悠平は一つの案を用意していた。

 計画書に載せられているのは非接触型関節それ単体でも関節として使用できるものだった。しかし、この関節を動かすには大量の電力が必要となり、物理的なブレーキ装置がないために高速駆動状態から急停止する際にはさらに大量の電力が必要になる。そこで関節を浮かせた状態で維持することに留め、駆動自体は電磁伸縮炭素帯に任せてしまうことで総合的な強度と整備性を上昇させ、消費電力を抑えようというのだ。この方式ならば主機の出力も初期案ほどの大幅な強化は必要ないという試算が出ている。

 もう一つの問題、開発資金。今までにないものを作り出そうというのだから、当然相応の開発資金が必要になる。今現在の時点で使える予算ではとても足りないだろう。こちらに関しては残念ながら悠平ではどうしようもない問題だった。

(最初からちゃんと動かせる機体を送ってきていれば、こんなことに悩まなくて済んだっていうのに……まったく、新部署設立のための準備予算程度じゃ、とてもじゃないけど足りないわね……)

 夕呼はふと、自分の思考に引っ掛かりを感じた。引っかかりの正体を探るために何度も繰り返し、直前の思考を思い出す。

()()予算……そう、準備予算なんだわ!なんで気づかなかったのかしら!?)

 新部署設立のための準備予算。それには最初に部隊で運用するための戦術機の購入費用も含まれているが、それはあくまでも事前準備の段階でしかない。新部署が正式に稼動した場合、それとは別に年度ごとにちゃんとした開発予算が組まれるのだ。そこには凄乃皇の開発費だけではなく、直援につける戦術機の開発費も含まれている。つまり、新部署さえ正式に稼動させてしまえば必要な予算は降りるのである。

 この新型関節構想がうまくいけば、それを()()に上層部や新部署の設立を支援する各国からさらに協力を引き出すことも可能だろう。そしてそれは、おそらくうまくいくであろうと夕呼は確信していた。

 夕呼がなぜこのことに気がつかなかったのかには理由があった。これまで夕呼はオルタネイティヴ4でほぼ際限なく予算を使用できる環境に何年もいたのだ。その影響で金銭感覚が狂ってしまっていてもおかしくはないのである。

 そのことに気づくと夕呼の行動は早かった。

「御巫、シェスチナ、アンタたちすぐに任官させるわよ。なぁに、人員不足の特例措置でちょちょいっとねじ込んでやるわよ」

 実機訓練もろくにこなさないまま任官しろと言われ、悠平は目を丸くした。夕呼にしてみれば、任官後に実機訓練をかねて試作した機体のテストを行わせるつもりなのだ。まともな訓練機を用意して実機訓練のあとに任官するよりも、先に任官してしまったほうが時間の短縮になると考えたのである。そして、最低でも三人の衛士がそろえば実験開発部隊としては最低限の体裁を取れるだろう。本来はA-01の生き残りを全員組み込むつもりでいた夕呼だが、帝国軍からの正当すぎる要請に逆らうことは難しく、武を手元に残すのが精一杯だったのである。しかし、衛士の問題はすでに解決が見えている。

 こうして新部署発足が夕呼によって一足飛びに進んでいくことになる。

 

 

 悠平は横浜基地に着いてすぐのころ、二つの懸念があった。一つ目は自分が因果導体なのかどうか。二つ目はこの世界にもう一人の自分は存在するのか。

 一つ目に関しては転移した場所や転移した瞬間を目撃されたことから確立の霧の条件を満たさないであろうと判断し、可能性は低いと感じていた。しかし、二つ目に関しては自力では確認するすべをもたず、夕呼に頼る他なかったのだ。だが数日経って、この二つ目の懸念に関しても杞憂であったことが分かった。

 この世界に御巫悠平という人物は存在しない――この世界の武のように死亡したわけでも、鑑純夏のように抹消されたわけでもなく、初めから存在していなかった。これに関して夕呼は、因果律的にこの世界では生まれなかった存在だと言ってた。

 平行世界は無限に存在し、無限の可能性が存在している。それだけの膨大な数の可能性が存在する以上、全ての世界に同じ人物しか生まれないということはありえないのである。これを基に考えると、武がいう元の世界とこの世界は比較的近い確率に存在し、悠平が元いた世界はその二つからはそれなりに離れていると考えられる。

 現在の世界情勢から、元々存在しない人間ならば戸籍を用意するのは非常に簡単であるらしく、悠平は無事にこの世界に居場所を確保できたのである。これはネージュも似たようなものであり、夕呼が日本帝国の国籍で戸籍を用意したため、たとえソ連がネージュの存在に気づいたとしても手を出すことは難しいという。

 安心した悠平は、それからは任官する時をずっと楽しみにしていた。ゲーム中でも少人数ながら厳粛な空気で行われた一つの区切りである。まりもと元訓練兵のようなやり取りがあるものと期待していたのだ。

 だが、その期待は大きく裏切られることとなった。任官のセレモニーの内容は思い出すべきものがまるでなく、とことんまで無駄を省かれた何の感慨もないものだった。それはオルタネイティヴ5の発動が知らされると同時に任官した武たちよりも簡潔に済まされたのだ。悠平が落胆するのも無理もない。

 

 

 何はともあれ、任官が済んだ悠平は夕呼お抱えの技術者たちと共にカンヅメ状態にあっていた。正式に新部署が稼動を開始したとき、すぐに動けるように新型関節機構に関する設計や制御システムをつめておく必要があったのだ。

 この数ヶ月間、専用の資料室としてこの技術開発ブロックに通っていたため、悠平はここの技術者とすっかり打ち解け、和気藹々と作業を進めていた。しかし、すでに数日に及ぶカンヅメに、一人つまらなさそう――かどうか分からないほど表情が薄い顔をしている者がいた。

 ネージュは何日もカンヅメにあっている悠平に、何かしてあげられることはないだろうかと考えていた。しかし、悠平がカンヅメになってからはPXから食事を運ぶくらいしかできることがないのも事実だった。

 何かできることはないか、と考えながらPXへ向かうと、いつもより時間が早すぎたらしくPXには人がおらず、京塚曹長はまだ下ごしらえをしていた。

「おや、ネージュちゃんじゃないか。どうしたんだい?一人だなんて珍しいじゃないか」

 ネージュはどう答えればいいか分からなかった。何をしてあげればいいか、何も思いついていないのである。だが、京塚曹長に相談すればいいのではないかと気づいたネージュは、厨房に霞が立っているのに気づいた。

「あぁ、霞ちゃんかい?武と夕呼ちゃんに料理を作ってやりたいんだってさ。まったくいい子だよ、ほんとに」

 その時、ネージュはこれだ、と思った。

 このことを話す京塚曹長はとてもうれしそうにネージュを厨房へ招くのだった。

 

 その後、数日にわたって武と夕呼、悠平の三人が横浜基地から姿を消し、そのせいで新部署設立が遅れたという噂が流れるが、嘘か真かは本人たちにしか分からなかった。




最初に考えていた本編だけでは短かったので、設定補完的なのと小話的なのを加えて水増し。
なんだかグダった気がしますが、次からはようやく戦術機が動きそうです。

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