眠りに付く前、神々は自らの代わりに神使を選び出し、人と星の動向を監視させる事にしました。
創星記2章 八節
***
テネブラエは、帝国が再び攻めてくる可能性に備え、復興と同時に防備を固めていた。だが、テネブラエでの敗北をきっかけに、帝国に従属していた属州が各地で武装蜂起。そしてそれに対し帝国の対応は遅地として進まなかった。帝国内において貴族階級に対する平民層の反発が限界を超えつつあり。帝国皇帝及び貴族と関わりの強い帝国軍上層部と、平民出身者が多くを占める帝国一般兵の間での軋轢が表面化、派兵を困難にしていたからだ。制圧したインソムニアからも兵を退かざる負えないほどに・・・、故に帝国は、双方の間に置いて容易に合意しえる帝国本国の防衛に主眼を置いた。そして帝国内部には、独立を目指す旧小国連合の武装集団と帝国貴族寄りの軍上層部。場合によっては革命を目指しかねない帝国一般兵の三勢力が形成されつつあった。軍内部の過激派の中には、旧小国連合と結び、帝国本国に侵攻させてでも革命を成し遂げようと図る者も存在していた。
「これなら、帝国もしばらくは動けないだろう。もしかすると内部崩壊すらするかもしれないね」
アラネアが、もたらされる情報を聞きながら言う。
「だが、本当にそう上手くいくだろうか?未だに皇帝や宰相に目立った動きが無いのが不可解だ」
コルが応じる。
「軍部の分裂を恐れているか、それとも他に何かあるのか、確かに皇帝は手に入れたルシスのクリスタルを使いヴァ―サタイルに何か作らせているって噂はあったけどね」
「嫌な予感がする」
「まぁ、そうだね。そう言えば、蜂起した旧小国群からは?」
「支援を求めてきているが、介入するのは難しい。帝国領内は広い。支援に兵を出せば、兵站線は延びてしまうが、かといって現地で調達できる訳ではない。彼らにもそれを用意することはできないだろう。こちらに飛空艇が十分にあれば可能だろうが、未だ帝都を中心とした一帯の制空権は、帝国が握っている」
「撃墜した帝国飛空艇を修復できても、まだ足りないし、なにより操縦士が足りないからねぇ」
そこに、ノクティス達がやってきた。アラネアが気付き声をかける。
「氷神の亡骸に向かうって?」
「ああ、帝国もしばらく動きそうにないからな。今のうちに残る神々の力を手に入れておきたい」
「そうか、王都が解放されたっていうのに、王子は大変だね。いや、もう王と呼ぼうか?」
「別にどっちでもいいし、それに王都が解放されたっていっても、帝国が無くなったわけじゃねぇし今帰るわけにもいかねぇよ。それよりも氷神の亡骸については詳しいのか?」
「行ったことは無いけど、あの近くには、帝国の採掘場があってね。最重要機密扱いで、もう採掘は終わっているらしいけれど、何を掘り出していたのかは私も知らなかった。ただ、採掘が開始された次期を考えると魔導機関に関するもの。シドの話から考えるに、クリスタルだろう」
「死んだ氷神のクリスタル。その欠片か」
「ああ、帝国はそれを使って、魔導機関と魔導兵器をつくりあげた。あそこは、年中雪に覆われていて車で行くのは無理だよ。私の揚陸艇で行くといい。ビッグスとウェッジには話をつけてあるから。行くときになったら声をかけな」
「そっか、ありがとな」
「貴女には、随分世話をかける」
イグニスがまた律儀に頭を下げる。
「いいよ。あんたらのおかげで私らは居場所を手に入れられたんだ。遠慮なんていらないよ」
アラネアはそう言って笑った。
そこへ、プロンプトがシドニーを連れてやってくる。
「なんだ、プロンプト。いなくなったと思ったらまたシドニーのとこ行ってたのか」
グラディオラスがプロンプトを揶揄う。ここ数日、プロンプトは、シドやシドニーの手伝いにテネブラエを駆けまわっていた。元々、機械に興味があったプロンプトは、シドや、シドニーの手伝いをすることが楽しかった。勿論グラディオラスが言うように別の目的もあったわけだが
「やぁ、王子出かけるんだって?」
シドニーが声をかける。
「ああ、アラネアの揚陸艇で氷神の亡骸まで」
「そっか、じゃあ、その間レガリアはまた私が預かっておくよ。ついでに試してみたい事もあるしね」
「え?なになに?」
興味を持ったプロンプトが聞く
「秘密」
シドニーは、悪戯っぽく笑った。
「まぁ、楽しみにしておいてよ。戻ってくるまでには済ませておくから」
***
ノクティス達を見送ったコルは、一人になってから愛刀をその手に召喚し、眺めていた。
「コル将軍」
呼びかけは、ルナフレーナのものだ。見ればゲンティアナが付き添っている。コルは、刀を消しながら聞いた。
「何か、問題が?」
「いえ、問題はありません。今回はコル将軍あなたの刀の事で」
コルは先ほどまで眺めていた刀の感覚を思い出す。
「貴方の力が衰えている事は分かっています」
「そうか・・・陛下から授かったこの力も、もうそれほど、もたぬだろう」
武器召喚の度、日に日に違和感が大きくなっている事は事実だった。それは、恐らくこの刀への力の供給がレギスの死で、行われなくなったからだろうとコルは考えていた。
「残念ながら、この後の戦いの時に、俺は余り役に立てそうもない」
刀を持てば戦うことはできるだろう、けれど、今の刀ほどの力は発揮できない。今の刀はコルの為にレギスが特別に作らせ、レギス自ら力を注いだ。特別な刀。その特徴は、一級の技術で作刀された刀身にルシスのクリスタルから引き出され、レギスから供給される魔力を合わせたことによる魔刀。折れず曲がらず。欠損したとしても再生する。ノクティスの持っているエンジンブレードを作る前に作られた試作武器の一つ。魔法を行使できない常人にも、王からの魔力供給によって使用できる特別な刀。この刀だからこそできる事を挙げればきりが無かった。
「その刀の力をもう一度よみがえらせることができると、ゲンティアナが」
「・・・そんな事が?」
「刀を見せて頂けますか?」
「構わないが」
コルは、刀を召喚すると、ルナフレーナに手渡した。
「どうですか?」
ルナフレーナはゲンティアナに問う
「問題ないでしょう」
ゲンティアナはそう答えると、刀に手をかざした。ゲンティアナの指先から魔力の青い光が流れ込むのが見えた。
「絶たれつつあるクリスタルとの結びつきを、もう一度繋ぎ直しました。その刀はこれより先もずっと、クリスタルの力と共にあるでしょう」
ゲンティアナがそう言い。ルナフレーナから戻された刀を手に持って、コルは、刀から失われつつあった魔力が満ちている事に気付いた。
「ありがたい」
コルは愛刀に優しく触れ、ルナフレーナとゲンティアナに礼を言った。
***
「氷神の亡骸の付近は常時、吹雪に包まれていて直接近づくことはできないんですよ」
ビッグスが、悔しそうに言う
「地上から向かうしかないか・・・」
「こんな寒そうな中を?」
イグニスの言葉にプロンプトは、揚陸艇の窓の外に吹き荒れている吹雪を見て言った。確かに防寒着を着こんでいたとしても、長時間活動はできそうにない感じだ。視界も非常に悪い。
「帝国の掘った坑道を使えば、あるいは亡骸の所までいけるかもしれないですけど」
ビッグスの言葉にグラディオラスが疑問を抱く。
「なんでだ?坑道なら下に掘っているんじゃないのか?」
「いえ、これは噂なんですが、帝国はここで何か、恐らくクリスタルの欠片を採掘するのと同時に、氷神の亡骸への道も作ろうとしていたとか」
「作ろうとしていた?」
「ええ、詳しくは分からないのですが、採掘がほぼ終わった後に、何か大きな事故が起こったらしくて、それがもとで帝国はこの採掘場を閉鎖したんです。それが氷神の亡骸と関係があるか分かりませんが・・・」
「氷神の亡骸までの坑道を掘っちまって、何かが起こった可能性があると。もしそれが原因で帝国が手を引いたなら、氷神の力がまだ残っている可能性はあるな」
「ええ、だから気を付けてくださいね。俺達は此処で待ってますんで・・・」
ノクティス達は防寒着を纏って、揚陸艇から降りた。
「ここが、帝国の採掘場」
「氷神の亡骸の下へ行くには、この採掘場を抜けるしかないな」
四人は、放置され、廃墟のようになった作業場を抜けて坑道に入った。
「もうなにも残ってないね」
「掘りつくしたんだろ」
「クリスタルの欠片か」
「しかし、長いなこの坑道」
「外から見たとき、氷神の亡骸までは結構あったからな」
「道が正しいのかも分かんねぇし、それに、どこもかしこも封鎖されてやがる」
グラディオラスは文句を言いながら、もういくつめかになる鉄の扉をこじ開ける
「こりゃなんかあるぞ」
「お~、外は、凍り付いてたのに、此処には水が流れてる」
プロンプトが手すりから下を覗き込んで言う
「地下水だろう。坑道が埋め戻されたり、行き止まりになっていたはずだ。帝国はこの地下水に、かなり手を焼いたらしい」
イグニスが推測で告げる。
「まぁ、扉を開けた途端に、地下水に押し流されなかったのは良かったな」
「これが、帝国が手を引いた原因かな?」
「いや、これが原因とは考え難いな。もしそうなら、坑道自体が水没している筈だ。壁面はしっかりと固められているし、大規模な落盤事故の形跡もない」
「あっ、見てなんか広い空間に出るみたい」
プロンプトが指し示した先。そこには巨大な地下空間が広がっていた。
「ここが、氷神の亡骸の下なのかな?」
「だとしたらどっかから外に出なければならないが・・・」
「どうだノクト?何か感じるか?」
「いや、何も」
「やっぱり亡骸じゃ無理なのかな?」
「引き返すしかないか?」
その時、坑道が揺れた。プロンプトは風神の時を思い出す。
「ノクト?氷神?氷神が何か言ってる?」
「いや、何も聞こえねぇ」
盛大な水しぶきと共に、坑道に水道として整備されていた地下水脈から、巨大な蛇のようなものが飛び出した。
「水神!?」
プロンプトが叫ぶ。
「いや、違う」
ノクティスが否定する。何も聞こえないし、水神にしては小さすぎる。
「氷龍だ」
イグニスが答える。
「氷龍?」
グラディオラスが聞いたことも無い名前に聞き返す。
「龍族の中でも、寒冷地にのみ住む希少種。話には聞いたことがあるが、実際に見るのは初めてだ。恐らくこいつが採掘場閉鎖の原因だ」
「強えのか?」
「龍の仲間は総じて強力だが、特徴として龍は死ぬまで成長を止めず、誕生からすぐは急成長するが、その後の成長速度は非常に遅い」
「つまり?」
ノクティスが説明の簡略化を求めた。
「大きければ大きいほど長く生きていて強力だ」
「あいつは?」
グラディオラスが聞く。
「でかいけど、水神ほどじゃないし五十歳ぐらい?」
プロンプトは、若ければいいなと思っていた。
「水神は特別だ。この龍は、恐らく百や二百ではない。少なくとも千歳、最大で二千歳級だ」
「二千歳!?」
プロンプトの期待が打ち砕かれる。氷龍は答えるように唸り声を上げると。大きく頭を引いた。
「くるぞ、氷息だ。回避しろ、まともに食らえば凍り付くぞ」
大きく開いた口腔から、極寒の息が放射された。ノクティスの展開したファントムソードの防壁が氷息を止めるが、その冷気までは防ぎきれない。
「回避!」
ノクティスの号令と共に、仲間たちが氷息の範囲外へと走っていく。氷息の通過した後は、凍り付いた床がキラキラと光っている。グラディオラスが側面から突撃、大剣を振り回すも鱗を数枚削ぎ落しただけで終わる。振り回された巨大な尾が、グラディオラスを狙い。回避したグラディオラスの後ろで落下防止用の柵が容易くひしゃげた。
「刃が通らねぇ」
繰りだされたノクティスのファントムソードも鱗に弾かれて宙を舞う。プロンプトは、アンチマテリアルライフルを召喚、射撃しようとするが、距離が近く龍の動きが早いため断念。だが、通常の弾丸は、緩やかな曲面となっている鱗にそらされて刺さらない。剣も銃も効かないのならば、ほぼ無敵だ。
「おいおい、鱗が全部剥がれ落ちるまで攻撃を続けるのか?」
グラディオラスが言うように、氷龍の身体をびっしりと埋め尽くす鱗を剥がさなければ、肉体自体に攻撃を通すことは難しそうだった。龍の動きは早く、同じ場所を攻撃しつづける事も難しい。
「イグニス、あいつの弱点は?」
しびれを切らしたノクティスが問う。
「氷龍には、炎が有効だが」
「よっしゃ、ファイアだな」
ファントムソードを掻き消したノクティスの手に、炎が紡がれていく。
「待てノクト、ここでファイアを使えば、空間の酸素が一気に燃焼され俺達が窒息するぞ」
ノクティスが練っていたファイアを慌てて掻き消す。
「あぶねぇ」
「場所が悪すぎるな。外に連れ出すか?」
グラディオラスが、攻撃と、回避をつづけながら聞く
プロンプトは長く続いた坑道を、龍を引き連れながら戻る事を考えて辟易する。
「いや、この地下空間から、あの細い坑道へ入った瞬間に氷息を放射されたら逃げ場がない」
プロンプトがその言葉に頷く。
「やっぱ、目か、口を開けた瞬間を狙い撃つしかないね」
プロンプトが銃を構え、目を狙った。銃弾は一直線に龍の目に向かったが龍が瞼を下ろした。銃弾はそれに弾かれる。
「嘘でしょ!?」
氷龍の周りに冷気が集い。氷弾が形成される。ノクティスがファントムソードを展開。打ち出される氷弾を防ぐ。同時に、氷龍が大きく息を吸うのが見えた。
「狙えプロンプト!」
龍が氷息を放射。プロンプトが射撃するが、その口腔全てから放射されている強力な息とそれに交じる氷によって弾丸が停止させられる。そのままプロンプトに向かってくる氷息をノクティスのファントムソードが受け、プロンプトはその間に退く。
「くそっ、打つ手がねぇ」
叫ぶグラディオラスと共にノクティスは攻撃をくり返す。イグニスがノクティスに告げる。
「龍を、地下水道に叩き落とせないか?」
「地下水道に?」
ノクティスが聞き返す。
「ああ、地下水道に叩き落とせば、そこは限定空間となる。サンダーが使える筈だ」
「なるほど、やってみよう。行くぞ、グラディオ!」
ノクティスはグラディオラスを引き連れ、龍に向かっていく。未だ、意味が分かっていないプロンプトにイグニスは聞いた。
「プロンプト、地下水道の天井を壊せるか?」
「少しの穴とか、ヒビぐらいなら出来るだろうけど、天井を落して龍を潰すのは無理だよ?」
「それでいい。ヒビを作ってくれ」
プロンプトは意味の分からないまま頷き。地下水道の天井へ向けアンチマテリアルライフルを撃った。天井のコンクリートに穴が開き、ヒビがはしる。それを確認してイグニスは近水道の真上の天井に短剣を投擲する。短剣は、プロンプトが作った割れ目に突き刺さる。
「ノクト、こっちの準備はできた」
「了解」
龍が氷息を吐くために高く首を持ち上げた。
「グラディオラス、今だ。龍を、地下水道へ落とすぞ!」
「おう!」
龍の喉元に向かいグラディオラスが大剣を跳躍しながら叩きつける。鱗を斬り開くことはできなかったが龍の頭部が僅かに持ち上がった。そこへノクティスの繰り出すファントムソードが連続して撃ち出される。龍の頭部が、ぐいぐいと後ろへと押し出され、少ない接地面では身体を支え切れなくなりそのまま背後へ倒れ込んでいく。そこには、地下水道に続く縦穴。龍の頭部が地下水道へ落ち、長い身体がそれに引かれ後に続く
「グラディオ、退け!」
ノクティスは叫びながら、ファントムソードを消した。地下水道の上、天井に突き刺されたイグニスの短剣に向けシフト。短剣からぶら下がって地下水道を見下ろしたノクティスの手には、雷光が紡がれている。基本元素魔法、サンダーが指輪に宿る雷神の力を受け、最上位のサンダガにまで昇華。ノクティスは手を地下水道へ向けその力を解き放った。凄まじい閃光が地下水道へ向かって奔る。地下水道へ流された雷撃が水面からも溢れ、地下水道自体が発光しているかのように見えた。叫び声を挙げながら氷龍が飛び出してくる。しかし、その身体は強力な電撃によって痙攣している。剥がされていた鱗や、鼻腔、口から体内へ向かって雷撃が奔ったのだ。宙に舞っていたノクティスが痙攣して開かれている氷龍の目を見て言った。
「悪いな」
ノクティスが放ったファントムソードが殺到。氷龍の目を貫き、その下にある脳に到達。氷龍は一声上げると、その身をよじり、床に倒れた。途端に氷龍の身体は氷の結晶となって、砕け散りになり宙に舞った。そしてその粒子は指輪に吸い込まれた。
「おお」
プロンプトが歓声を上げる。
「どうだ?」
「確かに、力を感じるが、声は聞こえないし、今まで程じゃない。力の一部って感じだ」
ノクティスは指輪の感覚を確かめながら言う。
「まぁ、仕方ないか、一部でも手に入れられただけマシだな」
「残念だけど、初めからそんなに期待してなかったしね」
グラディオラスとプロンプトは、そう口にした。プロンプトは力の有無よりもとにかく戦いが終わったことを喜んでいた。一通り探してみたが、それ以上先は無く、氷神の声も聞こえないことからノクティス達は引き返した。長い坑道を抜けると、景色が一変していた。プロンプトが声を上げる。
「おー、空が晴れてる」
「あの、吹雪も龍が発生させていたのか?」
「恐らくあの龍が、あれだけの力を持つに至ったのは、氷神の力の一部を吸収していた所為だったのだろう」
イグニスの言葉にプロンプトが僅かに悲しそうな顔をした。
「あいつが守っててくれたのか。なんかそう考えると可哀想なことしたね」
「まぁ、龍にそんな気は無かったと思うが・・・」
戻ったノクティス達を揚陸艇が迎え入れ、そのままテネブラエへの帰路へ着いた。
テネブラエが近づいた頃。揚陸艇にコルから通信が入った。
「今どこに?」
「もうすぐそっちに着くところです」
答えようとするイグニスを押しのけてプロンプトが呑気に答える。
「そうか、帝国が巨大な要塞を浮上させ、旧小国連合は崩壊した」
「は?」
帝国を取り巻く状況を知っていたからこそ、一同は驚愕した。
「その強大な力を見せつけた要塞により帝国軍内部にあった亀裂も鳴りを潜め、そして皇帝イドラ・エルダーキャプトは全世界に宣戦を布告した・・・」
***
ジグナタス要塞が完成し浮上する姿を外部の飛空艇から送られてくる映像情報で確認したアーデンは哂っていた。かつて、地表を焼け野原にした人のつくった忌まわしき産物が再臨したのだ。遠い昔、人の極めた科学技術ではなく、こんどはクリスタルの力によって・・・。放たれた要塞の主砲は、旧小国連合の武装組織が居るという町もろとも山一つを吹き飛ばし、大地に線を穿った。旧小国連合は崩壊。帝国軍内部にあった亀裂さえ、その脅威を持って掻き消した。その威力を、皇帝は満足そうに見つめた。
「私こそが世界の支配者。ルシスの王も、神凪も、神々すらも私の前にひれ伏すのだ」
「おめでとうございます陛下」
「アーデン、よくやってくれた」
皇帝は、両手を広げアーデンを抱擁しようとした。アーデンは戸惑いながらもそれを受け、途端に口を開く
「・・・陛下、何故?」
アーデンの背中から短剣が刺し込まれていた。その柄は抱き締めた皇帝の手に握られている。ヴァ―サタイルが身を固くする。
「要塞が完成した今、もはやそなたは不要。いや、危険ですらある。アーデン・イズニア、そなたは少し賢しすぎる。本当は、この要塞の完成こそがそなたの望みであったのだろう?テネブラエでの失策すら、私を油断させるための策。全ては自分の存在が、さしたる脅威ではないと伝えるための虚言。だが、それには乗らぬ。我が帝国は、誰にも渡さぬ。私の、私だけの帝国。そして私だけの世界だ」
そして皇帝は、笑った。血に塗れた手で、衣が汚れるのも構わずに楽しそうに笑い続けた。倒れ、痙攣し、死へと向かうアーデンの身体から、血が流れ血だまりとなった。
「ヴァ―サタイル、そなたは野心など抱くではないぞ?」
「はっ、陛下」
血で靴が汚れるのも構わずに、皇帝は部屋を出ていった。
ヴァ―サタイルは、死んだアーデンを見て薄く笑った。皇帝へアーデンの危険性を伝えたのもヴァ―サタイルであった。それがこれほどうまくいくとは、とはいえ、宰相までも務めたアーデンをこうも容易く手にかけた事に、皇帝の権力への執着の恐ろしさを感じ、ヴァ―サタイルは身震いした。