神凪は王と共に在るべき存在。来るべき災厄の時に備えるために
創星記3章 1節
***
レイヴスを退け、水神の力を手に入れたノクティス達に喜びの色は無かった。神凪、ルナフレーナ・ノックス・フルーレは全ての件に関しテネブラエにて弁明せよ。さもなければ、テネブラエに現行の世界秩序へ対する害意有りとみなし、全面攻勢をかける。そう帝国は全世界に対して宣言したのだ。
「罠だ。戻るべきではない」
そう言うイグニスの言葉に対しルナフレーナは力強い眼差しで言った。
「分かっています。それでも行かなくてはなりません。私の為に、テネブラエの民を見捨てることはできません」
「それなら、俺達も行く」
ノクティスが告げる。
「いいえ、まとまって動いてしまっては、帝国の狙い通りになってしまうでしょう。帝国には神凪と言う存在が邪魔なのです。ノクティス様と行動を共にしてしまえば、帝国はそれを持って即座に反意の証しとし、そうなればテネブラエへの進攻も抑えることができない。私はゲンティアナと共にテネブラエへ参ります。彼女ならば、帝国の追撃から隠れ、テネブラエまで私を連れていく事が出来る。私が、テネブラエに姿を表せば、帝国も公の場ですぐに手を出すことはできない。その間にノクティス様には、テネブラエで、帝国に対する備えをして欲しいのです」
そう言うルナフレーナに対し、イグニスが問うた。
「別の経路でテネブラエに侵入し、帝国に備えよと?」
「そうです。どちらにせよ帝国はテネブラエへの進攻を開始するでしょう。テネブラエには、帝国の駐留軍が存在し、それにより武装も解除されています。テネブラエには帝国に対抗する手段がないのです。帝国軍本隊の進攻前に駐留軍を排除、進攻してくる本隊を退ける。私とテネブラエ、その双方を帝国から守っていただけますか?」
ルナフレーナの願いに、ノクティスが力強く頷いた。
「わかった。俺が絶対に守る」
***
「王子、俺は王都警護隊を率い、テネブラエへと向かう。だが、テネブラエは遠い、着くまでには少し時間がかかるだろう。それで、お前たちには先行し、テネブラエへと入るための経路を確保してもらいたい」
オルティシエからカエムへ向かう船の上でコルは言った。
「えー、また将軍居ないの?」
プロンプトが不満を口にする。
「仕方ねぇだろプロンプト、俺達だけで帝国軍とやり合うことはできないからな。将軍に警護隊を連れてきてもらわなければ、問題は、どうやってテネブラエへ入るかだ」
グラディオラスの言葉にノクティスが疑問をなげる。
「車で行けばいいんじゃねぇの?」
イグニスが否定。
「いや、テネブラエは遠い。夜はシガイの危険もあるし、宿場などの中継地が長距離無い場所も存在するため、長距離用設備のないレガリアで向かうというのは難しい。列車で向かうしかないだろう。上手くいけば、テネブラエの内部まで直接入り込める。何にしても、まずテネブラエへと入らなければいけないからな。テネブラエは、山の上に築かれた都市だ。街に入るには列車か、数少ない山道しかない。道は帝国軍が抑えているだろう。駅も抑えられているだろうが各駅で積み荷を検査している分。街道よりも入国時の検査が甘い可能性は高い。俺達はノクトの武器召喚で武器を持ち歩かずに済むから、観光客を装う事が出来る」
「なるほどな」
「列車か、俺列車初めて」
列車と聞いてプロンプトが目を輝かせた。
「とりあえず、シドニーが車を持って来たら駅まで向かおう。駅はクレイン地方の向こう側にある」
「イグニス、これを」
話がまとまった後で、コルがイグニスに小さな名刺を渡した。
「将軍、これは?」
「テネブラエでは、その宿に泊まると良い。我々の協力者が運営している」
***
カエムの港でコルと別れた後。ノクティス達は、一度イリスたちの待つ小屋へと戻った。そこにシドニーの姿は無かった。
「あれ?シドニーは?」
プロンプトの問いに、イリスが心配そうに答える。
「それがね。もう着いてもいいと思うんだけど、こっちに向かってるって連絡があってから、まだ何も言ってこないの」
「え?どうしよう?なんかあったのかも、もしそうなら助けに行かないと」
慌てて立ち上がろうとしたプロンプトをグラディオラスが止める。
「だが、どこに?」
「どこって、それは・・・」
イグニスもプロンプトに言い聞かせる。
「居場所が分からないのでは動きようが無い。気持ちは分かるが、今は連絡を待とう」
「そんな」
心配から落ち込んだプロンプトに窓の外を見ていたノクティスが告げる。
「おい、プロンプト見ろよ、ほらあれじゃね?」
窓の外、遠くの道を、見慣れた黄色いトラックが走ってくるのが見えた。プロンプトの表情が晴れる。
「シドニーのトラックだ!良かった。迎えに行こう」
プロンプトが先頭を切って出迎えに向かう。丘を下りはじめると、じきにレガリアを乗せたシドニーのトラックが到着した。運転席からシドニーが手を振るのが見える。グラディオラスが目を向けると、助手席に人影が見えた。
「誰か一緒だな」
「え?男だった?」
グラディオラスの言葉にプロンプトが動揺する。
「光が反射してチラッとしか見えなかったが女じゃないか?」
胸をなでおろしたプロンプトに付いて、丘の下に止まった車へ向けて歩いていくと、トラックからシドニーが降りてくる。
「皆、お待たせ」
「遅かったから心配したよ」
「ごめんごめん。途中でいろいろあってね」
助手席に乗っていた人物もドアを開けて降り、此方に向けて軽く手を振って見せた。喜んで近づこうとしていたプロンプトが立ち止まる。
「うわっ、なんで、アラネア!?」
「あれ?知り合い?」
シドニーの呑気な声が響く。全員に緊張が走り、即座に戦闘態勢へ切り替わる。独特な兜こそ被っていなかったが、その鎧と衣装は間違いなくアラネアだった。
「シドニーから離れろ」
プロンプトが気色ばむ
「まさかシドニーを人質にする気か」
警戒感を露わにしたノクティス達にシドニーが驚いている。アラネアが一歩出て告げる。
「あー、違う違う。どっちかっていうと助けてあげたの」
イグニスが告げる。
「帝国軍の言う事を信じられるとでも?」
「あー、言っとくけど私等は王都襲撃には関わってないよ?」
ノクティスが語気を荒げる。
「だからなんだと?帝国軍であることには変わりないだろ」
それを聞いたアラネアは頷いている。
「まぁ、そりゃそうだ。だけどもう軍からは抜けたし、っても、信じられないか」
「あたりまえだ」
グラディオラスも大剣を構えながら叫ぶ。
「だよねぇ。う~ん、どうしようかなぁ」
アラネアが、考えながら口を開く
「ほら、あたし武器もってないしさぁ、少し話がしたいだけなんだけど・・・」
ノクティスは、シフトの態勢を取っているが、アラネアの方がシドニーに近く手が出せない。膠着状態のなか、上空から魔導機関の駆動音が聞こえた。
「お嬢!大丈夫ですか」
降下してくる赤い揚陸艇から、呼びかける声が聞こえ、機銃がこちらを向いているのが見えた。
「揚陸艇!」
「やはり罠か」
ノクティス達が、いつでも跳びかかれるように重心を動かす。
「あ~、めんどくさ。離れてろって言ったのに」
アラネアは、頭を掻いた。
「ノクト、真っ先にシドニーをファントムソードで守れ」
グラディオラスの言葉にノクティスが返す。
「揚陸艇はどうする?」
「アラネアを抑える。接近戦に持ち込み宙に逃げるのを阻止すれば、揚陸艇からの攻撃を防げるはずだ」
イグニスが、さらに策を詰める。プロンプトが即座に射撃できるように態勢を整える。
「ああ、もう、これじゃあ信じろって方が無理か・・・えっと、シドニーだっけ、ちょっと彼らを説得してよ。これじゃあ話も出来やしない」
「え?、私?」
アラネアに言われ、戸惑いながらもシドニーが前に出る。アラネアが動かないように銃を向けながらプロンプトがシドニーを守ろうと動く、ノクティスはシドニーが十分に離れた瞬間にシフトへと移ろうと狙う。だが、シドニーは、アラネアと、ノクティス達の間を塞ぐように立った。
「ちょっと待って皆、ああ、えっとアラネアの言ってることは本当なの。帝国軍のひいてた検問に引っかかっちゃって、積んでるレガリアを調べられそうになった所を助けてもらった。それで、話を聞いてみたら。帝国軍から逃げてて、王子に会いたいっていうから連れてきたんだけど。ほら、助けてもらったし、帝国と戦ってたし、なんか悪い人じゃなさそうだったから・・・あ、やっぱりいけなかった?」
それを聞いたイグニスが頭を抱える
「分かってもらえた?そう言う事だから。こっちに争う気は全くないんだよね」
未だに警戒するノクティス達にかまわず、アラネアは無線で指示を送った。
「ビッグス、機銃を逸らし揚陸艇を着陸させな、ああ分かってると思うけど魔導機関は停止させるんだよ」
機銃は逸らされ、揚陸艇は、ゆっくりと着陸した。
「ほら、これでもう脅威じゃないだろ」
確かに、これ以上揚陸艇が隠れていないのであれば、槍を持っていないアラネアと、着陸し沈黙した揚陸艇。魔導機関まで停止しているから再浮上には時間がかかり、機銃もこちらに向けて射角は取れないように見えた。揚陸艇から兵が襲い掛かってきても対応できる。それを確認して、イグニスが口を開いた。
「どうやってシドニーを見つけた?」
「ああ、それは、あんたたちを探して飛んでたら、たまたま帝国の検問に引っかかってるあんたたちの車をのせたトラックを見つけてね。それで困ってるだろうと・・・」
「待て、なぜ、俺達の車を知っている?」
イグニスがアラネアの言葉を遮り問う
「うん?王子一行は案外迂闊なんだね。あんたたちと戦った後さ、あのあたりを調べて、車の目星をつけといたってわけ、あんな何もないところで、長時間駐車されてる車なんてのはまずないからね。飛空艇を持ってるんだ。目星さえついてて空から見りゃ一発でわかるんだよ。これからは気を付けな」
「そ、そうか」
アラネアの言葉を聞きイグニスは衝撃のあまり固まっている。
「もしかして、急に引き上げたのって」
プロンプトが恐る恐る口を挟む
「いや、俺達と戦ったのもだな?」
グラディオラスが訂正する。
「そうだね。カーテスの大皿で待っていればいつか王子が現れると思ってね」
「試したのか?」
ノクティスが問う。
「そう、王子の力がどれだけのもので、信用に値するか、いつか帝国と渡り合うだけの勢力になりうるのか、それに顔見せも含めてね。あの時はまだどうなるか分からなかったけれど、異常な拡大路線に過剰ともいえる武力。帝国は年々きな臭くなっていたからね。帝都では、皇帝と宰相、ヴァ―サタイルが何かやっているらしかったし、保険の意味も含めてね」
「アラネアすげぇ」
プロンプトが素直に感心する。
「まぁ、これでも一応用兵団を率いているんだ。これぐらいはねぇ?」
そう言って微笑むアラネアの前でイグニスはまだ衝撃から立ち直れずにいた。
「スキエンティア家、王の軍師として育てられた者としてあるまじき軽率さ」
それを見たアラネアが、笑みを消し、頭を掻いた。
「あー、でもまぁ、ルシスには飛空艇ないんだし、そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな。うん」
イグニスの顔は晴れなかった。
「いや、そんな事は問題にならない。飛空艇の存在は知っていたのだから」
アラネアがさらに続ける。
「ほら、私にしか見つけられなかったし」
「運が良かっただけだ・・・」
「あー」
かける言葉を思いつかなくなったアラネアが何とかしろと、ノクティスや、グラディオラス、プロンプトに目で告げている。
「まぁ、そう言う事もあるよ。次頑張ろ」
「だな」
「まぁいいんじゃねえの結果として問題なかったわけだし」
「そうそう」
皆で励ます。
「いや、そういうわけには・・・」
未だに立ち直れていないイグニスをそのままに、アラネアは話を進めた。
「まぁ、その辺は後にしてもらってとりあえず話の続きをさせてもらうけど、さっきも言ったように私たちは帝国を抜けた。これについては信じてもらうしかないのだけれど・・・オルティシエでの戦い。あれは酷い物だった。おそらく帝国にははじめから勝つ気などなかった」
落ち込んでいるイグニスの代わりをノクティスが引き継ぐ
「じゃあ何故軍隊を?」
「次の戦の為の布石と、邪魔者の粛清。私らは捨て石にされたのさ、レイヴスも含めてね・・・戦争に犠牲はつきもので、勝つためには必要な時もある。だけどね。初めから捨て石にされるのならもう皇帝の下じゃ戦えない。晴れて私らも帝国に追われる身ってわけ、だから帝国に備えなきゃいけない。そこで取引をしましょう」
「取引?」
ノクティスが訝しむ。
「帝国を抜ける前にさ、付いてきたい奴だけ付いてくればいいって言ったら、ほとんど皆ついてきちゃってね。誰も彼も戦う事しかない脳の無い連中だし、まぁ私もだけど・・・求職中?みたいな」
「は?」
「大所帯だから金が尽きそうでね」
「あ、わかる~。俺達も大変だったもんね」
「プロンプト」
慣れてきたのか、気楽な言葉を口にするプロンプトをグラディオラスが窘める
アラネアが少し笑う
「目下雇い先を捜索中って事。これからも帝国と戦っていくつもりなら、役に立てると思うけど、どう?」
「どうって・・・」
「まぁ、あんたたちが直接雇ってくれるのならそれが一番いいんだけど、どうみたってそんな資金無さそうだし?」
痛いところを突かれ、ノクティスは渋い顔をする。
「話を繋いでほしいの」
「何処と?」
「アコルドは駄目。オルティシエの戦闘で帝国を退けたとはいえ、あの国の首脳陣はこれ以上帝国とやり合う気は無いみたいだし、有利な条件で非戦協定を結ぼうとしてるなら、私たちを迎え入れれば悪い結果にしかならない。元とはいえ攻め込んだ帝国軍を歓迎してくれるとも思えないしね。仮に迎えられたとしても、今度は私たちの安全が保障されない。協定成立時の贈り物として差し出されかねないもの・・・だから、私たちが望むのはテネブラエのお姫様」
「ルーナに?」
「ええ」
「王子を見つければ一緒にいるかと思ったんだけど」
「ルーナは、此処にはいない」
「先にテネブラエへ?」
「どうして?」
ノクティスは驚いたが、それがルナフレーナの居場所をアラネアに教えてしまう事だと気づき表情を消そうとした。手遅れだったが。その様子を見てアラネアは笑う。
「あのお姫様なら、そう動くだろうと思ってね。いずれにせよ。次に戦端が開かれるのはテネブラエになるでしょう。テネブラエ出身のレイヴスは将軍に担ぎ上げられたけれど、実際は、テネブラエの力を削ぐため、テネブラエを完全に支配下に置きたいのよ。帝国は貴方たちと水神リヴァイアサンの影響で、想定以上の被害を出した。まぁ、そのおかげで、私たちも離反できたんだけどね・・・本当、機関部の不調とか言って、ゆっくり動いててよかったわ。あの波の中に閉じ込められてたら詰んでた。ああ、話がそれた。それを帝国はレイヴスの失策とし、合わせてお姫様の介入に水神の出現、両者は繋いでいてテネブラエは帝国の力を削ぎ反旗を翻そうとしていたと、そういう大義を創り出した。帝国の宣言は聞いたでしょう?弁明しろなんて神凪をおびき出すための見え透いた嘘。もうテネブラエは、望むか望まぬかにかかわらず帝国と戦端を開くしかない。それでもあのお姫様はテネブラエを救うために戻るしかなく貴方たちもテネブラエに赴くしかない。最初は、最低限の支援さえ受けられれば後は成功報酬でかまわない。悪い話じゃないと思うけど?」
ノクティスは考え込む
「私たちは、都市には入らず、外部に伏兵として潜み戦闘が始まれば挟撃する。それならこれが帝国の策だったとしても私たちが敵として増えるだけ、テネブラエには軍備と言えるほどの軍備は無いから、あんたたちと神々の力だけがテネブラエの軍事力と言えなくもない。けれど、神々の力は、一柱で一個師団に匹敵する。それが今、二柱、いや三柱かな?王子の元にあるだろ?あの神々の力が使えるんだ。私の部隊一つがどれほどの脅威になると?それに、これは私たちにとっても賭けなの。流れ者となった私たちが、国家と言う後ろ盾を得る、最初で最後の機会。それには、軍部の存在しないテネブラエは好都合と言う訳。あんたたちは帝国を降し、王国を復興させる。混乱と、形成される新しい秩序の中で、私たちは居場所を手に入れる。信用できないのも無理はないし、すぐに信用しろともいわない。テネブラエでの働きで判断してもらえばいい」
「言ってることは間違っていないな。どうするよ?」
グラディオラスはノクティスに聞いた。
「イグニス、どう思う?」
ノクティスはイグニスに意見を求めた。
「此方に不利益が無いな」
立ち直ったイグニスが言う
「そりゃそうだ。お願いしてるのはこっちなんだからね」
「でも、最初に最低限の支援が欲しいっていってたよ?」
プロンプトの言葉をイグニスが否定する。
「帝国が物資不足だというのはあり得ない」
「じゃあ、とりあえず手を結んどくか、裏切られたら倒せばいいだけの話だしな」
ノクティスはそう言うが、イグニスは素直に賛同できない。
「確かに、それはある。そういう意味ではアラネアの言葉は間違っていないともいえる。そして戦力は多いに越したことはないが・・・」
イグニスは、最終判断をノクティスに委ねると合図した。
「それなら、いいだろう。手を結ぼう」
アラネアは喜んだ。
「ああ、そりゃよかった」
「だが、俺達は、まだお前を信用してない。裏切りやがったら一緒に倒すからな」
ノクティスが釘をさす
「今はそれで十分。はい、それじゃあ同盟締結の記念すべき握手」
アラネアが出した手を、ノクティスが軽く握った。
「じゃあね。また近いうちに会いましょう」
アラネアはそう言って、赤い揚陸艇の格納庫に乗り込んだ。
シドニーとプロンプトが手を振って見送ると、アラネアも手を振り返した。機銃がこちらを向くことは無かったが、ノクティスとグラディオラスは、念のために警戒していた。赤い揚陸艇は、そのまま上昇を続け雲の中に消えた。
***
カエムで、シドニー達と別れたノクティス達四人はイグニスの運転する車で駅を目指していた。プロンプトが口を開く
「次はテネブラエか~、ルナフレーナ様が生まれた街、どんな街なんだろ、ノクトは言った事あるんだよね?」
ノクティスが答える。
「あー、綺麗な街だったぞ、花が沢山咲いてて・・・」
ノクティスの答えを半ば聞いていないプロンプトが言う。
「楽しみ~、それにしてもアラネアってさ、案外良い奴なんじゃないの?
美人だし」
にやけるプロンプトにグラディオラスが呆れる。
「お前・・・すぐ、色気に負けやがって、シドニーに報告してやろうぜ」
「あー、そうだな伝えなきゃな」
グラディオラスの言葉に乗ったノクティスにプロンプトが慌てる。
「わー、ちょっとまった、シドニーの次にって事。シドニーが一番。そこ重要だかんね」
プロンプトが身を後ろに捻り、手を伸ばして、後部座席との攻防が始まる。
「何度も言うが、運転中に暴れないでくれ」
車は順調に、駅へと向かっている。
***
生き延びられたのが、自分でも不思議だった。魔法防壁を船のように展開し続けた覚えがあるが、いつのまにか気を失い。気付いたときには海岸にうちあげられていた。此処がどのあたりなのかは分からない。海流によってどれだけ流されたのか、幸いなことに、ここは帝国の監視範囲外であるらしい。そうでなければ、とうに捕捉されていただろう。右腕は言う事を聞かなかったが、左手の魔導甲冑製の義手は塩水に浸かっても壊れてはいなかった。魔導甲冑で強引に体を動かして立ち上がる。自分がしくじった事も、帝国のその後の動きの予想もついていた。ならば、急ぎ戻らねばならない。まだ生きているのだから。レイヴスは、身体を引き摺るように、近くの森を目指して歩き始めた。
***
「うわ~」
巨大な駅舎に停車している。長い車列を眺めて、プロンプトが声を上げた。
「俺大陸横断鉄道って初めて見た。中に食堂や、トイレ、ベッドまであるって本当?」
プロンプトの疑問にグラディオラスが答える。
「そりゃあるだろ。大陸横断鉄道だからな」
イグニスも説明を継いだ。
「いちいち、降りないで済むように、一通りの施設がそろっている。さしずめ移動する町といったところか」
「へぇ~。駅も初めて、端までどれくらいあるんだろ?ちょっと写真撮ってくる」
プロンプトが嬉しそうに走っていく
「おい、あんまり遠くに行くなよ・・・って聞いてねぇし」
グラディオラスの声はプロンプトには届かなかったようだ。
「最悪、端末で呼び出せばいいだろう」
イグニスの言葉に、ノクティスが続く
「それか、迷子のお知らせだな」
「まぁ、そうだな」
同意しながら、グラディオラスは周囲を確認した。
「いるな」
「ああ」
イグニスも頷く。駅の中には帝国軍の姿もあった。積み荷や、乗客の確認をしている。
「発車まではまだだいぶ時間があるから、その間に乗車手続きを済ませて、待つしかないな。なんなら後学の為に駅を見ておくか?」
イグニスの提案をノクティスは断った。
「いや、俺は良い。疲れたし、後でプロンプトの写真でも見せてもらうわ」
「じゃあ、どっか休める場所探すか」
駅のそばには、カフェや休憩所が沢山あった。どこがいいか決めようとしていたグラディオラスをそのままに、ノクティスはイグニスに聞いた。
「列車乗って休めねえの?足伸ばして寝てぇ」
イグニスは答える。
「仕方ないな。乗車手続きを済ませに行くか」
イグニスが歩き出そうとしたとき
「皆~」
そう言いながら、走っていった時と同じように、プロンプトが慌てて戻ってきた。
「どうしたプロンプト」
何事かと問いながら、グラディオラスは臨戦態勢を取る。プロンプトは酷く興奮している様子で、仲間の前で急停止すると勢いよく喋り出した。
「写真撮ってたら、なんかすっごい綺麗な女の人に声かけられたんだけど、俺、どうしたらいい?此処で巡りあったのも何かの縁、ご一緒しませんかっ?て、あれ絶対、何処かの国の上流階級の人だよ」
グラディオラスが呆れて警戒を解く
「んだよそんな事かよ。無理に決まってんだろ、こっちは素性を隠して行動しなきゃなんねぇ。それに万が一の時は危険が及ぶ可能性もある」
「あー、だよね~、すげぇ残念だけどちょっと断ってくる」
プロンプトがとぼとぼと引き返していった。
「プロンプト浮かれすぎだろ」
ノクティスが言う。
「しかし、プロンプトに声をかけるとは、その女も大概かわりもんだな」
グラディオラスが笑う。
「グラディオがかけられても、一緒だけどな」
ノクティスの言葉にグラディオラスが反論する。
「は?俺の鍛え上げられた筋肉を見ろ」
「いやいや、そんなのに惹かれる貴婦人は存在しねぇから」
「じゃあ、お前みたいなひょろひょろに声かける貴婦人もいねぇよ」
「は?俺は王家の気品がにじみ出てるだろうが」
「いや、一ミリも出てねぇ」
イグニスはそれを眺めていた。
「浮かれているのは、プロンプトだけではないようだな」
イグニスがため息をついたころ、またプロンプトの声が聞こえた。
「ああ、ちょっと、お姉さん」
プロンプトが呼び止めようとしている女性は、日傘をさして、迷わずこちらに向け優雅に歩いてきた。グラディオラスとノクティスも言い争うのをやめて、女に注意を向けた。
「あれがプロンプトの言ってた・・・知り合いか?なんか真っすぐこっちに向かってくるぞ?テネブラエの関係者とか」
グラディオラスが、ノクティスに聞く。
「いや、記憶にねぇ、そもそも俺がテネブラエにいたの12年前の少しの間だけだしな」
「ああ、ルナフレーナ様に夢中で覚えてないってか」
「ちっ、げぇし」
また揉め始める二人を見ながらイグニスが驚いている。
「お前たち・・・分からないのか?」
「うん?イグニスは知ってるのか?」
ノクティスが首を傾げ
「俺は会ったことないだろ」
グラディオラスが聞いた。
「彼女は・・・」
若干呆れながら言いかけたイグニスの声をかき消すように
「ごきげんよう」
近づいてきた女は言った。その声に何故だか聞き覚えがあるような気がした。ノクティスやグラディオラスは良く分からないままお辞儀を返した。
「忘れちゃった?」
女がサングラスの奥から真っすぐこちらを見つめているのが分かり、ノクティスは慌てた。
「ああ、いや、ちょっと待ってくれ、今、思いだすから」
その様子にイグニスが頭を抱えている。
「ノクト・・・彼女はアラネアだ」
「はっ?アラネ・・、いや、何言ってんだよイグニス」
ノクティスはイグニスの顔を見るが、イグニスの顔は大まじめだった。
「・・・嘘、だろ?」
女が笑いをこらえていた。
「上手く化けたな・・・」
グラディオラスが思わずつぶやいた。
「失礼だろ」
サングラスを取ってアラネアが笑う、プロンプトが、後ろで固まっていた。振り返りながらアラネアが言う
「ああ、ごめんごめん、全然気づかないからさ、ちょっとおもしろくなっちゃって・・・やっぱり似合わないよね」
「いえ、その、全然、似合ってます。綺麗です。凄く」
プロンプトが展開についていけず呆けたようにそう言って何度も頷いている。
「・・・そう?なんかそういわれると照れる、ね」
アラネアが恥じらう。プロンプトの所為で、一瞬不思議な空気が流れた。
「なんで、お前が此処にいる」
その空気を振り払うようにノクティスが口を開く
「ああ、そうだね本題に入ろうか、あんたたちが、列車でテネブラエを目指すだろうと踏んでね。協力してやろうって事さ、帝国は、テネブラエ進攻に備えて、テネブラエへ入る人や物資を調べてる。そこで、あんたたちは乗客に紛れて潜り込もうと考えているんだろうが、それじゃあまだ危険がある。明らかに浮いてるからね。男四人の旅よりも、旅をしている高貴な女とその取り巻き四人の方が怪しまれないって事だよ」
「高貴な?」
冗談だろうというようにノクティスが疑問を投げかけるが
「眼鏡君以外は気付かなかったじゃないか」
そういわれて黙る。
「さて、この中で帝国式の発音で公用語を話せるのは?」
「俺だけだな」
イグニスが言う
「じゃあ、あんたが執事だ。んであんたは護衛役、というかそれしかできそうにない」
グラディオラスがそう言われ、まぁそうだなと何故か嬉しそうに言う。
「王子もだね。護衛としては華奢だけどまぁ、下手にボロが出るよりはましだ。護衛役はとにかく何も言わない事」
「俺は?俺は?」
プロンプトが期待を込めて、餌を待つ犬のように聞く
「あんたは、そうだねぇ。売れない写真家ってことにしよう」
「ええ~」
「不満かもしれないけど売れっ子っていうのは無理だし、その見ためと動きじゃ、従者も護衛も不自然。いつの時代も金持ちは芸術家を囲うもんだしね。まぁ、服も用意してやったから、着替えてきな」
「これが罠でないという保証は?」
イグニスが問う
「あんたも疑り深いね。まぁ、当然だけど。乗客を巻き込んでまで列車内で襲うぐらいなら、この間やってる。私は今回も武器を持ってない。それに比べてあんたらはいつでも召喚できるだろ?なんかあったら、私を人質にでもしたらいいんじゃない?まぁ、私の部隊以外の連中には効かないけど・・・ま、そういうことだから、なんかあったら私も守ってもらいたいね」
「アラネアはなんでそこまで協力してくれるの?」
プロンプトが不思議そうに聞く
「ああ、これは別に慈善活動じゃないよ。あんたたちが、テネブラエに入れなくちゃ、そもそも計画はご破算。それにあんたたちとは手を組んだけど、肝心のお姫様と交渉しなくちゃならない。戦った後で、報酬が出なかったら丸損だからね。お姫様がいるテネブラエにどうしても行く必要があるのさ、だから気にしなくていいよ」
「そこは、親切心って言っといた方が、聞こえがいいんじゃないか?」
グラディオラスの疑問にアラネアが答える。
「ああ、まぁ、そうだけどそれじゃあそこの眼鏡君は納得しない。だろ?」
イグニスは少し不満そうに同意した。
***
列車は順調に進み。アラネアのおかげで、帝国軍と大したトラブルも起こさずにテネブラエまで到着した。
「意外と降りる客も多いんだな。帝国の宣言で、テネブラエからは人が逃げようとしているかと思っていたが・・・」
「帝国に対する抗議の為に集まる者、あるいは騒動が始まる前にテネブラエに置いてある財を持って逃げようと考える商人や帝国人と言ったところだろう」
イグニスの言葉を肯定するように帝国兵に向けてプラカードや、横断幕を掲げ抗議している民衆の姿が見えた。そのなかには、テネブラエ人だけでなく、ルシス人や、ニフルハイム人らしき姿まで見える。
「それだけルナフレーナ様が慕われてるって事か」
プロンプトの言葉にイグニスが同意する。
「ああ、帝国内にも現在のやり方に疑問を持つ者は多い。12年前の属州化にも、反対の声は大きかった。それにルシスでの戦闘の事も帝国に対して不信感を生んでいる。ノクト、ルナフレーナ様の生存が公になり、発表した死亡説を帝国自らが覆したことがそれを増長させた」
「俺達にとっては都合がいいという事か」
グラディオラスの言葉に頷きながらもイグニスは、僅かに険しい顔をしていった。
「ああ、だが、同時にノクトの捜索が公然と行われるようになったという事でもある」
「難しいね」
プロンプトが言う。
「ほら、そういう話はあとで、いくよ」
アラネアに促され、テネブラエの駅舎出口で行われている入国審査の列に並ぶ。ゲートに一人ずつの帝国兵が付き、身分証を確認しているのを見て、プロンプトは緊張を高めた。順番が来るとアラネアが事前に用意し乗車時や車内でも使っていた、全員分の偽造身分証を提示した。
「帝国人・・・」
その後に、帝国兵は顔をしかめて小さくつぶやいた。
「しかも貴族か・・・」
車内でわかった事だが、帝国には、貴族と言う上流階層が存在するらしい。そしてそれは、平民出身者が多くを占める帝国の一般兵からすると煙たい存在のようだった。
「このテネブラエに何をしに来た?」
帝国兵は、できるだけ高圧的に見えるように胸を張った。グラディオラスが対抗して前に出ようとする演技を、アラネアが手振りで制し、アラネアは丁寧な口調で、だが冷徹に答えた。
「何をしに?それを聞きたいのはむしろこちらの方。何かをしようとしているのは、あなた方でしょう?本当は、オルティシエを見て回りたかったのだけれど、オルティシエは半壊。入国する前だったことが僥倖でした。帝国軍が治安維持の為に派遣されたと聞いたのだけれど、あの時あなた方は何をしていたのかしら?おかげで観光旅行は中止、私はあなた方がまた何かを起こす前に、ここにある財を我が家に持ち帰らなければならなくなった。実に迷惑な事。さて、ここで時間を取られ、私の命と我が家の財に何かあった時は、貴方が責任を取れるのかしら?」
帝国兵が怒りで顔を高揚させながら反論しようとしたが
「貴方、名前と所属は?」
その一言で全てのみ込んだ。何の取り得もない一般兵の自分など、容易く社会的に抹殺できるだけの権力を貴族が有している事を彼は痛いほど知っていた。
「もう結構」
帝国兵は吐き捨てるように言って、道を開けた。それが彼にできた最後の抵抗を示す態度だった。
「ありがとう」
アラネアは微笑んでそう言い。屈辱に唇を噛みしめる帝国兵の横を颯爽と通り過ぎた。
ノクティス達も後に続いた。
***
宿の部屋に入り、ノクティス達はようやく一息つくことができた。
「礼を言う。俺達だけではここまで上手くいかなかっただろう」
イグニスが、まずアラネアに頭を下げた。
「構わないよ。私たちの為でもあるしね」
「だが、実際貴女がいて助かったことは事実だ」
「ありがとうございます。アラネア様」
プロンプトがアラネアに向かい、膝をついて祈っていた。帝国軍との戦闘も無く、平穏に到着できたことがプロンプトにとっては奇跡のように思えたのだろう
「なんだありゃ?」
「・・・囲われてる売れない写真家の真似じゃないか?」
プロンプトの大げさな称賛をグラディオラスとノクティスが、冷ややかに見つめた。
***
数日が経過したが、ノクティス達は、テネブラエの宿に留まっていた。下手に出歩けば、帝国兵に咎められる可能性もある。それは、アラネアの顔を知っている帝国兵が居る可能性を考えればアラネアとて同じことであった。その為、部屋を二つとった。帝国式の標準語を話せるイグニスだけが、街に出て情報を集めていた。階段を昇ってくる足音に、グラディオラスがドアの横で警戒する。取り決められた独特のノックは異常無しの方だ。グラディオラスが扉を開けてイグニスを迎え入れる。
「どうだった?」
「宿の主人に聞いた反帝国系のレジスタンスや、帝国兵の配置。街の様子を見てきたが、どうやらルナフレーナ様が宮殿に入られたらしい。それに伴って帝国はかなり大規模な飛空艇群を、こちらに向けて出航させたようだ。表向きは、ルナフレーナ様に対する評定を開くためだが、皇帝や宰相、帝国の高官たちが乗っているという情報は得られていない。目的は侵略だろう」
「インソムニアの時と同じか」
ノクティスが忌々しげにつぶやく
「平和を尊ぶルナフレーナ様は快く思わないだろうが、レジスタンスを通し街に噂を流しておいた。帝国に抗議している民衆は扇動され、今夜、帝国軍が閉鎖している宮殿前で混乱が生じるだろう」
「決行は今夜か」
「ああ、急で悪いが、時間をかければ計画自体が漏れる危険性もある」
「そうだな」
「え?待ってよ。民衆を扇動するって、でもそれじゃあ・・・」
戸惑うプロンプトはノクティスを見た。それを見てイグニスは答える。
「全ては、俺の一存だ」
「どちらにしても、此処は戦場になる」
グラディオラスが告げる
「将軍とは?」
「連絡をつけた。王都警護隊は俺達に合わせ行動する。騒ぎに乗じてテネブラエの封鎖線を破り、王都警護隊を招き入れ、帝国飛空艇群の到着前にテネブラエを占拠、防備をかためる」
「帝国との戦いを早期に収束させることだけが、犠牲者を減らすことができる。俺はイグニスの判断を信じている」
未だ戸惑っているプロンプトにノクティスはそう言った。
「わかった」
プロンプトが覚悟を決めたように拳を握りしめ、頷く
ノクティスは立ち上がり、イグニスに向き合う。
「イグニスには、いつも嫌な役回りを押し付けてしまう」
イグニスは笑った。
「構わない。それが俺の役目だ」
***
アラネアは、自らが昏倒させた帝国兵が身に着けていた刺突剣を取り上げた。
「剣か、剣はあんまり得意じゃないんだよね。まぁ銃よりはマシなんだけど」
そう言いながら、アラネアは次々と帝国兵を薙ぎ倒していく。アラネアを守らなくてはと思っていたプロンプトがむしろ守られる側となり、唖然としていた。アラネアの活躍もあり、宮殿での騒ぎに乗じて帝国のテネブラエ駐留軍が張っていた封鎖線は破ることができた。コル率いる王都警護隊がテネブラエへの入場を開始している。
「ここまでは上手くいったな。つーか、分かってたけどよ。槍なくてもあんだけ強ぇのかよ。どこに守る必要があったんだ?」
「無かった・・・」
グラディオラスの言葉にノクティスが同意した。先行していたアラネアが、帝国軍が倉庫として利用していた建物から笑顔で出てきた。
「帝国のやつら結構備蓄してたわ。私らの事前の必要物資は、この中からもらうから、あとは、王都警護隊で使えば?」
そこに部下に指示を与え終えた、コルが合流する。
「良くやったな。街の制圧は王都警護隊に任せ、お前たちは宮殿へ向かい神凪を保護しろ」
事情を伝えられていたコルはアラネアを見ても特に何も言わず。アラネアもわざわざ自己紹介する為に時間を割くつもりは無かった。ただ、値踏みするように一瞬だけコルを見た。
「さて、王子様、愛しのお姫様に引き合わせてもらおうか」
宮殿を目指し、走り出すノクティスにアラネアが続いた。
***
ノクティス達は、抗議隊と封鎖線の襲撃で混乱の中にある帝国軍を突破し宮殿へ侵入、ほどなく、王都警護隊も駆けつけ宮殿は完全に制圧された。ノクティスと再会するのもつかの間、自由になったルナフレーナは宮殿の中で活動を始めた。
「特に傷の酷い人は、私のところへ運んでください」
指示に従い、テネブラエにいた侍従たちが駆け回っている。
「戦いが終われば、テネブラエも帝国もありません」
ルナフレーナは降伏し捕虜とされた帝国兵であっても、癒して周った。
「ルーナ少し休んだほうがいい」
ルナフレーナが力を行使し、疲労していくのを見てノクティスが気遣う。
「使命の為、仕方が無いとはわかっています。それでも、割り切る事はできません。私が引き起こしていることです。僅かでも私にできることがあるのなら・・・」
「ルーナ、これは俺が」
「いいえ、私がこの街に戦乱を招いている。ノクティス様を責める訳にはいきません。
むしろ私の至らなさがノクティス様にも辛い思いをさせてしまっています」
「そんなことは無い」
強くそう主張したノクティスにルナフレーナは微笑む。ノクティスは、ルナフレーナの負担が少しでも減るように、回復薬で間に合う人にイグニス達と手当てをして回った。その間、アラネアは黙って待っていた。一通りの処置を終え、ルナフレーナが休息を取る為に自室へ移動したとき、ノクティスや、侍従たちと共に、アラネアも当然のように付いてきた。侍従たちにはルナフレーナが、ノクティス達の事を説明していたため、当然のようにアラネアも関係者だと思っていた。
「これからの事を話合わなければなりませんね」
ルナフレーナの言葉にイグニスが賛同する。
「ええ、コル将軍もまもなくこちらに来られるでしょう」
「ところで、そちらの方は?」
ルナフレーナがアラネアを見て疑問を口にした。
「ああ」
ノクティスは、アラネアの事をすっかり忘れていた事に気付いた。どう説明したらいいものかノクティスが考えていると、アラネアが前に出た。当然ルナフレーナが知っている人物だと思っていた侍従が警戒し遮ろうとするのをルナフレーナがとどめる。
「危険があるならば、ノクティス様が止めてくださいます」
そういわれ侍従は、それ以上前に出るのをやめた。
「初めまして、お姫様。私はアラネア・ハイウィンド。アラネアって呼んでくれていいから」
「はい、アラネアさん」
律儀に敬称をつけるルナフレーナにアラネアは笑った。
「王子に任せてたらいつまでかかるか分からないからね。詳しくは私から話すよ」
***
アラネアから全てを聞いたルナフレーナは聞いた。
「つまり私に後ろ盾になってほしいと?」
「そういう事」
「それは構わないのですが、テネブラエに私が自由にできる財はそれほど・・・ああ、いえ、帝国が手を付けなかった財がありました。この宮殿にある宝物。それならお渡しする事が出来ます」
ルナフレーナは、とても良い解決策を見つけたというように頷いてみせた。
「ルナフレーナ様それは、この宮殿にある物はどれもフルーレ家に代々伝わる大切な物。そのように簡単に・・・」
そう侍従長が、声を上げる。
「構いません。宝物などどれだけあっても意味の無い物。それで国、ひいては世界の安定が守られるわけではありません。それにどちらにしても、この戦に敗れれば帝国の手に落ちます」
それを聞いた老婆は口を噤み、引き下がった。
「それで、いかがでしょう?」
ルナフレーナはアラネアに問う。
「十分だよ。それじゃあよろしく。お姫様」
「はい」
アラネアの差し出した手を、ルナフレーナが握った。
「ああ、報酬は戦いの後でいいから、私は少し休ませてもらうよ。部下たちにも知らせてやらなくちゃならないし、そうだね。広間にでもいるよ。また将軍が来たら呼んでくれ」
そう言って、アラネアは満足そうに、その場を後にしようとした。
「ああ、待ってください。アラネアさんに部屋を」
その言葉を聞いて侍従の一人が、ルナフレーナに頭を下げ慌てて後を追った。
「変わった方ですね」
「俺もそう思う。魔導槍で飛び回ったりするし、人間業じゃねぇ」
「ああ、いえ、部隊を率いている方なのに、清々しいというか・・・」
ルナフレーナは、今どこにいるのかもわからない兄の事を思い出した。少なくとも兄は、アラネアの様では無かった。12年前のあの日から、近寄りがたい存在になってしまった。会った事のある帝国の将軍グラウカにも同じ雰囲気を感じた。ルナフレーナは、軍隊を率いるとはそういうものなのだと考えていて、それに比べるとアラネアはとても変わっているように感じられた。
***
光に貫かれ獣が地面を転がっていく、恐怖から座り込んでしまった小さな女の子の身体を、少年が守ろうとしていた。それは何もしなければ、一瞬後には獣の振るった爪によって、引き裂かれただろう光景。少年が音に驚きながらいつまでも想像した衝撃が無い事を疑問に思い、獣の爪を防ごうと前に出していた腕を降ろし、目を開け、驚く、理解できない状況に少年は辺りを見回す。どうして助けようとなどしたのか、少年の顔がこちらを向く、散々人を死に追いやってきた自分が、今更子供を助けようとするなど、それが残った僅かな力すら使い尽くしてしまうだろうことは、分かっていたのに・・・倒れてゆく視界の中にこちらを見つめる少年の目が映った。このまま死ぬか、帝国に引き渡されるか、どちらかだろう。どちらにしても馬鹿馬鹿しく無様な事だと、薄れゆく意識の中でレイヴスは自らを哂った。