大戦と氷神の死によってクリスタルの調和は乱れ、それにより混沌の力が増し、その身体の一部であるメテオが地表を襲いました。巨神がそれを受け止め、かろうじて世界は救われましたが、それ以来神々は人の前から姿を隠し、星の力を取り戻す為眠りにつきました。
神凪の口伝
***
明けた朝。ファネスタラ宮殿には沢山の人が集まっていた。帝国からの解放に対する喜びと報復に対する不安を抱いて・・・王都警護隊は来るべき帝国軍本隊への防備と、市民の安全対策に追われていた。一通りの指示を出し終え、コルはアラネアと一部の王都警護隊を連れ、アラネアの部隊に必要物資を届けに行っていた。レジスタンスや、血気盛んな若者が、帝国兵から取り上げた銃を手に義勇軍の結成を主張している中。宮殿へ続く道には、少しくたびれた甲冑を身に纏った人の姿があった。よく見ればそれが一人ではない事が分かる。甲冑姿の人々は次第に集まり、宮殿へと向かってくる。それに気付いた人々が道を開けてゆく
「何だあれは」
その姿に警戒し王都警護隊の若者が制止させようとするのを年配の隊員が止めた。
「待て、あれは・・・」
そう言う男の目には驚きがあった。甲冑姿の彼らは、宮殿の手前、広場の中央まで至るとそこで停止し膝をついた。
***
「義勇軍ですか、確かに戦力は必要ですが、彼らは兵士ではありません」
ルナフレーナの声にイグニスが同意する。
「ええ、銃を手に入れたからと言って訓練を積んでいない彼らを戦場に投入すれば、それなりの被害は免れません。そして今、戦闘訓練をしている時間的余裕はない」
交わされる言葉に、ノクティスとグラディオラスは口を挟まない。プロンプトは、自分が此処にいていいのか分からず、おとなしくしていた。
「ならば、やはり認めるべきでは無いのではないでしょうか?」
ルナフレーナの言葉をイグニスは否定。
「いえ、認めなければ、彼らは独自に動くでしょう。むしろ名義上義勇軍を設立し王都警護隊に組み込むことで統率を図るべきかと、勿論彼らに与える任務はできる限り安全なものを選んで」
ルナフレーナはその考えに理解を示し、頷こうとする。その瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれ、侍従が駆け込んできた。
「ルナフレーナ様」
慌てた様子の侍従を落ち着かせようとしながらルナフレーナが聞く。
「どうしました?」
息を切らせながら侍従が窓を指さした。
「外を、広場の方をご覧ください」
ルナフレーナが立ち上がり、窓から外を見る。ノクティス達も続く。
「なんだありゃ」
グラディオラスが疑問の声を上げる。古びた甲冑に刻まれた紋章を見てイグニスが驚き、呟いた。
「あの紋章は・・・テネブラエ騎士団か」
慌てて部屋から出ていくルナフレーナに合わせてノクティスと侍従が続いた。広場に集まった彼らは、12年前の帝国による急襲で敗北し解体されたテネブラエ騎士団の生き残りだった。
***
広場から宮殿へ続く階段の上でルナフレーナは立ち止まった。
「ルナフレーナ様」
ルナフレーナを見て、先頭に跪いていた老年の騎士が頭を下げる。
「貴方は」
その老騎士には見覚えがあった。
「お久しぶりでございます」
「生きていたのですね」
喜ぶルナフレーナに老騎士は再度頭を下げ、声を上げる。
「12年前、我らは帝国を退けることができませんでした。シルヴァ様を守ることもできず。死ぬこともできず。帝国の目から逃れ、それでもテネブラエから離れる事もできず。生き恥を晒してまいりました。まして、此度も遅参したこと、重ねてお詫び致します。鎧は錆び付いてしまいましたが、我々の腕は未だ錆び付いてはおりません。それも全ては、いつか再びテネブラエの為、神凪様の為に戦う、この時を思っていたからこそ、もしも我らの力を今、欠片でも必要であると仰ってもらえるのならば、我らは全力で戦います。どうか今一度、この旗を掲げテネブラエの為の戦いに加わる事をお許しください」
老騎士の手には、傷んでしまった古い旗が、大切に握られていた。ルナフレーナは階段を降り、老騎士の前に至ると、膝をついてその手を取った。
「ありがとうございます。あなた方が再び集ってくれたこと、心から嬉しく思います」
老騎士は、喜びから涙を流し、促されて立ち上がった。そして、跪く騎士たちに向けて言った。
「今こそ、我らの汚名をそそぐときぞ」
老騎士は旗を掲げ、騎士たちは一斉に立ち上がった。色あせ繕われた旧テネブラエ騎士団の旗は、再びテネブラエの地に堂々と靡いた。
***
アラネアが率いる部隊は、中型戦闘飛空艇一隻、揚陸艇八隻。帝国からこちらに向かっているのは、大型戦闘飛空艇三隻、中型戦闘飛空艇六隻、揚陸艇九十六隻。アラネア部隊5千に、王都警護隊1万2千、テネブラエ騎士団およそ千、計1万8千に義勇軍を加えたテネブラエ連合軍に対し、帝国軍約4万、単純な戦力差は倍であったが、飛空艇の火力、魔導アーマー、軍用シガイを考えれば、その差は数十倍にまで広がる。その差を覆せるとすれば、それはノクティスの持つ神々の力以外には無かった。帝国のその飛空艇群を確認した時、流石のアラネア部隊にも不安が広がっていた。ビッグスは、悟られまいとしていたが焦っているのが分かったし、感情を露わにしないウェッジですら緊張しているのが見て取れた。そんな彼らを見てアラネアは笑った。
「皆浮かない顔をしてるね。ビッグスにウェッジまで、まるで新兵みたいじゃないか。こうなることは帝国から離反すると決めた時に分かり切ってたことだろ?何をいまさら怖れるんだ」
ビッグスがおどおどと反論する。
「それは、そうですが・・・いざ目にすると、こう」
「負けるとでも?言っとくけど私は負けるつもりはないよ。これはオルティシエとは違う、勝てる戦だ」
アラネアの自信にビッグスは驚く
「数は多かれ、奴らは、空の戦いなど考えたことも無い」
確かに、帝国の飛空艇は、対地上用に最適化されていた。そもそも対飛空艇戦は、飛空艇を所有しているのが帝国ただ一国だったため想定さえされなかった。戦闘飛空艇と呼ばれていても帝国にとっての飛空艇は、大量輸送と地上部隊への砲撃支援の為の浮遊する拠点に過ぎなかった。しかし、アラネアの飛空艇だけは違った。対飛空艇戦闘装備とも呼べる改造が秘密裏に施してあり、航行速度、旋回性能、どれをとってもアラネアの飛空艇は、他の飛空艇を圧倒していた。
「奴らに、本当の空の戦い方を教えてやればいいだけの事。飛空艇の扱い方で、私たちよりも勝っている部隊は無いよ」
その言葉にビッグスが頷く、他の部隊に魔導アーマーや、軍用シガイが配備されているなか、アラネアの部隊には、それらが一つも無かった。アラネア自身が好まなかった事もあるが、一番の要因は帝国軍内に存在する傭兵部隊という特殊な立ち位置の所為で生まれる正規軍からの反発により支給されなかった事にある。それゆえ、アラネアの部隊は、アラネア個人の力では補いきれない部分を、持っている飛空艇の力を最大限に活用する事で解決していた。飛行技能、飛行中の正確な射撃、砲撃能力、地上部隊との連携、どれをとっても他の部隊の追随を許してはいなかった。
「それに、私らの名を上げるのに、これ以上の舞台も無い。帝国を退けたとなれば、皆英雄になれるよ。まっとうな報酬も出るし、愛想の無いアンタでもモテるんじゃないか?」
アラネアが冗談めかしてウェッジに言う。
「お言葉ですが、姐さん。俺は英雄になりたいわけじゃありません。地位や財が欲しいわけでも、例え誰に非難されても、罵られる事になっても、ただ、貴女の下で戦いたい。その一心でここまで来たのです」
ウェッジの言葉と共に全員がアラネアを力強い眼差しで見ていた。アラネアは鼻を鳴らした。頬が、僅かに赤く染まっている。
「馬鹿どもが、それなら、そんな辛気臭い面してないで、気張りな」
その言葉と共に、全員が自分の仕事に戻った。目視できる敵影が圧倒的でも、もうその顔に迷いは無かった。
***
王都警護隊のテネブラエ解放を持って、帝国は事態をルシス残党とテネブラエによる神凪を奉じた宣戦布告と断定。テネブラエ及び神凪ルナフレーナの断罪の為、進攻を決定した。遥か遠くに現れた飛空艇の機影を見てグラディオラスが笑う
「完全武装した飛空艇群を差し向けておいて何が評定だ。端から侵攻する気まんまんじゃねえか」
「ノクト、準備は?」
「問題ない。雷神が力を貸してくれるそうだ」
***
「揚陸艇は散開し、敵揚陸艇の降下を妨害。特に魔導アーマー、軍用シガイは優先的に降下を阻止するか破壊。位置に気を付けな、王子が神を呼び出したとき、巻き込まれるんじゃないよ。地上部隊は帝国地上部隊を背後から奇襲。攻撃と撤退を繰り返せ」
「了解ですお嬢」
「じゃあ、任せたよ」
「お嬢、何処へ?」
「此処にいたって、もう私にできることは無いだろ。加勢に行くのさ」
アラネアは笑って飛び出していった。
***
砲撃射程内に侵入した帝国飛空艇がテネブラエへ向けて標準を合わせた時。急激に空を黒く厚い雲が覆い。辺りを薄闇に包むと同時に雷鳴が響いた。帝国飛空艇の主砲にエネルギーが充填され白熱を開始する頃。テネブラエと帝国飛空艇の間、空中に雷神が顕現した。帝国飛空艇は標準を変更。飛空艇の砲撃と共に、雷を纏った杖が飛空艇へと投擲された。杖は1隻の大型飛空艇を貫通し、近くにいた揚陸艇を巻き込み爆散させた。さらには、それにとどまらず、解放された雷撃が、周囲の揚陸艇を一時的に操舵不能にさせる。帝国飛空艇の集中砲撃の煙の中から雷神の手が伸びた。
***
「雷神、いまだ健在」
帝国飛空艇内で悲鳴のような報告が上がる
「退避行動、飛空艇を散開させ距離をとれ」
***
帝国飛空艇は、慌てて距離をとり、退避行動をとりながら散開していく
雷神の身体は砲撃により損傷していたが、天から集う稲妻が、それを修復していく、傷ついた皮膚や破れた衣を気にすることも無く、雷神は広げた手のひらに杖を再出現させた。
「すげぇこれならいける」
プロンプトが歓声を上げる
雷神に攻撃を集中しようとしたところを横合いから、アラネアの飛空艇が襲い掛かり、中型攻撃飛空艇1隻を沈める。帝国は、戦闘飛空艇の砲撃による制圧を断念。揚陸艇による降下作戦へと切り替えた。揚陸艇は、その機動力をいかし、テネブラエへの強行降下を実施。雷神をすり抜け街に近づかれれば、雷神は街への被害を避けるため攻撃できない。アラネアの率いる赤い揚陸艇が、帝国軍揚陸艇を破壊していくが、数に差がありすぎて間に合わない。雷神が二撃目を投擲。二隻目の大型飛空艇が落ちる。大型飛空艇は格好の的だが、散開し飛び回る揚陸艇群に対しては初撃ほどの被害を与えることはできなかった。その間も雷神に攻撃が集中し、雷神の身体では損傷と再生が繰り返されている。振り払った巨大な手が、不用意に近づいた帝国揚陸艇を叩き落とす。中型以上の飛空艇は、雷神の攻撃を避けるように谷間へ降下、部隊を展開させていく、森へ落ちた大型飛空艇からも無事だった兵士や、魔導アーマー、軍用シガイが現れる。それらは、隊列を組みテネブラエへと続く峻厳な山道を攻め上げってくる。数で勝る帝国兵に対し、コルの率いる王都警護隊が善戦を繰り広げる。赤い揚陸艇が山を利用して姿を隠しながら、帝国の揚陸艇に対し果敢に機銃攻撃を繰り返す。それでも、魔導アーマーと軍用シガイの力で大きく前線は押され、帝国兵は、テネブラエの街へと迫る。さらに至る所に強行降下した揚陸艇から現れる帝国兵により、いつしか前線は乱れ、テネブラエの街中での混戦となった。帝国兵には家々の窓から、食器や壺と言ったものが投擲される。
「テネブラエ人が」
帝国兵が忌々しげに叫ぶ。
「民に犠牲者を出させるな」
民家を狙っていた魔導アーマーを斬り伏せながら発せられたコルの号令に、王都警護隊が奮起。テネブラエ騎士団や、その旗下となった義勇軍も攻撃と撤退を繰り返す。背後からアラネアの地上部隊に奇襲され、混乱した帝国軍を押し返す。だが、どれだけ押し返そうと次々と現れる揚陸艇の降下部隊への対応は後手に回らされてしまう。ノクティス達は、それを倒しながら、街を駆け巡っていた。
「くそ、きりが無いな」
「せめて、揚陸艇を何とかしなくては、単純な武力衝突ではこちらが不利だ」
イグニスの言葉に合わせるように強い風が吹いた。
「煩い。煩いのう。訳知り顔で不遜な爺の雷撃の音がするわい」
テネブラエが揺れる。
「地震?巨神も呼んじゃったの?」
プロンプトがノクティスに聞く。
「いや、そんなはずは・・・」
「この揺れは地面からじゃない。あそこからだ」
イグニスが指さした先は、テネブラエの横にある奇妙な山、その一部がラムウによって弾かれた帝国飛空艇による砲撃の余波を食らって崩れ落ち、そこから光が漏れている。
「あれは?」
光の前方に、膨大な量の大気が集い。ラムウが発生させた雲や、周囲の砂をも巻き込み球体状の暴風となって弾ける。暴風を弾けさせたのは巨大な2対、合計4枚の翼。それがつながるのは、豊満な胸を羽毛で包んだ美しい女の身体。長い手足には鋭いナイフのような爪が並ぶ。
「此処は、妾の領域ぞ?」
翼の生えた女は薄く笑った
「あれは?」
グラディオラスの疑問にイグニスが驚きと共に答える。
「八神?創星記に記載されていない神か?」
その神が発生させた風が、竜巻となってラムウに襲い掛かる。通り道にあった帝国の揚陸艇を沈めたその竜巻をラムウが雷を纏った杖で受け止める。余波で削られ巻き上げられた岩が砕かれ砂となってテネブラエへと降り注いだ。ラムウが、飛空艇を牽制しながら顕現した神に向き直る。
「味方じゃないの?」
プロンプトが呻く、帝国軍はおろか、王都警護隊にも混乱が生まれた。
「まずいな」
コルが呟く、不意に発生した青い魔法の輝きが雷神に突撃しようとしていたその神を縛り付けた。
「これは・・・いつぞやの、やはりあの時も、お前だったのだな。また妾を縛ろうとするか爺」
雷神は黙して語らない。拘束を破ろうとあがく神に、地表から声がかけられる。
「久しぶりですね風神」
風神はその声を探した。
「うん?お前は、お前も関わっておるのか、だが何じゃその姿は、また遊んでおるのか?それにどこか物足りぬ。なんというか、まるで欠片の様じゃわい。雷神が妾を縛ろうとしているようじゃが、二度も同じ手は食わぬ。今度は眠らぬ。何故じゃか調子がいいからのう。すぐに破り、雷神を切り裂いてやろう、その次はお前じゃ、弱っていようが容赦せぬ。妾の鬱憤を晴らすために死ね」
ゲンティアナは、風神の恫喝を気にも止めず会話をつづけた
「風神、時が来ました。指輪を渡した事、覚えている筈」
「うん?いつぞや竜神が指輪をくれてやった事か?よう知らぬ。あの時は竜神やら、爺やらが何か言っておった気がするが、聞き流しておったら水神の奴が喚きおったからほっぽりだして、帰ってきたんじゃからのう」
「彼は、現在のルシスの王、ノクティス・ルシス・チェラム。王を裁定し、認めたのならば力を貸して頂きたい」
「力を貸せじゃと?妾は誰にも従わぬ。それにノクティス・ルシス・チェラム?そんな者知らぬ。ルシスだという事は分かる。チェラムと言う響きにも聞き覚えがある、だがノクティス?そんな名は知らぬ。そもそもこやつらは増えすぎて区別がつかぬからのう。まして、妾が眠っておる間に、妾の地に住み着いておるとは不敬極まる。爺にお前を屠った後に、滅ぼしてやるとしよう」
「風神よ。彼らを侮るものではありません」
「侮る?地上を這い、脆いこやつらを、侮らぬ方がどうかしておる」
「それはどうでしょう?自信があるのならば、王を倒してみては?あなたにそれができるかどうか」
ゲンティアナの挑発に風神は乗った。
「なんじゃと?言うたな。爺とお前をやる前に、望み通り王とやらを妾の爪で串刺しにして、お前の前に晒してやろう。お前の悲しむ顔が楽しみじゃのう?」
風神は笑みを作り、ゲンティアナは風神に頭を下げ消えた。風神は拘束を解きつつあった。
***
「ノクティス」
風神の下へ向かう為、戦場を走っていたノクティスの横にゲンティアナが現れる。
「彼女は、風神ガルーダ。今、ルナフレーナがその力を抑えていますが、それも長くは持ちません。彼女は気まぐれで残忍。暴れ始める前に、急ぎ風神を鎮めなさい」
ゲンティアナはそれだけ伝えると消えた。
「鎮めろつってもな、どうしたらいいんだよ。あいつ何も言ってこねぇぞ」
「八神の一柱か」
コルが王都警護隊を引き連れやってくる
「コル」
「あれは、隠してた切り札ってわけじゃないみたいだね」
アラネアが、魔導槍で空から駆けつけてきた。
「アラネアも」
「帝国は俺達に任せ、お前たちはあれを抑えろ。あいつは危険すぎる」
「だけど将軍、あれ飛んでるし」
あの高度と体の大きさでは、プロンプトの銃撃も効果は薄そうだった。コルが頷く。
「プロンプト、こいつを使え」
コルは長大な銃をプロンプトに手渡した。
「うわ、重っ」
コルが平然と持ってきたそれの想像以上の重さにふらついたプロンプトを咄嗟にグラディオラスが支える。それは、王都警護隊が対帝国兵戦闘車両、魔導アーマー用に開発したアンチマテリアルライフルだった。
「使い方は記憶しているな?」
「あ、はい、一度資料で」
「空を舞うあれには、剣は届かない。これは、お前の役割だ。これまでの鍛錬の証しを見せてみろ」
コルにそう言われプロンプトは身を引き締めた。
「は、はい、将軍!」
「間違っても俺に当てるなよ?」
ノクティスが冗談交じりに言う。プロンプトはその長大なアンチマテリアルライフルをノクティスから与えられている武器召喚能力で一時的に空中に消した。
「任せといて」
プロンプトが胸を叩く。
「将軍作戦は?」
イグニスが問う
「イグニス、お前ならどうする?」
そう言われイグニスが戸惑う。
「俺ですか?」
「ああ」
そう言われ、イグニスが考えを述べる。
「空中戦が可能なノクト、アラネアに協力してもらい共に空中で風神を攻撃。隙をつくりプロンプトの狙撃と連携。俺とグラディオでプロンプトを守ります。将軍には、王都警備隊を率いて頂き、帝国の地上兵からテネブラエの防衛を」
「それでいい」
コルは笑って同意する。イグニスは息を吐き、アラネアに向き直る。
「協力を頼めるだろうか?」
「構わないよ。あれをどうにかしないと、部隊が全滅しかねないからね」
アラネアは、兜に内蔵されている無線機を繋いだ。
「ビッグス、ウェッジもいるね」
「はいお嬢」
「これから、コル将軍の指揮下に入り、王都警護隊と共にテネブラエの防衛にあたりな」
「は?しかしお嬢は?」
「私は顕れた神を抑える」
「ならば、我々もお嬢と共に戦いたく思います」
アラネアがため息をついた。
「馬鹿、お前たちが来たって役にたちゃしないだろ。見るからに高機動のあれに揚陸艇で挑んだって落とされるのが目に見えてる。馬鹿でかい棺桶で死ぬのがお前たちの役割じゃない。それよりもこっちに向かってくる飛空艇や揚陸艇を抑えな。こうなっちまったらもう、雷神は当てにならないよ。幸い、飛空艇、揚陸艇の数は減ってる。今ならあんたたちだけでも渡り合えるだろ。あんたたちの活躍が私たちを守る事になるんだ」
「それは、確かに・・・」
「それに指揮を執るのは、あの不死将軍だ。不足は無いだろ。頼りにしてるよ」
「了解です。お嬢、御武運を」
「ああ、そっちもね」
アラネアが通信を切断。
「コル将軍、そういうわけだから」
コルに声をかけ、予備の無線端末を投げてよこす
「私の部下、あんたに預けるよ。それなりに役に立つはずだ」
コルが軽く頭を下げる。
「心遣い感謝する」
「なに、かまやしないさ、ただ、できるだけ無傷で返してくれ」
「承知した」
「行くよ!」
アラネアに続き、風神へと走る。その近くまで来たときルナフレーナが発生させていた、拘束魔法が破られる。自由を取り戻した風神が、天空へ舞い上がり。自らの方向へまっすぐ向かってきていたノクティス達を睥睨する。
「お前が王かえ?」
「そうだ」
ノクティスが叫び返す
「逃げられても面倒じゃし、爺やあいつが出しゃばってきても面倒じゃからのう」
風神が手をかざすと、風神を中心としてノクティス達を囲むように竜巻の壁が発生した。
「これって・・・」
「ああ、水神の時と同じだ」
「これでもう、何処へも逃げられはせぬ。妾こそ、最も創星の女神に近き者。見よ、この翼を、あの尊大な竜神すら持ち得なかったものぞ、地を這うしかないルシスの王よ。泣いて許しを請うが良い。もっとも許してはやらぬがな」
嗤い声と共に、風神が突進する。ノクティスがシフトで、アラネアは魔導槍で、宙を駆ける。
「ほう、地を這うしか能が無いと思っていたが、妾の真似をするか小癪な」
突き出した剣と爪がぶつかり、弾かれる。
「こいつ」
想像以上の圧力に、ノクティスが舌打ちする。
「真っ向から当たるんじゃない。身体がでかい分、付け入る隙も大きい。よく狙いな」
アラネアが、高速で宙を飛び回りながら、風神に攻撃を仕掛けてゆく
「こやつ、なかなかやりおる」
風神がアラネアの攻撃を受けながら感心したように笑う。攻め続けていたアラネアが一転、距離をとり、プロンプトの狙撃が風神を狙う。風神は反撃を中止しそれを回避、そこへノクティスが強襲。風神の爪と競り合い。押し負ける。ノクティスは、シフトで追撃を回避。風の壁から突き出した崖や、舞い上げられた岩に着地し、体制を整えながら攻撃をつづけた。隙を見て再びプロンプトが銃弾を撃ち込む。
「ああ、鬱陶しい」
銃弾を躱した風神がプロンプトの方へ向き直ろうとしたところを、ノクティスとアラネアが攻撃する。風神は怒りと共に爪を振った。ノクティスとアラネアはその爪から逃れ、距離をとる、風神に再び銃弾が叩き込まれ、回避しきれなかった風神の身体を掠めた。風神の羽毛が散り、血が流れる。
「さきほどから、ちまちまと」
アラネアが攻撃を再開するが、風神は無視。一直線に銃弾が飛んできた方向へ向かう。
「来るぞ」
向かってくる風神の鉤爪をグラディオラスの大剣が受ける。風神は左右から迫るノクティスとアラネアの一撃を、大きな翼を広げて防御する。動きの止まった風神の左目にイグニスの放った短剣が突き立つ。
「がぁぁぁあ」
風神が悲鳴を上げる。
「はっ、わざわざ近づいてきてくれるとは」
グラディオラスが笑う。
「おのれぇえええ」
風神は左目の短剣を引き抜き上昇。その翼ごと一気に身体を縮めた。
「離れろっ」
危険を感じ取ったアラネアが叫び、魔導槍の出力を全開にして上空へ退避。ノクティスはプロンプトたちの前まで退き、ファントムソードを全力展開、高速回転する剣の盾を発生させた。風神が翼を一気に広げ、そこから莫大なエネルギーが放出される。風神を中心とした一帯が球体状に抉られて消滅。ファントムソードの防壁の後方が辛うじて足場として崩れ落ちずに済んでいた。
「はははははは、思い知ったか」
風神が嗤う
「墜ちろぉおおおおお」
「何?」
上空から一気に落下してきたアラネアの魔導槍が、風神の肩に突き立てられた。地上に向かって落ちてゆく二人をノクティスが追いかける。地面に墜ちた風神は、アラネアを強引に振り落として、弾き飛ばした。樹木に叩きつけられたアラネアがそのまま膝をつく。ノクティスは真っすぐ風神に向かう。飛び立とうとした風神は、アラネアの一撃によって翼が失われ、それが不可能となった事を知った。
「あやつ妾の翼を千切りおったか」
風神は驚きと共にそう口にした。風神が歩き出そうとしたその前に、地上に降り立ったノクティスが立ちふさがった。
***
「ああ、くそ、壊れちまった」
アラネアの魔導槍は煙を上げていた。
「アラネア」
なんとか、崖の上から下りてきたプロンプトがアラネアを発見し、イグニスが、駆け寄り、回復薬を手渡す。
「ああ、ありがと。私は大丈夫だから、はやく王子のところへ行ってやりな」
***
一人で戦っていたノクティスの下へグラディオラスたちが駆けつける・
「飛べなくなりゃこっちのもんだ。さっさと終わらそうぜ」
「妾を侮るなよ」
風神の、その長い足が鎌のように振るわれる。グラディオラスが地面に突き刺した大剣で受け止める。刃をまともに受けていても、強靭な鱗は火花を散らしながらそれを弾く。ノクティスが、伸ばされた足の上を疾走、足を引きながら、振るわれる風神の腕を跳躍で回避、周囲に展開されていたファントムソードの突撃を風神は残された翼で防御。ファントムソードはその翼に突き立つが風神の身体には届かない。しかし、視界を自ら塞いだ風神の腿にイグニスの短剣が刺さり、左肩をプロンプトの銃弾が抉る。バランスを崩した風神が怒りと共に前に出ようと身を低くした瞬間に、ノクティスが上から叫ぶ。左肩を抉った銃弾による痛みと怒りが風神の意識から一瞬ノクティスの事を忘れさせていた。
「風神!」
首を回しながら上を見た風神の背中に、12本のファントムソードが叩きつけられた。残っていた右上部の大きな翼が断ち切られ、その足や、手に突き立ち、地面に押さえつける。ノクティスは意図的に急所を外していた。風神が膝をつく、限界を迎えたノクティスはファントムソードを消す。
「ぁあああ、おのれぇえ」
風の壁が解除される。叫びながら再び立ち上がろうとする風神を天空に現れた雷神が、その手で押さえつけようとする。
(もはや勝敗は決した。誓約に従いルシスの王へ力を与えよ)
「爺がっ、ふざけるなよ。妾はルシスの王になど屈せぬ」
風神が生み出した風が無理やり雷神の手を跳ね除ける。
「妾は、まだ負けてはおらぬ」
大気が再び渦を巻くのに合わせ、ノクティス達は、もう一度戦闘態勢を取る。
「きついな」
グラディオラスがぼやく
「風神よ。もう、十分でしょう。貴女の力が強大である事をルシスの王はもう十分に理解した。これ以上争っても互いの利益にはなりません」
ゲンティアナがノクティス達の前に立ちふさがり、雷神はその様子を見守る。形勢として既に勝ち目がない事を風神は理解していた。されど、それを大人しく受け入れることはできなかった。
「世界の均衡が乱れています。あの方の後継者であることを自負するあなたならばお分かりの筈」
「しかし、妾は力なぞ貸さぬぞ、・・・敗れてはおらぬのじゃからな」
再び圧を強めようとした雷神をゲンティアナが止める。
「雷神。ここは私に任せて頂けないでしょうか?」
雷神はその言葉を聞き、離れていった。
「風神、では、こうしてはどうでしょう?彼らを貴女の眷属として認めてはくださらぬでしょうか?」
その言葉の意味が分からず風神は聞き返す。
「眷属じゃと?」
「そうです。ルシスの王も貴女ほどではないとはいえ、十分な力を示したはずです。その褒美として、彼らに貴女が従うのではなく、彼らが貴女に従うのです。来るべき戦いの時、彼らを先兵として用いてはいかがでしょう」
風神は考え込んだ。
「ほう、なるほど、ルシスの王が妾に従うか、それは悪くないかもしれんのう、妾が名実共に真の後継者となるわけじゃな」
「ええ」
「ふむ、こやつは、こう言っておるが、どうするルシスの王よ?妾の眷属となるか?」
「・・・はぁ?」
ノクティスは困惑した。イグニスが耳打ちする
「ノクト此処は受けておけ、風神の力が得られる」
ノクティスは良く分からぬままイグニスに従った。
「わかった。風神、あんたに従う」
「そうか、そうか」
それを聞いた風神は満足そうに笑った。
「良かろう、ルシスの王よ。・・・して眷属にするとはどのようにやるのだ?」
風神の疑問にゲンティアナが答える。
「指輪を掲げさせ、そこに貴女が触れるのです」
「そうか、ルシスの王よ。跪き指輪を掲げよ」
「さぁ、ノクティス」
ノクティスがゲンティアナに促されるまま跪き掲げた指輪に風神が触れた。途端に膨大な量の大気が吸い込まれる。
「これより妾の眷属として認める。ふふふ、悔しかろう爺。貴様にできなかったことを妾は成したのだ。妾一人でも十分なのに、今や妾には手足となる眷属がおる。貴様の討伐など容易い事よ。あの時の恨み、晴らしてくれよう」
その言葉に雷神は沈黙で返し
「恐ろしゅうて言葉も出ぬか」
風神は都合よく解釈した。
「畏れながら、貴女様の手を煩わせるまでのことはありません。全て我々にお任せを」
イグニスの発言に風神は首を傾げた。
「うん?そなたらが雷神を討伐すると?」
ゲンティアナが続ける。
「それも勿論良いでしょうが、そもそもその必要はありません。雷神はルシスの王に力を与える契約を結んでおります。故に貴女の眷属であるルシスの王の傘下ともいえる雷神もまた貴女の支配下にあると言えるでしょう」
「うん?雷神も既に妾のしもべであると?それは、面白いが・・・いや、まて、それでは妾の恨みはどうなる?」
「どうしても処断なさりたいというのならば、来るべき戦いの後に行えばいいでしょう。戦いには戦力は僅かでも多い方が良い」
「ふむ、確かに一理あるのう、気に入らぬが、八つ裂きにするその日まで、飼殺すのも悪くは無いか、では、これより妾はなにをしようかのう、まだその時ではないようだし・・・」
「休息を取られてはいかがでしょう?」
「休息?」
「はい、この者たちは、貴女の目的達成の為に自ら考え行動します。時が来れば、この者達が請うでしょう。貴女はただ、待っていればいい。支配者とはそういうものです」
「ふむ、そういうものなのか?」
「ええ、貴女はまず傷ついた体を休めねば、王を眷属とした今、急速にあなたの身体は回復するでしょう」
「確かに、先ほどから急速に力が戻り、翼が再生しつつあるのを感じる」
「そうです。それがルシスの王を眷属としたが故に得られた力」
「そうなのか?便利なものじゃ、じゃが、何もせぬというのは退屈ではないか?」
「支配者とはみだりに顕れぬもの。ここぞという時にこそ顕れるが故に、崇められるのです」
「むう、なるほど、そういうものなのか、支配者になるというのもなかなか難しいものなのだな・・・では、妾の眷属達よ。妾はちと休む。そのあいだ妾の手足として励むが良い」
消えてゆく風神の姿を見て、プロンプトが座り込んだ
「助かったぁ」
「つーか、あれでいいのかよ。後でどうなるか・・・」
グラディオラスが言った。
「いいのです。今はまだ。それに裁定を経て誓約を交わしてしまえば、取り消すことはできませんから」
そう言って微笑みながらゲンティアナは消えた。
「・・・いいのかな本当に」
プロンプトは不安がぬぐえなかった。
***
コルやアラネア隊の活躍。風神が消え、雷神が帝国飛空艇に向き直った事で帝国軍は撤退を始めた。
「何とかなったようだな」
戻ってきたノクティス達を見てコルが告げる。テネブラエの街に勝どきが上がった。
***
着陸した赤い飛空艇内の病室に入るとベッドの上でアラネアが身を起こしていた。
「アラネア、大丈夫か?」
ノクティスが問う。
「ああ、お姫様のおかげでね。もう何ともないんだけど、寝てろってあいつらが煩くてね」
アラネアは病室の入り口に控えている、ビッグスとウェッジを顎で示して言った。
「そっか、良かった」
プロンプトが安堵する。
「問題は、あれ」
アラネアは、そういって、壁際に立てかけられた魔導槍を指で指した。
「魔導槍、直らなかったのか?」
グラディオラスは驚く、元帝国傭兵部隊であり、揚陸艇まで自在に操るアラネアの部隊ならば、魔導槍の修理など簡単にやってのけると考えていたからだ。
「ああ、ここまで壊れちまってると難しいらしい。そもそもの構造が特殊で、古いものだからね。うちの技師はお手上げだそうだ。帝国の技術部なら直せるんだろうけどね。そういうわけにもいかないしね」
アラネアの表情は魔導槍を見て曇った。
「あっ、そうだ。もしかしたら」
その様子を見たプロンプトが声を上げた。
***
「どう、だろうか?」
アラネアの不安そうな声にシドが答えた。
「あ?そうだな、まぁ直せるんじゃねぇか?」
「本当に?」
その言葉を聞き室内にアラネアの明るい声が響く。回復したばかりのアラネアに何かあってはいけないと、近くにはまたビッグスとウェッジが控えている。彼らにとってみれば本当はまだベッドに寝ていて欲しいぐらいだろう。
「しばらくかかるけどな」
シドがアラネアにそう告げている中、部屋の入り口でシドニーが口を開いた。
「技術者は多い方が良いと思って、じいじも連れてきておいてよかったよ。帝国製の武器や機械は私にはわからないからね」
テネブラエでは、街の復興。墜落した帝国飛空艇の撤去作業、破壊された防備の復旧作業などが行われている。シドニーはノクティス達にレガリアを届けるついでに、シドも連れてきていた。隣で、特に何かをしたわけでもないプロンプトが自慢げに胸を張っている。
「しかし本当に直せるのか?」
あまり信じていないグラディオラスの言葉を聞きつけたシドが反応する。
「俺を誰だと思ってるんだ?無駄に長い間機械弄ってたんじゃねえよ」
「でも、元帝国の技師が匙を投げた帝国製の魔導槍だぞ、なんでシドが直せるんだ?」
「あ?、まぁ趣味みてぇなもんだな。30年前の戦いの時から、帝国から取り上げた武器やらなんやらを弄って遊んでた。墜落した飛空艇を調べた事もあるしな。魔導機関にはちょいと詳しいんだよ。この魔導槍は、ほぼ30年前の初期型魔導機関を搭載していてさらに特殊な作り方をしてあるから、若い奴には直せねぇんだろ」
「まったくそう言われた」
アラネアがその見立てに感心し同意する。
「まぁ、おまえさんにはシドニーを助けてもらった借りもあるしな。最優先で直してやる。しかし槍自体に魔導機関を組み込むとは、最高にイカれた代物だな。並の人間じゃあ使いこなせねぇ。宙に舞い上がったが最後、地面に叩きつけられるのがおちだ」
「やっぱ、アラネアはおかしいんだよ」
ノクティスとグラディオラスが、こそこそと話す。
「シドさー、それ直せるんなら、もう飛空艇とか作れるんじゃない?」
プロンプトの何気ない質問に
「材料さえありゃな」
そう、シドが平然と答えた。
「は?」
プロンプトと共にノクティスと、グラディオラスが口を開ける。イグニスも口には出さなかったが驚いていた。
「お前さんたちは、魔導機関を帝国だけが作り出せた脅威の技術だとでも思ってたんだろうが、実際はそうじゃねぇ。単純な技術だけならルシスは帝国に後れを取っちゃいねぇよ。そもそも魔導アーマーや飛空艇、それに使われている魔導機関と呼ばれるそれは、帝国が手に入れたクリスタルの欠片を動力源にしている」
「クリスタルの欠片?」
「ああ、クリスタル自体が、強力なエネルギーを発することは知ってるだろ?」
「んじゃあ、なにか?クリスタル自体を所有していたルシスはその気になればいつでも飛空艇を作れたっていうのか?」
ノクティスの言葉にシドが頷く。
「まぁ、そう言う事になるな」
イグニスが疑問を口にする。
「しかし、魔導機関技術は未解明だとルシス技術部でも」
「そりゃあ表向きの話だ。魔導機関がクリスタルによるものだという事は俺も、レギスも知ってた」
「では、なぜ?」
「レギスがその情報を秘匿したからさ技術部に圧力をかけてな。一部の人間はそれを知っていた。だがクリスタルは、そもそも世界の均衡を保つための物だ。だからその力を本来は利用すべきじゃあないんだよ。帝国の勢力拡大と、緩やかに進んでいる世界の異変は無関係じゃあないって事だ」
ノクティスが納得する。
「ルーナの言っていた、世界の崩壊が早まったっていうのはそう言う事か」
「え?じゃあ、槍直しちゃっていいの?」
プロンプトはシドに聞いた。
「まぁ、本来は使うもんじゃねぇが、今更一つ使う事をやめたところでどうなるもんでもねぇからな。帝国には、もう魔導機関を使った兵器が何万とあるんだぜ。それらをいっせいに止めるってんならまた話は違うのかもしれんが、そんなことできねぇだろ。それに、一度崩れちまった均衡は簡単には戻せねぇ。帝国は崩壊の時を早めたかもしれねぇが、きっかけを作ったわけじゃねぇ。創星記を信じるなら神話の時代から予見されてたんだからな。だからまぁ問題は、こいつで何をするかって事だ。この槍がシドニーを助けたことは事実だし、お前らも風神の時には世話になったんだろ」
「ああ、まぁ」
ノクティスが頷く。
「どれついでだ、お前さんの剣も見せてみな」
「俺の剣?」
「ほら、有んだろ、レギスに貰ったのが」
「ああ」
シドは差し出されたエンジンブレードを眺め、その機関部を念入りに確認した。
「やはり、まだ真価を発揮できてはいないみてぇだな」
「はぁ?」
ノクティスにはシドの言葉の意味が分からない。
「お前さんの持ってるこの剣はな、なにも奇妙な装飾が施された剣ってわけじゃねえのさ。アラネアの持ってる魔導槍と同じ、まぁいうなればルシス製の魔導機関だな。ルシスに唯一人、クリスタルの欠片を身に着け、魔法の力を行使できる王の為につくられた剣。俺も発案者の一人でな。そもそもこいつはレギスが自分で使おうと考えていたんだが、魔法障壁の展開に伴って消費される魔力、合わせて使用されるファントムソードに魔法。それを含めた後に、この剣を発動させることがレギスにはできなかった。急速な老化に伴う剣圧の低下も要因の一つだな。全ておいて無理に発動させても、剣技がそもそも衰えているなら意味が無い。だから、剣はお前さんに渡された。レギスより強い力をお前さんは手に入れたが、その力を維持するために、また膨大な魔力が必要とされていて剣にまで行き届いていないのだろう。ルシスの技術の粋を集めて造られたこの剣は、やりすぎて、使えねぇもんになっちまったんだな」
シドは笑う
「いや、笑えねぇし」
「でもさ、この剣がアラネアの槍みたいな魔導機関だっていうなら、帝国の飛空艇に使われてるクリスタルを使えば?」
プロンプトの提案にシドは首を横に振った。
「いや、これは魔導機関その物じゃねぇからそういうわけにもいかねぇよ」
「そっか」
「だが、まぁもしかしたら、そのうち使えるようになるかもしれねぇし、もし使えなくても、世界にある最高の剣の一つである事は間違いねぇんだから、どっちでもいいじゃねぇか、大事にしろよ」
「ああ」
その言葉にノクティスは頷いた。
***
顔を、小さな手が触っている。きっと夢だろう。懐かしい、いつかの記憶だ。それでも温かい感情が広がる。目を開ければ、こちらを覗き込む顔。名前を呼ぼうとして、覗き込んでいる顔が思っていたものと違う事に気付く、瞬きをしても、それは変わらなかった。目を覚ました事に気付き、その女の子は嬉しそうに声を上げながら離れていった。天井に見えるのは木目。見覚えの無い温かな室内、柔らかなベッドの上、白い掛布団が身体を包んでいる。横を向けば、洗われたのだろう汚れの無くなった白いコートが、壁に提げられていた。これは夢でも帝国の留置場でもないようだとレイヴスは思った。
「目が覚めたみたいだね」
聞いたことの無い女の声。見れば、隣には先ほどの女の子がいる。少し元気の無い男の子も見えた。
「何故?私は・・・」
「あんたがどこの誰だかは知ってる。知ってるけれど、知らない。私が知ってるのは、あんたが、この子たちを守ってくれたって事だけさ、別に帝国に恩も義理も無いしね
まぁ、今は体を休めな。あんた。生きてるのが不思議なぐらいだよ」
女は半ば呆れたように言う。
「粥を作ろう、食べられるなら食べた方が良い」
***
レイヴスは粥を食べて、また眠った。目を覚ますと、壁に男の子と女の子がもたれかかって座っている事に気付いた。女の子は、寝息を立てている。男の子が女の子を起こさないように、薄手の布団をかけてやっていた。身じろぎした音に気付き、男の子がこちらを見る。
「大丈夫?」
男の子の問いに、レイヴスは頷いてみせた。
「助けてもらったお礼を言おうと思って」
男の子はそれで待っていたらしい。
「そうか、しかし、礼を言うべきなのはむしろ私の方だな。おかげで命を救われた」
男の子は表情を明るくした。
「だが、あまり褒められるものでは無いな」
「・・・うん」
男の子の顔から喜びが消える。
「あのあたりは、子供だけで立ち入るような場所では無い筈だ」
「母さんにもそういわれてた。でも妹にね。この時期だけ咲いてる珍しい花を見せてあげたかったんだ。もう、強くなったから大丈夫だと思って・・・」
レイヴスはできる限り優しい声で話しかける。
「母親が止めるのには、それなりの理由がある・・・強くなりたいのか?」
「うん、父さんがね、凄腕のハンターだったんだ。もう死んじゃったけど。沢山の人を守ったって母さんが言ってた。だからいつか僕も強いハンターになって母さんや妹を守るんだ。ああ、これは母さんには内緒ね。反対されるから」
「そうか、それならば、より自分の実力を知らなければならない」
そう言いながら、レイヴスは苦笑した。
「どうかした?」
「いや、私も君と同じだと思ってね。私にも守りたいものがある」
レイヴスは男の子の服を眠りながら掴んでいる女の子の小さな手を見て微笑んだ。
「けれど、私は君の様には好かれていない」
「どうして?」
「随分と酷い事をしたからね」
「守りたかったのに?」
「守りたかったからかな、その為に何でもしようとした。その結果傷付ける事になると分かっていても・・・」
「僕には、良く分からない」
「そう、だな」
「でも、傷つけたかったわけじゃないんでしょ?」
「ああ」
「それなら、それを伝えればいいんだよ。僕も妹と喧嘩しちゃうときがあるんだ。嫌いじゃないんだけど。嫌いだって言っちゃう。何度もね。でも、時間がたつといけないことをしたって思うんだ。・・・父さんが昔言ってた。大事なことは、ちゃんと言葉にして伝えないといけないって、だからちゃんと伝えればいいんだよ。自分が思ってることを、そしたらきっと、分かってくれるよ」
「そうかな」
「そうだよ、妹もそうだもん」
「そうか、そういうものかもしれないな・・・今度、試してみるよ」
レイヴスは、その子の言う簡単なことが、今となってはとても難しい事を不思議に思った。自分も同じように幼いころは、そうしていた筈なのに、レイヴスの言葉を聞き男の子は満足そうに頷くと、それからいろいろと話してくれた。やがて、男の子も睡魔に勝てなくなったようで眠ってしまった。正確な時間は分からないが、もう夜なのだろう。じきに母親がやってきた。
「ああ、やっぱり寝ちまってる。まったくしょうがないね」
そう言いながら母親は、優しい眼差しを子供たちに向けていた。
「この子らは、邪魔じゃなかったかい?」
「ああ」
「そうかい、あんたが起きるまで待って、どうしてもお礼を言うって聞かなかったからね。あたしは、この子たちを連れていくから、あんたも寝な」
そう言う、母親にレイヴスは聞いた。
「貴女は、医療の心得か軍役の経験が?」
「いんや、どうしてそう思った?」
「ほどこされた処置が、手慣れていると」
「ああ、私はね。ハンターだったんだ。死んじまった旦那と一緒になって、この子ができてから、やめちまったけどね。血は争えないのかねぇ、最近じゃあこの子もハンターになりたいなんていってさ、でも自分がやってたくせに、この子にはやらせたくないなんて思っちまうんだよ。都合のいい話だけどね。旦那にもやめて欲しかったんだけど、あの人は首を縦には振らなかった。そしてそれっきり、でもあの人は、そういう生き方しかできなかった。そんなことわかり切って一緒になったってのにね」
母親は男の子を起こすと、女の子を抱き上げた。
「旦那は救えなかったが、あんたは救えた。それは少しだけ、私を救ってくれた。ゆっくり休みな」
そう言って、部屋を出ていく母親に連れられた男の子は眠そうに目をこすりながら、レイヴスに手を振って部屋を出ていった。
***
その薄暗い部屋には三人の男がいた。
「神凪の始末には失敗。レイヴスも取り逃がし、テネブラエは風神によりオルティシエ同様半壊したが、こちらが負った被害の方が大きく。ルシスの王子はさらなる力を手に入れた。この不始末どのようにつけてくれる?」
苛立たしく問う皇帝に、アーデンはただただ深くこうべを垂れた。
「返す言葉もありません陛下」
さらに言葉をつづけようとする皇帝にヴァ―サタイルが進言する。
「なれど陛下、アーデンの用意していた機材により、雷神と風神の力を観測することができました。それは我らにとって非常に重要な情報となります。そしてなにより、この男は帝国に欠かせぬ男。確かに多くの兵を犠牲とはしましたが、未だ帝国は世界最大の軍事力を有している」
「ヴァ―サタイル、私がその軍部の乱れを知らぬとでも思っているのか?」
「それは・・・」
言いよどんだヴァ―サタイルを庇うようにアーデンが後をつぐ
「陛下その件に関しましては心配には及びません、もう間もなく完成するあれさえあれば、全て解決いたします。さすれば、どのような国も、王も、神凪すら意味をなさなくなる。ただ陛下のみが人の上に立たれるのです。この星の支配者として」
「では、完成を急がせろ」
「承知いたしました」
ヴァ―サタイルとアーデンは頭を下げ退室した。
一人残った皇帝は、玉座に座り、誰もいなくなった暗い室内で、ぼんやりとした灯に揺れる闇を見つめていた。
***
「いやぁ、助かったよヴァ―サタイル博士」
廊下を歩きながら、アーデンは何事もなかったかのようにそう言った。
「気にするな。お前はあれを完成させるのに欠かせぬ」
もう30年以上前のあの日。この男がやってきた時の事をヴァ―サタイルは思い出す。当時は、帝国の一研究者に過ぎず。偶然発見した力を放つ石。後にクリスタルであると判明したそれの研究が上手くいかず、行き詰っていた自分の下へ訪れアーデンはこう言った。
「ヴァ―サタイル博士、貴方は天才だ。他の誰からも理解されなかったとしても私にはわかる。私の考えを聞いていただきたいのです。この考えはまだ未完成。貴方の協力が得られなければ完成させられません」
見せられた図面に、どれだけ驚いた事か、そこには自分が考えていたクリスタルを利用した軍事兵器群のアイデア、そしてその動力源となる特別な機関の設計図と書き連ねられた理論があった。
「これは・・・」
「そうですね魔導機関とでも呼びましょうか」
故に、あれの完成には、この男が欠かせぬのだ。自分は天才などではない。むしろ天才は、この男だと何度実感させられただろうか、天才と褒めたたえられるたびに、劣等感に苛まれた。そして何も言わぬこの男を、恐れ、憎らしくさえ思った。30年以上経った今でもその感情は変わっていなかった。